86 1995年12月

『非構造分離要件の実効性』

                               通信経済研究部研究官 浅井 澄子
  1.  米国の電気通信事業は当初から複数の民間事業者で運営されてきたため、1913年の「キングスベリーの誓約」以来の事業の歴史は相互接続問題、公平な競争条件確保の歴史でもある。本論では、基本サービス事業者と高度サービス事業者間の競争条件を取り扱った連邦通信委員会(FederalCommunicationsCommission以下、「FCC」という。)の第3次コンピュータ裁定を中心に競争条件整備の手段としての非構造分離要件を取り上げる。さらに、この第3次コンピュータ裁定と自主的な構造分離を実施したRochesterTelephoneCorporation(現FrontierCorporation、以下「旧ロチェスター・テレホン」という。)の事例との比較を通じて、電気通信事業における構造規制と行動規制を考察する。
  2.  FCCは第3次コンピュータ裁定で構造分離要件を廃止し、AT&T及びベル系地域電話会社が高度サービスを提供することを認める一方、非構造分離要件と称される広範な行動規制を採用した。しかし、この方法は関係者の利害対立等から、幾つかの問題点が指摘されている。
  3.  旧ロチェスター・テレホンは、行動規制の緩和を理由の1つとして自主的な構造分離を実施した。現在は実施後1年を経過していない段階であることから、この成果を判断することは時期尚早であるが、構造分離によるネットワークのオープン性確保の措置として注目に値する。
  4.  行動規制は第3次コンピュータ裁定における非構造分離要件及び事業者間接続料金等の事業者間の行為を対象とする規制と、最終利用者に対する料金等の最終利用者への行為に関する規制とに大別することができる。米国の電気通信事業における規制は、国際的にみて緩和されているとみなされることが多い。しかし、ベル系地域電話会社に対する競争条件の公平性を確保するための規制は増加の一途をたどる傾向にある。この意味から規制に関する国際比較に当たっては、構造規制及び行動規制の内容を精査して行うことが必要である。