郵政研究所月報 1998.10
地域経済の将来展望―地域における製造業振興と情報化への取り組み―
第三経営経済研究部研究官 望月 昭彦
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はじめに各都道府県(以下「県」という)の産業構造を県内総生産に占める構成比でみた場合、全国平均の第一位産業は製造業であり、47県中37県が全国同様である1。産業のサービス業へのシフトが言われる中で、多くの県では製造業への依存度が大きい。しかし近年、製造業を取り巻く状況は、バブル景気崩壊後のリストラ等の構造調整、円高の進行による日本企業の海外進出、東アジア地域での技術の進展に伴う競争激化などから厳しいものがあり、製造業に依存する地域経済に少なからず影響を及ぼしている。 このような厳しい状況に対して、産業構造の転換による地域経済の活性化が叫ばれているが、これまで長い年月をかけて集積してきた地域の産業構造を早晩転換するのは難しく、当面は既存の技術を活かしながら新しい産業の育成を目指す必要があろう。 そこで本稿では、長野県や郵政省の施策等を例にとり、地域がどのように産業振興に取り組んでいるのかを検討する。 長野県を例に取り上げるのは、@昭和30年代以降精密、電機、一般機械等の加工組立型産業を中心に製造業の集積が行われ、現在においても県内総生産における製造業の占める割合が高いこと(平成7年における全生産額に占める製造業の比率29.0%)、A東京、愛知等の大都市圏とは近接し、これら都県の衛星県として位置付けられているものの、独立して扱われることも多く、県単位での状況をみるのに適していること等の理由による。 本稿の構成は、第1章で長野県の産業構造の変化について、第2章で長野県の製造業が抱える課題を、第3章では長野県の製造業振興への取り組みについて「長野県テクノハイランド構想」等を例に述べ、第4章では、産業の高度化と密接な関係を持つ情報化について、郵政省が現在進めている地域振興関連施策の概要を述べる。また第5章では、情報化による地域振興への取り組みの具体的な事例としてマルチメディアによるまち創りを推進し、地域の活性化をめざす諏訪地域のスマートレイク構想を紹介することにする。 |
第1章 長野県の産業構造の変化1.1 第1・2・3次産業別の動向1.1.1 生産額からみた第1・2・3次産業別の動向長野県の産業構造を、第1・2・3次産業別の県内総生産でみると(表1−1)、平成7年度における構成比で最も大きいものは第3次産業(58.1%)であり、次いで第2次産業(43.4%)、第1次産業(2.6%)の順になっている。一方全国をみると、産業別の順位は長野県と変らないものの、構成比は第3次産業(68.5%)、第2次産業(34.2%)、第1次産業(1.6%)となっており、長野県と比べて第3次産業の割合が高く、第1・2次産業の割合が低いことがわかる。 また、この構成比の推移を昭和50年度から5年毎にみると、第1次産業については、長野県、全国とも割合を低下させている。ただし、下げ幅は長野県の方が大きく、昭和50年度に5ポイント近くあった全国との差は、平成7年度には1ポイントに縮小している。第2次産業については、全国は昭和50年度以来減少傾向であるのに対し、長野県は常に4割を越えており、平成7年度と昭和50年度を比べた場合、全国が比率を低めているのに対し、長野県は高めている。第3次産業については、全国は昭和50年度以来比率を高めており、長野県も一旦落ち込んだ年もあったものの、概ね増加傾向にある。しかし、5年毎の構成比でみた場合、長野県は全国に比べ概ね10ポイント前後小さいことがわかる。 次に、平成7年度における第2次産業、第3次産業の内訳をみてみると(表1−2、1−3)、長野県の構成比が比較的高い第2次産業については、製造業が最も大きく(第2次産業生産額全体に占める割合:66.7%)、次いで建設業(同32.5%)、鉱業(同0.8%)となっている。同様に全国平均をみると、構成比の順位は長野県と同じであるものの、長野県と比べ建設業の比率が低く、製造業の比率が高くなっている。(ただし、平成7年度に長野県の建設業の割合が特に高くなっているのは、オリンピック関連事業や高速交通網整備事業といった特殊要因によるところが大きいとみられる。) 第3次産業については、長野県、全国ともサービス業の割合が年々増加しており、平成7年度には全体の1/4を占め、最も大きくなっている。卸売・小売業については、長野県、全国とも構成比を下げてきているが、平成2年度までは概ね同程度の下げ幅だったのに対し、2年度から7年度にかけては、長野県が大きく下げており、この結果、7年度の構成比で比べると、全国が長野県を6ポイント以上上回っている。そのほかには、不動産業の割合がどちらも年々増加しているが、特に長野県は昭和60年あたりから全国を上回り、平成7年度には県全体の2割を占めている。政府サービスは常に県が全国を上回っているが、どちらも年々構成比を下げてきている。
以上から、第1・2・3次産業別の県内総生産でみると、長野県、全国とも第3次産業の割合が最も高い。しかし、個々の業種別に全産業を通じてみると製造業の生産額が最も大きくなっていることがわかる。 |
(資料)「県民経済計算年報」より作成。
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(資料)「県民経済計算年報」より作成。
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(資料)「県民経済計算年報」より作成。
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1.1.2 就業人口からみた第1・2・3次産業別の動向次に長野県の産業構造を就業人口からみてみよう。産業別の就業者数を長野県と全国平均で比較すると(表1−4)、平成7年では県内生産額同様長野県、全国とも第3次産業の就業者数が最も多く、次いで第2次産業、第1次産業の順になっている。これを昭和50年以降5年毎の推移でみると、第1次産業については、長野県、全国とも減少してきている。しかし、構成比は長野県の方が大きく、平成7年時点でも1割以上を占めている。第2次産業については、長野県と全国では異なる動きを示している。すなわち、全国では就業者数が逓減傾向にあるのに対し、長野県は平成2年まで増加しており、平成7年も減少はしたものの、昭和55年と同じ割合を維持している。一方、第3次産業については、長野県、全国とも年々増加してきている。ただし、長野県の場合、全国と比較して、第1次、第2次産業の就業者の割合が高いだけ、第3次産業の割合が低く、全国が昭和50年時点で5割を越えているのに対して、長野県は平成7年で5割を越え、全国より10ポイント以上低くなっている。 さらに第2次、第3次産業の就業者を業種別にみると(表1−5、1−6)、第2次産業については、長野県、全国とも生産額同様製造業の割合が高く、鉱業の割合が低い。ただし製造業の場合、平成2年までは第2次産業の7割を占めていたのに対し、平成7年には7割を下回っており、いわゆるバブル景気崩壊後のリストラの影響によるものと考えられる。これに対して、平成7年においては、建設業が割合を伸ばし、長野県、全国とも3割に達している。 一方、第3次産業については、長野県、全国ともサービス業、卸売業・小売業の割合が圧倒的に高い。ただし、サービス業が年々増加してるのに対し、卸売業・小売業は逆に割合を低下させている。また、長野県の場合全国に比べて、卸売業・小売業の割合はほぼ同じものの、金融・保険業、不動産業、運輸・通信業の割合が低い分、サービス業の割合が高くなっている。 また、第2次、第3次産業を通じてみた場合、長野県の場合は、平成7年には就業者は減っているものの、依然製造業の就業者が最も多い。これに対して、全国では平成2年までは製造業の就業者数が、長野県同様サービス業、卸売業・小売業の就業者数を上回っていたものの、平成7年時点では人数が逆転している。 このように全国的には、製造業の就業者の割合が減っているものの、長野県の場合、依然製造業が雇用の中核になっていることがわかる。そこで以下では、長野県の製造業の状況について詳しくみてみる。 |
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