ドイツの電気通信分野における規制緩和の最近の動きとその意義


                             第三経営経済研究部 河村 公一郎

1. 87年6月にEC委員会から加盟国に発出された「電気通信サービスと電気通信端末設備のため
 のEC市場の発展に関するグリーン・ベーハー」に基づく措置として、89年7月、当時の西ドイ
 ツにおいて電気通信の規制緩和が実施された。これに基づき、国営事業体DBPテレコムの設置の
 ほか、電話サービス以外の通信サービス、周辺分野のネットワークの保有・運営、端末機器の自由
 化が実現した。

2. 89年の規制緩和は、もともと途上の一通過点にとどまるものであった。さらに、1.電気通信分
 野における規制緩和の世界的潮流、2.EC統合の進展に伴う域内での企業間競争の増大、3.ドイツ
 統一による連邦財政の逼迫、4.DBPテレコムと世界の有力キャリアとの競争激化、および、同事
 業体の外国事業展開の遅れ、5.DBPテレコムの財務状態の悪化などが重なるなかで、郵電省は、
 間もなく、今回の規制緩和を目指すこととなった。

3. 今回の規制緩和の主眼は、上述のような事情を背景に、DBPテレコムの経営形態の変更を図る
 点にある。

4. DBPテレコムの経営形態の変更には、憲法の改正が必要であり、国会での審議の前段階として
 超党派交渉委員会が成立したが、その主だったメンバーが最近交替していること、2.94年の完了
 を目指して、DBPテレコムが機構改革中であること、3.株式上場の前提となる近代的な財務会計
 システムの確立に、なお時間を要すること、4.現政府は、94年秋の総選挙までにDBPテレコム
 の経営形態変更の方向性を固めたいと考えていると推測されるが、社会民主党の動向など、不透明
 な要素があることを考えると、DBPテレコムの経営形態変更が早期に実現するかどうかは予断を
 許さない。

5. しかし、いずれにしても、DBPテレコムの置かれた状況を考えると、同事業体の経営形態は、
 早晩、変更されるものと予想され、また、正式の経営形態変更を待つまでもなく、DBPテレコム
 は、機構革、分社化、関連企業の設立、外国事業展開の布石、近代的な企業会計の確立などにより、
 実質的な企業競争力の強化を図っていくとみられる。

6. DBPテレコムの経営形態変更が実現した場合は、1.企業体の見地からは、財務状態の改善、経
 営陣と従業員の意識変化、外国での積極的な事業展開、通信設備調達能力の向上、研究開発力の向
 上、2.通信業界の見地からは、VAN事業者等との切確琢磨、機器メーカーの競争力向上、3.ドイ
 ツ国家の見地からは、財政赤字削減、通信ネットワーク整備への寄与、4.ECレベルの見地からは、
 域内キャリアの経営形態見直しの促進、ECの通信自由化路線への寄与、域内メーカーの競争力向
 上、5.グローバルな見地からは、多国籍企業の専用線網のハブ誘致競争の激化、ユーラシア大陸で
 の公衆網構築戦略の活発化など、多様な影響が予想され、その意義は大きいと思われる。