No.92 1996年5月

テレコミューティングの波及効果

−労働者の住居移転と通勤混雑の緩和を中心に−

                           通信経済研究部主任研究官 実積 寿也

  1.  テレコミューティング(Telecommuting)とは、近年の情報通信技術の進歩により可能となった新しい通勤スタイルであり、(1)通勤距離の削減効果を持ち、(2)上司とは物理的に異なる場所で、(3)通常の勤務時間帯に、(4)リアルタイムの情報通信手段を用いて行う、という4つの特徴により、他の類似する通勤スタイルから区別できる。
  2.  テレコミューティングは、自宅にオフィス環境と整える「在宅勤務」と、自宅近辺に新たに設けられたオフィスで勤務する「サテライトオフィス勤務」の二種類に大別することができ、それぞれ導入効果が異なる。
  3.  テレコミューティングは、それを実施する労働者(テレコミューター)自身のみならず、雇用者たる企業並びにそれらを取り巻く社会全般に多様な波及効果を及ぼす。なかでも、テレコミューティング先進国たる米国では待機汚染緩和効果が、我が国では通勤混雑緩和効果及びホワイトカラーの生産性向上効果が強調されてきた。社会全体という観点からテレコミューティングの導入の是非を判断するに当たっては、このような「波及効果」を総合的に比較衡量することが重要である。
  4.  テレコミューティングの導入効果のうちのいくつかは、数種の前提を置くことによって比較的容易に分析が可能である。本稿では、住居移転効果及び通勤混雑緩和効果について、モデルあるいはシミュレーションによる分析を行った。この分析により得られた結果は以下のとおりである。
    1.  テレコミューティングが導入されれば、労働者は住居を郊外に移転することが合理的である。当該移転距離の決定には、テレコミューティングの頻度、移転費用、住宅賃貸料の動向が影響する。
    2.  テレコミューティングは、通勤混雑の緩和効果を持つ。しかしながら、この新しい勤務スタイルの普及が進むにつれ、限界的な通勤混雑緩和効果は低減する可能性がある。
    3.  住居移転効果は通勤混雑緩和効果を減殺する作用を持つ。条件によっては、両者の相互作用により通勤混雑が却って悪化する地域が生じることも想定される。
  5.  テレコミューティングの導入に起因するインパクトの一部は、現行の手法によっても、ある程度は検討可能であるが、多様多種な波及効果を統合的に分析する手法の開発は今後の課題である。