「都心部の住宅付置制度の現状と問題点」


                           第三経営経済研究部研究官 小池 信也
1 東京の都心部では、定住人口の減少、昼間人口の増加、オフィスの集中、地価の大幅変動といっ
 た現象が進行している。

2 定住人口の減少は自治体の存立にかかわるため、その回復、維持を目的として、昭和60年以来、
 都心部の複数の区が住宅付置制度を導入している。

3 この制度は、開発事業者が一定規模以上の建築物を建設する場合、住宅の設置を義務づけるもの
 である。ただ、これは行政の内部規制である「指導要綱」による行政指導というかたちで行われて
 いるもので、住宅付置義務には法的な根拠はない。

4 この制度は、都心部での住宅供給に一定の効果を挙げているが、定住人口の減少に歯止めをかけ
 るまでには至っていない。

5 住宅付置制度には、付置住宅の価格、転用の可能性、開発事業者の重い負担といった施行上の問
 題点と、要綱行政の法的妥当性、経済的根拠などの制度自体の問題点がある。

6 都心部の定住人口の減少といった特定の区の内部にはとどまらない問題については、各区ではな
 く、都や、区の垣根を越えたレベルで対処する必要がある。将来的には、地方分権を進展させ、広
 域的な観点に立った都市政策を行うことが望まれる。

7 住宅供給については、市場の失敗とともに政府の失敗もあり得ることを認識したうえで、市場メ
 カニズムに逆らわないような供給政策を行う必要がある。