都市農地に関わる制度改正と今後の課題


                             第三経営経済研究部  箭内  宏

1. 都市農地に関わる資産格差を是正し、その宅地化を促進していく有効な方法として、「宅地並み
 課税」の議論が20年以上にもわたって行われてきた。この間、農地の「宅地並み課税」には常に
 「抜け道」が存在し、「骨抜き課税」となっていた。

2. しかし、今回の生産緑地法と農地関連税制の改正によって、三大都市圏の農家は、「宅地化する
 農地」か、30年の営農を前提とした「保全する農地」のいずれかを選択しなければならなくなっ
 た。そのうえで「宅地化する農地」については宅地並み課税が実現することとなった。

3. 1992年12月末で選択の申請が締切られ、三大都市圏の市街化区域内農地の約7割が「宅地
 化する農地」として選択された。また、都市周辺部ほどその選択割合が高くなった。

4. 申請結果に基づく建設省の試算では、順調に転用が進めば、10年間に三大都市圏で約109万
 戸、約13,000haの住宅及び住宅地が供給されると予測しており、行政が「宅地化する農地」
 によせる期待は非常に大きなものとなっている。

5. 一方、農家では、「宅地化する農地」を選択したものの、不動産経営の先行き不透明感等から
 「当面営農を継続する」という意向が増している。

6. 政府は、都市計画や地区計画を先行させたうえで、社会基盤の整備を伴った安定的な宅地供給を
 促進するため、「宅地化する農地」の活用に関して、融資への利子補給、税負担の軽減、補助等の
 各種助成措置を講じた。

7. その結果、生産緑地法等の改正前後から、住宅着工戸数、そのなかでも三大都市圏の貸家の戸数
 が増加に転じたが、1992年半ば以降は再び鈍化している。

  これは、制度改正が農地の宅地転用を促進したが、その後転用一巡と貸家の供給過剰感や地価及
 び賃料の下落の影響により転用ベースが鈍化したものと考えられる。また、相続税の宅地促進効果
 が今後徐々に現れてくると思われる。

8. こうした状況を考えると、「宅地化する農地」の活用の課題として、農家の営農意向という開発
 阻害要因の克服策の検討、官庁・自治体が一体となった取り組みによる適切な措置、農家の活用意
 向に迅速に対応できる農協等の体制整備が挙げられるほか、「宅地化する農地」と「保全する農地」
 が混在している状況から、将来の宅地予備軍としての性格をもった「生産緑地地区」をも含めた都
 市計画決定等も必要と思われる。