「不動産不況とその金融機関に与える影響」
−その1 日本における現状と今後の展望−


                           第三経営経済研究部研究官 山本 敏正

1 我が国の地価は、80年代後半、大都市を中心に高騰し、一部には投機的な動きもあったといわ
 れている。

  この間、金融機関は、地価の上昇や企業の資金調達行動の変化等から、不動産業向けの貸出を増
 加させた。

2 最近、景気の減速、金利の上昇、不動産融資総量規制、土地税制改正のアナウンスメント効果な
 どから、東京圏、大阪圏といった大都市圏で下落に転じた。

3 金融機関においては、地価上昇の過程でリスク管理が十分でない貸出もあったといわれ、不動産
 価格の下落から、不良債権が増加している。

4 今後の地価動向については、1.資金繰りに困った不動産会社や不良債権の処理を進める金融機関
 が、不動産を処理していくと考えられること、2.一連の土地税制の改正により土地の供給が増加す
 る可能性があること、3.金融機関が慎重な貸出姿勢を維持すること、4.不動産融資総量規制は解除
 されたが、トリガー方式が導入されたこと、5.多くの人が、先行き地価が下落すると予想し、買い
 控えていることなどから、景気が回復し需要が高まるまで、下落ないし横ばい傾向になると予想さ
 れる。

5 金融自由化が進展するなか、金融機関相互の競争がますます激しくなり、その経営能力がより問
 われる時代となってきている。

  今後、貸出に際し、金融機関は審査体制を強化し、リスク管理を慎重に行っていくことになろう。

  また、市場メカニズムを通じて健全経営を促すために、金融機関のディスクロージャー(経営内
 容の開示)の拡大も必要であろう。

6 金融機関は、現在、貸出先の不測の事態に備えて貸倒引当金の積増しを行っているが、万が一経
 営が困難となって自力で健直しができない場合には、預金保険の発動の可能性も考えられる。

  金融自由化が進展していくなか、セーフティ・ネットを効果的に機能させていくような政策対応
 が必要となろう。