「電気通信市場における新旧事業者間競争に関する経済学的考察」


                           通信経済研究部主任研究官 木村 順吾

1 小論においては、新規事業者各社の好調な業績を説明するのに、行政が新規事業者育成の観点か
 ら、既存事業者の通話料金の2割安の料金を設定する新規事業者の競争戦略を支持するべく、新旧
 事業者間で非対称的な規制を行ってきたことに帰する問題提起に対して、その真偽を検証してみる
 ことを目的としている。

2 その際の方法論として、標準的な経済学の道具概念を使用するが、現実の電気通信市場に生じて
 きた諸事象は相当に複雑であって、既存理論の単純適用だけでは充分ではないので、新旧電気通信
 事業者の事情について時系列的な変化の過程まで含めた精密子細な分析を加えることによって、新
 旧電気通信事業者間で展開されてきた競争行動について、それを内から支えてきた企業行動の動因
 や形態を巡る考察を行っている。

3 急激な技術革新が、NTT民営化及び電気通信市場自由化を決断させるに至った政策背景にある
 のであるが、その波及速度が新旧事業者間で違っていたため、両者間で費用条件の非対称的差異が
 存在したことを資本、労働及び経営の3側面から見ている。

4 この費用条件における非対称性を前提に、新旧事業者間の戦略的企業行動についてベルトラン的
 なアプローチをもって分析し、プライス・リーダーシップとコスト・リーダーシップの分離、協調
 寡占的価格設定の存在を振り返ることによって、新旧事業者間の価格格差の発生及び価格競争の反
 復を考察している。

5 最後に、電気通信行教における非対称的規制の有無について論ずるとともに、今後に要請される
 べき新電気通信政策の課題及び通信経済研究の使命を考察している。