今次雇用調整と日本的雇用システム


                              第三経営経済研究部 永野 秀之

1. 雇用指標をみると、完全失業率は上昇傾向で、有効求人倍率は低下傾向で推移している。また、
 大企業だけでなく、中堅・中小企業でも雇用ニーズが低下しており、企業の雇用過剰感が強まって
 きている。

2. 雇用調整実施企業割合をみると、製造業では、円高不況時(85.6〜86.11)のピーク時
 に近い水準となっており、残業規制や中途採用の削減・停止を実施する企業が増え、出向や配置転
 換へと進んできている。非製造業では、円高不況時より高い水準となっており、残業規制を実施す
 る企業が増えている。

3. 今次景気後退局面では、円高不況時と比べると、生産の落ち込みが大きいにもかかわらず、雇用
 指標はそれほど深刻化していない。また、1.労働時間の大幅な短縮、2.常用雇用者の堅調な伸び、
 3.余剰人員を大量に受け入れる産業が見当たらないこと、4.都市部での雇用過剰感、地方での雇用
 不足感、5.ホワイトカラー中心の雇用調整、といった円高不況時と異なる特徴がある。

4. 雇用調整の今後の動向としては、製造業の常用雇用者の減少はしばらく続くものの、その減少幅
 は円高不況時より小幅にとどまり、また、非製造業は、消費不振が長引かなければ、常用雇用者が
 大幅に減少することはないだろう。

  その理由として、1.バブル景気時の人手不足の経験により、企業は雇用調整に慎重な姿勢をとる
 こと、2.将来の生産年齢人口の減少見込みから、企業の雇用確保意欲が強いこと、3.労働時間の短
 縮には、雇用創出効果があること、4.労働省の雇用調整助成金制度には、企業の雇用調整実施に対
 する抑止力があること、があげられる。

5. 今次景気後退局面をはじめとするいくつかの不況局面や社会・経済環境の変化を通じて、年功序
 列型賃金や終身雇用制には、様々な変質が生じてきている。すなわち、年功序列型賃金に変質を与
 える要因としては、1.人口構造の高齢化、2.女子労働者や中途採用者の増大、3.能力主義(年俸制)
 の導入、4.創造性発揮の必要性の増大、があげられる。また、終身雇用制に変質を与える要因とし
 ては、1.勤労者意識の変化、2.出向・転籍の実施、3.早期退職優遇制度の実施、があげられる。

6. 年功序列型賃金については、年功的部分と能力給的部分を併存しながらも、徐々に後者が増大し
 ていくことにより、形骸化していくだろう。また、終身雇用制については、企業は今後も中高年を
 当該企業の外に出す仕組みの多様化を強めながら、他に替わるべき適当な雇用形態もないことから、
 従業員の長期雇用を保障していくという基本的精神は、今後も堅持されるものと考えられる。