郵政研究所月報 1998.10
郵便事業に関する産業連関分析1元第一経営経済研究部主任研究官 山浦 家久 [要約]
|
1 はじめに1.1 研究の趣旨国民経済を構成する各産業部門は、相互に取引関係を結びながら生産活動を営み、複雑な相互依存関係の網の目を通じてつながっている。 ある産業の生産活動は、一方では他産業の生産活動の動向に左右されるとともに、他方、他産業の生産活動の動向に影響を及ぼしている。 今回の調査研究の目的は、産業連関分析の手法を用いて、生産額がおよそ2兆円を超える郵便という事業が、他産業からどのような影響を受けているかを分析するとともに、また、郵便事業が他の産業にどのような影響を及ぼすかについて分析することである。特に、今回の分析では、郵便事業と密接不可分な通信販売業、メーリングサービス業などの、いわゆる郵便周辺産業と郵便事業との相互依存関係を計量的に分析しようとするものである。 既に、産業連関表を用いて郵便事業を分析したものとしては、『電気通信の郵便に与える影響』2の中で行った郵便と国内電気通信の投入比率の時系列的変化を、昭和55年、昭和60年、平成2年、平成4年、の4時点で分析した研究がある。 この研究では、@国内電気通信の投入比率は上昇傾向にあるのに対して、郵便の投入比率は安定的であること、A郵便と国内電気通信の投入比率が共に上昇している産業に郵便需要が集中する傾向にあるという分析結果が得られている。 本研究では、郵便事業について、上記の分析に引き続いて、新たに「郵便事業分析用産業連関表」を作成し、これに基づき、代表的な産業連関分析の手法を用いて、郵便事業と他産業、特に郵便周辺産業との相互依存関係の分析を行おうとするものである。 1.2 産業連関表の形態産業連関表は、一定期間(作表対象としての期間は1年間)の各産業の投入・産出という取引過程を経て行われる生産活動の実態を総体的に表した表であり、一国の産業構造を一覧表の形で表した表である。 我が国の「産業連関表(基本表)」3については、行が約400部門、列が約500部門設定し、西暦年の末尾が0又は5となる年を対象として、総務庁をとりまとめ省庁とし、関係省庁(現在は11省庁)の共同事業として作成されている。作表は昭和30年表から開始され、現在、平成2年表が最新版である。 なお、郵政省では昭和50年表から産業連関表の作成事業に参画している。 ほかに、「産業連関表(基本表)」を基に、各省庁及び各地方自治体では、独自に産業連関表を作成している。郵政省については、情報通信産業に関する詳細な部門設定をした「郵政産業連関表」を作成している(図表1―1参照)。 |
産業連関表 (基本表) |
産業連関表 (延長表) |
郵政産業連関表 | 郵便事業分析用 産業連関表 | |
特色 | 我が国の経済構造全体を明らかにする政府の基礎統計の一つとして関係省庁の共同事業により、5年ごとに作成されている、最も基本となる産業連関表である。 | 産業連関表(基本表)を基に、ほぼ同様の部門数で、各年を対象年次として、作成されている産業連関表である。 | 産業連関表(基本表)、産業連関表(延長表)を基に、情報通信産業を詳細に分類する一方、他の産業は統合化し、各年を対象年次として、作成されている産業連関表である。 | 産業連関表(基本表)、産業連関表(延長表)を基に、郵便周辺産業を詳細に分類する一方、他の産業は統合化して、作成されている産業連関表である。 |
対象期間 | 昭和30年―平成2年 (5年ごと) |
昭和48年―平成7年 (毎年) |
昭和55年、昭和60年、平成2年−平成6年
|
平成2年、平成6年 |
作成機関 | 総務庁(関係11省庁の共同事業) | 通商産業省 | 郵政大臣官房財務部 | 郵政省郵政研究所 |
部門構成 | 行部門:527 列部門:411 |
行部門:525 列部門:409 |
行部門:74 列部門:74 |
行部門:53 列部門:53 |
|
2 郵便事業分析用産業連関表の枠組み2.1 作成対象作成対象としては、直近の産業連関表(基本表)のデータが得られる平成2年と、郵便周辺産業等の直近のデータが得られる平成6年について、「郵便事業分析用産業連関表」を作成する。 2.2 郵便周辺産業の範囲と部門分類郵便事業分析用産業連関表では、郵便事業と密接に関係する産業を「郵便周辺産業」と位置付け、@郵便大口利用産業、A郵便大口利用者支援産業、B郵便ユーザー支援産業、C郵便業務支援産業、の4つの産業に分類している。 |
(注)矢印は、財・サービスの流れ |
2.2.1 郵便事業「産業連関表(基本表)」の「郵便」が該当する。 2.2.2 郵便周辺産業2.2.2.1 郵便大口利用産業2.2.2.1.1 範囲生産のために郵便を大量に利用する産業を「郵便大口利用産業」と呼ぶ。この部門は、平成2年産業連関表(基本表)でみて、郵便サービスの利用金額が年間200億円を超える産業を対象とした(郵便大口利用産業以外の郵便周辺産業を除く。)。 2.2.2.1.2 該当部門商業4、金融、公務、通信販売業、保険、国内電気通信、出版、情報サービス、教育、社会保険事業、対家計民間非営利団体、水道・ガス・熱供給業、電力 2.2.2.1.3 郵便サービスの利用金額図表2ー3のとおりである。 |
|
利用金額 | 郵便の投入比率 | 国内生産額 |
商業 金融 公務 通信販売業 保険 国内電気通信 出版 情報サービス 教育 社会保険事業 対家計民間非営利団体 水道・ガス・熱供給業 電力 |
205,033 128,734 119,195 55,812 46,091 41,102 39,701 31,350 31,141 26,948 25,290 27,156 25,088 |
0.2488 0.0059 0.0058 0.0788 0.0049 0.0062 0.0181 0.0048 0.0194 0.0243 0.0085 0.0037 0.0022 |
82,414,379 21,834,373 20,409,493 708,340 9,417,170 6,647,226 2,197,273 6,517,052 18,301,105 1,106,701 2,982,450 7,396,095 11,465,552 |
2.2.2.2 郵便大口利用者支援産業2.2.2.2.1 範囲郵便大口利用者向けに財・サービスを提供し、郵便大口利用者の郵便の利用を支援する産業を「郵便大口利用者支援産業」と呼ぶ。 2.2.2.2.2 該当部門メーリングサービス業、DM広告業 2.2.2.3 郵便ユーザー支援産業2.2.2.3.1 範囲郵便ユーザー全般に財・サービスを提供し、郵便の利用を支援する産業を「郵便ユーザー支援産業」と呼ぶ。 2.2.2.3.2 該当部門便箋・封筒等紙製品製造業 2.2.2.4 郵便業務支援産業2.2.2.4.1 範囲郵便事業を営む上で密接不可分な財・サービスを提供する産業を「郵便業務支援産業」と呼ぶ。 2.2.2.4.2 該当部門運輸業、郵便受託業 2.3 郵便事業分析用産業連関表の部門構成郵便事業分析用産業連関表は、国内生産額・投入額・産出額推計に関する統計データ等の制約から生ずる産業連関表の精度を勘案し、図表2―4に示す53部門の構成とした。 郵便周辺産業の中で、「産業連関表(基本表)」の基本分類では捉えることができない、通信販売業は「小売」(本表では通信販売業以外の「小売」と「卸売」を「商業」に統合)、メーリングサービス業は「その他の対事業所サービス」、DM広告業は「列:広告、行:新聞・雑誌・その他の広告」、便箋・封筒等紙製品製造業は「その他のパルプ・紙・紙加工品」、郵便受託業は「その他の通信サービス」、からそれぞれ分割し、新たな部門設定を行った。 |
|
3 郵便事業の投入・産出構造3.1 投入構造郵便事業の他の産業からの投入比率は、平成2年が16.13%、平成6年が16.08%と、投入比率が極めて低いのが特徴的である。 平成6年の郵便事業の投入構造をみると、運輸が864億円(投入比率4.17%)、金融が399億円(同1.93%)、不動産が357億円(同1.73%)、その他の対事業所サービスが284億円(同1.37%)が金額の大きなものである(図表3―1参照)。 |
|
平成2年 | 平成6年 | |||
投入額 | 投入比率 | 投入額 | 投入比率 | ||
中 間 投 入 計 |
総計 | 266,083 | 16.13 | 332,777 | 16.08 |
運輸 金融 不動産 その他の対事業所サービス 電力 石油・石炭製品 印刷・製版・製本 商業 建設 情報サービス 郵便受託業 国内電気通信 水道・ガス・熱供給業 繊維製品 保険 新聞 化学製品 |
63,836 33,087 30,358 18,868 11,516 12,161 12,035 10,467 8,099 7,752 8,560 9,369 3,914 3,998 2,034 2,246 2,015 |
3.87 2.01 1.84 1.14 0.70 0.74 0.73 0.63 0.49 0.47 0.52 0.57 0.24 0.24 0.12 0.14 0.12 |
86,365 39,913 35,696 28,394 15,777 15,361 14,506 12,655 12,051 9,794 8,993 6,695 5,508 3,816 3,171 2,682 2,202 |
4.17 1.93 1.73 1.37 0.76 0.74 0.70 0.61 0.58 0.47 0.43 0.32 0.27 0.18 0.15 0.13 0.11 | |
粗付加価値部門計 | 1,383,689 | 83.87 | 1,736,369 | 83.92 | |
国内生産額 | 1,649,772 | 100.00 | 2,069,146 | 100.00 |
3.2 産出構造郵便事業の産出先を中間需要と最終需要に分けると、平成6年については、中間需要が74.9%、最終需要については民間消費支出が23.4%、その他の最終需要が1.8%の割合である。また、中間需要について、郵便大口利用産業の割合は、全体の45.0%である(図表3―2参照)。 また、個別産業で、郵便事業の産出先として大きな割合を占める産業を抜き出したのが、図表3―3で、平成6年は、公務(全需要の7.55%)、商業(同6.76%)、金融(同6.45%)、建設(同4.33%)、対個人サービス(同3.89%)などである。 |
4 郵便事業分析用産業連関表に基づく分析結果4.1 郵便事業の需要構造4.1.1 郵便事業と最終需要との関係4.1.1.1 分析目的と分析方法産業連関表では、国内生産額は、最終需要によって誘発されるものであると考え、その生産誘発依存度を計算することによって、最終需要の変化が各部門の生産にどのような影響を与えるかを分析する。 ここでは、郵便事業及び郵便周辺産業について、最終需要による生産誘発依存度を測定し、その産業構造の特徴を明らかにする。 4.1.1.2 分析結果(図表4―1参照)郵便事業の需要の約6割は民間消費支出をまかなうための生産から直接・間接的に発生したものである。平成2年における民間消費支出に対する生産誘発依存度は、58.5%、平成6年は60.7%であった。 これを郵便周辺産業及び全産業平均と比べると、郵便事業は郵便周辺産業よりも約5ポイント、全産業平均よりも12〜13ポイントも高く、郵便事業が民間消費支出の動向から強い影響を受けやすいという特徴がうかがえる。 また、平成2年と平成6年を比較すると、平成6年の方がより民間消費支出による生産誘発依存度が高い。一般政府消費支出も同様の傾向を示し、両者を合わせると、民間消費支出に対する依存度は平成2年の70.1%から平成6年の72.9%に2.8ポイント上昇した。 |
|
家計外 消費支出 |
民間 消費支出 |
一般政府 消費支出 |
国内総固定 資本形成(公的) |
国内総固定 資本形成(民間) |
在庫 純増 |
輸出 | 合計 |
郵便事業 平成2年 平成6年 |
3.9 3.6 |
58.5 60.7 |
11.6 12.2 |
3.9 5.3 |
14.2 11.7 |
0.4 ―0.1 |
7.5 6.6 |
100.0 100.0 |
郵便周辺産業 平成2年 平成6年 |
2.5 2.3 |
53.7 54.4 |
17.4 18.7 |
3.4 4.3 |
14.7 13.6 |
0.3 ―0.1 |
8.0 6.7 |
100.0 100.0 |
産業平均 平成2年 平成6年 |
3.3 3.2 |
45.6 48.9 |
6.4 7.4 |
7.2 9.7 |
24.5 19.8 |
0.6 ―0.2 |
12.3 11.2 |
100.0 100.0 |
4.1.2 郵便需要の変化に関する変動要因4.1.2.1 分析目的と分析方法経済のサービス化を経済全体に占めるサービス部門の比率が増加していくことととらえ、産業構成の中でサービス部門が大きな比率となることが、郵便需要にとってプラス要因となるかどうかを明らかにする。 このため、産業連関分析の分析方法の一つである変動要因分析5の手法を用いて、平成2年の郵便事業の国内生産額から平成6年の郵便事業の国内生産額の変化を、各部門の郵便の投入比率の変動分、各部門の国内生産額の変動分、両者の変化による変動分(交絡項)、の3つに分けるとともに、さらに、産業をサービス部門及び物財部門の2つに分け、郵便事業の国内生産額の変化をみる。 4.1.2.2 分析結果(図表4―2参照)
|
4.2 郵便事業の他産業への影響4.2.1 郵便料金改定による価格波及効果4.2.1.1 分析目的と分析方法郵便料金改定による諸物価への影響の強さとその特徴を明らかにするため、郵便事業及び郵便事業と同様に通信産業の一つである国内電気通信事業の料金改定による各産業への影響を産業連関分析の価格波及モデル6によって計測する。 産業連関分析の価格波及モデルは、価格変動が需要量に影響を与えないことを前提としており、全ての部門の取引において生産要素価格の変化が全て産出価格に転嫁された場合に市場で成立すると期待される計算上の均衡価格である。通常の場合、投入される財の価格が変動すると、その財の需要が変動するため、その財に支出される費用の変動額はその財価格の変動率ほどは変化しない。 したがって、以下の分析も産業連関分析上の理論値を求めているのであり、生産者価格への潜在的影響力をみるための分析であることに十分注意する必要がある。 4.2.1.2 分析結果4.2.1.2.1 産業への価格波及@ 郵便料金改定の価格波及
郵便料金改定による価格波及を最も強く受ける部門は、郵便大口利用者支援産業である。この産業は、平成6年を例にとると、その改定率の23.53%分変動する。その他に影響の大きい産業は、郵便大口利用産業で、改定率の0.54%分変動する。 |
部門名 | 平成2年 | 平成6年 | |
郵便大口利用産業 | 0.48% | 0.54% | |
郵便大口利用者支援産業 | 22.82% | 23.53% | |
郵便ユーザー支援産業 | 0.18% | 0.22% | |
郵便業務支援産業 | 0.20% | 0.22% | |
農林水産業 | 0.10% | 0.10% | |
鉱工業・建設 | 0.17% | 0.18% | |
サービス | 0.23% | 0.25% | |
産業平均 | 0.47% | 0.55% |
A 国内電気通信料金改定の価格波及 国内電気通信の料金改定の影響を強く受ける産業は、郵便の場合と同様に、郵便大口利用者支援産業で、平成6年については、国内電気通信の料金改定率の2.79%分価格が変動する。また、産業平均では、1.67%(平成2年)、1.87%(平成6年)価格変動を招く(図表4―4参照)。 |
部門名 | 平成2年 | 平成6年 | |
郵便事業 | 0.70% | 0.47% | |
郵便大口利用産業 | 1.37% | 1.19% | |
郵便大口利用者支援産業 | 2.73% | 2.79% | |
郵便ユーザー支援産業 | 0.62% | 0.66% | |
郵便業務支援産業 | 0.96% | 1.02% | |
農林水産業 | 0.36% | 0.34% | |
鉱工業・建設 | 0.55% | 0.53% | |
サービス | 0.92% | 0.96% | |
産業平均 | 1.67% | 1.83% |
B 郵便と国内電気通信の料金改定の産業への価格波及の比較 郵便と国内電気通信の料金改定の影響を産業平均で比較すると、平成2年では、郵便は0.47%、国内電気通信は1.67%、平成6年では郵便は0.55%、国内電気通信は1.83%と、国内電気通信は郵便の約3倍の価格変動を招く(図表4―5参照)。 |
4.2.1.2.2 家計(民間消費支出)への価格波及郵便及び国内電気通信の料金改定による各産業の価格波及が投入される財・サービスの価格にすべて反映され、又このとき購入する財・サービスの構成に何らの変化もないと仮定した場合、家計(民間消費支出)の価格への影響(全ての財・サービスの価格変化を民間消費支出の構成比で加重平均したもの)は、平成6年の場合、郵便は料金改定率の平均0.44%、国内電気通信は1.34%である。産業への価格波及と同様に郵便は国内電気通信の約1/3弱となっている(図表4―6参照)。 |
4.2.2 郵便事業による生産波及効果4.2.2.1 分析目的と分析方法郵便事業の他産業に対する影響を明らかにするため、郵便事業の生産が郵便事業に財・サービスを提供する産業に発生する生産誘発額7を計測する。 4.2.2.2 分析結果4.2.2.2.1 郵便の生産波及全体
平成2年における郵便事業の国内生産額16,498億円が誘発する生産額は、郵便事業の国内生産額の1.25倍に相当する総額20,569億円の生産誘発額を国内産業にもたらす。同様に、平成6年は郵便事業の20,691億円の国内生産額から、総額で25,717億円の生産誘発額がもたらされるが、郵便の生産誘発係数はかなり小さい(1.24)。 4.2.2.2.2 郵便事業の生産誘発依存度今度は、郵便事業の生産に誘発される各財の生産誘発額が各財の国内生産額に占める割合をみる(図表4―7参照)。 郵便事業の生産誘発依存度は、産業平均では、平成2年が0.23%、平成6年が0.29%と極めて低く、最も生産誘発依存度の高い郵便ユーザー支援産業でも、平成2年は0.35%、平成6年は0.43%に過ぎない。 |
部門名 | 平成2年 | 平成6年 | |
郵便大口利用産業 | 0.06% | 0.07% | |
郵便大口利用者支援産業 | 0.06% | 0.06% | |
郵便ユーザー支援産業 | 0.35% | 0.43% | |
郵便業務支援産業 | 0.23% | 0.29% | |
農林水産業 | 0.01% | 0.01% | |
鉱工業・建設 | 0.02% | 0.03% | |
サービス | 0.04% | 0.05% | |
産業平均 | 0.23% | 0.29% |
4.2.2.2.3 生産波及分の産業別構成生産波及分の産業別構成比についてみると、「郵便大口利用産業」の比率が最も高く(29.2%(平成2年)、27.9%(平成6年))、「鉱工業・建設」(25.3%(平成2年)、24.2%(平成6年))、「サービス」(20.9%(平成2年)、22.1%(平成6年))の順である(図表4―8参照)。 |
部門名 | 平成2年 | 平成6年 | |
郵便大口利用産業 | 29.2% | 27.9% | |
郵便大口利用者支援産業 | 0.0% | 0.0% | |
郵便ユーザー支援産業 | 0.1% | 0.1% | |
郵便業務支援産業 | 19.5% | 20.9% | |
農林水産業 | 0.3% | 0.2% | |
鉱工業・建設 | 25.3% | 24.2% | |
サービス | 20.9% | 22.1% | |
その他 | 4.7% | 4.5% | |
産業合計 | 100.0% | 100.0% |
4.3 郵便周辺産業の他産業への影響4.3.1 郵便周辺産業が郵便事業及びその他の郵便周辺産業に与える影響4.3.1.1 分析目的と分析方法郵便周辺産業の生産に必要とする中間需要から発生する生産誘発額が郵便事業及びその他の郵便周辺産業の生産にとって大きな割合となっている産業ならば、その産業に対する需要面での依存性は高いといえるであろう。 ここでは郵便周辺産業それぞれについて、まず、それぞれの産業の生産がもたらす郵便事業及びその他の郵便周辺産業への生産誘発額を求め、次に、その誘発額の当該産業(郵便事業及びその他の郵便周辺産業)の国内生産額に占める比率を求めることにより、依存関係の強さをみることとする。 4.3.1.2 分析結果4.3.1.2.1 郵便周辺産業に対する郵便事業の依存度(図表4―9参照)郵便事業に対し最も影響力を持つ郵便周辺産業は商業である。この商業に対する依存度は平成2年が10.90%、平成6年が10.50%であり、郵便事業の1割強が商業の生産活動から直接・間接的に波及されたものである。 その他、郵便事業に対する影響力の強い郵便周辺産業は金融(平成6年の依存度:6.95%)、公務(同5.88%)、運輸(同3.01%)、DM広告業(同2.86%)、通信販売業(同2.53%)、保険(同2.36%)、国内電気通信(同2.26%)の順となっている。 |
4.3.1.2.2 郵便周辺産業の依存関係郵便大口利用者支援産業であるメーリングサービス業、DM広告業、郵便ユーザー支援産業である便箋・封筒等紙製品製造業について、他の郵便周辺産業からの影響をみると、いずれも商業に対する依存度が極めて高い。 この他、メーリングサービス業については、DM広告業、通信販売業、金融、公務などに対する依存度が高くなっている(図表4―10参照)。 |
メーリング サービス業 |
DM広告業 | 便箋・封筒等 紙製品製造業 | |
合計 | 100.00 | 100.00 | 100.00 |
商業 DM広告業 通信販売業 金融 公務 国内電気通信 保険 電力 運輸 水道・ガス・熱供給業 出版 教育 情報サービス 対家計民間非営利団体 社会保険事業 郵便事業 便箋・封筒等紙製品製造業 メーリングサービス業 郵便受託業 |
38.49 17.60 14.87 10.97 7.61 7.50 4.07 2.82 2.64 2.39 2.33 2.03 1.55 0.26 0.10 0.06 0.01 0.00 0.00 |
64.15 0.00 0.09 5.54 1.25 1.83 2.08 1.57 2.85 1.22 3.64 3.02 2.23 0.31 0.08 0.06 0.01 0.00 0.00 |
24.52 0.05 0.35 5.46 3.60 0.92 1.93 1.25 5.69 1.36 0.48 2.34 2.29 1.01 0.26 0.43 0.00 0.00 0.00 |
4.3.2 通信販売業、DM広告業の郵便事業及びその他の郵便周辺産業に与える影響4.3.2.1 分析目的と分析方法通信販売業及びDM広告業は、郵便周辺産業の中でもとりわけ国内生産額の増加率が高い産業である。 そこで、これらの産業の平成2年から平成6年にかけての国内生産額の増加による郵便事業及び郵便周辺産業に対する生産誘発額の大きさを分析する。なお、分析方法としては、平成6年の「郵便事業分析用産業連関表」を基に、通信販売業とDM広告業それぞれについて、平成2年から平成6年にかけての国内生産額の増加分の生産波及効果を求めた。 4.3.2.2 分析結果4.3.2.2.1 通信販売業平成2年及び平成6年の通信販売業の国内生産額は、それぞれ7,083億円、8,784億円で、この間の通信販売業の国内生産額の増加額は1,701億円(年平均増加率は5.53%)である。通信販売業の国内生産額の増加による郵便事業の生産誘発額の増加額は112億円で、平成6年における郵便事業の国内生産額の0.54%に当たる。
これを国内生産額の増加率で考えると、年平均5.53%の割合で通信販売業の国内生産額が増加することは、郵便事業にとって年平均0.17%の国内生産額の増加要因となったことを示す。 4.3.2.2.2 DM広告業平成2年から平成6年にかけてのDM広告業の国内生産額の増加額の601億円(年平均増加率6.89%)は、郵便事業の国内生産額の増加率を0.23%増加させる。また、DM広告業の国内生産額の増加を最も享受する産業は、郵便事業(181億円)であるが、そのほかでは印刷・製版・製本(89億円)、出版(51億円)への生産波及が大きい。メーリングサービス業への生産波及は30億円である(図表4―12、4―13参照)。 |
|
|
5 まとめ本調査研究では、郵便事業と他産業、特に郵便事業と密接に関連する郵便周辺産業との相互依存関係について、既存の産業連関表のほか各種統計資料等に基づいて作成した「郵便事業分析用産業連関表」により分析を行った。 5.1 郵便事業の他産業への影響郵便事業と他産業との関係については、郵便料金改定の価格波及の産業平均については、変動幅を100%とすると、0.47%(平成2年)及び0.55%(平成6年)とかなり小さいことが分かった。これは、産業平均の郵便投入比率が0.15%(平成2年)、0.18%(平成6年)と極めて低いことを反映しているものと考えられる。家計についても0.38%(平成2年)及び0.44%(平成6年)と比較的低い。 一方、郵便事業の生産波及効果について、郵便事業の生産誘発係数でみると、平成2年は1.25、平成6年は1.24と小さいことが分かり、さらに、波及先の産業の国内生産額に占める割合をみると、産業平均で0.23%(平成2年)及び0.29%(平成6年)とかなり小さいことが分かった。なお、このように郵便事業の生産誘発係数が小さいのは、郵便事業における他財の中間投入比率が0.16%であることが示すように、郵便事業の中間投入額が雇用者所得等の粗付加価値額に比してかなり小さいためである。郵便事業の波及先の産業の国内生産額に対する依存度が小さいのは、郵便事業の中間投入比率が低いことと、郵便事業の国内生産額が小さいことによる。 一方、郵便事業と郵便周辺産業との関係については、郵便料金改定の波及効果は、変動幅を100%とすると、「郵便大口利用者支援産業」(DM広告業及びメーリングサービス業)への波及が22.82%(平成2年)及び23.53%(平成6年)と極めて大きいことが分かった。 また、郵便事業の郵便周辺産業への生産波及については、波及金額の構成比でみると、「郵便大口利用産業」(商業、金融、通信販売業等)が29.2%(平成2年)及び27.9%(平成6年)への影響が最も大きいが、生産誘発依存度については0.06%(平成2年)及び0.07%(平成6年)とかなり小さい。 以上により、郵便事業の他産業への影響については、産業全体でみると、価格波及及び生産波及はかなり小さい。価格波及が小さいのは、各産業の郵便の投入比率の低さを反映しているとともに、生産波及が小さいのは、郵便事業の中間投入比率の低さを反映しているものと考えられる。 一方、郵便周辺産業への影響については、価格波及は特定の産業(郵便大口利用者支援産業)への影響が大きく生じる一方、生産波及については、各産業の生産誘発依存度からみるとその影響は小さいことが分かる。 5.2 郵便周辺産業の他産業への影響郵便周辺産業に対する郵便事業の依存度についてみると、郵便事業に対し最も影響力を持つ郵便周辺産業は商業である。この商業に対する依存度は平成2年が10.9%、平成6年が10.5%であり、郵便事業の1割強が商業の生産活動から直接・間接的に波及されたものである。また、郵便周辺産業のうち、郵便大口利用者支援産業であるメーリングサービス業、DM広告業、郵便ユーザー支援産業である便箋・封筒等紙製品製造業についても、いずれも商業に対する依存度が高い。 また、郵便周辺産業の中でもとりわけ国内生産額の増加率が高い産業である通信販売業及びDM広告業について、平成2年から平成6年にかけての国内生産額の増加が郵便事業に対する影響をみると、通信販売業の国内生産額の増加(年平均増加率5.53%)は郵便事業の国内生産額の0.17%の増加をもたらし、DM広告業の国内生産額の増加(年平均増加率6.89%)は、郵便事業の国内生産額の0.23%の増加をもたらす。 また、DM広告業については、郵便事業が最も大きく生産誘発を受ける産業ではあるが、通信販売業については、郵便事業よりも印刷・製版・製本が最も高い生産誘発をうける産業であることが分かる。 以上のことから、郵便事業及び郵便周辺産業相互の生産面での依存関係をみると、郵便事業及び郵便周辺産業とも商業への依存関係が強いこと、郵便周辺産業の中でもとりわけ国内生産額の増加率が高い産業である通信販売業及びDM広告業の影響をみると、通信販売業は印刷・製版・製本、DM広告業は郵便事業が、それぞれ最も大きい生産誘発をうける産業であることが分かる。 5.3 今後の課題本分析は、郵便事業と郵便周辺産業との相互依存関係について、新たな産業連関表を作成の上分析した初めての試みである。今回作成した「郵便事業分析用産業連関表」は、新たに部門を設定した「通信販売業」「メーリングサービス業」「DM広告業」「便箋・封筒等紙製品製造業」については、統計資料が乏しいことにより、多くを業界団体へのヒアリング結果に基づき、国内生産額・投入額・産出額を推計したもので、試作表的な意味合いが強い。 各種波及結果については、国内生産額・投入額・産出額の推計により大きく左右され、今回の分析結果が郵便事業と郵便周辺産業との相互依存関係を的確に反映しているとは必ずしもいえない。 さらに、今回の分析方法についても、産業連関分析の基本的・初歩的な分析方法を用いており、ほかにも郵便事業と郵便周辺産業との相互依存関係を産業連関分析の手法で明確に描き出す手法も検討の余地があるものと考えられる。 しかし、今回初めて「郵便事業分析用産業連関表」を作成し、郵便事業の経済学的な影響力、特に郵便周辺産業への影響力を計量的に分析した本研究は、郵便事業の社会的な影響力を計量化・数値化する上で端緒となる研究になったものと考えられる。 今後、通信販売業、DM広告業、メーリングサービス業などの郵便周辺産業について、産業統計の基になる「日本標準産業分類」における新たな分類設定をはじめとする各種統計データの整備が十分図られることを期待するとともに、郵便事業の社会的・経済的な影響力を図る尺度として今回の分析が参考となってくれれば幸いである。 |
<参考文献>1 井筒郁夫、山浦家久[1997]「電気通信の郵便に与える影響」『郵政研究所月報』1997年9月号No.108 2 総務庁編[1994]『平成2年産業連関表』 3 通商産業大臣官房調査統計部編[1997]『1994年産業連関表(延長表)』、(社)通産統計協会 4 郵政大臣官房財務部編[1995]『郵政産業連関表作成に関する調査報告書』 5 郵政省郵務局編[1995]『最近における郵便の利用構造―平成6年9月郵便利用構造調査結果報告書―』 6 郵政省郵務局編[1997]『郵便の統計』 7 (社)日本通信販売協会編[1997]『通信販売ファクトブック’1997』 8 (社)日本ダイレクト・メール協会編[1997]『DM年鑑’97』 9 (株)電通編[1997]『電通広告年鑑』 10 TKC編[1997]『TKC経営指標』 11 日本銀行調査統計局編[1997]『物価指数年報』 12 総務庁編[1998]『日本標準産業分類(平成5年10月改訂)』 13 郵政省大臣官房財務部編[1996]『郵政関連業実態調査報告書(平成7年度メーリングサービス業)』 14 東條進・北島光泰[1991]『メーリングサービス業に関する調査研究報告書―郵政研究所調査研究報告書―』 15 竹下剛・田中明宏[1993]『情報通信の産業連関分析に関する調査研究報告書―郵政研究所調査研究報告書―』 |