81 1995年7月

『国内トラヒックの予測方法に関する一考察』

                           第三経営経済研究部研究官 岡部 大介

  1.  各国の電気通信事業者は、経営戦略を決定する上で最も重要なデータの1つとして、トラヒックを予測している。トラヒックの予測においても、さまざまな経済量の需要予測と同様、経済モデル(構造分析モデル)及び時系列分析モデルといった予測方法を基本にし、そこで用いられている説明変数の選択を試行錯誤を繰り返しながら、モデル式の精度をあげていくことが不可欠である。経済モデル(構造分析モデル)による予測に際しては、理論経済学的なアプローチによる適切な説明変数の選択と符合条件の合致が要請され、例えば、需給理論から導かれる所得、価格及び人口要因等が重要な説明変数となる。一方、時系列分析では、Box-Jenkins法やAICの手順に従えばよく、最適なモデルの選択基準は比較的客観的であるといわれている。
  2.  本稿は、トラヒックの予測手法に関する基本的な考え方を整理し、実際に日本国内のトラヒックの予測式を構築するために書かれたものである。本稿の前半部分は、米国、英国及びフランスの代表的な電気通信事業者に対して行った一連のトラヒック予測手法に関するヒアリング結果をまとめている。今回の調査を行った各国では、トラヒック予測のための経済モデルは、上述のような、所得、価格及び人口といった理論的背景を持った基本的な変数を選択している例が多い。しかし、各国のトラヒック規定要因(市場構造、利用構造の相違や技術革新の速度の違い等)の相違を反映し、実際の景気循環とトラヒックの成長率の組合せによっては、推計式のあてはめも大きく変わり、符合条件等を満たさなくなる例が多いようである。前半部分では、ヒアリングした各国のモデルに対する考え方等をまとめながら、収集可能なデータを用いて、それらの考えに基づいて、実際に当研究所において各国のトラヒックの経済モデルを再推計し、その結果を各国で実際に使われている推計式と比較してみた。
  3.  時系列モデルでは、これのみを単独で用い、そこで得られる予測値を経済モデルと比較を行いより精度の高い予測値を得るように利用している場合と、直接、経済モデルの中に組み入れて予測精度を高めている場合の2ケースがあった。いずれの場合も、次数の同定はBox-Jenkins流の経験則によるようである。
  4.  最後に、本稿の後半部分では、以上の各国の予測に関する考え方を参考にし、実際に、我が国の国内トラヒックを実際に推計した。経済モデルでは、ヒアリングした各国のモデルに基づいて我が国のトラヒックを推計し、より予測精度を高める方法について考察する。一方、時系列モデルでは、データがより定常性を持つよう加工した後、ARIMA(1,0,0)からARIAM(4,1,4)の中で、最もあてはめのよいモデルを標準誤差やAICによって選択する。