No.61 1993年11月

「日本的経営システムの理解と展望」

                              第一経営経済研究部主任研究官 稲葉  茂
1 日本の企業経営は、終身雇用・年功序列などの雇用形態や系列と呼ばれる企業間関係などに特徴があるとされている。

2 この日本的経営システムは、長期的な景気の後退と、日本の社会経済に構造的な変化をもたらすトレンドなどから転機にあるとするのが一般的な認識であると思われる。

3 本稿では、日本の経営システムの将来像を考える基礎として、日本的経営システムとは何であるか、その経済的合理性はどのように説明されてきたかなどをサーベイし、今後の方向について考えたい。

4 日本的経営システムとは何かを、指摘されている特徴から見ると、組織や制度のように明確なものから、企業内での日々のコミュニケーション行動まで多岐に渡っている。その特徴とされるものが事実なのか、あるいは諸外国で見られないものなのであるかは必ずしも明確ではないが、モデル的にあるいは慣行的に認識されているものとして考えられる。この特徴に関して、普遍と特殊の論争があるが、最近は、各国それぞれの企業システムによるシステム間競争としての議論が盛んとなっている。

5 特徴を企業とは何かから考えると、・企業は従業員のもの、あるいは利害関係者のために存在する、・企業と市場の選択からは系列など中間組織の領域が大きい、を日本の特徴と見ることができる。

6 この日本的経営システムは、伝統的な経済学が描いている市場取引から見れば、分析できない、あるいはいかがわしいとなるが、取引コストの経済学、情報の経済学などの発展により、取引コストの存在、情報の非対称性・不完全性への対応として、普遍的な概念から説明される。

7 システムの評価としては、加工組立型産業などの生産システムの効率性には、日本的経営システムの有効性を指摘できる。また、成長率が大きな影響を持ち、その程度によってはシステムの大幅な変更を余儀なくされる。現在、システム全体に厳しい批判を受けていることがあげられる。

8 今後どうなるかを、根幹である雇用慣行について考えると、年功序列は、ピラミッド型の年齢構成が崩れると、終身雇用の中で維持していくことは困難であり、批判も強く、給与体系の変更も広がっている。しかし、賃金データからは実態の変化は見られず、このような賃金カーブは残ると理解される。

9 守っていきたいとする終身雇用は、賃金カーブがあまり変わらないとすると、維持が難しい。しかし、雇用関係の長期性は各国でも同様であり、それが定年までとなるかであり、賃金カーブの圧力をどう判断するかが問題である。

10 今後の方向は、経済状況によって差が出るが、雇用をできるだけ維持することは残っていくと思われる。

11 雇用を中心に日本的経営システムの見直しが問題として大きくとりあげられることの根底には、その先のシステムが見えず、終身雇用を前提とした社会システムとなっているからである。新しい社会システムの構築を進める必要がある。また、日本的経営システムの現在の方向は、アメリカ型への接近と一応は理解できるが、今後の方向は、システムの変化と効等性の相互作用から定まってくるであろう。

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