No.62 1993年12月

「米国による世界への株高輸出」

                                     第三経営経済研究部 山辺 一郎 
1 米国の株式市場では、90年の景気後退に伴う金利低下により動意づき、91年1月の多国籍軍によるイラク侵攻を直接のきっかけにして大きく動きだした。この時期から世界的な株式の上昇相場が始まることになる。

2 今回の株高は、その相場の特徴から、92年9月頃を境に前後2つの期間に分けられる。前半は、金利低下をうけた米国株式市場でいわゆる金融相場が起こり、それに牽引されて欧州などの株式相場も上昇をとげた。後半は、米国株式市場は業績相場に移行し、欧州やアジアでは株式の出来高が急増し株価の上昇ピッチも上がってくる。欧州では本格的な金融相場が始まり、アジアでは経済成長率の相対的な高さが再評価される。

3 米国の株式相場を上昇させた要因をみると、米国の個人投資家が91年以降、金利低下により預金から投資信託(ミュ−チュアル・ファンド)へ資金を大きくシフトさせたことが直接的なきっかけとなったが、さらにこれにディスインフレ現象が加わることで、株価の上昇は一層増幅されている。また、外国株ファンドを通じた米国個人投資家の資金や、本格的に国際分散投資に乗り出した年金資金が、欧州やアジアの株式市場に流れ込むことで、米国の株高を世界へ輸出するかたちとなった。

4 米国における92年の個人の金融資産に占める株式と投資信託合計の割合は、既にブラックマンデ−直前の水準を超えており、投資家の志向は、ハイリスク・ハイリタ−ンの度合いが最も高い投資対象を選好する段階まできている。また、各国の株式市場のPERの動向をみると、米国では、企業収益の回復から17倍程度と落ち着いた動きとなっている一方、英・独などの欧州市場やシンガポールなどアジア市場では今年になってから急上昇しており、20〜30倍と米国に比べてかなりの高水準に達している。

5 今回の世界的な株高は、仮に米国の金利が低水準で推移するにしても、資金シフトの質量両面からみて最終局面にさしかかっている可能性が高い。一方、米国の金利が上昇に向かった場合、米国の株価は企業業績を反映し急落に向かう可能性は少ないとみられるが、欧州やアジア市場では、米国資金流入のインパクトが相当大きなものになっているだけに、株価は大幅に調整される可能性が高い。

6 日本の株式市場では、91年以降海外から投資資金が流入したが、市場規模が大きいことから、世界的な株高の影響を受けるまでには至っていない。しかし、今年になって外人投資家はすでに利食い売りにでており、米国で金利が上昇したとしても、欧州やアジア市場に比べ直接的な影響は小さいと考えられる。

本文書[rtf形式]の転送


HomePage