郵政研究所月報 1997.5 調査・研究 

地域経済の特徴と地域間格差の変化に関する考察



                       前第三経営経済研究部  金井聡志


 


【要約】

1 
 本稿は、地域経済の特徴とその成長パターンを都道府県別に分析し、何が成長のパターン変化をもたらしたのかを考察するものである。


 各県の経済成長率や一人当たり県民所得変化率のパターンをみると、80年代後半は3大都市周辺の県が全国平均に比して高い成長を記録していたが、90年代に入ると逆に地方圏の県の成長が高くなるという、経済成長の逆転現象が起こっている。


 各県の産業構成を比較すると、3大都市周辺や政令指定都市を抱える県では全国と同様のパターンが見られる一方、地方の県では政府サービス生産者が構成比の上位に位置している。また、製造業の内訳では、加工組立型産業や素材関連型産業が上位を占める県は、関東、東海から山陽にかけてのいわゆる太平洋ベルト地帯に属する県が多い。


 各県の人口移動状況をみると、地方の県に多かった転出超過が徐々に転入超過に変わってきている。また有効求人倍率にみる雇用需給の変化も、地方の県で改善が進んでいる。


 都市部経済と地方経済の逆転現象の要因としては、@工場の新規立地などによる製造業の成長率の格差、A都市部に立地する金融保険業を中心としたバブル崩壊の影響、B公的部門の成長による地方経済の下支え、これらの3つが考えられる。


 
はじめに  
 本月報103号に掲載された「地域特性と地域経済に関する調査研究」において、各郵政局別の実質経済成長率について、大都市管内(関東、東京、東海、近畿)と地方管内(北海道、東北、信越、北陸、中国、四国、九州、沖縄)を比較すると、80年代と90年代ではその成長パターンが変化していることが指摘されている。すなわち、80年代においては、大都市管内が全国平均を上回る成長を遂げた反面、地方管内はそれを下回る成長に留まっていた。しかし90年代に入ると状況は逆転し、地方管内が全国平均を上回り、大都市管内が全国を下回る状況になった。本研究では、地域を更に分割し、各都道府県別により詳細にみた場合でも、同様の傾向がみられるかどうかを検証し、なぜそのような変化が生じたのか、要因を検証するものである。




第1章…バブル崩壊後の都市部経済と地方経済との逆転現象

 各都道府県(以下「県」という)の実質経済成長率を、85年〜90年までの5年間の平均と、90年〜93年までの3年間の平均を比べてみる。本来両年代とも同一の期間で比較すべきであるが、現時点では県民経済計算の最新値が93年までしか公表されていないので、90年代については3ヶ年分のデータでの比較となる。

図1 各都道府県の実質経済成長率の推移
85年度〜90年度平均 90年度〜93年度平均

図1 各都道府県の実質経済成長率の推移

成長率比較の評価基準
大きく上回る 全国平均+0.5%以上
上回る 全国平均以上、全国平均+0.5%未満
下回る 全国平均−0.5%以上、全国平均未満
大きく下回る 全国平均−0.5%未満


(注)成長率比較の評価基準は右記の通り。
(資料)県民経済計算年報より作成。


 85年〜90年の成長率を見ると、全国平均を上回っているのは13県あり、うち全国平均を大きく(0.5%以上)上回っているのは、滋賀、東京、神奈川、埼玉、茨城、愛知、静岡、福島の8県である。首都圏から東海、近畿にかけて、おおむね大都市又はその周辺県が高い成長率を記録したことが窺える。一方、全国平均を下回っている県は北海道、本州日本海側、四国、九州などに多く見受けられ、うち北海道、九州各県などは全国平均を大きく(−0.5%以上)下回っている。

 一方、90年〜93年の成長率をみると、3大都市を有する東京、大阪、愛知を初めとして、茨城、山梨、神奈川の計6県が、全国平均を大きく下回る成長となり、その他栃木、富山、静岡、岡山、広島の5県が全国平均を下回る結果となった。逆に、北海道、東北、信越、山陰、九州の各県は軒並み全国平均を上回る成長を見せており、県別にみた場合も大都市周辺の県と地方の県とでは、成長パターンが逆転していることが窺える。




 次に、人口一人当たり県民所得の変化率を同様に比べてみる(図2)。85年〜90年にかけての年平均変化率をみると、全国平均を大きく(0.5%以上)上回っているのは、千葉、東京、栃木、香川、徳島、石川の6県、その他全国平均を上回っているのは、茨城、広島、青森、神奈川、岐阜、三重、福島、愛知の8県である。概ね東京周辺から北関東および東海圏が高い伸びを示している。

 一方、90年〜93年の変化率をみると、3大都市を抱える東京、大阪、愛知が伸び率がマイナスとなったほか、栃木、千葉の Q県が、全国平均を大きく下回る伸びとなった。その他にも山梨、静岡、岡山、城、熊本、滋賀、奈良、埼玉の8県が全国平均を下回る伸びとなっている。他の県は全国平均を上回る伸び率を示しており、特に北海道、東北、北陸、山陰の各県は全て全国平均を大きく上回る伸びを見せており、実質経済成長率と同様に、この点でも大都市周辺の県と地方の県とでは、増加パターンが逆転している。

 以上示した、80年代と90年代における大都市と地方の逆転現象の背景と要因について、次章以降で産業構造、需要構造、人口動態などの推移から考察してみたい。

図2 各都道府県の一人当たり県民所得変化率の推移
85年度〜90年度平均 90年度〜93年度平均 

図2 各都道府県の一人当たり県民所得変化率の推移


変化率比較の評価基準
大きく上回る 全国平均+0.5%以上
上回る 全国平均以上、全国平均+0.5%未満
下回る 全国平均−0.5%以上、全国平均未満
大きく下回る 全国平均−0.5%未満

(注)成長率比較の評価基準は右記の通り。(資料)県民経済計算年報より作成。




第2章…各県経済の変化と特徴
 
1. 産業構造

01 産業大分類の特徴
 県内総生産の産業分類は農林水産業を一つとして考えると、全部で12あるが、第1位の産業として現れるのは、製造業、サービス業、卸売・小売業、政府サービス生産者の4種類である。各県の産業構造を93年度名目県内総生産の産業別構成比でみると、全国平均の第1位産業は製造業であり、47県中37県が全国と同様に製造業が第1位となっている(図3参照)。それ以外の10県をみると、サービス業が第1位の東京を除き、全て北海道、東北、四国、九州地域の県であり、地方の県が多い。

 また、上位5産業に現れる産業は、ほぼ6種類に集約される(東京にのみの運輸・通信業と、福島、福井にのみの電気ガス水道業は除く)。そのパターンを色分けしたのが図4である。

 パターンAは全国と同一のパターンであるが、これは関東、東海、信越、北陸、東海、阪神での各県、および政令指定都市を抱える宮城、広島、福岡といった県に見受けられる。一方、パターンB、C
、Dは全て政府サービス生産者が上位5産業に現れている県である。北海道、東北、中国、四国、九州などで見受けられて、これらも大都市から離れた地域に多い。また、製造業が上位5産業に含まれない県が青森(製造業の順位第6位)と沖縄(同7位)の2つであり、特に沖縄は、製造業の構成比が10%
を割っている全国唯一の県である。

 なお、表には記載されていないが金融保険業の構成比について、全国平均は4.1%であるが、47県中これを上回っているのは、東京と大阪のみであり、特に東京への集中が著しい。

  

1位 2位 3位 4位 5位 1位 2位 3位 4位 5位
北海道 サービス業 建設業 卸売小売業 政府サービス 製造業 滋賀県 製造業 サービス業 建設業 卸売小売業 不動産業
青森県 政府サービス 卸売小売業 サービス業 建設業 不動産業 京都府 製造業 卸売小売業 不動産業 サービス業 政府サービス
岩手県 製造業 サービス業 建設業 政府サービス 卸売小売業 大阪府 製造業 卸売小売業 サービス業 不動産業 建設業
宮城県 製造業 卸売小売業 サービス業 不動産業 建設業 兵庫県 製造業 卸売小売業 サービス業 不動産業 建設業
秋田県 製造業 サービス業 卸売小売業 建設業 政府サービス 奈良県 製造業 不動産業 サービス業 政府サービス 卸売小売業
山形県 製造業 サービス業 卸売小売業 建設業 政府サービス 和歌山県 製造業 サービス業 建設業 不動産業 政府サービス
福島県 製造業 建設業 サービス業 卸売小売業 電気 鳥取県 製造業 サービス業 卸売小売業 政府サービス 建設業
茨城県 製造業 サービス業 建設業 卸売小売業 政府サービス 島根県 製造業 卸売小売業 サービス業 政府サービス 建設業
栃木県 製造業 サービス業 卸売小売業 建設業 不動産業 岡山県 製造業 卸売小売業 サービス業 建設業 政府サービス
群馬県 製造業 サービス業 卸売小売業 建設業 不動産業 広島県 製造業 卸売小売業 サービス業 建設業 不動産業
埼玉県 製造業 不動産業 サービス業 卸売小売業 建設業 山口県 製造業 サービス業 卸売小売業 政府サービス 建設業
千葉県 製造業 サービス業 不動産業 建設業 卸売小売業 徳島県 製造業 サービス業 政府サービス 建設業 卸売小売業
神奈川県 製造業 サービス業 不動産業 建設業 卸売小売業 香川県 製造業 卸売小売業 サービス業 不動産業 政府サービス
山梨県 製造業 サービス業 不動産業 卸売小売業 建設業 愛媛県 製造業 サービス業 建設業 卸売小売業 政府サービス
東京都 サービス業 卸売小売業 製造業 不動産業 運輸通信業 高知県 サービス業 卸売小売業 政府サービス 製造業 建設業
新潟県 製造業 サービス業 建設業 卸売小売業 不動産業 福岡県 卸売小売業 サービス業 製造業 不動産業 建設業
長野県 製造業 サービス業 建設業 不動産業 卸売小売業 佐賀県 製造業 サービス業 建設業 卸売小売業 政府サービス
富山県 製造業 卸売小売業 サービス業 建設業 不動産業 長崎県 卸売小売業 サービス業 製造業 政府サービス 建設業
石川県 製造業 サービス業 卸売小売業 不動産業 建設業 熊本県 サービス業 製造業 卸売小売業 政府サービス 不動産業
福井県 製造業 卸売小売業 サービス業 電気 政府サービス 大分県 製造業 サービス業 建設業 政府サービス 卸売小売業
岐阜県 製造業 サービス業 卸売小売業 建設業 不動産業 宮崎県 サービス業 建設業 製造業 卸売小売業 政府サービス
静岡県 製造業 サービス業 卸売小売業 不動産業 建設業 鹿児島県 サービス業 製造業 卸売小売業 政府サービス 建設業
愛知県 製造業 卸売小売業 サービス業 不動産業 建設業 沖縄県 サービス業 政府サービス 建設業 卸売小売業 不動産業

三重県製造業サービス業卸売小売業建設業政府サービス全国製造業サービス業卸売小売業不動産業建設業



図3 93年度県内総生産におる
産業別構成比第1位産業
図4 93年度県内総生産における
主要産業(上位5産業)の構成

図3 図4

(資料)県民経済計算年報より作成。
(注)A 製造卸売小売不動産建設
製造卸売小売不動産政府
製造卸売小売建設政府
卸売小売不動産建設政府
その他

 (それぞれ順不同)
(資料)県民経済計算年報より作成。

02 製造業の内の産業中分類の特徴
 製造業については、それはほとんどの県で第1位であり、また上位5産業に現れない県は2のみであり、特に重点的に細分化する必要があると思われる。ここでは、通商産業省の工業統計表により産業中分類以下も収集可能であるため、中分類別の製造品出荷額等の構成比により各県の主力産業を探ってみたい。

 まず、名目県内総生産と同様に上位5産業の構成をみてみると(表2)、製造業の中分類産業21産業(その他を除く、なお武器は一般機械に含む)のうち17産業がその中に現れており、上位に顔を出さない産業は、衣服、家具、ゴム、皮革のみである。県内総生産の上位産業と比べ、かなり地域差があることがわかる。そこで、産業分類をもう少し拡大し、加工組立型産業(一般機械、電気機械、輸送機械、精密機械の機械産業4業種)と、素材関連型産業(化学、石油、鉄鋼、非鉄金属、金属製品)、消費関連型産業(食料、飲料)に注目し、上位3産業にそれらの業種がどのように含まれるかを中心にそのパターンを分類してみる(図5)。


 全国と同様に加工組立型産業が上位3産業を独占しているパターンAは首都圏周辺や北関東、東海などに見受けられる。これに、加工組立型産業と素材関連型産業が上位を占めるパターンBを加えると、概ね関東、東海、近畿、中国に多く分布している。70年代の高度成長を牽引してきたこれらの産業が、いわゆる太平洋ベルト地帯の主力産業である状況が今なお窺えるものとなっている。一方、消費関連型産業を含むパターンDの地域をみると東北、信越、九州に多く分布しているのに加え、京都、兵庫、奈良といった近畿の各県も属していることがわかる。加工組立型産業を含まないパターンEをみると、



表2 93年製造品出荷額における主要産業(上位5産業)

1位 2位 3位 4位 5位
北海道 食料 紙パルプ 金属製品 飲料 土石
青森県 食料 電気機械 紙パルプ 飲料 土石
岩手県 電気機械 食料 飲料 土石 一般機械
宮城県 電気機械 食料 飲料 金属製品 紙パルプ
秋田県 電気機械 木材 食料 輸送機械 精密機械
山形県 電気機械 食料 一般機械 金属製品 繊維
福島県 電気機械 化学 飲料 食料 一般機械
茨城県 電気機械 一般機械 化学 食料 鉄鋼
栃木県 電気機械 輸送機械 一般機械 金属製品 食料
群馬県 電気機械 輸送機械 一般機械 食料 金属製品
埼玉県 電気機械 輸送機械 一般機械 化学 食料
千葉県 化学 鉄鋼 食料 石油 電気機械
神奈川県 電気機械 輸送機械 一般機械 化学 石油
山梨県 電気機械 一般機械 食料 精密機械 金属製品
東京都 印刷 電気機械 輸送機械 一般機械 食料
新潟県 電気機械 食料 金属製品 一般機械 化学
長野県 電気機械 一般機械 食料 精密機械 輸送機械
富山県 金属製品 化学 電気機械 一般機械 非鉄金属
石川県 一般機械 電気機械 繊維 食料 金属製品
福井県 繊維 電気機械 化学 精密機械 金属製品
岐阜県 土石 電気機械 輸送機械 一般機械 金属製品
静岡県 輸送機械 電気機械 化学 一般機械 紙パルプ
愛知県 輸送機械 一般機械 電気機械 鉄鋼 食料
三重県 輸送機械 電気機械 化学 一般機械 食料


1位 2位 3位 4位 5位
滋賀県 電気機械 一般機械 輸送機械 プラスチック 土石
京都府 電気機械 輸送機械 飲料 繊維 一般機械
大阪府 電気機械 一般機械 化学 金属製品 鉄鋼
兵庫県 一般機械 電気機械 食料 鉄鋼 化学
奈良県 一般機械 電気機械 食料 金属製品 繊維
和歌山県 鉄鋼 化学 石油 繊維 一般機械
鳥取県 電気機械 食料 飲料 紙パルプ 衣服
島根県 電気機械 鉄鋼 一般機械 木材 食料
岡山県 輸送機械 化学 鉄鋼 石油 電気機械
広島県 輸送機械 一般機械 鉄鋼 電気機械 食料
山口県 化学 輸送機械 石油 鉄鋼 食料
徳島県 化学 飲料 食料 紙パルプ 電気機械
香川県 食料 一般機械 石油 金属製品 輸送機械
愛媛県 電気機械 紙パルプ 化学 一般機械 食料
高知県 電気機械 一般機械 土石 食料 紙パルプ
福岡県 輸送機械 食料 電気機械 鉄鋼 金属製品
佐賀県 食料 電気機械 金属製品 土石 飲料
長崎県 一般機械 電気機械 輸送機械 食料 土石
熊本県 電気機械 輸送機械 食料 金属製品 飲料
大分県 電気機械 鉄鋼 化学 石油 飲料
宮崎県 食料 電気機械 化学 飲料 木材
鹿児島県 食料 電気機械 飲料 土石 金属製品
沖縄県 食料 石油 土石 飲料 印刷
全国 電気機械 輸送機械 一般機械 食料 化学

(資料)工業統計表より作成。



図5 1993年製造品出荷額における
産業別構成比上位3業種
図6 1993年製造品出荷額における
産業別構成比第1位産業

図5 図6


(資料)工業統計表より作成。
(注)A 加工組立型のみ
加工組立型+素材関連型のみ
その他(加工組立含む、消費関連含まず)
その他(加工組立及び、消費関連含む) 
E  その他(加工組立含まず)

千葉、和歌山、徳島の3県は第5位に電気機械又は一般機械が入っているのに対し、北海道、沖縄は上位5産業にも加工組立型産業が含まれていない。また、千葉、和歌山については、上位5産業の内4産業までが素材関連型ないし加工組立型産業となっているのに対し、北海道、徳島、沖縄は同産業が1〜2産業のみとなっている。

 次に、第1位の産業に注目してみると(図6)、全国と同様に電気機械産業が第1位となっているのは22県あり、東北、関東、信越、近畿、山陰、四国、九州中部にその分布がみられる。また輸送機械は自動車、造船などの立地の多い東海、山陽地域に多い。一方、食料が第1位となっている県は、北海道、九州、沖縄などに多く分布している。
図7 93年度県内総支出に
占める公的需要の構成比
図8 93年度県内総支出に
おける移出入の状況

図7 図8



2. 需要構造

 これまでの成長パターンの変化を産業構造の転換から検討してきたが、次に需要構造について地域差及び特徴があるかどうかを検証してみる。

 各県の需要構造を93年度実質県内総支出の需要項目別構成比でみた場合、最も特徴的なことは公的需要への依存度と県際の移出入構造である。なお、民間部門の設備投資については、後ほど貸出資金の動きとあわせて分析したい。まず公的需要の構成比をみると、それを高い順に並べたものが図7である。最上位の沖縄県をはじめとして上位には四国、山陰、北海道、東北、九州での県が名を連ねている。一方、構成比の低い県は、3大都市を抱える愛知、東京、大阪の3県のほか、関東、東海での県が多く見受けられる。


 また、公的需要のうち、公共投資に当たる公的固定資本形成の構成比をみると、宮崎、高知、長野の3県が16%を超え、次いで沖縄、島根、北海道、鹿児島の4県が15%を超えている。特に長野の高さが目を引く。長野は90〜93年度の公的固定資本形成の年平均増加率が20%を超え、全国で最も高い増加率となっているが、これは冬季オリンピックを控え、その関連工事や高速交通網整備等の大型プロジェクトが推進されていることが要因と思われる。

 一方、移出入の構造をみると(図8)、移出超過県は、30%を超える移出超過となっている東京をはじめ、上位には北関東、東海、近畿など加工組立型産業の構成比の高い県が多い。一方、移入超過県には、逆に加工組立型産業の構成比の少ない県が多い。また、東京、大阪という大都市の隣接県では、奈良が30%を超える移入超過となっているほか千葉、埼玉、兵庫などが移入超過県に名を連ねている。これらは、大都市のベッドタウンに当たり、常住地と就業地が異なり、大都市の商圏に含まれていること等の理由による。すなわち、千葉、埼玉等の県民は常住地ではなく就業地である大都市で買い物を日常的に行なうからであろう。例えば、東京で行った買い物は、県際収支では他県からの移入扱いとなり、東京の大幅な移出超過もこの要因が影響していると思われる。

3. 人口の社会動態

01転入超過県と転出超過県
 産業構造や需要構造といったモノの動きに加えて、人の動きの状況も見てみよう。各県間の人口移動を住民票からみる場合、その県において転入者と転出者のいずれかが多いかは、地域の生産力の向上の基礎的要因であり、地域の魅力のバロメーターともいえる。ただ単純に転入(転出)超過数を比較することは、その県の人口規模の大小が転入(転出)数の大きさにも影響を与えるため、一般的には人口の多い県ほど、転入超過も転出超過も大きくなる。そこでこれを正規化するために、転入(転出)超過数を人口で除して、人口千人当たりの転入(転出)超過数をみることにする。これを示したものが図9である。本来85年、90年、95年といった年次を比較すべきであり、データも95年まで入手可能であった。しかし、95年のデータは、1月の阪神・淡路大震災の影響により、88年以降常に転入超過であった兵庫県が大幅な転出超過となる一方で、75年以降常に転出超過であった大阪府が転入超過になるなど、他の年との比較には適さない特殊なものとなり、それを94年のデータで代替することにした。


 85年の動きをみると、2人以上の転入超過となっているのは、東京と境を接する千葉、埼玉、山梨、神奈川の4県と茨城、滋賀、奈良であり、全て関東、近畿に属している、その他の転入超過県も関東、東海などの大都市周辺に多く集まっている。なお、宮城県は東北地域の中核都市である仙台を抱えるためか、他の東北各県からの転入が多い。



一方他の地域は転出超過となっており、特に北海道、東北、山陰、四国、九州などでは2人以上の転出超過となっている県が多い。90年での転入超過県は、福岡、宮城という地域の中核都市を抱える県以外は全て関東、東海、近畿に属する県となっており、地方部の県は軒並み転出超過になっている。しかし、94年になると東京、大阪に次いで愛知も転出超過になる一方で、信越、北陸、四国、九州などにも転入超過県が増え始め、転出超過県もその超過幅が小さくなっている。なお、日本全体の転出者数総計(転入者数でもあるが)は85年=312万人、90年=317万人、94年=302万人と若干の増減はあるものの、概ね300〜320万人で推移しており、転出超過幅の縮小が延べ人口移動数の減少からくるものとは考えにくい。

図9 各都道府県の人口移動状況(人口千人当たり転出入数)
85年 90年

図9 各都道府県の人口移動状況


94年
図9 各都道府県の人口移動状況(人口千人当たり転出入数)


(注)人口は各年3月31日現在。(資料)住民基本台帳人口移動報告年報より作成。

 なお、上述の震災の影響もあり参考程度にしかならないが、95年のデータでは北海道、徳島などが転入超過に転じている一方、神奈川、静岡などが転出超過となり、大都市部から地方部への人口移動が広がっている様が窺える。

02 就業者数の変化
 地域の生産力が上昇するためには、就業者数が増加することが必要である。そこで国勢調査による就業者数の増減をみてみる(図10)。



図10 各都道府県の就業者数変化率の推移
85年〜90年平均 90年〜95年平均

図10 各都道府県の就業者数変化率の推移


(注)増加率比較の評価基準は右記の通り。(資料)国勢調査報告より作成。
変化率比較の評価基準
大きく上回る 全国平均+0.5%以上
上回る 全国平均以上、全国平均+0.5%未満
下回る 全国平均−0.5%以上、全国平均未満
大きく下回る 全国平均−0.5%未満


85年〜90年の増加率が全国平均を上回る県は、先程の85年の転入超過県と東京、群馬、山梨、長野、三重の5県が異なっているが、他の11県は等しい。なお、図では示されていないが、青森、秋田、島根、山口、高知、鹿児島の6県では、就業者数が減少している。一方90年〜95年の増加率は、引き続き関東、東海、近畿に属する県が高い伸びを示しているが、北海道、北陸、山陽、九州北部にも全国平均を上回る県が現れている。その他の県についても、中国、四国、九州での各県は増加率が高まってきており、就業者数が減少している県は、秋田のみとなっている。

03 雇用需給の変化
 このような就業者数の変化をもたらした要因として就業機会の拡大が考えられる。そこで雇用の需給バランスを示す有効求人倍率の推移から、就業機会の変化をみていきたい。まず全国の有効求人倍率を100として指数化し、その水準を比べてみる(図11)。85年度では、北関東、北陸、東海等の各県が全国水準を大きく上回る一方で、北海道、東北、四国、九州地域では全国水準を下回る県が目立っている。90年度についてもほぼ同様の状況であるが、南東北と中国の水準が上昇していることが見て取れる。95年度には愛知や、南関東の水準が低下した反面、東北、四国の水準が上昇している。



このように全国の有効求人倍率の水準と比して徐々にではあるが、地方部の水準が上昇してきていることが窺えるが、次に各県の絶対水準の変化も調べてみよう。ただし全国的に、85年度から90年度にかけては水準が上昇し、90年度から95年度にかけては水準が低下している。したがってその上昇分と低下分を相殺した後プラスとなっているか、マイナスとなっているかをみるため、各県の85年度の水準を100として95年度の水準を指数化してみる(図12)。

 全国の水準は85年度=0.67倍、95年度=0.63倍となり、85年度を100とした95年度の指数は94と、若干低下している。
図11 各県の有効求人倍率の水準(全国平均を100として指数化)
85年度 90年度

図11 各県の有効求人倍率の水準


(資料)職業安定業務月報より作成 。

図12 各都道府県の85年度水準を100 としたときの95年度の水準

図12 各都道府県の85年度水準を100 としたときの95年度の水準


(資料)職業安定業務月報より作成。


図からは、水準125以上と大幅に求人倍率が改善しているのは北海道、東北、四国、九州の県に多く、85年度の水準が全国水準を下回っていた県の雇用機会が増えてきていることが窺える。一方、関東や東海の各県は全て100を下回り、これらの地域の雇用需給はバブル期以前の水準を下回って低下したことがわかる。

第3章…地方経済逆転現象の要因

 1. 産業別の成長寄与度
 90年代以降、地方経済の成長率が大都市部を上回る逆転現象が起こっていることは、第1章で述べた。また、その背景として考えられる経済の特性については第2章で述べたとおりであるが、そのうちのどの要因が逆転現象をもたらしたかを、本章で検証してみたい。

 まず、90年代の経済を牽引した(下支えした)産業が何であったのかを考えてみる。その
ために成長率に対する各産業の寄与度をみてみたい。ただし、県民経済計算では、産業別の成長率は名目値しかないため、名目成長率に対する寄与度をみることになる。全国の寄与度上位5産業及び各県の寄与度0.5%以上の産業を並べたものが表3である。全国の寄与度上位 T産業は、不動産業、サービス業、建設業、政府サービス生産者、運輸通信業でる。しかしこのうち不動産業は持ち家の帰属家賃が含まれているため、世帯数の増減等、実際の景気変動とは異なった要因に左右される面が小さくない。従って、他産業と同様に寄与度を考えることは適切でないと思われるので、ここでは除外することとする。2位と3位のサービス業、建設業は成長率上位の県においては確かに高い寄与度となっており、90年代の不況期の経済を下支えした産業であるといえる。このうち特に建設業については、寄与度が1%を超えている県が9つあるが、そのうち6県は、産業構成比上位3産業に建設業が含まれている。従って建設業の構成比が高い県は、その分成長率が押し上げられたということが言えよう(図13)。


図13 90〜93年度平均経済成長率(名目)に対する建設業の寄与度

図13 90〜93年度平均経済成長率(名目)に対する建設業の寄与度


(資料)県民経済計算年報より作成。


 一方、成長の阻害要因となった産業について同様に成長寄与度からみてみよう。成長寄与度がマイナスとなった産業をみたものが表4である。全国的にマイナスの寄与度になっているのは、製造業、金融保険業、農林水産業である。このうち農林水産業については、93年度が大規模な米不足を招いた冷夏であったことの影響によるもので、特殊要因と思われる。また寄与度自体もかなり小さいので、これもここでは除外することにする。金融保険業については、別途バブル崩壊の影響として言及したい。残る製造業について成長率の低い県において製造業はマイナス寄与となっているが、成長率の高い県ではプラス寄与の県が多く、佐賀、長崎などでは0.5%以上の大きなプラス寄与となっている。この各県の製造業の寄与度をみたものが図14である。

 90〜93年度平均の実質成長率を示した前掲図1の右図と見比べると、色の濃さが1〜2ランク薄くなっている感はあるが、かなり類似している。



表3 90〜93年度平均経済成長率に対する寄与度上位産業(寄与度0.5%以上)

成長率
(名目)
全国 不動産0.541 サービス0.429 建設0.334 政府0.274 運輸0.201 1.679
佐賀県 建設1.820 卸小売0.653 不動産0.620 サービス0.571 製造0.510 5.110
長崎県 製造1.139 卸小売0.962 不動産0.520 サービス0.520 3.971
和歌山県 製造1.104 不動産0.886 建設0.737 3.825
新潟県 建設1.104 サービス0.652 不動産0.563 卸小売0.514 3.771
高知県 建設1.112 サービス0.543 政府0.541 3.585
京都府 不動産1.440 卸小売0.737 建設0.535 3.465
沖縄県 サービス0.803 建設0.702 卸小売0.617 政府0.535 3.405
北海道 サービス1.107 建設0.954 不動産0.572 3.371
岩手県 建設1.217 製造0.566 サービス0.572 3.256
福岡県 サービス0.797 卸小売0.782 不動産0.514 3.229
大分県 建設0.797 製造0.581 3.040
宮城県 卸小売1.009 サービス0.710 不動産0.598 3.023
秋田県 建設0.819 2.893
青森県 建設1.478 サービス0.590 政府0.516 2.745
鹿児島県 サービス0.825 2.698
福島県 建設0.825 不動産0.526 2.681
愛媛県 建設1.244 2.648
山口県 製造0.900 2.647
埼玉県 不動産1.227 2.619
島根県 建設1.052 政府0.557 2.462
千葉県 不動産1.074 サービス0.755 2.460
福井県 電気ガス0.899 2.448
宮崎県 建設1.173 サービス0.534 2.437


成長率
(名目)
香川県 サービス0.632 不動産0.521 2.392
岐阜県 不動産0.827 建設0.795 サービス0.671 2.338
兵庫県 不動産0.666 2.293
石川県 不動産0.560 サービス0.559 2.267
徳島県 建設0.680 不動産0.574 政府0.533 2.218
滋賀県 建設0.558 2.215
群馬県 不動産0.554 2.084
山形県 不動産0.507 2.033
奈良県 不動産1.688 1.983
熊本県 不動産0.628 1.970
鳥取県 不動産0.595 建設0.574 1.957
長野県 不動産0.739 建設0.711 1.945
岡山県 1.757
三重県 1.651
富山県 1.510
広島県 建設0.745 1.340
茨城県 1.192
静岡県 不動産0.683 1.158
栃木県 不動産0.665 1.074
大阪府 不動産0.680 1.011
山梨県 不動産0.823 建設0.603 0.882
愛知県 不動産0.658 0.723
神奈川県 不動産0.983 サービス0.592 0.713
東京都 0.102

(資料)県民経済計算年報より作成。



表4 90〜93年度平均経済成長率に対するマイナス寄与度産業

成長率
(名目)
全国 製造-0.368 金融-0.275 農林水-0.096 1.679
佐賀県 農林水-0.208 鉱業-0.017 5.110
長崎県 農林水-0.379 金融-0.017 3.971
和歌山県 金融-0.186 鉱業-0.049 農林水-0.022 3.825
新潟県 農林水-0.186 金融-0.030 3.771
高知県 金融-0.212 鉱業-0.020 農林水-0.018 3.585
京都府 製造-0.343 金融-0.270 農林水-0.003 3.465
沖縄県 農林水-0.110 3.405
北海道 農林水-0.369 金融-0.031 鉱業-0.020 3.371
岩手県 農林水-0.770 金融-0.068 3.256
福岡県 金融-0.213 農林水-0.037 鉱業-0.030 3.229
大分県 金融-0.102 農林水-0.101 3.040
宮城県 農林水-0.655 電気ガス-0.122 金融-0.080 鉱業-0.023 3.023
秋田県 農林水-0.358 鉱業-0.071 2.893
青森県 農林水-0.736 金融-0.054 鉱業-0.002 2.745
鹿児島県 農林水-0.418 金融-0.276 電気ガス-0.054 鉱業-0.000 2.698
福島県 農林水-0.194 金融-0.020 2.681
愛媛県 農林水-0.194 金融-0.157 卸小売-0.127 鉱業-0.005 2.648
山口県 農林水-0.195 金融-0.076 2.647
埼玉県 製造-0.333 金融-0.081 鉱業-0.002 2.619
島根県 農林水-0.293 電気ガス-0.130 製造-0.093 金融-0.075 2.462
千葉県 製造-0.215 金融-0.085 農林水-0.062 2.460
福井県 農林水-0.110 金融-0.067 卸小売-0.054 製造-0.028 2.448
宮崎県 農林水-0.470 金融-0.181 2.437


成長率
(名目)
香川県 金融-0.117 農林水-0.040 鉱業-0.018 2.392
岐阜県 製造-0.587 金融-0.156 農林水-0.091 卸小売-0.043 鉱業-0.028 2.338
兵庫県 金融-0.186 製造-0.169 農林水-0.021 鉱業-0.002 2.293
石川県 製造-0.182 金融-0.091 農林水-0.088 鉱業-0.009 2.267
徳島県 製造-0.193 金融-0.152 農林水-0.023 2.218
滋賀県 農林水-0.069 金融-0.038 鉱業-0.016 2.215
群馬県 製造-0.269 金融-0.133 農林水-0.075 2.084
山形県 製造-0.241 農林水-0.165 金融-0.036 2.033
奈良県 製造-0.513 建設-0.452 農林水-0.059 1.983
熊本県 農林水-0.434 金融-0.130 卸小売-0.092 1.970
鳥取県 農林水-0.290 卸小売-0.176 鉱業-0.036 1.957
長野県 製造-0.700 農林水-0.198 鉱業-0.001 1.945
岡山県 金融-0.188 農林水-0.042 1.757
三重県 金融-0.110 製造-0.043 農林水-0.010 1.651
富山県 金融-0.243 製造-0.213 農林水-0.064 1.510
広島県 製造-0.731 金融-0.092 農林水-0.038 鉱業-0.004 1.340
茨城県 製造-0.677 農林水-0.167 鉱業-0.011 1.192
静岡県 製造-0.681 建設-0.218 金融-0.088 1.158
栃木県 製造-0.282 卸小売-0.193 農林水-0.053 金融-0.016 鉱業-0.012 1.074
大阪府 製造-0.852 金融-0.581 農林水-0.003 鉱業-0.000 1.011
山梨県 製造-1.229 金融-0.144 農林水-0.110 卸小売-0.055 鉱業-0.006 0.882
愛知県 製造-1.473 金融-0.128 0.723
神奈川県 製造-1.654 卸小売-0.221 金融-0.096 農林水-0.019 鉱業-0.002 0.713
東京都 金融-0.824 製造-0.247 不動産-0.038 サービス-0.010 農林水-0.009 0.102

(資料)県民経済計算年報より作成。



これは各県の成長率を左右した要因の一つに、製造業の増加率があることを意味していると思われる。

 それでは、製造業の増加率はどのような要因によって決定されたかを考えてみる。まず産業構成の共通点を探ってみよう。製造業が増加した県の産業別構成比上位3産業のパターンをみると、Aパターン〜Eパターンまで全てのパターンがそろっており、


構成比第1位産業も電気機械、輸送機械、一般機械、食料、化学と多岐にわたっており、明確な共通点はつかめない。従って、特定の業種の立地が製造業の増加率に影響を与えたわけではないと思われる。

 次に各県の工場数、特に雇用、出荷額に大きな影響を与えると思われる加工組立型産業の工場数の変化をみてみる。90年〜93年までの工場数の増減を示したものが図15である。おおむね北海道、東北太平洋岸、山陽、四国、九州での各県が増加している。図14と比較して増加減少が異なっている県は、秋田、福島、新潟、鳥取、愛媛、沖縄(以上製造業増加、工場数減少)、広島(製造業減少、工場数増加)の7県のみであり、製造業の増加に加工組立型産業の工場数が影響を与えたのではないかと思われる。また、第2章3で述べた人口社会動態の変化も、このような工場数の増加に伴う雇用機会の増加があったことが、転入超過県への転換や、有効求人倍率の水準上昇につながっているのであろう。

図14 90〜93年度平均経済成長率
(名目)に対する製造業の寄与度
図15 加工組立型産業の
工場数の増減 (90年〜93年)

図14 図15


(資料)県民経済計算年報より作成。 (資料)工業統計表より作成。

2. バブル崩壊の影響
 次に、90年代の不況を引き起こしたバブル崩壊が成長率にどのような影響を与えたかを考えてみる。バブル崩壊の影響を最も受けた産業は不動産業と金融保険業であろうが、このうち不動産業は前述した持ち家の帰属家賃の理由により、不動産開発等の動きだけでなく、世帯数の動きなどをあらわす部分も多く、経済成長率に対する寄与度からは、バブル崩壊の影響は見て取れない。よってその代替案として、各県の地価の動向をみることにする。 まず、住宅地の平均地価の推移をみる。85年〜90年にかけての年平均地価上昇率をみると(図16)、10%以上の上昇を記録した県は、東京、愛知、京阪神とその周辺と、全て3大都市圏の県である。一方で、90年〜95年までの年平均値価上昇率をみると、


図16 各県の住宅地平均地価上昇率の推移
85年〜90年平均 90年〜95年平均

図16 図17

図17 各都道府県の最高値の年

(注)各年1月1日現在(資料)地価公示より作成。


85〜90年にかけて10%以上の上昇を記録した県が全てマイナスに転じ、その他の県は依然として90年の水準を上回っている。このことから類推すると、3大都市圏以外の地域ではバブル崩壊の影響はかなり小さかったのではないかと思われる。また、各県の地価が最高値をつけた年を比較してみると(図17)、前述の3大都市圏の県は全て91年以前に最高値をつけておりその他の県でも、政令指定市を持つ北海道、宮城、広島などは91年に最高値となっている。他方その他の県では3大都市圏から離れるほど最高値の年は遅れる傾向にあり、22県では95年現在でも地価の上昇は続いている。

 次に商業地の地価についてもみてみよう。図16と同様に、85年〜90年と90年〜95年の商業地最高地価の平均上昇率を図にしたものが図18である。85年〜90年の平均上昇率では、住宅地と同様に、3大都市圏周辺の地価の上昇率が高く、特に政令指定都市を抱える県の上昇が著しく、30%以上の上昇率を記録している県は、長野を除き全て政令指定都市の所在地である。逆に90年〜95年については、3大都市圏周辺と政令指定都市を抱える県の下落率が5%を超えているが、東北、北陸、四国などに属する県の多くは地価水準が90年を依然として上回っている。


図18 各県の商業地最高地点地価上昇率の推移
85年〜90年平均 90年〜95年平均

図18 図19

図19 90〜93年度平均経済成長率(名目)に対する金融保険業の寄与度

(注)各年1月1日現在(資料)地価公示より作成。

(資料)県民経済計算年報より作成。


なお、商業地については住宅地とは異なり、おおむね91年〜94年に最高値をつけ、95年現在では全ての県で地価が下落している状況である。

 これらから、3大都市圏周辺の地域はその他の地域に比して、バブル崩壊後の地価下落が大きいことが確認できた。この背景として、地価の下落は土地の流動性が失われていることを意味し、不動産取り引きが停滞している結果と思われる。従ってその要因から、持ち家の帰属家賃を含まない経済活動としての不動産業の成長率も、3大都市圏周辺は他の地域より押さえられていることが予想される。


 バブル崩壊の影響を受けたもう一つの産業である金融保険業については、前掲表7で示されているように全国平均で成長率に対する寄与度がマイナスになっており、県別にみても40県でマイナスの寄与となっている。その中で特に大きなマイナスとなっているのは東京と大阪であり、ともに0.5%以上のマイナス寄与となっている(図19)。このように金融保険業については全国的にマイナス成長となっている中、構成比の大きい東京、大阪にその影響が最も強く出ている。なお90年度〜93年度の平均成長率そのものも、金融保険業の全国平均−3.5%に対し、大阪−6.3%(47県中47位)、


東京−5.2%(同46位)とともに、全国を上回るマイナス成長となっている。また、金融保険業については、前述の地価下落に伴う不良債権問題がその成長を圧迫していることも見逃せない

3. 公的需要の寄与

 生産面からだけでなく、需要面からも成長を支えた主体を考えると、1で述べた建設業の成長寄与と関連して、公共投資などを中心とする公的需要の成長寄与が逆転現象の要因ではないかと推測される。第2章で述べたように公的需要の構成比は大都市圏の県より地方圏の県が高い。また景気後退期の中で、92年度〜93年度にかけて四度にわたり経済対策が打ち出されているなど、全国的に公的需要が景気を下支えしていたのは事実である。そこで生産面での成長率寄与度と同様に需要面の成長率寄与度を求め、うち公的需要の寄与がどの程度であったかをみてみる。生産面と異なり、需要面についてはその構成項目別に実質経済成長率がわかるので、実質成長率に対する寄与度を求めることにする。(図20)

 85年度〜90年度の公的需要の寄与度をみると、大都市圏と地方圏とではそれほど地域差がみられない。東北、四国、九州などに寄与度が全国平均を上回っている県が多く、かつ首都圏の県でも同様に上回っており、逆に公的需要の大きい北海道や沖縄などで全国平均を下回るなど、大都市と地方でどちらが寄与度が大きいかは一概に言えない。
図20 実質経済成長率に対する公的需要の寄与度
85年度〜90年度平均 90年度〜93年度平均

図20 実質経済成長率に対する公的需要の寄与度

変化率比較の評価基準
大きく上回る 全国平均+0.3%以上
上回る 全国平均以上、全国平均+0.3%未満
下回る 全国平均−0.3%以上、全国平均未満
大きく下回る 全国平均−0.3%未満

(注)寄与度比較の評価基準は右記の通り。(資料)国勢調査報告より作成。


しかし、90年度〜93年度の寄与度をみると、全国平均を下回っているのは、3大都市周辺のほかは、山形、長崎など数県にとどまり、おおむね地方の県では全国平均を上回っている。なお、3大都市の一つである大阪は、東京、愛知と異なり、90年度〜93年度も全国平均を上回る寄与となっている。これは94年9月に開港した関西国際空港の工事などの大型プロジェクトを抱えていたためと思われる。

 公共投資の是非は、議論のわかれるところであるが、少なくともこの期間においては地方経済の下支え効果としての役割を果たしていたことが窺える。つまり、公共投資の結果、産業基盤をはじめとするインフラが整備され、新規事業所の開業を促すことにつながり、地方経済の活力の増加をもたらすからである。

おわりに

  都市部経済と地方経済をの成長パターンを県別に分析してみた場合でも、管内別の分析と同様にそのパターンが逆転していることが第1章から窺える。またその逆転を生み出した要因としては、第3章で述べた三つが指摘できる。特に、第一の要因である工場数の増加による製造業の成長は、他の二つとは異なり、地域での経済成長を直接高めると考えられる。つまり、都市部経済の低迷に伴う地方経済の相対的な地位向上といった形ではなく、民需主導による生産力の拡大や経済成長につながるからである。ただし、工場数の増加が、中央からの大企業の進出によるものか、地元産業の振興であるかは、この分析からでは不明である。そこでこの点をより詳しくみるため、地域の中小企業の成長に関して、
図21 各県の設備資金貸出残高の平均増加率(90年度〜95年度)
大企業 中小企業

図21 各県の設備資金貸出残高の平均増加率

(注)年度末現在(資料)都道府県別業種別全国銀行貸出残高調査より作成。


各県金融機関の貸出残高のうち、設備資金の貸出残高の規模別変化率をみてみる。(図21)

 90年代に入ってからの貸出残高は、大企業については、大規模工場の建設等の理由による変動もあり、地方において大幅に増加している県もあるが、逆に減少している県も多く、増加県26県に対し減少県21県とほぼ半々となっている。また地域性もかなり斑模様となっており、これをもって地方の生産力が大都市に比して拡大しているとは結論できない。一方、中小企業の増加率は大幅増加の県こそ少ないものの、おおむね地方の県では増加している反面、東京や愛知の周辺では、減少している県が目立ち、地方においての中小企業の設備投資が盛り上がっていることを示している。これからの地方経済は大企業の誘致よりも、これら地域に根ざした中小企業、特にベンチャービジネスの発展を模索する必要があると思われる。前述の公的部門の関与も地元の起業家に対する支援や、そのためのインフラの整備が、地方の発展により有効な投資となりうるであろう。

[参考文献]

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新山毅著、            「図説北海道経済」北海道新聞社、1994年

板倉勝高、井出策夫、竹内淳彦著、 「日本経済地理読本」、東洋経済新報社、1991年

蛯名保彦著、          「地域経済の空洞化と東アジア」、日本評論社、1996年

経済企画庁編、        「地域経済動向」、各号

経済企画庁編、        「地域経済レポート」、大蔵省印刷局、1995年

辻正次、西脇隆著、     「ネットワーク未来」、日本評論社、1996年

東洋経済編、          「地域経済総覧’97」、東洋経済新報社

東洋経済編、          「都市データパック1996年版」東洋経済新報社、1996年

日経産業消費研究所編、「日経地域情報」、日経産業消費研究所、各号

日本銀行編、          「金融経済概況」、日本銀行各支店、各号

溝口敏行著、          「経済統計論」、東洋経済新報社、1985年

矢野恒太記念会編、    「データで見る県勢1996年版」、国勢社、1995年


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