SNA体系と環境勘定の統合について


                              第三経営経済研究部 宮原 勝一

1. 経済成長の指標としてのGNPは、市場を経由した取引だけを記録する体系によって計算されて
 いる。そのため、実際に対価が支払われずに生じる生活の質の低下、自然資本の枯渇や劣化は考慮
 されていない。

2. これに対し、GNPをベースに、国民の福祉低下や環境変化等についても考慮した指標(いわゆ
 る国民福祉指標)が、1970年代から作成されているが、地球的規模の環境問題の深刻化に伴い、
 環境要素を考慮した経済指標の必要性が高まってきた。

3. 環境勘定としては、1.「自然資源勘定」のように、自然資源が一定の期間に、どれだけ変化した
 かを表す「ストック勘定」、2.「環境経済計算」、「グリーンGNP」のように、自然資本の一定
 期間の変化を表す「フロー勘定」が挙げられる。このうち、後者は、自然資本の減少、自然破壊等
 に伴う社会的損失を国民経済計算体系(SNA)に取り込むことを目標としている。

4. グリーンGNPの作成には、1.環境要素の価値変化を貨幣価値に換算し、SNA体系に組み込み、
 新しい体系を策定する、2.現在のSNA体系の基本統計は残したままで、付属統計(サテライト勘
 定)を作成し、必要に応じて基本統計と連結できるようにするという、2つの方法がある。

5. 環境要素をSNA体系に組み込むためには、1.環境要素の範囲をどこまでとするか、2.非市場財
 である環境要素をいかに貨幣価値で評価するか、3.SNA体系と環境勘定をいかに統合するか、な
 どが課題となる。

6. SNA体系と環境勘定を統合する試みとして、産業連関表に、新たな行(「自然資産の使用」)
 と列(「再生不可能な資産」)を追加する方法が考えられる。
  ここで、自然資産の使用には、自然資産の減少や環境の質の劣化が、再生不可能な資産には、生
 産されない自然資源の蓄積が記される。

7. 現段階では、環境勘定の現状からみると、環境要素をSNA体系本体に加味することは困難であ
 るが、「サテライト勘定」の作成は可能であり、その作成が急務であると思われる。その際には、
 サライト勘定が、単にSNA体系を補完する福祉指標としてでなく、将来的にSNA体系への統合
 を目指した、経済政策的な意味をもつ指標として作成されることが期待される。