85 1995年11月

『家計の貯蓄行動と遺産・相続の実態』

―平成6年度「家計における金融資産選択に関する調査」結果概要−

                             第二経営経済研究部主任研究官 蟹江 健一

 平成6年11月に「家計における金融資産選択に関する調査」を実施した。この調査は、全国の世帯主年齢20歳以上の世帯(単身世帯を含む)から無作為抽出した6千世帯を対象としたアンケート調査である。本稿では、貯蓄保有状況、貯蓄選択基準、貯蓄目的・貯蓄目標額、住居の状況(持ち家率)、老後の生活、遺産・相続の各項目について、主な調査結果を取り上げたが、そこから得られる示唆は次のとおり。
  1.  高齢層では、金融資産選択にあたって収益性より安全性をより重視する傾向にあり、中堅年齢層でも安全性を重視する割合が大きくなってきている。このような傾向が続けば、今後人口の高齢化の進展とともに、世代全体として、金融資産選択における安全志向が高まるようにも思われるが、中高年齢層における安全志向の高まりは、「バブル」崩壊の影響等による一時的なものである可能性も否定できず、今後の動向を注視する必要がある。
  2.  老後の生活に備えて貯蓄をする世帯は多いが、貯蓄の取崩しを老後の主な収入源として予定している世帯は少なく、実際に高齢になっても貯蓄を取り崩さない世帯が多い。現状において老後の生活の収入源としては、貯蓄の取崩しへの依存度は高くない。ただし、公的年金に期待していない若年層では貯蓄取崩しを主な収入源として挙げる割合が高いことや、無職高齢世帯では公的年金・恩給や貯蓄の取崩しへの依存度が比較的高いことから、今後の公的年金制度や高齢者の就労状況の変化いかんによっては、将来的に、貯蓄の取崩しへの依存度が急速に高まる可能性はある。
  3.  高齢世帯でも、主に老後の生活や不時の出費に備えて貯蓄を続けており、貯蓄目標額や貯蓄習慣から見る限り、旺盛な貯蓄意欲が伺える。遺産を残そうという目的で貯蓄を行う高齢世帯はごく少数にとどまるが、老後の生活収入源としての貯蓄の取崩しへの依存度は高くない。金融資産については、多くの場合、高齢者が遺産として残す目的で貯蓄したものではなく、過去からの貯蓄のうち結果的に高齢者に取り崩されずに残ったものが、遺産として次世代に相続されるものではないかと考えられる。
  4.  金融資産に比べて、居住用不動産(持ち家)は遺産・相続の主要な対象として意識され、かつ現実に相続されており、次世代に資産として残される可能性が高い。持ち家の相続・贈与の動向は、資産格差を生じさせるとともに、家計の貯蓄行動にも大きな影響を与えると考えられる。