84 1995年10月

『日本企業のダイナミズムとベンチャー企業創出の鍵』

                                 第三経営経済研究部長 西脇  隆
  1.  1990年代に入り日本経済、日本企業のパフォーマンスが悪い。バブル崩壊後、経済はゼロ成長と低迷しており、企業業績は悪化し雇用不安が増大している。円高、金融システム不安、デフレ懸念の中で、産業の空洞化と金融の空洞化が進み、経営者マインドも消費者マインドも冷え込み、閉塞感が強まっている。この原因を探り、日本経済、日本企業の復活の鍵を明らかにしたい。
  2.  経済と企業のダイナミズムは、つまるところ、就業者数が増えることと就業者一人一人が日々いかに付加価値をつくりだすかという生産性の上昇で決まる。
     少子化・高齢化が進み、就業者が減少することが懸念される。このため、少子化から多子化への環境づくりとともに高齢者や女性の就業機会を増やすことが重要である。
     生産性を高めるためには、情報化、機械化、自動化により資本装備の高度化を進めるとともに、イノベーションを起こす必要がある。
     日本の大企業によるプロセス・イノベーションは、60年代、70年代、80年代は大成功し、日本の経済成長の原動力となった。しかし、90年代に入り欧米にキャッチアップした今、大企業によるイノベーションは低迷している。大企業に代わってベンチャー企業によるプロダクト・イノベーションが期待されている。しかし、米国では成功例が多いが日本での成功例は少ない。例えば、日本の店頭市場は米国の店頭市場であるナスダックに、量と質の両面で大差をつけられている。
  3.  日米のベンチャー企業を取り巻く環境の違いが原因と考えられ、その要因を人、物、金、情報の4つの経営資源ごとに分析した。
     人は企業家精神が決め手だが、米国人はプロフェッショナル志向、ナンバー1志向が強く、日本人より企業家精神は強いといえよう。
     物としては、インキュベーターが重要だが、米国の大学及び地方自治体の提供するインキュベーターの仕組みが、日本より進んでいる。その結果、シリコンバレーなどのようにベンチャー企業が常に創出される地域が存在している。  金の面では、米国はベンチャーキャピタルやエンジェルが発達しており、多様な資金調達が可能である。
     情報の面では、米国はインターネット、EDI、CALSなどに代表されるように自由でオープンな情報交換が可能でありバーチャルコーポレイションが実現しやすい。
  4.  以上の分析を基に、日本のベンチャー企業創出の鍵を整理すると次の5点が重要と考えられる。
    第一は、グループや系列などのクローズ市場から、参加自由なオープン市場への構造改革。
    第二は、企業家精神を発揮する人材の育成であり、そのための個性を重視した教育制度とプロフェッショナル育成のための人事制度への改革。
    第三は、大学と国・地方自治体による使い勝手の良いインキュベーターづくり。
    第四は、ベンチャーファイナンスのパイプを太くすること。
    第五は、情報インフラづくりと自由な情報交換の場づくり。
      この5つを実行するには、個人、企業、大学、政府のパラダイム・チェンジが不可欠である。21世紀に向けて、日本経済及び日本企業がダイナミズムを取り戻すためにも各人が具体的な手をすぐ打つ必要がある。