郵政研究所月報 1997.5 調査・研究

金利低下局面における金融調節


                                    
                   第二経営経済研究部主任研究官  浜島 秀夫


(はじめに)

 本稿では我が国の金融政策の効果等を評価する場合に通常外生変数として扱われる無担保コール翌日物金利の形成に関する分析を試みるとともに、今次の金利低下局面における金融調節の実態を解明し、その評価を試みることを目的とする。本稿の構成及び要旨は以下の通りである。

 第1章では今次金利低下局面における金融調節の実態を概観する。ここでは、各積み期における金融調節の基調を視覚的に捉えることを目的とする。日本銀行は、市場参加者が金利の低下を予想していた推計期間の前半には、「過度の金利低下圧力には積み下調節で牽制を加える」調節を行っていた。これに対し、市場参加者が金利の上昇を予想していた後半においては、「過度の金利上昇圧力については積み上調節で適切な牽制を行う」という基本スタンスで行われていたとの一定の評価を行う。

 第2章では、関連研究について述べる。

 第3章では、本稿における経済モデルの枠組み、すなわち日本銀行のコールレート操作関数について述べる。基本的には、日本銀行がハイパワードマネーの供給量(積み進捗率)を変化させることによって、日々の無担保コール翌日物の金利を操作する姿を考える。この場合、@ターム物金利の上昇(低下)は、無担保コール翌日物の金利に対して上昇(低下)圧力となりうること、A日本銀行が過大な資金不足に対して信用供与を行う場合、理論的には民間金融機関が担保不足等から日銀の信用供与に応ずることができず、レート上昇圧力が生じうることを想定した。

 第4章では、第3章で示したモデルをもとに、OLS(最小2乗法)による推定を行う。推定の結果から、@準備預金の積み進捗による金融調節が有意であること、Aその他、ターム物金利の動向、資金過不足が無担保コール翌日物の金利に与える影響については有意ではないこと等の結論を得る。

 第5章では、まとめと残された問題について整理する。

1 金融調節の概観

 1.1 日本銀行の金融調節
 日本銀行は銀行券の増減、財政資金の受け払いによって生じる短期金融市場の日々の資金の過不足に対して、様々なオペレーションによってその供給量を変化させ、市中金融機関の準備預金額や短期金融市場金利に影響を与えている。こうした日本銀行のオペレーションを「金融調節」と呼んでいる。日本銀行の金融政策の操作目標は、「金融調節」による短期金融市場金利、中でも無担保コール翌日物金利(以下O/Nという)のコントロール1にある。

図1 金利低下局面における金融調節

無担保
コー ル
翌日物(%)
金融
調節
(日数)
日付 積み初日 積み最終日 積み上
(緩目)
積み下
(きつ目)
中立 ↑:上昇
↓:低下
備考
91/6/17‐7/15 8 7.40625 10 10 1 7/1公(6.0%→5.5%)
7/16‐8/15 7.46875 7.46875 7 14 2
8/16‐9/13 7.46875 6.84375 16 4 1
9/17‐10/15 6.96875 6.90625 7 10 1
10/16‐11/15 6.96625 6.3125 10 11 1 11/14公(5.5%→5.0%)
11/18‐12/13 6.375 6.5 5 13 2
12/16‐92/1/14 6.375 5.4375 10 7 1 12/30公(5.0%→4.0%)
1/16‐2/14 5.5 5.78125 1 19 1
2/17‐3/13 5.625 5.75 2 17 1
3/16‐4/15 5.625 4.78125 8 12 1 4/1公(4.5%→3.75%)
4/16‐5/15 4.78125 4.75 9 9 1
5/18‐6/15 4.75 4.78125 11 9 1
6/16‐7/15 4.78125 4.65625 6 14 2
7/16‐8/14 4.625 4.15625 17 3 2 7/27公(3.75%→3.25%)
8/17‐8/14 4.125 4.25 3 16 2
8/16‐10/15 4.125 4.15625 11 7 2
10/16‐11/13 4.0625 3.96875 8 10 2
11/16‐12/15 3.9375 4 6 13 2
12/16‐93/1/14 3.90625 3.9375 12 6 2
1/18‐2/15 3.875 3.15625 1 19 1 2/4公(3.25%→2.5%)
2/16‐3/15 3.125 3.21875 13 6 1
3/16‐4/15 3.15625 3.40625 11 9 2
4/16‐5/14 3.1875 3.21875 8 8 1
5/17‐6/15 3.15625 3.3125 14 6 1
6/16‐7/15 3.1875 3.375 8 11 3
7/16‐8/13 3.375 3.21875 16 3 2
8/16‐9/15 3.0625 3.125 9 11 2
9/16‐10/15 2.9375 2.59375 9 9 1 9/21公(2.5%→1.75%)
10/18‐11/15 2.5 2.59375 9 9 1
11/16‐12/15 2.53125 2.59375 11 8 2
12/16‐94/1/14 2.46875 2.40625 13 5 1

無担保
コー ル
翌日物(%)
金融
調節
(日数)
日付 積み初日 積み最終日 積み上
(緩目)
積み下
(きつ目)
中立 ↑:上昇
↓:低下
備考
1/18‐2/15 2.3125 2.3125 18 2 1
2/16‐3/15 2.225 2.28125 16 3 1
3/16‐4/14 2.125 2.21875 21 0 1
4/15‐5/13 2.15625 2.15625 15 0 1
5/16‐6/15 2.125 2.1875 21 0 1
6/16‐7/15 2.0625 2.25 18 3 1
7/18‐8/15 2.0625 2.15625 19 0 1
8/16‐9/14 2.09375 2.3125 21 0 1
9/16‐10/14 2.15625 2.25 16 2 1
10/18‐11/15 2.21875 2.3125 19 1 1
11/18‐12/15 2.28125 2.375 20 0 1
12/16‐95/1/13 2.28125 2.28125 16 1 1
1/17‐2/15 2.21875 2.28125 21 0 1
2/16‐3/15 2.21875 2.28125 11 8 1
3/16‐4/14 2.21875 1.5 18 1 1 4/14公(1.75%→1.00%)
4/17‐5/15 1.3125 1.375 15 2 1
5/16‐6/15 1.34 1.33 15 6 2
6/16‐7/14 1.27 0.96 8 11 3
7/17‐8/15 0.85 0.97 9 12 1
8/16‐9/14 0.88 0.46 13 6 3 9/8公(1.00%→0.5%)
9/18‐10/13 0.43 0.43 9 7 2
10/16‐11/15 0.43 0.47 18 3 1
11/16‐12/15 0.45 0.45 17 3 1
12/18‐96/1/12 0.44 0.43 12 4 1
1/16‐2/15 0.46 0.43 17 4 1
2/16‐3/15 0.45 0.39 19 1 1
3/18‐4/15 0.44 0.42 15 3 1
4/16‐5/15 0.47 0.4 18 4 1
5/16‐6/14 0.46 0.37 19 2 1
6/17‐7/15 0.46 0.4 12 6 3
7/16‐8/15 0.49 0.4 16 5 2


1.2 今次金利低下局面の金融調節
 今回の金利低下局面(平成3年7月1日〈第1次公定歩合の引下げ〉以降平成8年8月15日まで)における金融調節の様子を積み期別に以下のルールに基づいて分類した(図1)。

@ 無担保コール翌日物(O/N)
積み初日と最終日2の金利について掲載した。

A 金融調節
積み期間中に実施されたものを以下の3タイプ3に分類した。

a 所要積立残額対比同額の信用供与(回収)が行われた場合を中立

b 所要積立残額対比を上回る信用供与(回収)が行われた場合を積み上(緩目)

c 所要積立残額対比を上回る信用供与(回収)が行われた場合を積み下(きつめ)

B 市場参加者の金利観
  市中のおおまかな金利観について、ユーロ円預金金利(6か月間、3か月間)から、3か月後のスタート6か月後エンドのIFR(implied faward rate)を求め、これから、ユーロ円預金(3か月物)金利を減じた指標(以下Kとする)を作成した。

 さらに、Kの積み期中の基調を視覚的に矢印で以下の3タイプに分類した。

a 積み期中のKがゼロの値を取っている(すなわち市場が金利横ばい予想している)ことが多い場合を →

b 積み期中のKが正の値を取っている(すなわち市場が金利上昇を予想している)ことが多い場合を ↑

c 積み期中のKが負の値を取っている(すなわち市場が金利低下を予想している)ことが多い場合を ↓

 また、公定歩合の変更と無担保コール翌日物金利の動きをまとめると以下のとおりとなる。

1.3 今次金利低下局面の金融調節の評価
 今次金利低下局面においては、9度にわたる公定歩合引下げにより、公定歩合は6%から0.5%にまで低下した。これを受けて、日銀の操作目標である無担保コール翌日物も8%台から0.5%付近まで低下している。

 また、市中の金利に対する方向観(K)をみると、第7次利下げ〈平成5年9月21日〉後の平成6年2/16日から3/15日の積み期を境に市中の金利感に大きな変化が見られる。前半はほぼ一貫して金利の低下を予想しているのに対し、後半は、ほぼ一貫して上昇を予想している。

 そこで、今次金利低下局面を前半と後半に分けて、金融調節のスタンスについてみると、以下のトレンドが確認できる。

@ 前半(平成3年6/17‐7/15日〜平成6年2/16‐3/15日)

 積み上、積み下調節が拮抗する中立的な調節が基本スタンス(33積み期中18期が中立スタンス:シャドウ部は中立スタンスを示す。)である。過度の金利低下期待が生じれば、積み下調節によって牽制している姿がうかがわれる。公定歩合の引き下げを除けば金融調節によって金利低下を容認する幅は高々0.25%である(図2)。

 もっとも例外はある。例えば、平成3年8/16‐9/13日の調節である。金利低下期待が底流しているマーケットに積極的な積み上調節によってO/N低下を促(低目誘導)している。この積み期だけで0.625%もの低下幅になっている。

A 後半(平成6年3/16‐4/14日〜平成8年7/16‐8/15日)

 積み上(緩め)調節が多くなっている(29積み期中23期が積み上スタンス)。金利上昇期待を積み上調節を多用しながら打ち消している。

 また、第8次公定歩合引下げ(平成7年4/14日)と第9次公定歩合引下げ(平成7年9/8日)の間に、これまで、公定歩合とのスプレッドは正の水準を維持する調節を続けていたO/Nを、公定歩合とほぼ同じ水準にまで低目誘導したことが特徴的である(この間の金融調節によるO/Nの低下幅は〈公定歩合の引下げ分についてはフルスライドしたと考え、これを除くと〉0.60%となっている)4。

 いずれの場合も、0.25%を上回る幅でのO/Nレート低下を促す金融調節が行われたのはごく限られた期間(図2:シャドウ部)で、公定歩合の引下げを基本にしながら、過度の金利上昇・低下期待が払拭する、すなわち(恐らく日本銀行が考えているものとは逆の)金利の方向観が市場に現れた場合にこれを打ち消す、反対の調節を行っているとの印象を受ける。

 以上のような金融調節において、無担保コール翌日物金利がどのように形成されているのか、積み進捗率調整によるレートコントロールが有効に機能しているか否か、あるいは制約等は何かについて考察してみることとする。

(注) 日本銀行の金融調節について

 日本銀行信用の供与・回収は、銀行券要因(市中金融機関と企業・家計との間の現金授受を反映した日銀券の還流、発行〈日本銀行当座預け金の増減を通じて、準備預金の増加、減少に寄与〉)と財政等要因(政府と企業・家計との間での財政資金の支払い、受取りを反映した市中金融機関の日銀当座預け金の増減〈すなわち準備預金の増加、減少につながる〉)をあわせた、「資金過不足」の変動を相殺するような形で行われる。すなわち、準備預金の「積み立て期間」を通じてみると日本銀行は市中金融機関が所要準備額をちょうど積み立てられるよう日本銀行の信用の供与・回収が行われている。


図2 公定歩合の変更と無担保コールO/N翌日物金利

期間 公定歩合(%) 公定歩合
(%)
無担保コール
翌日物金利
(%)
(A−B)
スタート(A) エンド(B)
91/7/1‐91/11/13 5.5% 7.59375 6.3125 −1.28125
91/11/14‐91/12/29 5.0% 6.34375 6.5 +0.15625
91/12/30‐92/3/31 4.5% 5.78125 5.5625 −0.21875
92/4/1‐92/7/26 3.75% 4.8125 4.59375 −0.21875
92/7/27‐93/2/3 3.25% 4.125 3.875 −0.25
93/2/4‐93/9/20 2.5% 3.1875 2.9375 −0.25
93/9/21‐95/4/13 1.75% 2.5 1.78125 −0.78125
95/4/14‐95/9/7 1.00% 1.5 0.9 −0.6
95/9/8‐96/8/30 0.5% 0.510.47 0.47 −0.04



 一方、日本銀行はO/Nに影響を与えていくような金融調節を行うことができる。これは「準備預金の積み進捗率」の調整という形で行われている。「準備預金の積み進捗率」とは実際の準備預金残高の累積値が所要額の積み数に対してどのくらいのペースで積み立てられていくかを示す比率であり、積み立て期間に毎日均等に所要準備額を積み立てて行くとすれば、その場合の「準備預金の積み進捗率」は、積み期間が1か月=30日である場合には、一日当たり約3.3%ということになる。

 したがって、日本銀行は、O/Nを上昇させようとすれば、日々の「資金不足」に対する信用供与を少なめに、あるいは日々の「資金余剰」に対する信用回収を多めに行うことによって、「準備預金の積み進捗」を標準的な経路よりも遅らせ、コールマネーへの取り圧力を強めさせる。逆にO/Nを低下させようとすれば「準備預金の積み進捗」を早め、コールマネーへの取り圧力を低下させるような金融調節を行うのである。

2 関連研究
  インターバンク市場におけるO/N金利の決定のメカニズムに関する研究については、以下のものがある。

 鈴木(1966)はハイパワードマネーの需給均衡によりコールレートが決定されるとし、コールレートを企業収益率、公定歩合、日本銀行信用によって回帰している。これは、コールレートが民間金融機関の保有する超過準備は極めて小さいものの、わずかとはいえ日銀預け金のうち所要準備額を上回る部分は日本銀行の政策的なコントロールによって変動し、大幅な金利変動を生み出す過程を通じて決定されるというものである。

 また、同様に横山(1977)も短期金融市場におけるハイパワードマネーの需給均衡によってコールレートが決定されるとし、ハイパワードマネーの需給均衡に影響を与えるのは、資金過不足状況、資金遍在の度合い(業態間のポジション動向)、日本銀行信用であると主張している。

 しかし、上述のように、準備預金の「積み立て期間」を通じてみると、市中金融機関が所要準備額をちょうど積み立てられるように日本銀行の信用の供与・回収は行われている。すなわち、民間金融機関は、積み最終日には必ず資金過不足が埋まるような「受動的」な調節がおこなわれることを知っているのでハイパワードマネーの需給均衡のみでO/Nレートが決定されると考えることには難があるとの批判がある。

 これに対し、翁(1991)は、「受動的」な金融調節方式の理論化を行った。これはシグナリング効果によるO/N金利の決定、すなわち日本銀行の誘導金利について、金融調節がシグナルとして市場から信任を得ており、日本銀行のO/N金利のコントラビリティはシグナリング効果に依存しているとの主張である。

 また、観点が異なるが、金融政策がO/N金利を操作目標として遂行されてきたかどうかについては、吉野・義村(1993)が日銀の政策反応関数を計測し、肯定的な結論を得ている。

3 日銀のO/N操作関数

 3.1 モデル
 短期金融市場に閉じた体系の中で以下の日銀のO/N操作関数を考える。

O/N=F(T,K,J)…@

O/N:無担保コール翌日物金利

T:積み進捗率

K:ターム物金利

J:資金需給過不足

 日銀は当日の積み進捗率を外生的にコントロールできるとする。積み進捗率を早めることによってマネーポジション行のコールマネーに対する取り圧力を弱めさせて、レートを低下させる。逆に、積み進捗率を大きくせることによってマネーポジション行のコールマネーに対する取り圧力を強めさせて、レートを上昇させる。すなわち、


∂F/∂T<0
 ターム物金利が上昇(低下)した場合には、裁定が働いて、O/Nにも上昇(低下)圧力がかかると考えるのが自然であろう。

∂F/∂K>0

 さらに、資金需給過不足は日本銀行が過大な資金不足に対して信用供与を行う場合、理論的には民間金融機関が担保不足等から日銀の信用供与に応ずることができず、レート上昇圧力が生じうることを想定した。

∂F/∂J<0

 そして、これらをもっともシンプルな以下の関数形で推計5した。

O/N=α0+α1T+α2K+α3J+ε…A
ε:誤差項

4. 推計 4.1 データ データは日次とし、金融調節のタイムスケジュールに応じて選択した。具体的にはO/Nは大量出会いレートを用いたほか、積み進捗率(T)には代理変数として所要積立残額対比(速報値)を用いた。また、ターム物金利(K)には、第1章で求めたユーロ円預金金利(6か物物、3か月物)から、3か月後のスタート6か月後エンドのIFR(implied faward rate)を求め、これから、ユーロ円預金金利(3か月物)金利を減じた指標を用いた。資金需給過不足(J)は予想値を用いた。説明変数はこれらは、すべてO/Nが大量出会いとなる時間帯には市場参加者がほぼ同時に知りうるものとなっている。

4.2 単位根検定・外れ値の処理
 O/Nの階差(ΔO/N)6を、ターム物金利(K)の階差(ΔK)と積み進捗率(T)そして資金需給過不足(J)の3変量で回帰してスチューデント化残差を求め、t検定を行った。両側5%で棄却できるものは外れ値とした。外れ値の処理にはダミー変数(DUMMY1〜DUMMY77)を用いた。

 外れ値を処理した後、単位根検定(augmented Dicky-Fuller検定)を行った。
単位根検定の結果は以下のとおりである。

4.3 推計結果
 被説明変数をΔO/Nとした推計結果は以下のとおりである。

 推計結果をみるとダービンワトソン比は良好である。また、ダミー変数のほとんどは有意であった。しかし、決定係数は77個のダミー変数を投入したにもかかわらず、決定係数は0.76と決して高いとはいえない。この点実証結果の解釈に対する留保は必要であるとはいえ以下の点が指摘可能である。



▽ 単位根検定(augmented Dicky-Fuller検定)

ΔO/N ΔK
検定統計量 −16.28749{**} −15.93572{**} −11.88185{**} −11.18769{**}

注)**帰無仮説「単位根がある」を5%の信頼区間で棄却できることを示す。


▽ 推計結果(1991.7.1〜1996.8.31)

説明変数等計測値 計 測 値( )内はt値
J(億円) −0.14*10{−6}
(−1.83)
T(億円) −0.24*10{−5}
(−6.85){**}
ΔK(%) −0.13
(−0.83)
Const 0.19*10{−2}
(1.90)
R−Squared 0.77
Durbin-Watoson比 2.27
Dummy 1〜77
Sample 1274



@ 日本銀行の積み進捗率の調節の有意性は高い。1,000億円の積み上調節を実施するとO/Nは0.002%低下すると解釈される。

A ターム物金利7は有意ではない。O/Nはターム物金利の上昇(低下)圧力とは無関係に決定されている可能性が高いと解される。

B 資金需給過不足も有意とならなかった。符号は負となった。当日の資金需給過不足自体は、金融調節の制約にはならないと解される。

5 おわりに

  本稿では、短期金融市場の閉じた体系の中で、日本銀行の金融調節の有効性の実証を試み、留保は必要なものの一定の結論を得ることができた。しかし、残された課題も多いものと認識している。そのうち主要なポイントを列挙すると以下のとおりである。

 第一にモデルの妥当性である。関連研究の紹介においても「一体、無担保コール翌日物コールレートは導入決定されるのか」という疑問に関して、理論モデルの構築段階でいくつかのアイディアがあることを示した。しかし、これらには問題があったり、モデルの定式化やデータの収集自体が困難なものがあること等の理由から、本稿ではマーケットにおける実務家の経験をもとに当座こうしたモデルを用いたのが実情である。今後は、金融調節のモデル化が大きな課題といえよう。

 第二に外れ値の処理である。金融調節には季節性や「着地」に伴うテクニカルな動きなどから、データが外れ値となる可能性が高い。これを十分に経済学的な理由をつけて丹念に除去していくことは困難極まる作業である。本稿ではスチューデント化残差によって一律処理したが、これが妥当であるかどうかは疑問が残る。

 第三に、研究拡張の選択肢として、VAR(ベクトル自己回帰)による推定に取り組んでいきたい。

(参考文献)

鈴木淑夫         【1966】『金融政策の効果』東洋経済新報社

横山昭雄         【1977】『現代の金融構造』日本経済新聞社

翁邦 雄          【1991】『日本における金融調節』日本銀行「金融研究」

森田達郎、原 信   【1996】『東京マネー・マーケット(第5版)』有斐閣

長谷川芳春編     【1996】『ザ・マネーマーケット』金融財政事情研究会

吉野直行、義村政治【1993】『金融政策反応関数の変化とマネーサプライコントロール』KESDP

太田清、宮原勝一  【1996】『政府部門の対民間部門資金収支と金融調節』郵政研究所月報