「貯蓄を中心とした韓国家計の金融行動の分析」


                           第二経営経済研究部研究官 田村 浩之

1 韓国は、近年の経済成長の中で、家計貯蓄率が急速に上昇してきており、SNAベースでは、1
 986年以後日本を上回る貯蓄率を示している。

  しかし、高度成長の中で貯蓄率が急速に上昇するという日本と同じ経路をたどっている韓国の家
 計について、その原因・背景及び日本との比較はこれまで行われていない。

  本研究では、韓国家計の金融行動について貯蓄を中心として、その状況及び背景を、SNAベー
 ス、家計調査ベースの双方から分析を行った。

2 SNAベースの韓国の家計貯蓄率については、日本のような安定性はないが1950年代以降現
 在まで上昇傾向を示している。

  また、国民経済計算の家計部門の受取、支払項目をみると、1980年代を通じて貯蓄額の伸び
 は、雇用者所得や最終消費支出と比較して非常に高い伸びとなっている。

  その背景には、1.貯蓄を対象とした政策上の優遇策の存在、2.金融制度の改善、3.社会保障制度
 が不十分であり自助努力としての貯蓄が必要、4.高い経済成長に伴って所得が急速に増加した、等
 の日本に似た状況がある。

3 家計調査ベースの家計貯蓄率についても、1960年代にはマイナスであったが次第に上昇して
 きており、1970年代後半以降は、日本と同水準になっている。

  1990年時点の家計貯蓄率では、韓国が日本を上回っているが、世帯主の年齢別の貯蓄率では、
 30歳代前半までは韓国の方が日本より高く、高齢になると日本の方が高くなっている。

4 韓国の家計の貯蓄目的としては、日本と同じく、「子供の教育費」、「住宅収得」、「不時の出
 費のための備え」、「老後の生活費」を考えている世帯が多い。

  しかし、最重要貯蓄目的については、日本では、「不時の出費のための備え」及び「老後の生活
 費」を目的とする世帯が多いのに対し、韓国では、「子供の教育費」及び「住宅取得」を目的とす
 る世帯が多い。

  この背景には、日本以上に韓国においては教育及び住宅の必要性が高いという状況がある。

5 韓国の家計の金融資産選択については、私金融(契、私債)制度という日本にはない制度が存在
 するという違いはあるが、両国とも預貯金、保険等の安全資産での保有割合が高いという点では同
 じである。