No.63 1994年1月
第三経営経済研究部研究官 小池 信也1 為替が円高になると輸入品の価格が低下することで、一般的には国内の物価の低下をもたらすことになる。
2 産業連関表を用いた価格分析により、輸入品価格が変化したときに国内の産出物価にどれだけの影響があるのか計算を行い、為替レートが1%円高になった時に産出物価がどれだけ変化するのかという理論値を求めた。
3 そのうえで、輸入品の価格が基準時点で変わらないという仮定のもとに、プラザ合意のなされた1985年9月と、今回円高局面の直前である93年1月をそれぞれ基準時点として産出物価の理論値を求め、産出物価の実績値との乖離について2時点間で比較を行った。
4 各部門の乖離を共通の尺度で測るために、産出物価の実績値と理論値の乖離幅に基づいて差益還元率を定義し、プラザ合意後の円高局面と今回の円高局面で、還元率が15%超異なっている部門について、その違いが生じた原因を検討した。
5 各部門の生産物の需給状況等により、円高の差益が産出物価にダイレクトに効いてこないことを斟酌しても、還元率で比較した場合、今回の円高局面では、製造業全体では、プラザ合意後の円高局面で還元されたのと同程度には円高差益が還元されていると考えられる。
6 しかし、産業によってはプラザ合意後の円高局面と今回の円高局面とでは、産出物価で見た差益の還元状況が異なっている。それは両時期の景気調整局面の性格の違いによって、各部門がおかれた環境の厳しさの違いによるとみられる。