郵政研究所月報

1998.11

調査・研究

郵便情報活用に関する調査研究

―新型区分機を利用した郵便情報の活用―


技術開発研究センター主任研究官  中嶋 明彦 
研究官  高橋 正人 

[要約]

 郵便事業は人力に依存する割合が高い労働集約的事業である。これまで郵便事業の効率化は、作業の機械化(スタンドアロンの設備による機械化)により行われ、情報化(例えばスタンドアロンの機械設備をネットワーク化し、情報を相互に活用)による効率化はあまり進められていない。
 そこで、本研究は情報化を進めて郵便事業のさらなる効率化、高品質化を図るため、新型区分機で収集される郵便情報を活用することを提案する。
 具体的には、以下のシステム等について検討を行っている。

(1) 簡易追跡システム
不着申告された際、新型区分機に蓄積された郵便物の画像により申告された郵便物を特定し、特定された郵便物のバーコード情報(郵便物個別を表わすIDバーコード情報)により追跡する、一般書状用の簡易な追跡システムである。
(2) 交流物数管理システム
新型区分機で収集されるバーコード情報(住所情報を表わす局内バーコード情報)により、一般書状のあて地別交流物数をリアルタイムに管理するシステムである。
(3) 流通時間管理システム
バーコード情報(IDバーコード情報:印字機械番号、印字日付情報、印字時間帯情報等により構成)により、差立局〜配達局間の一般書状の流通時間を実便で管理し、試験通信をサポートするシステムである。

 上記システムについては、実現に向けて今後検討すべき点が多い。例えば、画像圧縮方法、IDバーコードを区分機で処理する全郵便物に付与した場合の問題点等今後検討すべき課題である。

(1) 画像圧縮方法の検討
簡易追跡システムにおいて、郵便物の画像情報の蓄積容量を減らすため、郵便物の画像情報に適した画像圧縮方法について、以下のような点の検討が必要である。
@画像情報符号化方式
A間引画像の解像度と視認性の調査
B階調による圧縮の検討

(2) IDバーコード付与に関する検討
区分機で処理する全郵便物にIDバーコードを付与する場合の問題点として、以下のような事項が考えられる。
@リアルタイムで画像情報が蓄積できるか
A区分機とVCSの画像転送能力の調査
Bコストの問題(インク代、保守費の増加)

 

1.はじめに

1.1 研究の目的と背景

 平成10年2月より実施された新郵便番号制で新型区分機が導入され、道順組立作業の機械化及び読取不能郵便物の機械処理が可能となった。この新型区分機は7桁の新郵便番号と住所情報を読みながら、バーコードを印字し、また印字されたバーコードより住所情報を読みながら、処理を行う。一方、新型区分機で読めなかった郵便物については、その郵便物の画像情報を蓄積し、人間がVCS(ビデオコーディングシステム)により郵便画像情報を見ながらバーコード情報を打鍵する。
 そこで本研究では、新型区分機で収集されるこれらの情報を活用(情報化)することで、郵便物処理のさらなる効率化、高品質化等を図るシステムの実現方法を検討する。

1.2 新郵便番号制

 新型区分機が導入される背景となった新郵便番号制について、以下に簡単に述べる。
 新郵便番号制の導入は、郵便物処理の機械化の範囲を拡大し、人力に依存する割合の極めて高い郵便事業の効率化を推進することによって、将来にわたってなるべく安い料金で良質な郵便サービスを安定的に提供していくことを目的としている。
 具体的には、従来、配達局に到着した郵便物は

@配達区分(丁目・字・番地により配達区画ごとに区分)
A大区分(配達区画の中を道順ファイルのまとまりごとに40〜50口に区分)
B戸別組立(配達順路に並べる区分)

の3つの作業工程を要していたが、新郵便番号制後の新郵便処理システムでは、これらの作業を区分機でまとめて処理できるようになった。

 

2.新型区分機で収集される郵便情報

 本項では新型区分機で収集される郵便情報を説明するために、まず新型区分機の機能等を説明し、その後収集される郵便情報について述べる。

2.1 新型区分機(改造型を含む)

2.1.1 基本機能

 新型区分機は、従来の郵便物あて名自動読取区分機の動作に加え、道順組立等に必要な機能として、郵便番号とあて名を同時に読み取る「合わせ読みモード(OCR・ビデオモード)」と、バーコードのみを読み取る「バーコードモード」の2種類の動作モードが新たに追加された。これらのモードの基本機能は、以下のとおりである。

(1)合わせ読みモード(OCR・ビデオモード)

・7桁郵便番号読取機能
・あて名合わせ読み機能
・ビデオコーディングシステム(VCS)への画像、OCR読取結果の転送
・バーコード読取機能
・バーコード印字機能
・ビデオコーディングシステムから入力結果を受信し、IDバーコードにより対象郵便物を認識してバーコードを印字する機能
・道順組立機能

(2)バーコードモード

・バーコード読取機能
・ビデオコーディングシステムから入力結果を受信し、IDバーコードにより対象郵便物を認識してバーコードを印字する機能
・道順組立機能

2.1.2 付加的な機能

(1)ビデオコーディングシステムへの送信、バーコード印字の要否の自動判断

 郵便番号の上3・5けた(配達局が特定できる部分)まで読み取れれば、次のどのグループに属するかを自動的に判断し、読取りの状況に応じ、VCSに回すべきか、どこまでバーコードを印字すべきか、の判断を自動的に行う。

・あて名合わせ読み機能対象局あて
・あて名合わせ読み機能対象以外の局あて
・新郵便処理システム対応区分機未配備局あて
 

(2)同一局あてをバーコード印字状況によって区別して区分可能

 同一局、同一地域あての郵便物を、バーコードの印字状況(フルバーコードが印字されたもの、新郵便番号部分のバーコードが印字されたもの、バーコードが印字されていないもの)によっても区別して(別々の区分口へ)集積ができる。
 あて名合わせ読み対象局あてのフルバーコード印字のものは、差立時に2パス単位等に分けて区分することもできる。

(3)フルバーコード化のためのビデオコーディングは行わずに差立区分を優先させる機能

 あて名合わせ読み対象局あて郵便物であっても住所表示番号部分のコーディングを不要として、郵便番号のみで差立区分を行える。
 ただし、この機能の使用は、不結束発生のおそれがある時など、真にやむを得ない場合に限る。

(4)ビデオコーディング作業の進捗状況表示

 ビデオコーディング作業の進捗状況は、ビデオコーディングシステムの制御端末機、新型区分機、バーコード区分機の表示部でも確認できる。
 また、新型区分機は、自動紙札発行機が設置されており、「何時何分までに区分した要ビデオコーディング郵便物」と表示した紙札が発行できるので、ビデオコーディングの入力が終了した郵便物から順次再供給できる。

(5)小字起番地域あて郵便物に対するバーコード印字

 新郵便番号は、住所の「小字」に対しては原則として設定していないため、同一の「大字」に複数の「小字」があり、「小字」を省略すると同一の住所となる地域は、そのままでは道順に並べることができない。
 このような地域あての郵便物は、1,200町域の範囲であて名合わせ読み対象町域辞書に小字名を含めることにより、住所表示番号の小字コード(区分機に登録した、それぞれの小字に対する固有の番号)を含むフルバーコードを印字することができる。

(6)配達総合情報システムとの通信、情報転送

 バーコード情報、区分情報、稼働情報、道順情報等を配達総合情報システムとの間でやり取りができる。これにより、配達総合情報システムで区分面、認識辞書の管理、更新ができる。
 

2.2 バーコードの種類

 新型区分機で処理されるバーコードには、住所情報を表わす局内バーコードと郵便物個別を示すIDバーコード、及びお客様が予め印字されるカスタマバーコードがある。

2.2.1 局内バーコード

 郵便物を引き受けた郵便局では、郵便局の新型区分機で、新郵便番号とあて名を読み取って自動的にバーコード(局内バーコード)を印字し、以後の処理はバーコードを読み取って行う。局内バーコードは、透明又は極淡い色の特殊なインクを用いている。このインクは、紫外線を当てると発光するもので、あて名の文字や模様と重なっても読み取ることができるものである。
 局内バーコードは、以下の情報がコード化されている。

・郵便番号情報
・住所表示番号情報(丁目・番・号・番地等)
・棟室番号等情報

以後、バーコードそのものを表わすときには局内バーコード、新型区分機内で処理するため情報化されたものを局内バーコード情報と呼ぶ。

 

図2.1 局内バーコード

 

2.2.2 IDバーコード

 新型区分機で読取りが完了しなかった郵便物は、ビデオコーディングシステムを用いて局内バーコードを印字する。郵便物には、キー入力が終わった後、新型区分機に再供給して、局内バーコードを印字する際に郵便物を識別するためのバーコード(IDバーコード)を予め印字する。IDバーコードも、透明又は極淡い色の特殊なインクを用いる。
 IDバーコードは、以下の情報から構成されている。

・印字機械番号情報
・印字日付情報
・印字時間帯情報
・一連番号情報

 以後、バーコードそのものを表わすときにはIDバーコード、新型区分機内で処理するため情報化されたものをIDバーコード情報と呼ぶ。

 

図2.2 IDバーコード

 

2.2.3 カスタマバーコード

 お客様が予め印字するバーコードであり、情報の内容は局内バーコードと同じである。
 カスタマバーコードは、差出しの必要条件ではなく、料金割引を受けようとする場合にお客様が印字するもので、あて名印字と同時にプリンタ等で印字できるような仕様になっている。(郵便局で印字する局内バーコード、IDバーコードとは異なる)
 カスタマバーコードは、以下の情報がコード化されている。

・郵便番号情報
・住所表示番号情報(丁目・番・号・番地等)
・棟室番号等情報

 以後、バーコードそのものを表わすときにはカスタマバーコード、新型区分機内で処理するため情報化されたものをカスタマバーコード情報と呼ぶ。

 

図2.3 カスタマバーコード

 

2.3 ビデオコーディングシステム(VCS)

 ビデオコーディングシステム(VCS)は、新型区分機のOCR(光学式文字読取装置)で、バーコードの印字に必要な郵便番号、あて名住所の情報が読み取れなかった場合に使用する情報入力装置である。
 従来の区分機では、読取不能郵便物は手区分するしか方法はなかったが、新型区分機では、ビデオコーディングシステムを使用することで、区分機で読取不能となった郵便物も機械処理が可能となった。
 ビデオコーディングシステムには、ビデオコーディング端末機が複数台接続される。新型区分機で読取不能となった郵便物は、ビデオコーディング端末機に画像が表示される。ビデオコーディングの担当者は、画面に表示された郵便物の画像を見て、バーコード情報を打鍵する。
 ビデオコーディング対象郵便物は、IDバーコードを印字して、再供給用の区分口に区分されるので、ビデオコーディング入力を終えた後、これを新型区分機に再供給することによって、新型区分機で入力情報をバーコードに変換して印字し、区分する。

 

図2.4 ビデオコーディングシステム

 

2.4 新型区分機で収集される郵便情報

 ここで新型区分機で収集される情報を整理すると、以下のような情報が挙げられる。

(1)局内バーコード情報

・郵便番号情報
・住所表示番号情報(丁目・番・号・番地等)
・棟室番号等情報
 

(2)IDバーコード情報

・印字機械番号情報
・印字日付、時間帯情報
・一連番号情報
 

(3)カスタマバーコード情報

・郵便番号情報
・住所表示番号(丁目・番・号・番地等)、棟室番号等情報
 

(4)郵便物の画像情報

 画像情報のイメージを図2.5に示す。この画像情報により、目視で以下の様な内容が確認できる。

・あて先住所、あて先氏名
・郵便番号の有無
・種類(封書/はがき)(官製/私製)
・文字書体(手書/印活)
・切手/料金後納/料金別納
・差出人(表面に記載されている場合)

 

図2.5 郵便物の画像情報

 

3.郵便情報活用システムの提案

 2項で述べた新型区分機で収集される郵便情報(郵便物の画像情報、バーコード情報)を活用することで、機械処理可能な一般書状に対し以下の様なシステムを提案する。

(1)簡易追跡システム
 不着申告された際、蓄積された郵便物の画像により申告された郵便物を特定し、特定された郵便物のバーコード情報(郵便物個別を表わすIDバーコード情報)により追跡する、一般書状用の簡易な追跡システムである。
 
(2)交流物数管理システム
 バーコード情報(住所情報を表わす局内バーコード情報)により、一般書状のあて地別交流物数を統計的に管理するシステムである。
 
(3)流通時間管理システム
 バーコード情報(IDバーコード情報)の印字機械番号、印字日付情報、印字時間帯情報により、差立局〜配達局間の一般書状の流通時間を実便で管理し、試験通信をサポートするシステムである。

 各システムのシステム概要等については、5項で述べる。

 

4.現状の調査

 本項では、3項で提案したシステムにより効率化、高品質化が図られる作業等について、現状を調査した結果を述べる。

4.1 追跡調査

 一般書状における不着申告時の追跡調査について、東京郵政局管内の4局(ビジネス街3局、住宅街1局)でヒアリングを行った。ヒアリング結果をもとに現状を以下に示す。

(1)不着申告の問い合わせ方法

・電話による問い合わせがほとんどである。
・書面、窓口での問い合わせは少ない。
 

(2)不着申告の頻度

・問い合わせは1日数件程度である。お客様の勘違いの場合が、結構多い。
 

(3)不着申告の時期

・引受けて5〜7日目あたりが最も多い。レアケースでは、1ヶ月後の場合もある。
 

(4)申告者

・差出人からの場合が圧倒的に多く、受取人からの場合は少ない。
 

(5)追跡方法

・各担当者を配置している。
・最初に事故郵便物、還付不能郵便物を調査する。
・小包、書留及び国際エクスプレスメール(EMS)には追跡システムがあるが一般書状はないため、本格的な調査を必要とする場合には、不着申告時の問診で得た情報をもとに、人海戦術で経路を順に追って追跡調査する。
 

(6)調査期間

・調査期間は受付けてから回答まで、調査カード発行分を含め1週間程度である。
 

4.2 物数調査

 物数調査の現状についても、郵便局で同様にヒアリングを行った。調査結果も含めて、現状を以下に示す。

(1)物数調査の周期

・あて地別物数調査:3年に1回
・5月物数調査:年1回
 

(2)人員配置

・あて地物数調査:通常人員+3名以上増員、
超勤対応
・5月物数調査:通常人員+数名増員、超勤対応
 

(3)区分機の稼働状況管理法

・稼働状況管理表に手記入し、翌朝手集計している。
 

(4)調査データの利用用途

@経営情報として重要な基礎データである。
・要因算出
・輸送便の算出
・料金
・置局計画 等
 
A郵便局での用途は、以下のとおりである。
・毎月の取扱い物数の基準値
・区分機の区分面作成基準
 

4.3 流通時間の管理

 郵務局等でヒアリングを行った内容も含め、現状を以下に示す。

(1)流通時間の管理方法

・一般書状の流通時間は、試験通信で管理している。
ただし、今までの試験方法だと
・外見で郵便局員には試験通信だとわかる。
・受取人が到着日を正しく回答してくれる保証がない。
等の問題点があり、平成10年10月より外部に委託する予定である。
 

(2)今後の試験通信の実施方法

@独立機関による調査
・郵政省から組織的に独立した第三者機関により調査する。
 
A現実の郵便物の流れに即した調査
・差出地は、都道府県又は地域区分局単位とする。
・あて地は、当該差出の都道府県、差出地の隣接都道府県内、これ以外の遠隔都道府県の3種類とする。
・各差出地からあて地への送達ルートは、当該地域から流通する郵便物数が多いあて地を優先的に選定するとともに、各ルート当たりのテスト郵便物数も、実際の流通量に反映する。
 
B調査の監査
・調査機関とは別の、郵政省から組織的に独立した第三者機関により監査する。
 

(3)今後の予定

・試験通信の結果について利用者に公表する予定である。
・試験通信結果の検証方法について現在検討中である。

 

5.郵便情報活用システムの概要

 3項で提案した各システムについて、概要を以下に示す。

5.1 簡易追跡システム

 差立局の区分機に蓄積された郵便物の画像情報により、不着申告された郵便物を特定し、そのIDバーコード情報により追跡する、一般書状用の簡易な追跡システムである。以下に、その概要について述べる。

5.1.1 システム概要

 簡易追跡システムのシステム概要を以下に、またシステム概要図を図5.1に示す。

@差立局の区分機で、区分する全ての郵便物の画像情報、局内バーコード情報及びIDバーコード情報を蓄積する。

A配達局の区分機で、区分する全ての郵便物の局内バーコード情報、機械処理時刻情報及び機械番号情報を、IDバーコード情報をキーにして、通信ネットワークを介して差立局へ転送する。

B差立局でIDバーコード情報により検索すれば、通過した区分機の情報(区分機の機械番号等通過した局が判断できる情報)および通過時刻を調べることができる。

 

図5.1 システム概要図

 

5.1.2 郵便物の追跡方法

 簡易追跡システムで、郵便物を追跡する方法について以下に述べる。

(1)郵便物を特定する情報の整理

 現在、お客様より不着申告を受理した際、郵便物を特定するため問診にて得ている情報は、以下のとおりである。

・投函日時、投函場所
・あて先住所、あて先氏名
・差出人
・郵便番号の有無
・作成業者介在の有無
・期限
・郵便物の特徴
種類、大きさ、色、文字書体、切手/料金後納/料金別納、内容物
 

これらの情報を簡易追跡システムでどのように利用するか、整理する。

@機械処理対象かどうかで絞り込みに使える情報
・大きさ
機械処理対象:長さ140〜235mm、幅90〜120mm、
       厚さ〜6mm、重量50kg以下

 

図5.2 機械処理対象郵便物

 

A区分情報から自動的に絞りこみに使える情報
・投函日時、投函場所←機械処理時刻の特定に使用
・あて先住所
 
BVCS画像から目視確認での特定に使える情報
・あて先氏名(あて名)
・郵便番号の有無
・種類(封書/葉書)(官製/私製)
・文字書体(手書/印刷活字)
・切手/料金後納/料金別納
・作成業者介在の有無
・(差出人)←表面に書いてある場合のみ
 
C現在使用しているがVCSでの絞り込み/特定に使えない情報
(事故郵便等、実便が存在する場合には特定材料に使える)
・色
・内容物および期限
 

(2)簡易追跡システムの機能概要

(1)項で述べたことをもとにして、機能概要を以下に示す。

@検索項目により候補郵便物の自動絞り込みを行う。
 次の検索項目で候補検索する。
・機械処理時刻(期間)
IDバーコード情報の処理時刻情報(印字日付情報、印字時間帯情報)から候補を限定する。
・郵便番号、あて先住所
局内バーコード情報の郵便番号情報、住所表示番号情報及び棟室番号等情報から候補を限定する。
 
 実際にどれだけの郵便物が自動的に絞りこめるか(特定率が何%になるか)については検証が必要であり、6.2項の検討課題で詳細は述べる。
A候補郵便物の情報一覧を表示する。
・@項の検索項目で絞り込んだ候補郵便物のリスト及び候補件数を表示する。
・リスト表示する情報は、IDバーコード情報及び配達局の機械処理時刻情報、機械番号情報である。
 
B郵便物画像情報を表示する。
・IDバーコード情報を指定することで、指定された郵便物の画像情報を表示する。
 
 この画像情報を目視で点検することで、対象郵便物を特定する。

(3)郵便物の追跡方法

(1)、(2)項をもとに、簡易追跡システムを使った郵便物追跡までの流れを図5.3に示す。

 

図5.3 郵便物追跡までの流れ

 

5.1.3 期待される効果

 簡易追跡システムを導入することにより、期待される効果として以下のことが考えられる。

@不着申告された郵便物の追跡調査をする際の切分けツールとして活用でき、調査に要する稼働(人員、時間)を削減できる。

<例>
・差立局区分機の画像にて差立局で引受けたことを確認することができる。
→確認できれば、差立区分する前の工程は、調査する必要がない。
・配達局からの情報により、配達局への郵便物の到着を確認することができる。
→確認できれば、配達区分する前の工程は、調査する必要がない。

A差し戻し請求時の切分けツールとしても活用できる。

B滞留郵便(機械配備配達局の機械処理時刻未表示郵便物)についても識別可能なため、申告前に追跡調査が可能となる。

 

5.2 交流物数管理システム

 差立局の区分機で収集される局内バーコード情報等の住所情報により、一般書状のあて地別交流物数を管理するシステムである。以下に、その概要について述べる。

5.2.1 システム概要

 交流物数管理システムのシステム概要を以下に、またシステム概要図を図5.4に示す。

@差立局において全ての機械処理対象郵便物にIDバーコードを印字する。また、IDバーコード情報と局内バーコード情報(郵便番号情報のみで可)を配達総合情報システム端末の管理下に蓄積する。

A配達総合情報システム端末から、または外部(上位)からのコマンドによって配達総合情報システムに集計処理をさせる。

B各差立局における方面別集計結果を外部(上位)へ吸い上げ、全国レベルで集計し、交流物数を算出する。

 なお、ここでいう外部(上位)とは、集中管理端末で、郵務局や地方郵政局など交流物数を集計する部署におくものとする。

 

図5.4 システム概要図

 

5.2.2 機能概要

 交流物数管理システムの機能概要を以下に示す。

(1)差立局での集計

 差立局の配達総合情報システム端末からの指示により、以下の指定項目に従い基礎データ(バーコード情報)を集計する。

@処理日時(期間)
 IDバーコード情報の処理時刻情報(印字日付情報、印字時間帯情報)から対象を限定し、物数を集計する。
A相手先(差立先)
 局内バーコード情報の3桁/5桁までの郵便番号情報から対象を限定し、物数を集計する。
 

(2)集中管理端末から差立局へ集計及び集計結果の転送指示

 集中管理端末から差立局へ集計を指示することにより、差立先毎に交流物数の統計情報を集計する。また転送指示により、集計結果のデータを集中管理端末の管理下の装置へ転送する。

 

(3)集中管理端末での集計

 差立局から転送されたデータを、集中管理端末からの指定項目に従い、全国レベルで集計する。

@処理日時(期間)

 IDバーコード情報の処理時刻情報(印字日付情報、印字時間帯情報)から対象を限定し、物数を集計する。

A差立(局別、2けた地域別、都道府県別、郵政局別)

 IDバーコード情報の印字機械番号情報から対象を限定し、物数を集計する。

B配達(局別、2けた地域別、都道府県別、郵政局別)

 局内バーコード情報の3桁/5桁までの郵便番号情報から対象を限定し、物数を集計する。

5.2.3 期待される効果

 交流物数管理システムを導入することにより、期待される効果として以下のことが考えられる。

@稼働(人員、時間)がかかるため、1〜3年周期等で行っている物数調査において、稼働をかけずに統計的に一般書状のあて地別郵便物数、取扱物数を調査することができる。

A物数調査において、必要な時にリアルタイムに一般書状のあて地別郵便物数、取扱物数を調査することができる。

 

5.3 流通時間管理システム

 差立局の区分機で印字されたIDバーコードから印字機械番号情報、印字日付情報及び印字時間帯情報を配達局の区分機で読むことにより、差立局〜配達局の一般書状の流通時間を実便で管理するシステムである。以下に、その概要について述べる。

5.3.1 システム概要

 流通時間管理システムのシステム概要を以下に、またシステム概要図を図5.5に示す。

@配達区分時にIDバーコード情報の印字日付情報、印字時間帯情報を読み、現在の時刻との差を計算し、差立区分から配達区分までの流通時間として記録する。

A郵便物の流通時間を、IDバーコード情報の印字機械番号毎に整理する。

B配達総合情報システム端末から、または集中管理端末からのコマンドによって、配達総合情報システムに集計処理をさせる。

C方面別集計結果を集中管理端末へ吸い上げ、全国レベルで集計し、流通時間の統計情報を算出する。

 

図5.5 システム概要図

 

5.3.2 機能概要

 流通時間管理システムの機能概要を以下に示す。

(1)配達局での集計

 配達局の配達総合情報システム端末からの指示により、以下の指定項目に従い集計する。

@処理日時(期間)

 IDバーコード情報の処理時刻情報(印字日付情報、印字時間帯情報)から対象を限定し、流通時間の統計情報を集計する。

A差立局

 IDバーコード情報の印字機械番号から対象を限定し、流通時間の統計情報を集計する。

B遅延

 標準的な送達日数(時間)に対して、遅延の発生した区間(差立局)及び流通日数(時間)を表示する。

 
(2)集中管理端末から配達局へ集計及び集計結果の転送指示
 集中管理端末から配達局へ集計を指示することにより、印字機械番号毎に流通時間の統計情報を集計する。また転送指示により、集計結果のデータを集中管理端末の管理下の装置へ転送する。
 

(3)集中管理端末での集計

 配達局から転送されたデータを、集中管理端末からの指定項目に従い、全国レベルで集計する。

@処理日時(期間)

 IDバーコード情報の処理時刻情報(印字日付情報、印字時間帯情報)から対象を限定し、流通時間の統計情報を集計する。

A差立局

 IDバーコード情報の印字機械番号から対象を限定し、流通時間の統計情報を集計する。

B配達局

 配達局の機械番号情報から対象を限定し、流通時間の統計情報を集計する。

C遅延

 標準的な送達日数(時間)に対して、遅延の発生した区間(差立局〜配達局)及び流通日数(時間)を表示する。

5.3.3 期待される効果

 流通時間管理システムを導入することにより、期待される効果として以下のことが考えられる。

@差立区分機から配達区分機までの流通時間をIDバーコード情報を活用することで、新たにデータを入力する必要なく、簡便に集計できる。

A郵便局間の流通時間が統計データ的に把握できるので、適正な流通ネットワークを構築する上で貴重な基礎データとなる。(遅延経路が発見できる)

B試験通信結果の検証用のデータとして利用できる。

 

 

6.おわりに

6.1 まとめ

 本研究では、まず新型区分機で収集される郵便情報の調査を行い、以下の4つ情報を活用することとした。

・局内バーコード情報
・IDバーコード情報
・カスタマバーコード情報
・郵便画像情報


 また、これらの情報を活用したシステムとして

・簡易追跡システム
・交流物数管理システム
・物流時間管理システム


を提案し、システム概要、機能概要及び期待される効果等の検討を行った。
 なお、各システムの実現に向けては、まだ検討すべき課題が多く、6.2項に今後検討すべき課題を整理した。

 

6.2 今後の検討課題

(1)画像圧縮方法の検討

 簡易追跡システムにおいて、郵便物の画像情報の蓄積容量を減らすため、郵便物の画像情報に適した画像圧縮方法について、以下のような点の検討が必要である。

@郵便画像情報符号化方式

 現在のJPEG方式と、多様化する画像通信用の新しい符号化方式であるJBIG方式の圧縮特性を比較調査する。一般に郵便画像は、モノクロ画像で黒点の分布も偏りがちという特徴をもつ。このため、FAX画像情報符号化の新方式として注目されているJBIGとの比較検討は、重要な意味を持つ。条件にもよるが、学会での報告によればJPEGに対して数倍オーダーの圧縮効率をもつと言われている。

A間引画像の解像度と視認性の調査

 実際の画像から画素を間引いて、郵便物特定に耐えうる限界値を調査する。近年では、Web上で画像の一覧表示をする際に、サムネイルと呼ばれる間引き画像を用いることが一般的である。この手法をモノクロ2値画像に適用し、目視確認により限界値を調査する。また、間引きによって、@の画像圧縮効率にどれだけの影響があるか調査する。

 
図6.1 間引きの例
 

B階調による間引きの検討

 現在の64階調を何(例えば2,4)階調まで間引き(サンプリング)するか、最適値の検討を行う。郵便画像の場合、階調間にあまり大きな差がない。特に明るいスライス値(画像が濃く出る)付近ではほとんど差がないと思われる。実際の画像をそれぞれのスライス値でサンプリングし目視確認する事により、最も視認性の高い順に数階調を決定する。また階調の数が@の画像圧縮効率にどれだけの影響があるか調査する。

 
図6.2 階調による間引きの例
 

(2)IDバーコード付与方法の検討

 区分機で処理する全郵便物にIDバーコードを付与する場合の問題点として、以下のような事項が考えられる。

@リアルタイムで画像情報が蓄積できるか

全郵便物の画像情報を蓄積するため、VCSは区分機の処理スピードに相応する格納速度を有することが必要である。もしこれに対応していない場合は、区分機側でのバッファリングや専用ハードディスクの直接接続などの対応策が必要となる。なお、ここでは蓄積容量については、問題にしていない。

A区分機とVCSの画像転送能力の調査

 全郵便物の画像情報を蓄積するため、区分機−VCS間における画像情報転送速度が、区分機の処理スピードに対して十分速い必要がある。これに対応していない場合は、区分機側で画像圧縮するなど、伝送路の細さをカバーする対応策が必要となる。

Bコストの問題(インク代、保守費の増加)

 全郵便物にIDバーコードを付定する場合、ランニングコストとしてインク代が考えられる。現行の付定率が100%になった場合のコストを計算する必要がある。また、インクジェットプリンタが全郵便物に対して稼働することができるかどうか、その場合故障率の変化を試験し、これに伴う保守費の変化を調査する必要がある。


(3)郵便物の特定率の検証

 簡易追跡システムにおいて郵便物を特定する際、検索キーで候補画像の絞り込みを行い、後は目視確認となる。そこで、検索キーでどの程度まで候補を絞り込めるか(特定率が何%になるか)検証をとる必要がある。自動の絞り込みに使用できる検索キーは次のものが考えられる。

・投函日時
・投函場所
・あて先郵便番号
・あて先住所
・あて名


 これらのキーについて、実便を絞り込んだ場合、母集団に対してそれぞれ何%絞り込めるか実験する。なお、母集団は機械処理可能郵便物(大きさ、料金を満たすもの)とする。

(4)通信ネットワークの検討

 トラヒックに見合ったネットワーク構成の検討が必要である。現在ある保険、貯金及び書留追跡システムの情報も相乗りさせる場合、セル損失のない高品質のネットワークが必要となり、画像のみで独立させる場合はATMに代表される高速ネットワークが必要になる。簡易追跡システムや交流物数管理システムで必要となる区分情報のためには、高品質ネットワークが必要と考えられる。

(5)端末の操作方法の検討

 検索項目、集計項目及び操作性の検討が必要である。
 簡易追跡の場合、顧客からのヒアリング結果を検索項目として使用するため、オペレータ(局員)に有利な検索項目を設定する必要がある。
 交流物数管理システムの場合、上位からのコマンドにより動作する機能(集計機能)を設定する
必要がある。これは交流物数管理システムにおいてどのような情報利用が効果的かヒアリングし、ニーズにあった機能を設定することが望ましい。
 これらの操作は局員がオペレータとなってなされるので、普段から端末機に接する機会のない人でも十分活用できるように、マンマシンインターフェースを検討する必要がある。

(6)コストの計算

 システムを構築する際のイニシャルコスト、ランニングコストを試算してみる必要がある。
 これは(2)Bのコストも含める。

(7)区分機を通過しない郵便物の検討

 区分機を通過しない郵便物について、その分の情報をどのようにして収集するか、またどういう処理の仕方にするか検討する必要がある。

 

(参考文献)

「新郵便番号制の円滑な導入のために」 郵政省郵務局 1997.3