No.69 1994年7月

「情報通信サービスの普及環境に関する日米相違とその背景について」

                                    主任研究官 西澤 直衛
  1 メタリックケーブルより遥かに大容量の情報を伝送することができる、「光ファイバーケーブル」網の全国的な普及及び「マルチメディア」などの新しい情報技術の進歩は、ポスト工業化社会ともいわれる次世代の新たな社会・経済の在り方に大きな影響を与える重要な要素の一つであることは疑いない。これらの情報通信分野における技術革新は、既存の産業の間の境界線を曖昧にして、産業の融合を促進し、新しいサービスを生み出す可能性を持っている。残念なことに、現状を見たときに、我が国は、米国などの先進的な諸国との比較において、次世代の情報通信基盤を支える基盤・応用技術分野、殊に、そのアプリケーション分野(=いわゆるコンテンツ)では明らかに遅れをとっている。本稿はこの情報通信分野の技術革新の上に花開くアプリケーション、すなわち、新たな情報通信サービスの普及状況について、米国におけるサービスの普及事例との比較において、我が国におけるサービスの受容可能性を、「なぜ米国においてそのサービスが利用者のニーズに適い、受け入れられているのか」という利便性を享受する利用者の視点から、背後にある環境を分析することによって考察する。

2 日米で普及の度合いに差があるサービスを、調査し、「ビジネス」、「家庭」、「教育・研究」、「趣味」の4つの利用の場面に分け、その普及の度合いに影響を及ぼしている要因について、「自然環境」、「社会環境」、「価値観・行動様式」、「サービス環境」の4つの観点から分析を行った。その結果、可変の要因と思われるものが、我が国における同種のサービスの普及を阻む大きな障害となっていることが分かった。

3 直接、間接に関係する諸法規制の見直しとともに、情報通信の新サービスの利便性を享受するためには、利用者側としても、これらの可変の部分、すなわち、従来、所与の条件として扱われがちであった、ビジネス習慣、社会慣行、生活習慣などについても、見直すことが必要となってきていると思われる。

4 1994年5月末に発表された、電気通信審議会の答申、「21世紀に向けた新たな情報通信基盤の整備の在り方について」において、包括的な情報通信基盤整備の将来ビジョンが提示されたが、そのなかでも、「利用者の立場に立った、情報通信のアプリケーションの開発・導入の重要性」が強調されている。利用者側から見て、新しい利用方法(アプリケーション)を受け入れることができるかどうかを、このような角度から検討していくことも重要であろうと思われる。もちろん、「見直す」必要があるか否かは最終的には利用者が判断することになる。

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