No.101 1997年2月

信書独占の合理性

−経済学的視点から−

                         第一経営経済研究部長      井筒 郁夫

信書送達事業の法的独占の合理性について、経済学的な視点から検証する。
1.信書の「自然独占」性
信書送達事業の法的独占について、経済学的に合理的な根拠があるかどうかは、信書送達事業の市場構造が「自然独占」性を有するものか否かの検証が、まず第一に必要となる。信書が中心をなす通常郵便物については、特に、配達部門に、強い規模の経済性、範囲の経済性が働き、「自然独占」性が存在する。配達費用が、総費用の中で占める割合が大きいこと等に鑑みると、通常郵便物の費用全体に渡っての「自然独占」性を示す。
2.全国均一料金制とユニバーサルサービス
信書送達事業は、前納制の全国均一料金制を採用している。あて先によって、輸送や配達の費用が異なるにもかかわらず、前納制による全国均一料金制を採用しないと、大きな取引コストが発生し、郵便サービスを低廉に提供できず、また、一般利用者にとって、利用しにくい郵便システムとなる。郵政省には、郵便事業のユニバーサルサービス確保義務が課せられている。郵政省は、全国均一料金制を活用して、独立採算制による内部相互補助を行うことにより、ユニバーサルサービスを実現してきている。
3.法的独占廃止の論拠
法的独占廃止の主要な論拠を整理する。競争構造への転化可能性がある場合、埋没費用が大きい場合、コンテスタブル市場の場合、「規制の失敗」が大きい場合、外部補助の導入によるユニバーサルサービスが実現できる場合について、その論拠と信書送達事業への適用の可否について検討する。
4.信書の法的独占廃止の結果予測
信書送達事業の法的独占が廃止され、新規参入が認められた場合いかなる結果が起こるか予測する。信書送達事業の「自然独占」市場において、郵政省が全国均一料金制という料金体系を継続する限り、その料金は「維持可能」ではないため市場均衡が成立せず、また、郵便料金の大幅値上げやサービスレベルの引き下げをせざるを得なくなる。これは、社会経済的にも効率的ではなく望ましくない。「維持可能」な「自然独占」均衡が成立するためには、郵政省が、全国均一料金制を廃止し、「維持可能」な料金を採用することが不可欠となる。しかし、膨大な一般管理費増及び利用者の不便を考慮しないという条件下でさえ、全国均一料金制の方が、あて地別平均費用対応料金より消費者余剰が大きく、全国均一料金制の廃止は、社会厚生上望ましくない。
5.郵便事業の経営効率
郵便事業は、一般財源からの補填は一切受けないで独立採算による特別会計により企業的経営が行われている。しかも、民間宅配便や情報通信産業からの競争圧力下にもある。そのため、郵便事業の経営効率化は進展してきており、競争導入により、仮に経営効率化がさらに一定程度進むとしても、「自然独占」性による市場の効率性の大幅な低下を鑑みると、それより大きなものとなるとは想定しにくい。
6.まとめ
上記より、信書送達事業の市場特性から、信書送達事業の法的独占を継続することは、経済学的視点からも合理的な根拠があることがわかる。