No.90 1996年3月

通信法改正に寄せて

 本誌は、1996年2月8日に発行した米国の1996年電気通信法の特集号である。1996年電気通信法は、1934年通信法を改正するものであり、電気通信、放送、CATV、番組内容等広範囲に及ぶ。
 この通信法改正に関しては、1982年修正同意審決によるベル系地域電話会社の業務制約解除をめぐって、当初から議論が行われてきた。これまでにも通信法の改正を目的とする複数の法案が提出され、連邦議会第103会期では法案が下院及び上院委員会を通過したものの、最終的には審議未了で廃案となった経緯がある。今回の法律成立に至るまでも、長距離通信事業者とベル系地域電話会社の利害対立、地域電話会社とCATV事業者の利害、放送番組内容規制の改定に対する関係者の意見の相違、さらには、規制緩和及び連邦と州の権限問題をめぐる共和党と民主党の方針の違い等、紆余曲折を経ている。
 今回の通信法改正は、米国の情報通信産業に大きな影響を与えるものと考えられる。もっとも、1996年電気通信法には、その詳細をFCC(連邦通信委員会)の今後の規制制定手続に委ねる箇所も多い。さらに、FCCが具体的決定を行う分野には、関係者の利害が相反すると想定される地域電話会社の長距離通信市場への参入及びユニバーサル・サービスの具体的設計問題を含んでいる。今回の通信法成立を契機に議論の場が、議会からFCCに移ったとの側面もある。
 本誌は、トーマス・カトウ・アソシエイト代表カトウ氏等の論文、1996年電気通信法の主要部分の論点、電気通信法の仮訳及び英文条文を掲載した。本誌が、関係者の米国の情報通信政策の理解の一助となれば幸いである。

通信経済研究部長
   山川 鉄朗