No.69 1994年7月

「企業間郵便の経済学―郵便とは何か―」

                               第一経営経済研究部長 安住  透
1 企業が企業に対して差し出す郵便は、個人の手紙などとは大きく異なる。企業は企業に対し、必要な通信は必ず行うが、必要以上には行わない。本論では企業間の郵便需要を、できるだけ伝統的なミクロ経済学の枠組みで分析する。

2 企業間の郵便需要を、経済学の枠組みで分析する上での困難は、企業が通信費を管理していないように見えることにある。しかしこのような仮定は非現実的であり企業は実際には、輸送、決済、通信というネットワーク需要を、規模の経済性、範囲の経済性を追求する中で管理している。

3 企業は、「事業所」(工場、営業所などの物理的単位の総称)の最適規模を選択することにより輸送費を管理している。つまり、事業所の規模と配置を変化させることにより、輸送量もまた変動するからである。また、いくつかの異なる製品を生産する事業所を束ねて「企業」(制度上の法人格)を形成し、一企業として生産する製品の範囲を決定することにより、決済費と通信費を管理している。つまり、企業が他の事業所を併合するに従い、それらの事業所との(市場)決済量は減少するが、逆に(内部)通信量は増大するからである。このとき総通信需要は、「輸送に伴う通信(物流通信)」「決済に伴う通信(商流通信)」「対話型の通信」として決定される。

4 企業は、それらの通信需要を、電気通信又は書面化のいずれかのメディアにより満たしていく。輸送に伴う通信(発注、出荷指示など)は、電気通信が選好される傾向が強く、書面・郵便・電気通信から、より高度な電気通信への代替が起こっている。決済に伴う通信(請求、手形・小切手など)は、原則として全ての通信の書面化が制度・慣習化されているが、銀行が仲介することにより電気通信も利用される。対話型の通信では、マーケティング型の通信は様々であるが、組織を維持するための公式な組織内通信は、業務書類として書面化されるのが一般的であり、郵便は、頻度に応じて社内便と競合関係にある。

5 現在の企業間郵便の中心となっているのは、決済に伴う通信であり、したがってその総数は、経済全体の総決済数(総取引数)に強く依存すると考えられる。国際比較では、決済方法、特に小切手処理総数と強い相関を見せており、郵便の基本的機能が決済にあることを明確に裏付けている。

6 「郵便事業とは金融事業である」というのが本論の結論である。このことは企業間郵便に限らず、企業と個人間の郵便についても妥当している。したがって郵便事業の将来は、郵便が今後も金融の効率化に貢献し続けていくことにある。

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