No.96 1996年9月

電気通信分野における規制改革の日米比較研究

                                          主席研究官付主任研究官    木村 順吾

 米国においては本年2月に成立した新電気通信法の中で、また、我が国においても昨年3月及び本年3月の「規制緩和推進計画」の中で、規制改革が実現した。日米両国の行政庁は、その手続と手法において異なるものの、競争原理を導入し、その市場成果が成熟するに従って段階的に規制緩和を行うという、規制と競争の経過調整ミックス政策を講じ、その結果、同様の政策効果は実現した点において類似している。しかしながら、規制緩和が終局した段階にあっては、日米両国の電気通信行政は単に在来型の規制を廃止していくという規制緩和政策は早晩機能し得なくなり、ポスト規制緩和として要請されるのは「規制の再構築」が要請されるであろう。その際、過去の政策を仔細に分析し、将来に備えることは有益である。そこで、本稿は、電気通信分野における日米の規制改革の経過を追跡的に検証することを通じて、昭和60年の電気通信制度改革以降10年余を経て新たな局面に踏み出しつつある我が国の電気通信行政について、若干行うものである。
 米国においては、費用便益分析主義的な観点から、競争上の優位性を有している支配的事業者に対してはより厳しい規制を課し、そうでない非支配的事業者に対しては発動停止又は緩やかな規制手続を課すという非対称規制が行われてきたが、本稿では、その成立過程を非支配的事業者、支配的事業者の別に振り返り、この非対称規制が漸進的に全事業者に対する規制緩和を実現し、そして非対称規制が法的に認知された新電気通信法が成立した段階においては、支配的事業者/非支配的事業者含めた対称的な規制緩和が実現していたことを見ている。
 我が国においては、あくまで規制の実体的合理性を審査しながら、競争の進展に応じて当初から対称的な規制緩和が講じられてきたため、非対称規制が用いられることがなかった。また、米国が規制改革に17年を要したのに対し、我が国では効率的に10年で達成したが、逆に、規制見直し決定に当たって、十分な行政手続が保証されてこなかった憾みがあることを見ている。
 そして、終わりとして、公正有効な競争促進のための規制再構築が求められる今後の電気通信行政にとって、従来の手続手法の有する効率を犠牲にしても、ルール作りの適正手続を確立し、運営の公正の確保と透明性の向上を図るべきであると提言している。