No.62 1993年12月

「勤労者世帯の金融資産ストック化と消費構造変化」

                            第三経営経済研究部研究官 宮原 勝一
1 個人消費の低迷は、今回の景気後退の特徴であり、長引く景気停滞の理由の一つである。国民経済計算をみると実質民間最終消費支出は、景気が調整局面に入った1991年以降円高不況時を下回る低い伸びとなっている。また、家計調査をみると91年以降消費支出(全国・勤労者世帯、実質)は、2年連続で前年比1%増を下回る低い伸びが続いている。

2 1980年以降の勤労者世帯(家計調査)の消費支出をみると、80年初期には、第二次石油危機を背景とした急激な消費者物価の上昇や実質所得の減少により、価格上昇の大きい費目に対する支出を抑えるなど価格選好的な消費態度がみられた。その後消費者物価は安定的に推移し、景気が拡大期に入ると勤労者世帯の消費行動には、耐久財を中心に高級化、多機能化、高品質化志向への変化がみられた。

3 一方、86年以降勤労者世帯には、NTT株上場や地価急騰を背景に金融資産が急激に蓄積された。金融資産ストック化の進展及びこれらの資産価格の変動が、いわゆる資産効果を通し勤労者世帯の消費行動にどのような影響を与えたかを回帰式を用いて分析すると、・金融資産のうち定期性預貯金、生命保険などの蓄積は、消費支出に有意な影響を及ぼす、・株式による資産効果はあまり高い有意性がみられないものの、一部の勤労者世帯には90年以降の株価下落による逆資産効果があったと考えられる、・金融資産ストック化が進展した87年以降、勤労者世帯の消費行動には構造的な変化がみられる、という結論が得られた。

4 80年代の勤労者世帯の消費行動は、概ねファンダメンタルズで説明できる範囲の堅実なものであったとみられる。しかし、景気停滞が長期化するなか雇用情勢が深刻化し、将来の実質所得増加が期待薄となることから、買い換え需要がみえはじめている耐久財に対する購入意欲は後退するとみられる。そのため個人消費の本格的な回復は95年以降になると考えられる。

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