No.68 1994年6月

「農業におけるコミュニケーション上の問題点について」

                           第一経営経済研究部主任研究官 田中 元則
1 農業(農村部)の活性化を考える場合、コミュニケーションが重要な役割を果たすと思われる。そこで、本稿では農業におけるコミュニケーションの実態と問題点について、農産物流通に関する制度・政策(食管制度、卸売市場制度、対農協政策)の視点から考察する。

2 我が国農業におけるコミュニケーションの実態をみると、メディアを用いたコミュニケーション(通信)量が少ない、販売(市場)情報への関心を持たない生産者がいる等の特徴がうかがえるが、この特徴からみると、我が国農業におけるコミュニケーションの発展レベルは低い段階に停まっていると言える。

3 農業におけるコミュニケーションを考える場合、農産物流通の在り方が問題となるが、現在の農産物流通の在り方を規定している現行制度・政策は、その制定の経緯からみると、国民に対する農産物の安定的な供給、生産者に対する所得の保証等を目的として制定されていることが分かる。

4 現行農産物流通に関する制度・政策には、その制定の目的から自由なコミュニケーションを制限している部分がある(具体的には食管制度におけるコメの「政府による全量管理」、卸売市場制度における「せり・入札の原則」、対農協政策における「(総合)農協のゾーニング規制」である)。

 一方、現在の農産物流通においては、農産物の需給関係、生産者・消費者(需要者)構造、流通関連技術等に関して、制度・政策の前提自体の変質ともいえる大きな環境変化があり、コミュニケーションの重要性が増加している。

 その結果として、コミュニケーションを確保するため制度・政策が想定していない取引等が行われており、問題となっているものもある(具体的には、食管制度における“自由米”の問題、卸売市場制度における“「せり・入札の原則」の形骸化”や“市場経由の産直”の問題、対農協政策における“農協離れ”に関する問題である)。これは現行農産物流通に関する制度・政策のコミュニケーション上の問題点の顕在化と言えるが、また、同時に、このような取引の増大は流通全体の不透明性を増し、より一層自由なコミュニケーションを阻害するという悪循環を起こしている。

5 欧米における農産物流通制度・政策をみると、取引への管理・規制は行わず、農産物の価格支持制度や所得支持制度を通じて政策目的の実現を図ることが主流となっている。

6 以上より、我が国農業においては、流通に関する制度・政策(食管制度、卸売市場制度、対農協政策等)にはコミュニケーション上の問題点があると言え、これらの制度・政策について、より自由なコミュニケーションが実現できる方向での検討が考えられる。

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