No.94 1996年8月

ビジネス分野のマルチメディアサービス導入モデル

−官僚組織における失敗の必然性−

                         前情報通信システム研究室   國井 昭男

 マルチメディアを導入すると直ちに企業の組織構造やワークスタイルが変容するかのような議論が喧しいが、企業組織は元来それ自信が、不確実性を縮減・除去するため、あるいは、多義性を縮減・除去するための情報処理システムであり、OA化や情報・通信メディアの導入によってその機能を拡張しようとする存在であることから、企業組織の側がマルチメディアの導入・活用を規定する側面に着目し、導入モデルの分析を実施した。
 企業対象の調査結果をもとに、「組織文化」・「マルチメディア利用目的」・「マルチメディア採用機能」・「マルチメディア導入効果」の各要因間の因果連鎖構造の解析を行った。因子分析によって、「組織文化」(10因子へ)、「利用目的」(4因子へ)、「採用機能」(5因子へ)、の縮約を行ったところ、「組織文化」→「利用目的」、「利用目的」→「採用機能」のそれぞれの間には因果関係を、「採用機能」−「導入効果」間には相関関係を、それぞれ認めることができた。
 特に、<文化:企業努力性>→<目的:顧客サービス>→<採用:情報収集機能・情報提供機能・モバイル機能>−<効果>、<文化:コラボレーション性>→<目的:情報共有/交換>→<採用:コミュニケーション機能>−<効果>、<文化:実力主義性・スピード経営性>→<目的:事業成果>→<採用:情報提供機能・映像機能>−<効果>、などといった典型的な導入パターンを見いだすことができた。
 さらに、マルチメディア導入の促進要因/阻害要因と「組織文化」との間に相関関係が認められ、組織文化において<企業努力性>や<スピード経営性>の高い企業組織ではトップ等のリーダーシップが導入促進要因として寄与しているのに対し、<保守性>の高い企業組織では情報共有の慣習の欠如やメディアコミュニケーションになじまない風土のもとでトップ等のリーダーシップが逆に阻害要因として機能していることがわかった。ここに、Weber的な意味での官僚組織にけるマルチメディアサービス導入の失敗の必然性を見いだすことができるのではないだろうか。
 厳密な意味での因果関係の検証はできていないが、企業組織の側がマルチメディアの導入・活用を規定するプロセスの一端を明らかにすることができた。今後は、「導入効果」が「組織文化」に及ぼす影響を考慮し、スパイラルモデルによる検証作業が必要だろう。