No.98 1996年11月

米国における「電子国家」の取組み

−情報通信政策と行政改革及び情報公開との融合−

                   主席研究官付主任研究官    木村 順吾

世界の各政府は行政改革、規制緩和、情報公開、地方分権といった課題を抱えているが、米国は、近年急速に高度化しつつある情報通信技術を活用して、これらの諸課題への対応を図ろうとしている。同様の課題を抱えている我が国にとって、米国の経験を仔細に分析し、将来に備えることは有益である。そこで、本稿は、米国における公的部門の電子化の動向について、若干の考察を行うものである。
先ず、第1章では、クリントン・ゴア政権の諸政策について情報通信政策の観点から整理している。当初、アル=ゴア上院議員及びクリントン大統領候補は、米国経済の競争力を高めるとともに、国民生活の向上を図るためのハイテクなハードウェア基盤の整備を目的として、HPCCや情報スーパーハイウェイ構想を提唱した。しかし、彼等が政権発足後に打ち出したNIIでは、行政改革の観点から政府再生を図ろうとするNPRと相俟って、情報通信技術の活用を通じ低コストで高機能な行政を実現しようという目的が付加された。
第2章では、具体的な行政機関としてFCC(連邦通信委員会)及びUSPS(米国郵政)を例に、電子化を中心とした行政改革の取組みを紹介している。FCCに関しては、@被規制者の事務負担の軽減を狙った規制緩和、Aオンラインによる申請及び情報提供といった情報入出力過程の洗練化、B行政内部における情報処理過程の合理化に取り組んでおり、いずれも従来型の非効率化、被効果的な文書事務の見直しを目指すのもである。次にUSPSに関しては、NPR及びNIIの一環として、行政の都合で機能別、地域別の縦割りに編成された複数の行政窓口サービスを、情報キオスクを用いて24時間ワンストップショップに提供するWINGS計画の主導機関として貢献している。USPSには、郵便事業において培ってきた内容証明郵便、差出/配達証明、消印、郵便為替の能力を活用して、電子申請に必要な@申請者本人性の確認、A発信及び受信の時刻の設定、B手数料等の電子決斉済を可能にする役割も期待されている。
第3章では、文書事務削減に対する法的取組みとして、文書事務削減立法(PRA)の推移について概観している。1980年法は、連邦政府文書の管理を通じて民間の文書事務負担を軽減するとともに、情報需要の増大に伴う要員及び予算の増大圧力に対し制度面から抑制していこうとするものであったが、1995年改正法は、1980年法の物理的文書管理を強化するだけでなく、情報通信技術を活用した情報資源の有効管理という考え方を導入してる。新法は、公衆の請求に応じて情報を開示するFOIAと補完し合いながら、政府と公衆との間の情報フローを確固たるものとする行政情報普及の役割を担っていくものと考えられる。更に、本年4月、文書に代わる代替的な情報技術を通じて文書事務を電子化していく文書事務削減法が下院を通過し、電子申請の拡大が予想される。
最後に第4章で、情報通信政策と行政改革及び情報公開との連関について総括的分析を加えている。前章までの分析を通じて、米国では、過去、情報通信政策と、行政改革や情報公開とを特段の連関なくそれぞれ別個の政策として進行していたが、クリントン・ゴア政権は、高度情報通信技術を活用した情報資源管理の徹底により、情報入力面での事務効率化と情報出力面での有効利用の両者を同時に実現できる可能性を見出し、ここに従来相反しがちであった行政改革と情報公開とが融合するに至ったことが判る。そして、究極的には国民一人一人が社会参加の機会を有し、社会とのつながりを強めることによって、国民主導の電子国家の形成しようとしているものと考えられる。