79 1995年5月

『日本の資本の収益性』

―国民経済計算データによる実物資本収益率の国際比較と時系列推移の分析

                             第二経営経済研究部長 太田  清
                                    研究官 春日 教測
  1.  日本国内の資本の収益性については、米国等の他の先進諸国と比べて低いとする研究が多い。また、長期的に見ても、80年代初めから収益率が低下してきているという指摘もある。こうした資本の収益性を見るに当たっては、一般には、企業の財務会計から得られるデータが使われるが、マクロ経済のパフォーマンスを見るという観点からは、物価上昇率の違い等によってバイアスを持つ可能性がある。
     本稿では、そうした物価上昇の影響を考慮して、日本の経済のマクロ的なパフォーマンス、効率性や成長性という視点から日本の実物資本利益率を求め、国際比較による評価および近年のディスインフレ期を含めた時系列的変化に関する評価を行った。
  2.  国際比較では、日本の実物資本利益率は欧米各国と比べてみて低いとは言えないという結果がでた。一般に日本の利益率が有意に低いと言われる背景には、70年代半ば以降日本の物価上昇率が低いことが一因となっている可能性がある。
     また、中小企業の実物試算利益率が高いことが、中小企業をカバーする本稿での利益率を高めていると見られ、日本経済における中小企業の役割の重要性を示唆するデータを確認した。
  3.  時系列比較では、物価上昇による影響を除去して見ると、80年代には実物資本利益率に下降トレンドは見られず、むしろ上昇トレンドが見られる。修正前の数値に見られるような利益率の低下傾向は単に物価上昇率が低下したことによる「見せ掛け」のものにすぎない。
  4.  国民経済計算はあくまでも推計値であるから、それにより国際比較をする場合には、ある程度の幅を持って数字を見る必要がある。しかし、「平成不況」という長く大きな不況を経験し、日本経済のパフォーマンスや成長性について弱気な見方が多くなっているなか、本稿の結論は、日本経済の長期的な趨勢に関する巷間の見方に若干の修正を求め得るものであろう。