特集・変革する社会の中の郵便


電気通信の郵便に与える影響*



第一経営経済研究部長    井筒 郁夫
第一経営経済研究部主任研究官    山浦 家久


【要約】

1 はじめに
 我が国では、1985年(昭和60年)の電気通信市場の自由化以降、電気通信の利用が急速に拡大している。そこで、本研究では、電気通信が郵便に与える影響について、現状分析を中心に分析した後に、電気通信の代替可能性の視点から若干の考察を加えながら、将来の予測を行う。

2 我が国における電気通信と郵便の利用動向
 電気通信の自由化以降、郵便利用に与える影響可能性から動向が注目されるファクシミリ、電子メール、インターネット及びEDIを含め、我が国における国内電気通信の発展は著しい。
 郵便物数の年平均増加率は、過去20年間、実質GDPの伸びにほぼ一致しているが、電気通信が自由化された1985年から1995年までの間では、実質GDPの伸びをやや上回っている。
 この20年間において、郵便の差出人は事業所中心であることには変化がないものの、事業所差出し郵便物の受取人は事業所から私人に大きくシフトしている。郵便の利用内容別差出割合については、「金銭関係」「ダイレクトメール」が増加傾向なのに対し、「その他の業務用通信」「消息・各種挨拶」「申込・照会等」は減少傾向にある。

3 産業連関表に基づく分析
 1980年(昭和55年)以降、時系列的にみると、産業全体については、国内電気通信の投入係数は一貫して上昇しているものの、郵便の投入係数は安定的であり、さらに、郵便と電気通信とが相乗的に増加している産業に郵便需要が偏在化する傾向にある。家計については、郵便の支出比率は安定的である。

4 サンプル調査に基づく分析
 産業については、ファクシミリの保有台数・電話料金と郵便の利用通数とはプラスの相関があり、家計については、ファクシミリ保有・パソコン保有・電話料金と郵便の利用通数とはプラスの相関がある。

5 マクロデータに基づく分析
 ファクシミリ設置台数と郵便の利用通数(普通通常郵便物・第一種定形郵便物・第一種定形外郵便物)とはプラスの相関がある。

6 現状分析結果まとめと将来予測
(現状分析結果まとめ)
 実証分析から、郵便は、全体としては、電気通信と代替しているというよりも、相乗的に増加していることをうかがわせる結果となっている。
 企業・産業レベルでは、電気通信は郵便需要にマイナスの面でもプラスの面でも影響を大きく与えているが、プラスの影響がマイナスの影響を上回って、郵便全体では両者が相乗的に増加していることをうかがわせる結果になったと考えられる。世帯レベルでは、電気通信が郵便に大きな影響を与える段階には達していないと考えられる。
 郵便全体では電気通信とプラスの相関が生じている結果となった大きな理由としては、電気通信にはない、「情報交換」及び「輸送」という機能を併せ持つ郵便のメディア特性が考えられる。

(将来予測)
 ダイレクトメールについては、「現物性」などのメディア特性や、我が国のダイレクトメール市場が今後成長する可能性が大きいことに鑑みると、全体としては増加していくものと考えられる。
 金銭関係郵便については、通常、どこの国でも法制度や慣習により、金銭の決済に付随する請求書、領収書等は書面化されるため、経済活動が活発になり決済が増えれば増えるほど、金銭関係郵便は増加していくと考えられる。
 企業間通信に利用される郵便については、決済を伴う金銭関係郵便を除き、今後とも電気通信との競争が激しくなると考えられる。
 個人間通信については、郵便は、その「現物性」から、通信内容そのもの以上に手紙そのものを受取人にアピールできる心のこもったハイタッチな贈り物ともなる。したがって、電気通信との競争は激しくなるものの、郵便事業が的確な対応をすれば、マイナスの影響は、当面はそれほど大きくはないと考えられる。

*本件論文については、本年6月、デンマークのHelsingφrにおいて開催された”Fifth Conference on Postal and Delivery Economicsおいて発表した。



1 はじめに

 我が国では、1985年(昭和60年) の電気通信市場の自由化以降、電気通信の利用が急速に拡大している。他国と同様、同じメディアとしての電気通信が、郵便に与える影響への関心が強い。そこで、本研究では、電気通信が郵便に与える影響について、現状分析を中心に分析する。
 第2節では、我が国における近年の電気通信と郵便の利用動向について紹介する。
 次いで、電気通信が郵便に与えている影響の現状について、3つのアプローチにより、ミクロ・マクロの側面から分析する。すなわち、第3節では、産業連関表に基づいたマクロ分析を行う。第4節では、サンプル調査に基づくミクロのクロスセクションデータから計量経済学的手法による分析を行う。第5節では、マクロの時系列データに基づく計量経済学的手法による分析を行う。
 最後に、第6節では、現状分析結果のまとめを行うとともに、郵便のメディア特性を考察した上で、特に電気通信の代替可能性の視点から若干の考察を加えながら、将来の予測を行う。


2 我が国における電気通信と郵便の利用動向

2.1 電気通信の利用動向

 1985年(昭和60年)の電気通信の自由化以降 、我が国における各種電気通信の発展は著しい。ここでは、まず、国内電気通信の動向について見た後、郵便利用に与える影響可能性からもその動向が注目されている、ファクシミリ、電子メール、インターネット及びEDIの利用状況についてみることとする。

2.1.1 国内電気通信の動向

 国内電気通信については、ISDN回線数、携帯・自動車電話の契約数、高速デジタル回線数、無線呼出し契約数などが、飛躍的に増加しており、国内電気通信の発展は著しい。(図表1参照)。


図表1 国内電気通信の動向


年度末 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995
ISDN回線数 100.0 563.8 2279.9 7023.3 13089.4 19598.2 28143.1 43392.8
携帯・自動車
電話契約数
100.0 153.2 242.8 391.1 788.3 1397.8 2219.1 2757.6 34 32.0 6974.5 16432.7
高速デジタル回線数 100.0 347.7 688.6 1008.4 1348.1 1777.3 2374.4 3148.0 4130.9 6289.4 11112.5
無線呼出し契約数 100.0 115.4 137.0 163.2 197.0 235.7 274.2 310.2 374.0 433.8 492.2

(注)ISDN回線数は1988年度末を100とした。
(出所)通信白書(郵政省)より作成


2.1.2 ファクシミリ

 郵政省が毎年実施している「通信利用動向調査」によると、事業所のファクシミリ普及率は、1996年(平成8年)では93.2%となっており、既に広く普及している。
 一方、世帯のファクシミリ普及率は、1996年(平成8年)では20.7%と、事業所と比較し、かなり低い水準であるが、近年着実に上昇している(図表2参照)。

図表2 事業所及び世帯のファクシミリ普及率の推移

(出所)通信利用動向調査
(郵政省)により作成


2.1.3 電子メール

 「通信利用動向調査」の中で従業員300名以上の企業1)を対象にサンプル調査している「企業対象調査」によると、1996年(平成8年)の調査では、企業全体で46.9%の企業が電子メールを利用している。
 これを産業別にみると、「金融・保険業」が61.5%と最も高くなっている。
 従業員者数別の利用率は、2,000人以上の企業では7割を超えており、300〜499人の企業でも、35%の企業が利用している(図表3参照)。
 このように、我が国においては、少なくとも従業員300名以上の企業については、電子メールが広く普及し始めているといえる。

図表3 電子メールの利用率

(出所)平成8年度通信利用動向調査(企業対象調査)
(郵政省)により作成


1) 従業員300名以上の企業は、我が国全国の企業数の約0.7%である。


2.1.4インターネット

 1996年(平成8年)「企業対象調査」によると、インターネットを利用している企業全体の割合は50.4%である。
 これを産業別にみると、「金融・保険業」が63.6%と最も高くなっている。
 従業員者数別の利用率は、2,000人以上の企業では74.8%で、300〜499人の企業でも、約39%ある(図表4参照)。このように、我が国においては、少なくとも従業員300名以上の企業については、インターネットが急速に普及し始めているといえる。


図表4 インターネットの利用率

(出所)平成8年度通信利用動向調査(企業対象調査)
(郵政省)により作成


2.1.5ED(ElectronicData Interchange:電子データ交換)

 EDIは、我が国では約10年前から導入が始まっている。1996年(平成8年)「企業対象調査」によると、EDIを導入している企業は39.8%ある。
 産業別にEDIの利用状況を見ると、「製造業」が最も利用率が高く50%を超え、次いで「卸売業・小売業・飲食店」が約48%でこれに続いている。
 また、従業者数別に見ると、従業者数2,000人以上の企業では利用率が6割近くなっているが、300人から499人までの企業でも3割以上が利用している(図表5参照)。
 このように、我が国においては、少なくとも従業員300名以上の企業については、EDIが広く普及し始めているといえる。


図表5 EDIの利用率

(出所)平成8年度通信利用動向調査(企業対象調査)
(郵政省)により作成


2.2 郵便の利用動向

2.2.1 国内総郵便物数と実質GDPの推移

 我が国における国内総郵便物数2)は、1995年度(平成7年度3)は、約243億通であった。
 1976年(昭和51年)から1995年(平成7年)にかけて20年間の、郵便物数の年平均増加率は3.4%と、実質GDPの年平均増加率にほぼ一致している。
 しかし、電気通信が自由化された1985年(昭和60年)から1995年(平成7年)までの間においては、実質GDPの年平均増加率が3.1%なのに対し、郵便物数の年平均増加率については3.7%と、実質GDPの伸びをやや上回っている(図表6参照)。


図表6 郵便物数と実質GDPの推移

(出所)国民経済計算年報(経済企画庁)、郵便の統計(郵政省)より作成


2.2.2 郵便の交流状況の推移

 郵政省が1973年(昭和48年)から3年ごとに実施している「郵便利用構造調査」から、私人と事業所間の郵便の交流状況の推移をみる。差出人をみると、私人と事業所の比率はおよそ2対8で、20年間安定的である。受取人も含めた交流状況をみると、私人差出し郵便物については、私人受取りが約17‐18%、事業所受取りが約2‐3%と安定的である。
 しかし、事業所差出し郵便物については、私人受取りが1994年(平成6年)は50.4%と1973年(昭和48年)よりも11ポイント増加しているのに対し、事業所受取りが1994年(平成6年)は30.2%と1973年(昭和48年)よりも約11ポイント減少している。(図表7参照)
 以上より、この20年間において、郵便の差出人は、事業所中心であることには変化がないものの、事業所差出し郵便物の受取人は、事業所から、私人に大きくシフトしていることがわかる。

図表7 郵便物の交流状況

(出所)最近における郵便の利用構造(郵政省)より作成


2) 小包郵便物を除く内国総郵便物数。以下同じ。小包郵便物及び国際差立郵便物を含めた総数では、約248億通。
3) 日本における財政年度は、4月‐翌年3月まで。


2.2.3 郵便物の利用内容別差出割合の推移

 郵便物の利用内容別差出割合について、「郵便利用構造調査」によると、直近の1994年(平成6年)のデータでは、「金銭関係」が29.3%、「ダイレクトメール」が25.3%、で、両者を併せると約55%となり、ほかに「行事・会合案内」が11.8%「その他の業務用通信」が10.0%、「消息・各種挨拶」が9.3%、「申込・照会等」が6.9%で、「その他」が7.4%となっている。
 これを時系列的にみると、この20年間において、1994年(平成6年)のデータにおいて比率の高い「金銭関係」「ダイレクトメール」の構成比率が、増加傾向にある一方、「その他の業務用通信」「消息・各種挨拶」「申込・照会等」の構成比率は、減少傾向にある(図表8参照)。


図表8 郵便物の利用内容別差出割合の推移

(出所)最近における郵便の利用構造(郵政省)より作成


2.2.4 郵便物の産業別差出割合の推移

 郵便物の産業別差出割合について、「郵便利用構造調査」によると、直近の1994年(平成6年)のデータでは、「卸売・小売業」が19.5%と最も多く、以下「金融・保険業」が12.4%、「サービス業」が9.5%、「公務」が8.8%と続いており、これら4つで、全体の約5割近くを占めている。
 これを時系列的にみると、この20年間において、1994年(平成6年)のデータにおいて比率の高い「卸売・小売、飲食店」「金融・保険」「サービス」「公務」の構成比率については、大きな変化はない(図表9参照)。


図表9 郵便物の産業別差出割合の推移

(出所)最近における郵便の利用構造(郵政省)より作成


3 産業連関表に基づく分析

3.1 産業連関表に基づく分析の意義

 「産業連関表」4)は、我が国全体の経済構造を総体的に明らかにした表である。したがって、郵便サービスと電気通信サービスとの関係を総合的に、フローの側面から把握するには適したものである。
 本節では、産業の生産額や家計の支出額が増加することに伴い、郵便サービスも電気通信サービスも利用が増加していくという傾向を考慮し、郵便サービスと電気通信サービスの投入額や支出額ではなく、個々の産業の郵便サービスと電気通信サービスの投入係数、家計支出に占める郵便サービスと電気通信サービスの支出の比率から、電気通信の郵便に与える影響を分析する。
 なお、ここでいう「投入係数」とは、個々の産業がそれぞれの生産物を生産するために使用した財貨・サービスの投入額を、その産業の生産額で除したものである。

3.2 産業の分析

3.2.1 産業全体における投入係数の推移の比較
 産業全体において、実質価格ベースでみた郵便サービスと国内電気通信サービスの投入係数の1980年(昭和55年)から1992年(平成4年)までの推移を比較すると、国内電気通信サービスの投入係数は1980年(昭和55年)の0.39%から1992年(平成4年)には0.60%と一貫して上昇している。他方、郵便の投入係数は0.14%〜0.16%で推移しており、安定的であることがわかる(図表10参照)。


図表10 郵便と国内電気通信の投入係数の推移
(1990年価格の実質表)


3.2.2 産業別の投入係数の推移の比較

3.2.2.1 サービス業、鉱工業・建設業、農林水産業の3分類の推移の比較
 産業連関表は、産業を33分類している。これらの産業全体を、大きく、サービス業、鉱工業・建設業、農林水産業に3分類して、郵便サービスと国内電気通信サービスの投入係数の推移を比較する。
 第一に、郵便サービスについてみると、サービス業における投入係数が他の産業に比して最も高いことに加えて、時系列的に見て1980年(昭和55年)以降一貫して上昇してきているのが分かる。
 鉱工業・建設業の郵便サービスの投入係数については、1980年(昭和55年)の0.11%から、1992年(平成4年)の0.07%に低下してきている。その結果、サービス業の投入係数と比べると、1980年(昭和55年)では、約1/2であったのが、1992年(平成4年)では1/3以下の水準となっている。
 農林水産業の郵便サービスの投入係数については、1980年(昭和55年)を除けば安定的であるが、サービス業の投入係数と比較して、鉱工業・建設業の投入係数以上に極めて低い数字となっている(図表11参照)。
 次に、国内電気通信についてみると、サービス業の投入係数の上昇は極めて高く、1980年(昭和55年)の0.52%から1992年には0.95%まで上昇している。
 鉱工業・建設業については、1980年(昭和55年)の0.26%から、1992年(平成4年)まで低下傾向にあったが、1992年(平成4年)には上昇に転じている。
 農林水産業については、1980年(昭和55年)を除けば安定的であるが、サービス業の投入係数と比較すると、郵便サービスの場合と同様に、鉱工業・建設業以上に極めて低い数字となっている(図表12参照)。


4) 産業連関表は、総務庁が5年ごとに作成し、最新版は1990年表である。本分析では、総務庁の作成した産業連関表を基に郵政省が独自に作成した1992年ベースの表を利用した。産業連関表には、各年の我が国全体の実際の取り引き金額を基にして作成される「名目表」と,異時点間の比較を行うために各財をデフレートし実質価格ベースでみた「実質表」とがある。本分析では、異時点間の変化を見るために、データとして1990年価格表示の実質表の結果を用いている。


図表11 郵便の投入係数の推移
(1990年価格の実質表)


図表12 国内電気通信の投入係数の推移
(1990年価格の実質表)


3.2.2.2 産業別傾向比較

 産業連関表に分類されている33種類の個別の産業ごとの郵便サービスと国内電気通信サービスの需要動向を探るため、1980年(昭和55年)から1992年(平成4年)の投入係数の推移に応じ、10%以上の増減率を基準として、需要が、10%以上上昇した産業、大きな変化のない産業、10%以上下降した産業に3分類した。その結果が図表13である。
 これにより分かることは、郵便サービスの投入係数も、国内電気通信サービスの投入係数も共に上昇している産業が圧倒的に多いことである。具体的には、公務、電力・ガス・熱供給業などの公共向け産業、国内電気通信、情報サービス、情報ソフトなどの情報通信サービス産業、卸売、小売、運輸の流通産業などの産業である。
 しかし、対事業所サービスなど一部の産業では、国内電気通信サービスの投入係数が上昇する中で、郵便サービスの投入係数が下降している。また、金融業、主要製造業などの産業は、郵便サービスも国内電気通信サービスも投入係数が下降している。前者については、企業間通信を主とする産業であり電気通信サービスの需要増の影響で郵便サービスの需要が減少していると考えられる。後者については、社内の電気通信ネットワーク化の進展等効率的な通信ネットワーク構築により通信費全体の削減が進んでいると考えられる。
 これらをみると、電気通信の影響で郵便利用が相対的には減少していると考えられる産業がある。しかし、郵便全体としては、通信量全体が増大する中で、郵便と電気通信は共に増加する傾向にあることがうかがわれる。


図表13 各産業の郵便と国内電気通信の投入係数の傾向
国内電気通信の投入係数の傾向
上昇傾向 大きな変化なし 下降傾向

便







上昇傾向 公務、電力・ガス・熱供給、教育、
医療保健等サービス、水道・廃棄
物処理、国内電気通信、情報サー
ビス、情報ソフト、広告、出版、
新聞、運輸、卸売、小売、研究、
対個人サービス、鉱業、建設
印刷・製版・
製本
放送
大きな変化なし 郵便 ――― 保険
下降傾向 対事業所サービス、ニュース供給、映画館・劇場等、その他製造 ――― 国際電気通信、情報通信機器賃貸、
金融、素材型製造、加工組立型製
造、農林水産業


3.2.2.3 産業別郵便需要分布比較

 1992年(平成4年)における産業全体の郵便需要について、33種類の個別産業ごとの構成比を図表13の分類に応じ示したものが図表14である。これをみると、郵便需要の2/3近くが郵便サービスと国内電気通信サービスの投入係数が共に上昇している産業に集中していることが分かる。他方、郵便サービスの投入係数が下降している産業が郵便需要の約3割を占めている。
 さらに、この現象を時系列的にみると、郵便サービスと国内電気通信サビスの投入係数が共に上昇している産業の郵便需要の構成比が、1980年(昭和55年)の41%から1992年(平成4年)の66%へと25ポイント上昇している。他方、郵便の投入係数が下降している産業は、1980年(昭和55年)の53%から1992年(平成4年)の29%へと24ポイント下降している。
 このことは、従来郵便需要の大きな割合を占めていた産業の一部において、電気通信の影響で郵便需要が相対的に大きく減少してきていると考えられる。しかし、郵便需要全体でみると、郵便と電気通信とが相乗的に増加している産業に偏在化しつつあることを示している(図表15参照)。


図表14 産業別郵便需要の分布 (1992年)

3.3 家計の分析

 家計において、実質価格ベースで支出に占める郵便サービスと国内電気通信サービスの支出の比率を比較すると、郵便については0.13%〜0.15%と安定的であるが、国内電気通信については、1980年(昭和55年)から1985年(昭和60年)にかけて急激に上昇した後、1985年(昭和60年)以降は横ばい状態となっている(図表16参照)。


図表16 郵便と国内電気通信の家計支出に占める比率の推移
(1990年価格の実質表)


4 サンプル調査に基づく分析

 本節では、郵政省の1995年(平成7年)の「通信利用動向調査」によるサンプル調査5)に基づくミクロのクロスセクション・データを用いて、産業及び家計、それぞれの経済主体において、郵便利用量に与える電気通信の影響を計量的に分析する。
 具体的には、1か月間の郵便の利用通数を被説明変数とし、一方、説明変数には、ファクシミリ等情報通信機器の保有台数、電話料金、前年度の売上高や収入などを用いている。

4.1 産業の分析

4.1.1 推計方法

 本分析については、通常最小二乗法(OLS)に基づく分析を行った。モデル式は次のとおりである。
yeif=βXeif+εeifここで、被説明変数yeifはデータ区分ごとにi番めの事業所の最近1か月間の郵便の利用量、Xeifはi番めの事業所の説明変数ベクトル、βは推定パラメータ、εeifはモデルの誤差項(互いに独立で、期待値が0、分散がσc2dの正規分布に従う。)である。

4.1.2 推計結果(図表17参照)

4.1.2.1 全産業

 郵便全体(封書+はがき)、封書、はがきとも共通して、ファクシミリ保有台数、電話料金(基本料+使用料)、従業員数について、プラスの相関があり、両者の相乗的な利用傾向がうかがわれる。一方、通信可能なパソコン・ワープロの使用台数については、有意な結果は得られなかった。
 なお、売上高については、封書についてプラスの相関がある一方、郵便全体及びはがきについては、有意な結果は得られなかった。

4.1.2.2 産業別

 全産業を12の産業に分類した産業別では、電話料金については半数の産業で、ファクシミリ保有台数については、1/3の産業で、それぞれ郵便とプラスの相関があり、従業員数についてはかなり多くの産業でプラスの相関があった。
a ファクシミリ保有台数農林水産業、運輸業、金融業、サービス業では、プラスの相関があった。
b 通信可能なパソコン・ワープロの使用台数運輸業のみ、プラスの相関があった。
c 電話料金鉱業、建設業、運輸業、卸売・小売業、保険業、不動産業では、プラスの相関があった。
d 売上高売上高については、建設業、運輸業、不動産業、保険業では、プラスの相関があった。
e 従業員数従業員数については、農林水産業、鉱業、建設業、製造業、電気・ガス・熱供給・水道業、卸売・小売業、金融業、不動産業、サービス業、公務では、プラスの相関があった。


データ区分 被説明変数 説明変数ベクトル
○全産業
○産業別
・農林水産業
・鉱業
・建設業
・製造業
・電気、ガス、熱供給、水道業
・運輸業
・卸売、小売業
・金融業・保険業
・不動産業
・サービス業
・公務
○郵便全体(封書+はがき)の差出通数

○封書の差出通数

○はがきの差出通数


(注)上記は、最近1か月間の差出通数
aファクシミリの保有台数

b通信可能なパソコン・ワープロの使用台数

c電話料金(最近1か月間の電話の基本料金及び話料金の合計)

d前年度の事業所の売上高

e従業員数

5) サンプル数は、産業(事業所)に関しては、4,174(有効回答数)であり、家計に関しては、4,544(有効回答数)である。推計に用いるデータは、調査票への記載が容易になるよう、例えば、郵便の利用通数については0通、1〜2通、3〜4通等などの分類になっており、本分析では^中央値を使用せざるを得ないため、若干正確性を欠いたものとなる。


図表17 事業所に関する分析結果
全産業 農林
水産
鉱業 建設業 製造業 電気・
ガス・
熱供給・
水道業
運輸業 卸・小売業 金融業 保険業 不動産業 サービス業 公務
郵便全体 封書 葉書
説明変数  
売上高 回帰係数 0.00002 0.00902 0.00082 0.00002 0.00172
標準誤差 0.00001 0.00090 0.00026 0.00001 0.00054
t値 *3.62 *10.00 *3.14 *1.97 *3.18
従業員数 回帰係数 0.29729 0.15889 0.17847 0.3 0973 1.50882 0.52019 0.63890 1.29710 0.33493 12.62470 0.64992 0.99099 0.38089
標準誤差 0.03915 0.02625 0.02633 0.06768 0.44005 0.11183 0.18492 0.19436 0.16867 4.24878 0.14852 0.21179 0.11376
t値 *7.59 *6.05 *6.78 *4.58 *3.43 *4.65 *3.46 *6.67 *1.99 *2.97 *4.38 *4.68 *3.35
FAX台数 回帰係数 7.20820 2.41263 2.91939 35.98100 8.89004 12.62470 14.34370 6.43252
標準誤差 1.58218 0.98183 1.06402 8.64789 2.91750 4.24878 6.42682 3.66862
t値 *4.56 *2.46 *2.74 *4. 16 *3.05 *2.97 *2.23 1.75
通信可能なパソコン等台数 回帰係数 16.89
標準誤差 6.49
t値 *2.60
電話料金 回帰係数 0.16401 0.03106 0.12991 0.29522 0.15865 0.11881 0.12583 0.25909 0.17845
標準誤差 0.01441 0.00843 0.00970 0.05565 0.04363 0.04395 0.03070 0.03884 0.03096
t値 *11.38 *3.68 *13.40 *5.30 *3.64 *2.70 *4.10 *6.67 *5.76
定数項 回帰係数 302.32200 99.98990 230.60400 60.79960 64.75900 47.75760 138.82200 486.20800 125.83500 395.14300 768.85600 497.90400 219.83300 234.52400 416.39200
標準誤差 9.66073 6.35838 6.51326 20.44536 16.94982 13.41005 17.95440 44.91031 17.89391 36.64500 37.47154 39.59003 30.00498 30.62551 40.78676
t値 *31.29 *15.73 *35.41 * 2.97 *3.82 *3.56 *7.73 *10.83 *7.03 *10.78 *20.52 *12.56 *7.33 *7.66 *10.21
観測数 3179 2101 3161 246 208 260 245 288 258 268 312 207 251 275 259
自由度調整済み決定係数 0.17 0.10 0.16 0.13 0.39 0.57 0.04 0.13 0.19 0.14 0.15 0.19 0.28 0.16 0.18
F値 213.28 57.44 202.58 20.05 66.85 116.37 11.94 44.54 16.54 22.18 27.44 25.27 33.22 26.34 29.78

(注)t値に係る*は、有意水準5%で有意であることを示している。



4.2 家計の分析

4.2.1 推計方法

 家計においては、最近1か月間の郵便の差出通数は、0通が34.2%も占め、これが家計の郵便利用の特性と考えられることに鑑み、本分析に当たっては、次の式で表わされるトービットモデルにより最尤法に基づく推計を行った。
 yi=βXi+εi
 yi=βXi+εi (yi>0)
  yi=0(yi≦0) (i=1、2、…N)
 ここで、被説明変数yeifc*dは観察不可能な潜在(latent)変数であり、yeifはデータ区分ごとにi番めの世帯の1か月間の郵便の利用量、Xeifはi番めの世帯の説明変数ベクトル、βは推定パラメータ、ε1はモデルの誤差項(互いに独立で、期待値が0、分散がσc2dの正規分布に従う。)である。

データ区分 被説明変数 説明変数ベクトル
○全所得階層
○所得階層別
・200万円未満
・200〜400万円未満
・400〜600万円未満
・600〜800万円未満
・ 800〜1000万円未満
・1000〜1500万円未満
・1500〜2000万円未満
・2000万円以上
○郵便全体(封書+はがき)
の差出通数

○封書の差出通数

○はがきの差出通数


(注)上記は、最近1か月間の差出通数I
aファクシミリ保有の有無
bパソコン保有の有無
cパソコン通信利用の有無
d電話料金
(最近1か月間の電話の
基本料金及び通話料金の合計)
e家族人員数f世帯主の年齢
g世帯主の職業
(雇用者か被雇用者か)
h前年度の家計の税込収入


4.2.2 推計結果(図表18参照)

4.2.2.1 全所得階層

 郵便全体(封書+はがき)、封書、はがきとも共通して、ファクシミリ保有、パソコン保有、電話料金、家計の税込収入について、プラスの相関があった。郵便と電気通信が相乗的に利用されていることがうかがわれる。
 一方、パソコン通信利用、家族人員数、世帯主の年齢、世帯主の職業には有意な結果は得られなかった。


図表18 家計に関する分析結果
全所得階層 200万円未満 200〜400万円 400〜600万円 600〜800万円 800〜1000万円 1000〜1500万円 1500〜2000万円 2000万円以上
郵便全体 封書 葉書
説明変数  
売上高 回帰係数 0.00235 0.00106 0.00133                        
標準誤差 0.00033 0.00033 0.00033                        
t値 *7.06 *3.17 *4.03 *4.03                     
FAX台数 回帰係数 7.20820 2.41263 2.91939 35.98100 8.89004 12.62470
標準誤差 1.58218 0.98183 1.06402 8.64789 2.91750 4.24878
t値 *4.56 *2.46 *2.74 *4. 16 *3.05 *2.97
パソコン保有 回帰係数 1.09442 1.21053 1.19191 4.40283 −1.51300 1.63288 1.04422 0.58146 1.96763 3.06076 3.62474
標準誤差 0.38049 0.37712 0.37648 2.63297 1.13396 0.79981 0.78965 0.90146 0.90333 1.97727 2.72330
t値 *2.88 *3.21 *3.17 1.67 −1.33 *2.04 1.32 0.65 *2.18 1.55 1.33
パソコン通信 回帰係数 −0.23703 −0.31206 −0.35747 −6.00143 0.51864 −4.17387 −0.44356 2.82502 0.31853 3.75752 2.97586
標準誤差 0.81372 0.80633 0.80510 5.59730 2.37195 1.70132 1.57716 1.86520 2.38049 4.37107 4.56184
t値 −0.29 −0.39 0.44 1.07 0.22 *−2.45 −0.28 1.51 0.13 0.86 0.65
電話料金 回帰係数 0.00015 0.00015 0.00015 0.00016 0.00011 0.00011 0.00010 0.00011 0.00023 0.00047 0.00046
標準誤差 0.00002 0.00002 0.00002 0.00009 0.00005 0.00005 0.00005 0.00007 0.00007 0.00014 0.00016
t値 *6.81 6.69 6.51 1.76 *2.41 2.34 1.97 1.72 *3.30 3.34 2.79
家族人員 回帰係数 0.09198 0.15543 0.15129 0.90922 0.08088 −0.05929 0.23655 0.31503 −0.54403 0.59901 −0.34712
標準誤差 0.08853 0.08778 0.08759 0.45700 0.19407 0.17126 0.19373 0.25947 0.28958 0.67918 0.70562
t値 1.04 1.77 1.73 *1.99 0.42 − 0.35 1.22 1.21 −1.88 0.88 −0.49
年齢 回帰係数 0.07349 0.09833 0.08036 0.0 8200 −0.13903 −0.05526 0.06709 0.44180 0.45911 0.43967 0.18264
標準誤差 0.06202 0.06150 0.06136 0.1 9106 0.11938 0.12044 0.15535 0.21720 0.23474 0.59001 0.53733
t値 1.19 1.60 1.31 0.43 −1.16 0.46 0.43 *2.03 1.95 0.75 0.34
職業 回帰係数 −0.16184 −0.01687 −0.08931 −0.20594 −0.51017 −0.42245 −0.52725 −0.45801 −0.41959 −0.47819 6.73778
標準誤差 0.28703 0.28477 0.28403 1.60897 0.67113 0.56980 0.63756 0.85644 0.82028 1.80828 1.99964
t値 −0.56 0.06 0.31 0.13 0.76 0.74 0.83 0.53 0.51 0.26 * 3.37
定数項 回帰係数 0.73929 1.07379 1.13810 −1.24189 3.91180 4.00506 2.32531 −0.13343 2.32824 −2.26077 −1.06995
標準誤差 0.56444 0.55972 0.55834 1.67872 1.19794 1.15133 1.55241 2.23730 2.39528 5.71474 4.77122
t値 1.31 1.92 *2.03 −0.74 *3.27 *3.48 1.50 −0.06 0.97 −0.40 −0.22
観測数 4477 4477 4477 271 850 1128 871 561 522 159 115
尤度数 248.00 182.80 182.80 12.77 13.58 31.40 26.32 27.10 42.40 16.97 25.43

(注)t値に係る*は、有意水準5%で有意であることを示している。


4.2.2.2 所得階層別

 所得階層別に分析した結果(所得要因を除いた結果)でみても、多くの所得階層でファクシミリ保有、電話料金が郵便とプラスの相関があり、電話と郵便と電気通信が相乗的に利用されていることがうかがわれる。
a ファクシミリ保有
 400〜600万円、600〜800万円、800〜1,000万円、1,000〜1,500万円、2,000万円以上と多くの所得階層でプラスの相関がある。
b パソコン保有
 400〜600万円、1,000〜1,500万円という所得階層でプラスの相関がある。
c パソコン通信利用
 400〜600万円のみマイナスの相関がある。
d 電話料金
 200〜400万円、400〜600万円、600〜800万円、1,000〜1,500万円、1,500〜2,000万円、2,000万円以上、などほとんどの所得階層でプラスの相関がある。
e 家族人員数
 200万円未満でプラスの相関があった。
f 年齢
 800〜1,000万円でプラスの相関があった。
g 職業
 2,000万円以上でプラスの相関があった。

5 マクロデータに基づく分析

 本節では、毎年のマクロの時系列データを用いて、我が国全体として、電気通信(ファクシミリ設置台数)が郵便利用に与える影響を計量的に分析する。
 具体的には、1年間の郵便の利用通数を被説明変数とし、一方、説明変数にはファクシミリ設置台数の他に、実質化された郵便料金、実質GDPを用いた分析を行っている。6)

5.1 推計方法
(モデル式)
 Q=eα*Pβ*Ttγ*eδ*ST
(推計式)
 InQ=α+βln(p/DEF)+γlnT+δ*S+ε
[Q:郵便の利用通数、p:郵便の料金、DEF:GDPデフレータ(19 90年基準)、T:所得変数(実質GDP(1990年基準))、S:ファクシミリ設置台数、α、β、γ、δは各推計パラメータ、tは推計期間、εはモデルの誤差項]7)

 (被説明変数)
 被説明変数としての郵便の利用通数については、普通通常郵便物、第一種定形郵便物、第一種定形外郵便物及び第二種郵便物にわけて推計することとした。8)
 (推計期間)
 1972年度(昭和47年度)〜1995年度(平成7年度)の24年間分


6) 電気通信に関する説明変数については、ほかに、ファクシミリ価格・電話の通話回数・電気通信事業者の売上高も検討した。その結果、@サンプル数、A回帰モデルへの適合性、B過去の研究でも郵便への影響の大きいメディアとしてファクシミリを挙げているものが多いことなどを勘案し、ファクシミリ設置台数(前期末と当期末の単純平均)を用いた。なお、ファクシミリ設置台数(ストックデータ)については、推計結果(特にDW比)を勘案し、リニアの説明変数とした。
7) データの出所:郵便の利用通数・料金については、「郵便の統計」(郵政省)、GDPデフレータ・実質GDPについては、「国民経済計算年報」(経済企画庁編)、ファクシミリ設置台数については、「通信白書」(郵政省)及び「通信機械工業会」の推計による。
8) 日本においては、普通通常郵便物(内国総郵便物数(1995年度)の95.6%)は、小包郵便物以外の、かつ、速達や書留などの特殊取扱をするものを除いた内国郵便物である。第一種郵便物とは、封書である。第一種郵便物には、重量50g以下で一定の大きさの基準のある定形郵便物(内国総郵便物数(1995年度)の43.5%)と、それ以外の定形外郵便物(内国総郵便物数(1995年度)の5.0%)がある。第二種郵便物とは、はがきである。(内国総郵便物数(1995年度)の26.8%))なお、説明変数としての郵便料金については、普通通常郵便物は、第一種定形郵便物と第二種郵便物料金についての1995年度利用物数による加重平均値、第一種定形郵便物は25gまでの料金、第一種定形外郵便物は50gを超え100gまでの料金(第一種定形、第一種定形外とも平均料金がこの料金帯に最も近い。)、第二種郵便物は通常はがきの料金である。


5.2 推計結果9)

 (普通通常郵便物の利用通数)
lnQ=5.18−0.20ln(p/DEF)+0.92lnT
t値→(15.37)(−11.91)(32.88)+0.000013S(6.20)〈R=0.997、DW=1.75〉係数のt値、自由度調整済み決定係数、DW比もすべて良好である。
 (第一種定形郵便物の利用通数)
lnQ=0.56−0.30ln(p/DEF)+1.23lnT
t値→(0.46)(−9.75)(12.49)+0.000023S(3.37)〈R=0.997、DW=1.35〉
係数のt値と自由度調整済み決定係数は良好である。
 (第一種定形外郵便物の利用通数) lnQt=0.23−0.52ln(p/DEF)t+1.15lnTt
t値→(0.14)(−6.89)(8.28)+0.000028S (2.67) 〈R=0.983、DW=1.98〉係数のt値、自由度調整済み決定係数、DW比もすべて良好である。
 (第二種郵便物の利用通数)10)
lnQ=7.73−0.12ln(p/DEF)t+0.61lnTt
t値→(11.30)(−3.01)(10.86) 〈R=0.994、DW=1.42〉
 係数のt値と自由度調整済み決定係数は良好である。
 以上より、普通通常・第一種定形・第一種定形外郵便物の利用通数については、ファクシミリ設置台数のt値は有意で、係数の符号が正であることから、ファクシミリ設置数と郵便の利用通数とはプラスの相関がある。11)


9) t値に係る*は有意水準5%で有意であることを示し、DW比に係る*は有意水準5%で系列相関のないことを示す。
10) 第二種郵便物の利用通数については、ファクシミリ設置数の係数については有意な結果が得られなかったので、ファクシミリ設置数を除いて再推計した。
11) 郵政研究所においては、過去にもファクシミリの郵便への影響についてのマクロ計量分析を行った。(1990年4月)その時の分析では、@推計式は対数変換なし、A推計期間は1969年〜1987年、Bファクシミリ関係指標では、「出荷台数」と「ファクシミリ価格」の2種類についてそれぞれ行った。推計結果は、「出荷台数」「ファクシミリ価格」いずれの場合にも、今回と同じく、ファクシミリの利用と郵便利用とはプラスの相関関係を示す結果となっている。
13) Plum[1997]p.275の指摘(「かならずしも全ての電気通信が書状郵便の代替手段となるわけではない。新しい通信メディアは書状郵便と併せて使用されることが多い。その良い例として、最初にファクシミリで文書を送付した上で、後で確認のために郵便で送ることがある。」)は、我が国の場合に当てはまる可能性が高いと考えられる。


6 現状分析結果まとめと将来予測

6.1 現状分析の結果

 我が国においては、近年、第2章でみたように電気通信の著しい進展にもかかわらず、郵便全体の需要は増加傾向にある。第3章‐第5章までの実証分析からも、郵便は、全体としては、電気通信と代替しているというよりも、相乗的に増加していることをうかがわせる結果となっている。また、ファクシミリの保有が、郵便を相乗的に増加させている傾向があることがわかる。13)
 もちろん、詳細にみれば、電気通信の影響により郵便需要が減少し、代替が起こっていると考えられるものもある。2.2でみたように、郵便の交流状況の中の事業所間通信のウェイトの低下や利用内容別差出の中の「業務用通信」「申込・照会等」等のウェイトの低下は、企業間通信において、電気通信が郵便に代替してきているからと考えられる。これは、3でみたように、企業間通信を主とする産業が、相対的に電気通信サービスの利用を上昇させ、郵便需要を下降させているという実証的な面からの傾向からもうかがわれる。また、金融業や主要な製造業など従来から郵便需要の大きかった産業については、2.1でみたように、新しい電気通信メディアの導入を積極的に進めており、通信費全体の戦略的削減の中で、効率的な電気通信利用を行い、3でみたように、全体の電気通信サービスの費用のみならず、郵便の利用も削減していると考えられるものある。
 しかし、2.2でみたように、郵便の交流状況の中で事業所から私人への通信のウェイトが上昇してきており、また、金銭関係、ダイレクトメールなどの郵便のウェイトが上昇してきている。また、3でみたように、これらの郵便を多く利用すると考えられる産業が、電気通信も郵便サービスも共に増加させている傾向があることから、情報通信量全体の飛躍的拡大の中で、郵便と電気通信が相乗的に増加していると考えられる。すなわち、企業・産業レベルでみれば、近年、電気通信は郵便需要にマイナスの面でもプラスの面でも影響を大きく与えていると考えられる。しかし、プラスの影響が、マイナスの影響を上回って、郵便全体を計測対象とした分析については、郵便と電気通信は相乗的に増加していることをうかがわせる結果となったと考えられる。また、世帯レベルでみると、電気通信が郵便にまだ、大きな影響を与える段階には達していないと考えられる。
 以上の結果、3でみたように、郵便は、産業及び世帯を問わず、経済全体の中で安定的な地位を確保してきていると考えられる。

6.2郵便のメディア特性

 このように、現状において、郵便全体でみると、電気通信とプラスの相関が生じている結果となった大きな理由としては、電気通信にはない郵便のメディア特性が考えられる。
 すなわち、郵便は、情報を記載した紙を中心とするモノの交換により、「情報交換」という機能と「輸送」という機能を併せ持ったメディアである。他方、電気通信は、「情報交換」という側面では、優れた機能を持っているが、「輸送」という機能を持っていないメディアである。
 具体的には、電気通信については、情報を速やかに伝えることのできる「迅速性」、発信者の一方的な情報提供だけではなく受信者からも同時にアクションを起こせる「双方向性」など郵便にはない優れたメディア特性を有している。
 しかし、郵便は、現物をそのまま送れることによる「現物性」や「証拠性」、儀礼的な通信に使える「儀礼性」、重要な通信に使える「秘密性」、いつでもどこでも見ることのできる「手軽さ」、速読でも内容が理解できる「一覧性」というメディア特性を有する。さらに、電気通信の現状を考慮すると、安価に情報を全国に送ることができる「低廉性」、大量の情報を送ることのできる「大量性」を付け加えることができる。
 郵便と電気通信は、経済が成長し、情報流通が盛んになり、通信量が急速に拡大していく中で、このようなメディア特性に応じて使い分けられてきていると考えられる。そのため、「迅速性」など電気通信のメディア特性が重視される企業間通信などについては、電気通信の影響で郵便需要が減少していると考えられるものの、郵便全体としては、電気通信と相乗的に増加してきているものと考えられる。


6.3 将来の予測

 今後、電気通信がさらに飛躍的に進展し、パソコンとつながることによりマルチメディア化が一層進展していくことは確実である。このような電気通信の進展が郵便にどのような影響に与えるかについては、今回の現状分析の傾向がそのまま続けば、電気通信の進展は郵便全体の需要を増加させる要因になる。
 しかし、今後、電話、ファクシミリなどのほかに、電子メール、インターネット、EDI等の新しい電気通信メディアが、企業のみならず、世帯にまで広く普及していくことが確実であることを考えると、これらの新しい電気通信メディアが郵便に与えると予想される影響、特に代替可能性という視点から慎重に考察する必要がある。14)
 以下では、最近郵便の中でウェイトが高まってきているダイレクトメール及び金銭関係郵便、企業間通信郵便、従来より全体に占めるウェイトが大きいが変化のあまりない個人間通信郵便への影響について、若干の考察を行う。

6.3.1 ダイレクトメールへの影響

 今後、ダイレクトマーケティングの手段として、ダイレクトメールより電気通信メディアが選択され利用されていく可能性が高く、これは、ダイレクトメールの需要にマイナスの影響を与えると考えられる。
 しかし、郵便のメディア特性から、ダイレクトメールの需要も、依然として根強く存続すると考えられる。
 すなわち、ダイレクトメールは、第一に「現物性」という特性から、商品のサンプルなどを送付できることができ、また、視覚、聴覚だけでなく、触覚、嗅覚などを通しても商品を潜在顧客に理解させることができる。第二に、パソコンの画面と比べ、ダイレクトメールにより送付される印刷物は視覚にやさしく、これは情報量が増えれば増えるほどその傾向が強まる。第三に、ダイレクトメールは、インターネットと比べ、幅広く潜在顧客情報を入手しやすく、顧客のターゲットを絞り込みやすいという特性がある。第四に、電気通信メディアの場合、顧客がアクセスするためには、通信料金を顧客側が負担しなければならないことや電子メールのジャンクメールは、郵便より、顧客側に大きな負担をかけるという弱点がある。
 また、インターネット(ホームページ)等電気通信メディアの急速な普及により、我が国においてはまだ普及率が低いオンラインショッピングが拡大すると考えられる。企業側からみると、オンラインショッピングの顧客は、今後も取引継続する可能性が高い顧客であり、企業はこれらの顧客の継続的購入を促すための積極的な手段として、ダイレクトメールを送付すると予想される。従って、オンラインショッピングの拡大は、ダイレクトメールの需要を拡大する傾向があると考えられる。
 上記に加え、ダイレクトマーケティングという手法が、今後、広告手段として進展していくと考えられること、特に、我が国におけるダイレクトメールの市場はまだ小さく15)、今後成長していく可能性の余地が大きいことに鑑みると、我が国のダイレクトメールは、全体としてみると一層増加していくと考えられる。

6.3.2 金銭関係郵便への影響

 金銭関係郵便は、金銭の決済があれば、それにともなって発生する。通常、どこの国においても法制度や慣習により、金銭の決済に付随する請求書、領収書等は書面化される。そのため、経済活動が活発になり決済が増えれば増えるほど、金銭関係郵便は増加していく。16)
 例えば、電気通信メディアの普及の影響という視点からいえば、現在でも、電気通信事業者等の企業数及びその顧客が増大することに伴い、その利用料金についての請求書等の送付が生じ、かえって、郵便需要は増大していると考えられ、今後も、この傾向は継続する可能性が高い。また、最近では、電子マネーが注目されており、その郵便利用へのマイナス影響に関心がもたれている。電子マネーには、現金代替型とクレジットカード代替型の2種類ある。現金代替型の電子マネーは、現金、小切手との代替であり、小切手をあまり利用しない我が国においては、郵便とはほとんど代替しないと考えられる。
 また、クレジットカード代替型の電子マネーについては、現在のクレジットカードと同じく、銀行口座を通じた決済が行われ、それに伴う請求書等の送付のための郵便需要は依然として存在し、郵便とはほとんど代替しないと考えられる。むしろ、我が国の場合、まだクレジットカードの利用が少なく、電子マネーやクレジットカードの利用増が進むと請求書の送付が増え、郵便需要増となる。
 もっとも、今後、電気通信技術の進展に伴い、法制度や慣習の変更により、電気通信メディアが、現物にかわって証拠能力を持つようになり、かつ、社会がそれを受容するようになれば、郵便需要に大きなマイナス影響を与えると考えられる。

6.3.3 企業間通信郵便への影響

 現状分析でわかったように、企業間通信に利用される郵便は、決済を伴う金銭関係郵便となるものを除き、今後も一層、電気通信に代替していく可能性が高く、郵便は、電気通信との競争が激しくなると考えられる。

6.3.4 個人間通信郵便への影響

 今後、ファックスや電子メールの利用が家庭に普及していくことは確実である。これらのメディアを利用すれば、個人間通信郵便の必要性がなくなる可能性がある。しかも、若年層を中心としたメンタリティの変化により、特に、郵便の特性である「儀礼性」が尊重されなくなっていく傾向があることを考慮すると、むしろファックスや電子メールへの代替が急速に進展する可能性がある。
 しかし、ファックスや電子メールは、郵便を代替するより、電話を代替していく可能性も高い。また、郵便は、その「現物性」から、封筒、便せん、肉筆の文字というものを送付できることにより、通信内容そのもの以上に手紙そのものを受取人にアピールできる心のこもったハイタッチな贈り物ともなる。
 これらを考慮すると、電気通信との競争は激しくなるものの、郵便事業が的確な対応をすれば、個人間通信郵便へのマイナスの影響は、当面はそれほど大きくはないと考えられる。


14) 現在、想定できない電気通信メディアが生まれ、普及していくことも考えられるが、ここでは想定できる電気通信メディアに限定する。
15) 我が国における全広告費の中でダイレクトメールによる広告費の占める割合は、拡大傾向にあるものの、約5%にすぎない。米国の約20%と比較するとまだかなり小さい。
16) Azumi[1994]参照


〈参考文献〉


1 Azumi,Toru[1995]"On the Structure of Inter-Firm Postal Demand"Commercialization of Postal and Delivery Services:National and International Perspectives,edited by M.A.Crew & P. R. Kleindorfer, Norwell:Kluwer Acade mic Publishers, Chap.13
2 Nikali, Heikki[1995A]"Replacement of Letter Mailby Electronic Communications to the Year 2010" Commercialization of Postal and Delivery Services:National and International Perspectives, edited by M. A. Crew & P. R .Kleindorfer, Norwell:Kluwer Academic Publishers, Chap.15
3 Nikali, Heikkii[1995B]"The Generative Effecton Letter Services of Electronic Communications"Manuscript presented to the Workshop on Postal and Delivery Economics, Naantali, Finland, June 1995
4 Nikali, Heikkii[1997]"Demand Models for Letter Mail and its Substitutes: Result from Finland"Managing Change in the Postal and Delivery Industries, edited by M. A. Crew & P. R. Kleindorfer, Norwell : Kluwer Academic Publishers, Chap.7
5 Plum, Monika[1997]"The Challenge of Electronic Competition: Empirical Analysis of Substitution Effectson the Demand for Letter Services"Managing Change in the Postal and Delivery Industries,edited by M. A. Crew & P. R. Kleindorfer, Norwell: Kluwer Academic Publishers, Chap.14
6 Wolak, Frank A.[1997]"Changes in the Household-Level Demand for Postal Delivery Servicesfrom 1986 to 1994"Managing Change in the Postal and Delivery Industries, edited by M. A. Crew & P. R. Kleindorfer, Norwell: Kluwer Academic Publishers, Chap.8
7 Japan’s Postal Service 1996 edited by Postal Bureau, Ministry of Posts and Telecommunications
8 White Paper 1996 Communicationsin Japan, edited by Ministry of Posts and Telecommunications
9 安住透・村尾昇[1994]『郵便物数の動向と将来予測に関する調査研究』郵政研究所調査研究報告書
10 東條進・佐々木勉[1990]『高度情報社会における記録通信の機能に関する研究調査』郵政研究所調査研究報告書
11 経済企画庁編『国民経済計算年報』
12 郵政大臣官房財務部編『通信利用動向調査報告書』
13 郵政省郵務局編『最近における郵便の利用構造‐郵便利用構造調査結果報告書‐』
14 郵政省郵務局編『郵便の統計』
15 郵政省編『通信白書』
16 総務庁編『平成2年(1990年)産業連関表』


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