79 1995年5月

『日米の電気通信事業者における要員合理化の比較』

                             通信経済研究部研究官 岸本 伸幸
  1.  NTTやAT&T、RHC7社といった日米の基幹的電気通信事業者はいずれも、経営効率施策の一環として要員合理化を積極的に進めているが、果たして実際にどの程度の従業員合理化の成果が挙げられ、それがどの程度経営合理化に貢献しているか、その内容と成果について双方を長距離通信事業部、地域通信事業部に区分、対比して分析を行った。
  2.  NTTの1993年度決算は、総収益は5兆9,000億円弱、総費用は5兆8,000億円弱であった。総収益は1991年度以降、逓減しているにもかかわらず、人件費、総費用は概して増加傾向にある。この結果、経常利益は1989年度以降、逓減している。
     特に1993年度において、希望退職実施に伴う一時金189億円が特別損失として計上された。
  3.  米国の主要長距離通信事業者3社(AT&T、MCI、スプリント)の1993年度決算は、米国経済の回復基調を背景に軒並み過去最高の業績を挙げた。また、リストラやリエンジニアリングを行うため事業再編成引当金繰入額としてAT&Tでは5億ドル、スプリントでは3億ドルが計上された。
     一方、RHC7社の1993年度売上高、当期純利益はともに実質、増収増益であり、例えばベルサウスでは経営効率化のためリストラ費用として11億ドルが計上された。
  4.  日米の電気通信事業者の従業員数の比較においては、1985年から1993年の間にAT&Tは9万人強、RHC7社は6万人強、NTTは9万人弱の従業員を削減しており、従業員数のベースでは、NTTとAT&Tは、1992年度と1993年度についてほぼ同程度である。
       
    1.  長距離通信において、1992年度と1993年度間の従業員削減数について比較すれば、AT&Tの方が上回り、従業員削減率では逆にNTT長距離の方が上回っている。しかし、1989年度の電気通信審議会の中間答申の中で問題を指摘されているNTTの在籍出向者について、これを含めた実質的な従業員数(各事業部別の従業員数は在籍出向者を含んだ従業員数をNTT長距離とNTT地域の構成比で按分計算)で比較した場合、NTT長距離の削減率は大きく低下し、AT&Tの水準に接近する。  
    2.  地域通信の従業員削減は、RHC7社とNTT地域ではほとんど差がなく、削減率でみると、NTT地域の方が上回っている。
       長距離通信と同じく、在籍出向者を含めた実質的な従業員数で比較すると、NTT地域はRHC7社の従業員削減数で2分の1、削減率でほぼ同等の水準となる。

  5.  以上のように、1992年度と1993年度のみをとって従業員数を比較しただけでは明確な優劣の評価をつけることは難しいが、対比する期間を拡張すると日米の差異ははっきりしてくる。
     1984年度と1992年度の人件費の比較では、RHC7社が減少ないしほぼ横這いになっているのに対して、NTTでは20%以上の増加を示している。
     さらに、人件費営業費用比率の増加率で比較すると、RHC7社は30〜40%の大幅な減少を示しているのに対して、NTTでは逆に増加させており、この8年間に7万人強の従業員数の削減を行ったにもかかわらず、人件費は逆に増加させている。
  6.  これまでの分析を総括すれば、旧AT&Tの要員合理化の方がNTTのそれと比較して、経営に大きな改善効果を明白に及ぼしていると考えられる。