No.68 1994年6月

「投資家の視点からみた先物為替予約の開示」

                              第三経営経済研究部研究官 小谷 和成
1 ここ一年余りの間に、企業が先物為替予約取引から多額の損失の計上を余儀なくされるという事態が相次いだ。このような事態が発生した直接的な原因としては、・先物為替予約の含み損が財務諸表上に記載されないという日本の会計基準や会計慣行が存在していたこと、・そのため、個々の企業レベルで先物為替予約の取引状況を常にチェックする経営管理体制の構築を怠ったことなどが挙げられる。しかし、これらの問題の背景には、先物為替予約を独立した取引として捉えない、先物為替予約の「実需原則」時代の名残ともいえる考え方がある。

2 しかし、先物為替予約が自由に行えるようになった今日では、経営管理者は、先物為替予約を独立した取引と捉え、ヘッジ目的のものと投機目的のものを区別し、投機目的の先物為替予約は常に為替差損が発生する危険性があるという認識を持つことが必要となった。また、投資家に対する企業内容開示という面からも、この考え方は会計制度に反映される必要がある。

3 大蔵省は、先物為替予約の含み損が財務諸表上に記載されないという日本の会計制度を補うため、企業内容等の開示に関する省令を改正し、1994年4月より株式公開企業を対象に先物為替予約の取引状況を有価証券報告書に開示させることにした。この結果、先物為替予約の透明性が確保されるようになり、今後は先物為替予約に多額の含み損を抱えながら、投資家がそのことを全く知らないということはなくなるものとみられる。

4 ただ、先物為替予約の開示に際して、先物為替予約がヘッジ目的と投機目的の区別なく開示されるため、リスクの性格が異なるヘッジ目的に係る含み損と投機目的に係る含み損が合わせて開示されることになり、投資家の判断を誤らせる可能性を残した。

5 今後は、先物為替予約のヘッジ機能が尊重され、真の企業業績が投資家に明示されるような開示制度や会計基準が設定されることが望まれる。

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