No.88 1996年2月
「高齢者等の遺産動機」
−1994年の郵政研究所アンケート調査による分析−
通信経済研究部研究官 太田 清
研究官 神谷 佳孝
郵政研究所が1994年11月に実施した「家計における金融資産選択に関する調査」(アンケート調査)の個票データを用いて、主に高齢者を対象にその遺産についての考え方等を分析した。その結果は以下の通りである。
- 持家世帯の方が非持家世帯よりも遺産相続動機が強い。また、相続の経験や予定のある世帯の方が、経験・予定のない世帯よりも遺産動機が強い。これらの点については、1992年に実施したアンケート調査の結果でも同様となっており、その意味で分析結果は頑健であると言える。
- 1994年のアンケート調査では、遺産動機に「余ったら遺産を残す」という選択肢を加えたが、そのように回答した世帯は全体の約5割を占めた。そこで、その世帯が実際に遺産を残す可能性が大きいかどうかなどを見てみた。
- 現在の貯蓄行動を、世帯主が60歳以上の退職した世帯についてみると、「余ったら残す」とする世帯で純資産を取り崩している世帯は約20%であり多くはない。
- 世帯主が60歳以上の世帯の持家保有率をみると、「余った場合には残す」世帯では、約90%であった。また、遺産を残すとした場合にはどのような形で残すかという問に対しては約87%が住宅・土地で残すとしている。
以上より、「遺産は余った場合には残す」と考えている世帯が実際に遺産を残す可能性は少なくないものと見られる。
- 遺産の分け方についての考え方を見ると、「余ったら残す」世帯は、「遺産は、如何なる場合にも残す」と考える世帯に比べて、「均等に分ける」が多く、「長男に残す」は少ない。
- 60歳以上で現在子供と同居していない世帯について、将来子供と同居する意志の有無と遺産動機との関係をみると、子供と同居する意志のある世帯の方が遺産動機が強い傾向がある。また、遺産の分け方については、子供と同居する意志のある世帯の方が、面倒を見てくれた子供に対しては遺産を残すとする「戦略的遺産動機」の世帯の割合も高い。