No.94 1996年8月

経済成長、地価上昇等の家計貯蓄への影響

−郵政研究所アンケート調査による考察−

                          前第二経営経済研究部長   大田  清
                          前第二経営経済研究部研究官 桜井 俊行

 本稿は、家計貯蓄率と経済成長率との関係を、郵政研究所が実施した「アンケート調査」の個票等の分析をも交えながら考察したものである。
 日本経済の成長率と貯蓄率ないし家計の貯蓄投資バランスの長期的な推移を見ると、互いにパラレルな動きで推移してきている。すなわち、1970年代後半を境に経済成長率が低下してきたのとほぼ同様に貯蓄率も低下し、家計の貯蓄投資バランスの黒字(対GDP比)も縮小している。標準的な経済成長モデルにおいても、閉鎖経済モデルとして捉える場合には、人々の時間選好や生産技術条件の変化などに対して、経済成長率と貯蓄率とは同方向に向かうことになる場合が多い。実際に両者がパラレルに動いてきたことは、一国全体でも流動性制約があり、経済が閉鎖経済的なモデルに近いことをも意味しているのかもしれない。
 日本において地価が高いこと、あるいは、地価が上昇してきたことは、家計の住宅取得目的の貯蓄を促して、貯蓄率全体を上げてきたと指摘されることも多い。このことは大都市地域での住宅取得やローン支払いの「大変さ」という事実もあって、多くの人の実感にも合っているようにも見えるが、もう一方で高地価での土地の売手もおり、地価のマクロ的な貯蓄率への影響は、そう単純ではない。「アンケート調査」においても、家計の貯蓄率にプラスに作用している面とマイナスに作用している面の両面が現れている。
 高齢者や女性(特に既婚女性)の労働力が今後どうなっていくかは、生産要素としての労働力供給という面だけでなく、家計の貯蓄率への影響を通じても経済成長率に影響を及ぼし得る。アンケート調査では、それらの層の就業率が上昇すれば、貯蓄率が上昇し得ることが示された。従って、働く意欲のある高齢者や既婚女性の就業の場を確保することは、経済成長率を高めることでもあると考えられる。