No.70 1994年8月

「米国における不良資産流動化手法」

                             第三経営経済研究部研究官 箭内  宏
1 日本における不良資産処理は、共同債権買取機構、競売、特別目的会社による金利減免債権の流動化などの手法が導入されており、不良資産の流動化という点で一歩前進したといえるが、まだ決め手とはなっていない。米国では、80年代後半から商業銀行や貯蓄貸付組合の経営不振や破綻が相次いだが、金融機関の自助努力や政府介入によって経営が持ち直し、不良資産処理は終焉局面に入っている。

2 こうした米国の金融機関の再生には、金融機関の自助努力、景気及び不動産市況の回復、政府の積極介入及び支援、連邦準備制度理事会の長期にわたる低金利政策などが指摘されているほか、不良資産流動化の成功が重要な役割を果たしている。

3 米国で不良資産の流動化手法が成功した背景には、・債権流動化市場の発達、・経営陣に早期償却を促すインセンティブ、・引当金の積み増し、・投資銀行の存在、・銀行内の回収専門部隊の存在、・積極的にリスクテイクを行う投資家層の厚さ、などの環境及び基盤があった。また、不良資産の流動化のために次の三つの工夫が施されている。第一に、キャッシュフローに基づく債権元本の減額、第二に、証券化手法の導入であり、これらがマーケット・メカニズムの回復に結びついている。そして、第三に、不良資産の回収・良質化の推進である。

4 米国で行われた不良資産の流動化手法には、バルクセール、証券化手法の基本型、Nシリーズ、土地ファンドがある。また、今後の流動化への可能性を秘めたものとして不動産投資信託の活用も期待される。

5 米国の流動化手法では、不良債権元本の減額が流動化の前提となっていた。日本では、共同債権買取機構への持ち込み案件でみると、債権元本の減額率は50%を超えるまでに至っており、かなりの程度まで進捗している。米国に比べて遅れていることは否めないものの、不良資産流動化の環境・基盤整備は、元本の減額をはじめとして着実に進展している。Nシリーズ、土地ファンド、不動産投資信託などのように、日本の実情に適した手法の導入が実現する環境は、徐々に整いつつあるといえよう。

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