No.88 1996年2月

組織の硬直化メカニズムとパラダイム

変革下における日本型経営組織の現状と課題(1)

                              第三経営経済研究部  川本  健
  1.  米国における組織論及び組織変革論の研究分野では、軍事組織と経営組織の組織形態、及び機能遂行上の類似性・近似性に着目した学術研究が比較的盛んである。また、ビジネススクールでも企業戦略論や組織論などの授業で、第二次世界大戦やベトナム戦争時における米軍組織と交戦国の軍事組織の軍事戦略や作戦行動の適否がケーススタディーとして取り上げられる例も珍しくない。

  2.  当調査研究は、太平洋戦争時における日米両軍事組織の組織行動や人事システム等の事例研究を軸とする帰納法的分析によって、組織の硬直化メカニズムに関理論仮説の導出を行い、硬直化組織の自己革新に関する提言を試みたものである。

  3.  導出された組織の硬直化メカニズムに関する主な理論仮説としては、(1)過去に大きな成功体験を経験した組織ほど、その成功体験が組織内の公式・非公式の価値規範として定着化し始める。このような組織では、変化の対応を忌避し、現状維持(status-quo)を選好する傾向が強く、組織のダイナミズム性の喪失と共に組織の硬直化が進展する可能性が高い、(2)企画戦略部門などの戦略策定部門の公式・非公式な権限やステータス性が高まるにつれ権力の二重構造が生じる危険性が高く、現状から乖離した机上プランが企業戦略として実行されるなど、経営意思決定を誤らせる可能性が高いなどである。

  4.  また、硬直化組織の自己革新に対する提言としては、(1)組織は外部環境の変化に対応しているか否かを絶えずチェックし、組織内で共有化された既存の価値規範と照合し、その既存価値規範が外部環境の変化と乖離していると判断された場合、速やかに既存の価値規範を学習葉却し、新たな価値規範を組織に組み込む”スパイラルなデュエトロループ学習機能”を組み込むべきである、(2)企業の戦略意思決定に際しては、複数の意思決定ノードを備えたコンティンジェンシー・プランを用意し、予測不可能な事態の発生に際しては即応可能なシステムを組み込む必要がある、(3)組織硬直化の自己革新には、組織成員に対し明確な方向性を付与し、その協働を確保するべく統合的かつ明確なビジョンを策定・提示し、組織成員全体が共有化し得るシステムを備える必要がある、(4)組織の完全なる均衡状態は適応の最終であって組織の硬直化の極限でもある。逆説的であるが”適応は適応能力を駆逐する”のである。従って、既存の価値規範と相反する異質や価値観や情報、及び偶然性を組織内に取り込み、適度なカオスと不均衡を組織内に作り出す必要がある、(5)不均衡状態に置かれた組織は、組織の構成要素間の相互作用が活発化し、組織内に多様性が創造される。この多様性の創造によって、組織内に均衡状態に対するチェック機能が働き組織内にダイナミズムが生じるなどである。