No.96 1996年9月

非対称規制の適用と意義

                                         通信経済研究部      浅井 澄子

 米国の州際通信市場では、1980年から非対称規制が導入されてきた。連邦通信委員会(Federal Communications Commission:以下、「FCC」という。)による非対称規制とは、様々な形態の事業者を支配的事業者、非支配的事業者に二分し、後者には規制の簡素化又は規制の差控えを適用するものである。しかし、この規制には、利害関係者の意見対立を呼ぶとともに、FCCの実施した規制差控えが、1934年通信法に違反するとの判決が下されたこともあり、1996年電気通信法でFCCに規制差控えの法的根拠が改めて付与された経緯がある。
 非対称規制の適用に当たって議論を喚起した点は、事業者の二分法の判断基準である。FCCは、二分法の実施に関して市場占有率、需要の価格弾力性、競争事業者の供給の価格弾力性で示される市場力の有無を判断基準として利用した。しかし、この数値は、AT&Tの市場力が時系列で低下していることは示しているが、市場力の有無の決定に関しては政策判断が必要であり、かつ、関係者の利害が対立するところでもある。
 非対称規制は、規制の不透明性、恣意性及びその有効性をめぐって批判されることが多いが、諸外国に先駆けて規制の態様を変革させている米国にとっては、競争の進展状況に応じて規制緩和を実施する現実的方策である。但し、この場合であっても非対称規制は無条件に導入されるべきものではなく、接続等の事業者間の行動に関するルールを整備し、競争促進を図ることに一層の政策的意義がある。この意味で非対称規制は、競争条件を整備したうえで、競争メカニズムが機能するまでの間の過渡的措置として位置づけることが適当である。