日本企業の利益率は本当に低いのか


                              第二経営経済研究部 原田  泰
                                        松浦 秀樹

1. 日本企業の利益率は国際的にみて異常に低い、という議論があるが、利益率についての概念を調
 整し、米国だけではなく旧西独との比較を行うと、日本の利益率が異常に低いという事実は存在し
 なくなる。

2. 通常比較のために用いられる利益率は、税引き後の利益率であるが、日本の法人税は米国より高
 いので、日本企業の税引き後利益率が米国より低いのは当然である。

3. さらに、正しい国際比較のためには、税率の違いだけではなく資金と部品の調達方法の違いも考
 慮しなければならない。日本の企業は資金調達をより借り入れに頼っているが、米国の企業は、借
 金よりもむしろ株式を発行して資金を集めている。借金で集めた資金なら利子を払った後が利益だ
 が、株式で集めた資金なら配当も含めて利益となる。集めた資金をどれだけ有効に使っているかと
 いう指標なら、利益よりもむしろ利益に利子払いを加えたものを指標とすべきである。

4. しかし、これでもまだ十分ではない。よく知られているように、日本の企業は内製率が低く、米
 国の企業は内製率が高い。部品をたくさん購入して組み立てているだけの日本企業の利潤が、部品
 まで社内で作っている米企業の利益よりも小さいのは当たり前である。正しい国際比較のためには、
 内製率を調整した上で比較しなければならない。

5. また、各国のインフレ率についても考慮する必要がある。インフレ率の高い国では資本に対する
 利益率もまた高くなければ資本は目減りしていることになる。そこで資本利益率に関してはインフ
 レ調整する必要がある。

6. 一般に国際比較のために用いられる利益率は、売上高利益率と総資本利益率及び自己資本利益率
 であるので、それぞれの利益率について順次検討した結果、以下の結論を得た。

  日本企業の利益率が欧米に比べて格段に低いということが自明の事実であるかのようにしばしば
 論じられているが、そのような証拠は存在しない。

  まず、日本企業の利益率は、通常用いられる利益率の指標においても、西独よりも高いかほぼ同
 じである。また通常用いられる利益率の指標は、概念的に問題が多く、全く信頼するに足りない。
  概念を共通にすれば、日本の利益率は決して低くはない。概念を共通のものにするためにここで
 用いた方法が最善のものとは、言えないが、通常用いられている指標よりは、はるかに正しい指標
 に調整されているはずである。

  日本と米国と西独企業の表面的な利益率の違いは、各国の税制、資金調達の方法、部品調達の方
 法、インフレ率の違い等によって説明できるのであって、日本企業の行動が欧米企業の行動と異な
 ると考える根拠はない。