郵政研究所月報 
1998.3

調査・研究



家計の金融資産選択行動の実態
−「第5回 家計における金融資産選択に関する調査」結果より−





第二経営経済研究部主任研究官  牧 寛久



[要約]
 郵政研究所では平成8年11月に「家計における金融資産選択に関する調査」を実施した。この調査は全国の世帯主年齢20歳以上の世帯(単身世帯を含む)から無作為抽出した6千世帯を対象としたアンケート調査である。本稿では、貯蓄保有状況、貯蓄目的・貯蓄目標額、住居の状況(持ち家率)、借入金保有状況、老後の生活、遺産・相続の各項目について主な調査結果を取り上げたが、そこから得られる示唆は次の通りである。
1.マイホームの取得は、貯蓄保有目的としても借入金保有目的としても重要な位置を占めている。とくに住宅ローン残高の借入金残高に占める割合は大きく、住宅ローン保有世帯においては借入金保有額が金融資産保有額や世帯の年収を大きく上回っている。マイホームの取得が家計の貯蓄行動に与える影響は極めて大きいと考えられる。
2.実際に寝たきりの両親のいる世帯では肉親が介護しているために費用が顕在化しないケースも多いと思われる一方、介護保険が導入されても将来介護を必要とする状態が発生した場合の費用の一部しか賄えないと予想し、主要な目的の一つとして介護に備えた貯蓄を進める世帯も多い。介護の発生は不確実要素としてとくに高齢者世帯の貯蓄行動に影響を与えると考えられる。
3.金融資産に比べて、居住用不動産(持ち家)は遺産・相続の主要な対象として意識され、かつ現実に相続されている。逆に非持ち家世帯は「遺産を残す必要は無い」と考える傾向が強い。これらから、持ち家の相続・贈与の動向は、資産格差を生じさせるとともに、家計の貯蓄行動にも大きな影響を与えると考えられる。

はじめに

 郵政研究所では平成8年11月に「家計における金融資産選択に関する調査」を実施した。この調査は、昭和63年以来2年毎に実施しており、今回が5回目となる。本調査の目的は、金融自由化の進展、家族のあり方の変容、人口構成の高齢化など金融・経済・社会環境が変化する状況下における金融資産選択を中心とする家計行動の実態を、意識と現状の両面から明らかにすることにある。
 本調査は全国の世帯主年齢20歳以上の世帯(単身世帯を含む)から無作為抽出した6千世帯を対象として、
(1) 金融資産選択・保有に関する意識と現状
(2) 実物資産の保有状況
(3) マイホーム取得に関する意識と現状
(4) 借入金の保有状況
(5) 老後の生活に関する意識と現状
(6) 遺産・相続に関する意識と現状
 などについてアンケート形式で尋ねるものである(調査の概要は本稿の末尾を参照)。
 調査項目は多岐にわたるので、本稿では項目を絞って調査結果の概要について紹介する。
 なお、本調査では、世帯を「同居して生計をともにしている集まり」と定義している。
 また、本調査は世帯主を主な対象としている。総じて世帯主の高齢者は、非世帯主の高齢者よりも経済的に豊かであることが多く、かつ就業している割合も高いので、本調査の結果を解釈する際にはこのことを念頭に置く必要がある。


1 金融資産保有状況

 金融資産保有額は平均1,364万円であり、世帯主年齢が高くなるほど金融資産保有額が高くなる傾向が見られる。世帯主年齢が70歳以上の世帯の金融資産保有額は2,254万円であり、30歳未満の世帯の金融資産保有額(251万円)の約9倍、30歳代の世帯の金融資産保有額(621万円)と比べても3倍以上となっている。[図表1]


図表1 金融資産現在高(世帯主年齢別)
単位:%


 70歳以上を60歳代と比べると1,000万円未満の世帯の割合が増加する一方、1,000万円以上の世帯の割合が減少している。平均保有額が2,000万円を超えていることとあわせて考えると、70歳以上世帯の一部において貯蓄取り崩しが進んでいることが伺われる。
 金融資産保有額を金額階層別に見てみると、金額の小さい階層に分布が偏っていることがわかる。このため、金融資産現在高の中央値は774万円であった。[図表2]


図表2 金融資産現在高の金額階層別分布


 今回の調査では、初めて、同居して生計をともにしている世帯主・配偶者の両親が保有する金融資産の現状を尋ねた。この結果によれば、同居して生計をともにしている親の金融資産の平均現在高は1,250万円であり、これを含む世帯全体の現在高2,920万円は平均に比べて2倍以上となっている。
 同様に、同居して生計をともにし、かつ自分で収入を得ている世帯主・配偶者の子についても、その保有する金融資産の現状を尋ねている。この結果によれば、そのような子のいる世帯の金融資産の現在高は1,949万円であり、やはり全世帯の平均よりも高くなっている。[図表3]

図表3 親(子)と同居している世帯の金融資産現在高とその内訳
全体 親と同居
している世帯
子と同居
している世帯
世帯全体 1,364 2,920 1,949
世帯主の分 1,670 1,357
親の分 1,250
子の分 592
(N) (3,695) (146)
(207)
単位:万円

注)表の「親(子)と同居している世帯」とは、次の条件を満たすサンプルのみを言う。
●同居して生計をともにしている世帯主・配偶者の両親(子供やその配偶者)が持っている金融資産が、世帯の金融資産残高に含まれると回答している。
●同居して生計をともにしている世帯主・配偶者の両親(子供やその配偶者)が持っている金融資産の現在高を記入している。



2 目的別貯蓄保有状況

 貯蓄保有割合(複数回答)の高い貯蓄目的は、「老後の生活に備えるため」、「特に目的はないが貯蓄をしていれば安心だから」、「病気、災害、その他不時の出費に備えるため」の順に高い。[図表4]

図表4 目的別の貯蓄保有割合(世帯主年齢別)
貯蓄目的 全体 20歳代 30歳代 40歳代 50歳代 60歳代 70歳以上
老後の生活に備えて 45.6 13.3 27.0 38.9 56.3 64.4 58.9
目的無いが安心だから 44.4 53.9 57.9 48.6 44.4 32.0 27.7
不時の出費に 37.2 22.9 33.8 39.4 41.6 38.5 36.9
子供の教育費に 28.3 21.8 50.8 51.7 17.2 5.3 5.7
子供の結婚資金に 13.5 2.2 6.5 15.3 25.8 10.8 6.1
レジャー資金に 10.8 17.0 17.0 10.1 9.2 7.8 6.1
要介護時の出費に 10.5 2.2 5.0 8.6 12.6 16.2 16.6
マイホームの取得に 9.7 13.7 20.0 10.1 8.5 3.9 2.2
耐久消費財の購入に 6.0 4.4 8.7 6.8 6.1 3.7 4.8
マイホームの増改築に 4.8 0.7 3.8 6.6 6.0 4.8 2.5
遺産に 2.2 0.4 1.6 1.1 1.4 4.0 5.7
自分の結婚資金に 1.7 7.4 2.1 0.8 1.6 0.8 0.6
その他 12.3 13.7 15.1 12.4 12.7 12.0 5.7
なし 9.0 18.5 9.5 7.1 8.0 7.5 11.1
不明 6.7 3.0 3.2 7.4 7.4 7.8 9.2
(N) (3,695) (271) (634) (893) (836) (722) (314)

単位:%

注)複数回答


 「老後の生活に備えるため」を挙げる世帯割合はおおむね年齢が高くなるほど高まる傾向を示す一方で、「特に目的はないが貯蓄をしていれば安心だから」を挙げる世帯の割合がおおむね年齢が高くなるほど低くなる傾向にある。「病気、災害、その他不時の出費に備えるため」を挙げる世帯の割合には年齢による大きな差がない。また、「マイホームの取得」、「レジャー資金に」は20歳代〜30歳代で、「子供の教育費に」は30歳代〜40歳代で、「子供の結婚資金に」は50歳代で、「寝たきり等要介護状態になったときの出費に備えて」は70歳以上でそれぞれ最も高くなっている。これらの結果は、ライフサイクルに応じて貯蓄目的が変化していることを示していると言える。[図表5]

図表5 主要目的別貯蓄保有割合の年齢別推移


 目的別の平均貯蓄保有額および平均貯蓄目標額は、どちらも「老後の生活に備えるため」がもっとも多く、次いで「マイホームの取得のため」が多い。[図表6]

図表6 目的別平均貯蓄保有額、目標額、目標達成予定年
貯蓄目的 平均貯蓄保有額
(万円)
[A]
平均貯蓄保有額
(万円)
[B]
平均達成予定年
(年後)
[C]
毎年の貯蓄必要額
(万円)
[D=(B-A)/C]
(N)
老後の生活に備えて 855.4 1,729.4 14.4 60.7 (1,684)
マイホームの取得に 610.7 1,409.5 9.6 83.2 (360)
要介護時の出費に 503.0 692.4 14.6 13.0 (389)
目的無いが安心だから 447.5 836.7 10.3 37.8 (1,641)
不時の出費に 389.5 769.6 11.8 32.2 (1,375)
マイホームの増改築に 349.2 636.7 10.1 28.5 (178)
子供の結婚資金に 289.1 424.5 10.7 12.7 (500)
子供の教育費に 193.5 425.9 8.6 27.0 (1,047)
耐久消費財の購入に 123.0 211.9 5.9 15.1 (221)
レジャー資金に 82.5 129.9 4.9 9.7 (399)


 平均貯蓄目標額と平均貯蓄保有額の差を平均達成予定年で割って得られる毎年の貯蓄必要額も、老後の生活のための貯蓄とマイホーム取得のための貯蓄で大きな値を示している。
 先述した目的別貯蓄保有割合の世帯主年齢別の傾向とあわせて考えると、青壮年層ではマイホーム取得を目的とする貯蓄が大きな比重を占めており、中高年層では老後の生活や病気・災害等への備えを目的とする貯蓄が大きな比重を占めていることを示していると言える。

3 住居の状況(持ち家率)

 持ち家(一戸建て、借地一戸建て、マンション)に住んでいると答えた世帯の割合は66.9%であった。世帯主年齢が高くなるほどこの割合は高くなり、60歳代で87.7%、70歳以上で88.2%に達する。都市規模別にみると、都市規模が小さくなるほどこの割合が高くなる傾向があり、東京都区部では52.6%であるのに対して郡部では87.1%である。[図表7、8]

図表7 住居所有状況(世帯主年齢別)
単位:%

図表8 住居所有状況(都市規模別)
単位:%


持ち家の取得方法については、「自身で購入した」とする世帯の割合が66.3%、「相続または譲渡を受けた」とする世帯の割合は27.1%であった。「相続又は譲渡を受けた」とした世帯の割合を世帯主の職業別で見ると、サラリーマン世帯では22.2%、個人経営・自営業世帯で30.4%であるのに対して、農林漁業世帯では58.3%となっており、大きな開きが見られる。[図表9]

図表9 持ち家の取得方法(世帯主職業別)
自身で購入 相続または譲渡 (N)
全体 66.3 27.1 (2,473)
一般従業者(サラリーマン) 70.9 22.2 (1,278)
個人経営主・自営業者 62.6 30.4 (497)
農林漁業従事者 28.3 58.3 (120)
単位:%


4 借入金の保有状況

 借入金の有無についてみると、「有り」とする世帯が33.7%、「無し」とする世帯が59.4%で、3世帯に1世帯の割合で借入金を保有していることがわかる。世帯主の年齢別にみると、40歳代で半数近い45.4%ともっとも高くなり、70歳以上では10.5%まで低下する。[図表10]

図表10 借入金の有無(世帯主年齢別)
単位:%


 借入金の保有残高については、その平均金額は1,069万円であった。[図表11]

図表11 借入金残高
単位:%


 借入金の目的別保有状況で、保有割合、保有金額ともにもっとも大きいのは「マイホームの取得のため」であった。そこで、金融資産残高、借入金残高、マイホーム取得のための借入金残高、世帯年収を世帯主年齢別に比較してみる。[図表12]

図表12金融資産残高、借入金残高、世帯年収の比較
(世帯主年齢別)


 その結果、借入金残高の大きな部分がマイホーム取得のためのものであること、借入金残高は40歳代をピークに減少していくこと、どの年齢層とも年収が借入金残高を上回っていること、などがわかる。
 借入金残高の大きな部分がマイホーム取得のためのものであることから、住宅ローンを保有している世帯に限って、金融資産残高、借入金残高、マイホーム取得のための借入金残高、世帯年収を世帯主年齢別に比較してみる。[図表13]

図表13 金融資産残高、借入金残高、世帯年収の比較
(世帯主年齢、住宅ローン保有世帯のみ)

 その結果、借入金残高のほとんどがマイホーム取得のためのもので占められていること、50歳未満の年齢階層において借入金残高が金融資産残高を上回っていること、などがわかる。特に20歳代では借入金残高が金融資産残高の7倍程度の規模となっている。


 また、金融資産残高、借入金残高と持ち家(居住している土地・建物)の時価評価額を、調査対象世帯全体と住宅ローンを保有している世帯について比較してみると次のようなことがわかる。住宅ローン保有世帯は調査対象世帯全体に比べて、金融資産残高は小さく、持ち家の時価評価額は大きい。また世帯年収は若干大きいが、借入金残高はその1.6倍あまりの規模で、持ち家時価評価額の4割あまりとなっている。
 これらのことから、住宅ローンを保有しているのは比較的所得の高い世帯であり、金融資産の形成を犠牲にして実物資産の蓄積を進めているが、その半分近くは借入金によってまかなわれており、実物資産の獲得が家計の金融資産蓄積行動および借入行動に極めて大きな影響を与えている状況が伺われる。[図表14]

図表14 金融資産残高、借入金残高、世帯年収、持ち家現在価値の比較


5 老後の生活

 老後の生活については、公的年金をまだ受給していない世帯(以下、老前世帯とする)からは抱いているイメージや予定を、公的年金を既に受給している世帯(以下、老後世帯とする)からは現状と意識を調査している。
 生活費をまかなう収入源について尋ねたところ、老前世帯、老後世帯とも公的年金、貯蓄の取り崩し、賃金、生命保険・個人年金、退職一時金等を挙げている。しかしそれらを挙げる世帯の割合は老前世帯と老後世帯とでは大きく異なっている。賃金については40.2%から28.8%へ、貯蓄取り崩しについては45.2%から16.6%へ減少しており、特に保険・個人年金については38.3%から6.9%へ減少している。[図表15]

図表15 老後(引退後)の生活費をまかなう収入源
老前世帯 老後世帯
公的年金・恩給 79.1 85.9
貯蓄の取り崩し 45.2 16.6
土地・家屋などの実物資産の換金 2.9 0.9
保険、個人年金 38.3 6.9
退職一時金・企業年金 30.7 6.4
仕事に就き働いて得る収入(賃金) 40.2 28.8
事業収益 5.9 11.4
利子・配当所得、不動産収入 4.6 10.7
子供等からの援助 4.3 8.6
国や市町村などからの援助 4.3 0.7
その他 0.8 2.4
不明 1.2 3.8
(N) (2,345)
(861)
単位:%

注)複数回答。 老前世帯とは公的年金未受給世帯のこと。老後世帯とは公的年金既受給世帯のこと。


 公的年金についての意識をたずねたところ、老前世帯は82.0%が「公的年金のみでは生活を賄えない」としているのに対し、老後世帯ではその割合は61.6%に減少している。また生活費を公的年金でまかなう程度についても、老前世帯では平均47.8%と回答しているのに対して老後世帯では平均63.1%と回答している[図表16]

図表16 公的年金に対する考え方
老前世帯 老後世帯
公的年金で賄える 8.8 33.7
公的年金で賄えない 82.0 61.6
公的年金で賄える割合 47.8 63.1
(N) (2,345)
(861)
単位:%

注)複数回答。老前世帯とは公的年金未受給世帯のこと。老後世帯とは公的年金既受給世帯のこと。


 このように、公的年金からの収入を中心に生活費をまかなっている老後世帯の生活の実態と、多様な収入源によって老後の生活費をまかなおうとする老前世帯の考え方の間には顕著な差が見られる。


6 介護についての意識と現状

 介護については、要介護者発生時の介護の方法やその費用、公的介護保険との関係についての意識を調査しているほか、寝たきりの両親がいると回答した世帯についてはその方法や費用の現状についても尋ねている。これらは今回初めて調査されたものである。
 世帯主又はその配偶者が他人の介護を必要とする状態になったときに、誰に(どこで)面倒をみてもらおうと思っているか(予想)を尋ねたところ、「本人の配偶者」を挙げた世帯の割合が44.1%でもっとも高く、それら肉親を挙げた世帯の割合を合計すると57.3%にのぼり、病院を挙げた世帯は7.3%にすぎなかった。一方、寝たきりの両親がいる世帯に主に誰が介護しているか(現状)を尋ねたところ、「病院」を挙げた世帯の割合が28.7%でもっとも高く、肉親を挙げた世帯は合計49.5%であった。これらは、予定も現実も肉親による介護が主体となっているが、肉親による介護を希望しても実際には病院を利用せざるを得ない場合も少なくないことを示している。[図表17、18]

図表17 主に介護してもらおうと思う人
単位:%


図表18 寝たきりの親を主に介護している人
単位:%



 介護費用については、他人に介護してもらう場合、一人一月いくら位の費用がかかると思うかを尋ねたところ、平均値は21.4万円であった。一方、寝たきりの両親がいると回答した世帯に、その両親の介護のために負担している費用を尋ねたところ、月額平均3.7万円(33.9%は0万円)であった。これは、介護の担い手を肉親に頼っていて費用が顕在化していないケースが多いことを示すと考えられる。[図表19]

図表19 寝たきりの親の介護のために負担している費用 (1ヶ月)


 なお、介護費用のうち、公的介護保険でまかなわれると期待する割合を尋ねたところ、平均56.8%との回答を得たが、「わからない」とした世帯の割合も37.2%にのぼった。公的介護保険の導入時期、内容が明らかでなかったために、同制度への期待と不安が反映された結果と考えられる。[図表20]

図表20 公的介護保険でカバーされると期待する程度

単位:%



7 遺産・相続

 遺産を残すことに対する考え(遺産動機)を見ると、遺産を「積極的に残すつもりはないが、余った場合には残す」と考える世帯は全体の46.1%、「残す必要はない」と考える世帯は全体の23.5%で、7割の世帯が遺産を残すことに消極的である。[図表21]

図表21 遺産に対する考え方(世帯主年齢別)
単位:%


 世帯主年齢別に見ると、「面倒を見たら残す」とする世帯の割合が年齢と共に高くなっている。
 さらに住居形態(持家か否か)別に見てみると、それらの遺産動機に与える影響が大きいことがわかる。遺産を「いかなる場合においても残す」とする世帯の割合は、持ち家世帯で20.2%に対して非持ち家世帯で7.1%。遺産を「残す必要はない」とする世帯の割合は、持ち家世帯で16.7%に対して非持ち家世帯で45.6%であった。世帯主年齢別では、特に非持ち家世帯の「残す必要はない」とする世帯の割合が、世帯主年齢の上昇とともに急激に増加していることがわかる。[図表22]

図表22 遺産に対する考え方(世帯主年齢別、持家借家別)

単位:%


 子供に残したい資産の種類を見ると、持ち家率の高い高年齢層ほど住宅・土地を残したいと考える世帯の割合が高くなり、逆に金融資産を残したいと考える世帯の割合が低くなる傾向がある。一方、既に相続・贈与を経験した世帯が取得した資産の内訳(複数回答)を見ると「居住用の土地・建物」を挙げる世帯の割合が77.1%で最も高い。これらのことから、居住用不動産(持ち家)が遺産相続の主要な対象として意識され、かつ現実に相続されていることがわかる。[図表23、24]

図表23 子どもに残したい資産の種類(世帯主年齢別)
単位:%


図表24 受け取った遺産の種類(世帯主年齢別)
単位:%


 更に、相続・贈与によって実際に取得された「居住用土地・建物」の資産価値(評価額)は平均2,592万円であり、これは平均貯蓄保有額の約2倍に相当する。これを都市規模別に見ると東京都区部で6,107万円でもっとも高く、また人口五万人未満の都市で1,450万円であり、格差は約4倍となっている。[図表25]

図表25 相続・贈与で取得した「居住用土地・建物」の現在価値
(都市規模別)
都市規模 現在価値(万円) (N)
全体 2,592.0 (851)
東京都区部 6,106.6 (52)
11大都市 3,226.7 (105)
人口15万人以上の市 3,491.9 (212)
人口5万人以上の市 2,026.3 (146)
人口5万人未満の市 1,449.6 (72)
郡部 1,947.9 (264)
注:複数回答


 これらの結果、持ち家の相続・贈与を受けられるか否か、どの地域の持ち家の相続・贈与を受けるかによって、保有資産に大きな格差が生じるものと考えられる。また、マイホームの取得のための貯蓄は、前述のとおり、1年当たりの貯蓄必要額ではもっとも高くなっており、持ち家の相続・贈与の関係は、家計の貯蓄行動に大きな影響を与えると言えよう。

おわりに

 以上の調査結果から得られる示唆を最後にまとめると、次のとおりである。
1.マイホームの取得は、貯蓄保有目的としても借入金保有目的としても重要な位置を占めている。とくに住宅ローン残高の借入金残高に占める割合は大きく、住宅ローン保有世帯においては借入金保有額が金融資産保有額や世帯の年収を大きく上回っている。マイホームの取得が家計の貯蓄行動に与える影響は極めて大きいと考えられる。
2.実際に寝たきりの両親のいる世帯では肉親が介護しているために費用が顕在化しないケースも多いと思われる一方、介護保険が導入されても将来介護を必要とする状態が発生した場合の費用の一部しか賄えないと予想し、主要な目的の一つとして介護に備えた貯蓄を進める世帯も多い。介護の発生は不確実要素としてとくに高齢者世帯の貯蓄行動に影響を与えると考えられる。
3.金融資産に比べて、居住用不動産(持ち家)は遺産・相続の主要な対象として意識され、かつ現実に相続されている。逆に非持ち家世帯は「遺産を残す必要は無い」と考える傾向が強い。これらから、持ち家の相続・贈与の動向は、資産格差を生じさせるとともに、家計の貯蓄行動にも大きな影響を与えると考えられる。



参考文献

『郵政研究所研究叢書 高齢化社会の貯蓄と遺産・相続』
     高山憲之、チャールズ・ユウジ・ホリオカ、太田清 日本評論社(1996年)
「家計の貯蓄行動と遺産・相続の実態」
     蟹江健一 郵政研究所月報(1995年11月)


(参考1)「家計における金融資産選択に関する調査」の概要

(1)調査地域  全国
(2)調査対象  世帯主が20歳以上の世帯(単身者世帯も含む)、面接対象者は世帯主又はその配偶者
(3)標本数  6,000世帯 Nただし、世帯主が60歳以上の世帯については、別に500世帯を選び、加重サンプルとして使用
(4)標本抽出法   層化多段無作為抽出法 
 ア 全国を各地方郵政局のエリア別に12層に分ける
(北海道、東北、関東、東京、信越、北陸、東海、近畿、中国、四国、九州、沖縄)
 イ 各層の中の人口数をベースに次の5層に分ける
11大都市及び特別区(11大都市:札幌市、仙台市、川崎市、横浜市、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市、広島市、北九州市、福岡市)人口15万人以上の都市人口5万人以上15万人未満の都市人口5万人未満の都市郡部
 ウ 実際の調査地点は、各層のなかから確率比例無作為に抽出・決定し、対象者はその中から無作為に抽出
(5)調査方法  留置面接法
(6)調査期間  平成8年11月22日〜12月6日
(7)実施機関  (株)日本リサーチセンター
(8)回収状況  3,695サンプル(回収率61.6%)(加重を含む:4,191サンプル(回収率64.5%))

(参考2)調査対象世帯の主な属性

1 単身世帯の割合は8.4%、平均の世帯人数は3.4人。
2 子供のいる世帯の割合は67.3%、平均の子供の人数は1.7人。
3 世帯主の性別の割合は男性90.4%、女性8.8%。
4 世帯主の平均年齢は50.2歳、配偶者の平均年齢は47.6歳。
5 世帯主の職業の割合は、「常勤で(フルタイムで)民間企業に勤務」が47.8%、「個人経営・自由業」が18.4%、「常勤で(フルタイムで)官公庁に勤務」が6.6%など。
6 世帯主が加入している公的年金の割合は、厚生年金が56.6%、共済組合の年金が11.6%、国民年金が21.9%。
7 調査世帯の税込み年収の平均は695万円、一ヶ月の生活費の平均は28.4万円。