第三経営経済研究部研究官 中島 規雄
1 日本企業は景気低迷期のなかにあって、西暦2000年というひとつの大きな節目に向かって、 自社の最適像を構築するための展望が要請されている。 2 このような課題に応えるものとして、「経営理念・ビジョン」の確立が改めてクローズ・アップ されている。 経営理念・ビジョンは不確実性の高い環境のもとで、経営戦略を決定するうえでの大前提であり、 また、その内容は同時代性を感じさせるものでなければならない。 3 これを受けて、1980年代後半以降、経営理念の再構築や、いわゆる「21世紀ビジョン」の 策定、さらに中長期計画をビジョン実現に向けたアクション・プログラムと位置づける企業が増え ている。 4 また、新たな理念・ビジョンのもとで、どのように事業を再定義、再編成していくかを考えるう えから、ドメイン決定の重要性が高まっている。 ドメインとは、企業の事業活動の領域のことであるが、今日的な意味では、単に「我が社の事業 の領域は何か」ということではなく、今後「どのような事業を行おうとしているのか」を展望した、 ビジョンと密接にかかわる戦略的メッセージである。 5 これらは、日本企業の「アイデンティティ」確立の問題に帰結する。 理念・ビジョン主導型の経営は、日本企業のアイデンティティ・クライシス克服のための働きに ほかならない。