No.67 1994年5月

「80年代における東京への人口集中―情報の視点からの分析―」

                                   第三経営経済研究部研究官 野崎 英司
1 東京への人口集中は、長年是正が望まれている重要な政策課題であるが、60年代半ばから70年代にかけ沈静化に向かった後、80年代に再び集中が加速した。この結果、東京圏の生活環境悪化、地方の過疎化等、その弊害の高まりが指摘されている。そこで、本稿は、80年代における東京圏への人口集中要因について、従来から挙げられてきた東京圏(東京、埼玉、千葉、神奈川)と地方圏(東京圏を除く43道府県)との所得格差のほか、新たにクローズアップされてきた情報格差、国際性格差、高等教育格差という3つの格差要因を含めて、計量的手法により分析を行った。

2 まず、人口流入格差と、80年代以降クローズアップされてきた情報格差、国際性格差、高等教育格差をそれぞれ定義したうえで、クロスセクション相関分析を行った。この結果、すべての格差とも人口流入格差との相関度合いが高く、なかでも情報格差が大きな影響力をもつことが明らかになった。

3 次に、1980年から1990年までの年次データを用い、全国を9地域に分け、地域別に人口流入格差と所得格差、情報格差、国際性格差、高等教育格差の時系列相関分析を行った。この結果、所得格差、情報格差が東京圏人口集中の一般的要因と考えられること、国際性格差、高等教育格差は地域によって相関にバラツキがあることが明らかになった。これを地域ごとに影響力が大きい要因に着目してカテゴリー分けすると(最も影響力が大きい所得格差は除く)、

  (1) 情報・国際性・高等教育重視型(中国、九州)
  (2) 情報・国際性重視型(北海道、近畿)
  (3) 情報重視型(東北、北陸・信越、四国)
  (4) 特殊型(関東、東海)
 の4つの類型に分類することができた。

4 さらに、人口集中要因として説明力が高いことが明らかになった所得格差、情報格差を用いて1980年から1990年までの人口流入格差関数をクロスセクションで推計したところ、・所得格差に対する感応度は、比較的大きな変動幅をもったこと、・情報格差に対する感応度は、80年代を通じ一貫して高い水準にあったことが判明した。また分析結果から、80年代の東京圏への人口集中を促した主因が所得格差であったことが推測され、東京圏と地方圏との人口流入格差が87年にピークを迎える過程は、東京圏でバブルが発生し地方へ波及していくプロセスとほぼ重なり合っている。

5 最後に、1990年の都道府県別の発信情報量を用いて、東京圏を除く43道府県を多情報発信地域と少情報発信地域に分け、人口流入格差関数を推計した。この結果、所得格差弾力性は多情報発信地域、少情報発信地域ともほぼ同レベルであるのに対し、情報格差弾力性は、少情報発信地域が多情報発信地域を大きく上回っていることが明らかになった。従って少情報発信地域の情報発信力を高めることができれば、東京圏への人口流出を抑制する効果を期待しうることがわかった。

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