No.89 1996年3月

ヤードスティック競争の可能性

                                通信経済研究部 浅井 澄子
  1.  本論は、ヤードスティック競争に関するサーベイを行い、これを踏まえ、我が国の地域通信市場におけるヤードスティック競争の適用可能性を探ることを目的とする。サーベイとして、Shleifer[1985]、Littlechild[1986]及びVickers and Yallow[1988]を取り上げる。

  2.  ヤードスティック競争のメカニズムが機能するためには、複数事業者の存在、費用条件及び需要条件の類似性、共謀がないこと等の条件が付加される。実際にこの方式を適用している公益事業では、これら前提条件を満たすよう規制方式の配慮がなされている。

  3.  我が国の有線系地域通信市場では、概ね、全国を11地域に分けたNTT地域通信事業部によりサービスが提供されている。現在の事業部制の下での地域通信市場におけるヤードスティック競争は、事業部制収支の事業者間比較を通じた効率制の検証等に限定される。さらに、地域通信事業部間の規模、営業収支率、労働生産性に格差があるため、比較可能な事業部に分類し、分析する等の措置が必要である。

  4.  現在は、電気通信分野に競争が導入されて10年を経過するが、現在のところ有線系地域通信市場には十分な競争メカニズムが機能しているとは言い難い。ヤードスティック競争の適用には、一定の制約があるが、独占的傾向のある市場で競争メカニズムを機能させる現実的な方策の一つである。今後、相互比較のためのデータ整備を行いつつ、これに関するより詳細な検討を行う必要がある。