企業における情報活動と利用情報メディア
客員研究官 田北
俊昭
(山形大学人文学部総合政策科学科講師)
1.はじめに
本稿では、筆者らがこれまで進めてきた「企業における情報活動と利用情報メディアに関する分析」について整理し、これらを総合的に考察することにより、高度情報化により企業がどのような影響を受けるのかを捉えることが目的である。
急速な情報通信技術の進歩、さらに21世紀初頭のB-ISDN網の実現により、大量の『情報』を速く安価に運ぶことが可能となる。つまり、コンピュータ画面を通じた画像情報、音声情報、文字情報等の双方向のやりとり、共同作業等が遠隔地間で可能となる。そのとき、企業は、新しい時代にあった企業経営を模索していくようになる。家庭においては、在宅勤務が可能となり、その他在宅医療、教育等の様々なサービスが可能となる。
21世紀初頭には、オフィスおよび家庭で、コンピュータ技術と通信技術の融合化した「マルチメディア社会」が形成される。従来からの高度な情報伝達手段である「Face-to-Face(交通による移動を伴う)」に加えて、ますます質の高い情報伝達手段となっていく「情報通信メディア」を利用した『情報流動』が、以前にも増して、「生産」、「分配」、「流通」、「消費」など経済活動に深く関与していくことが窺われる。
従って、われわれが、『情報流動』と経済活動の関係を明らかにしていくことによって、高度情報化社会に対する理解が深まるだけではなく、『情報』に関する経済理論としての発展が見込まれるであろう。
本稿では、このような問題意識のもと、企業における情報活動と利用情報メディアに関する分析を取り上げている。「企業における情報活動に関する分析」では、最初にオフィス活動における情報活動の役割について、次にオフィス活動における情報化の影響について述べる。「利用情報メディアに関する分析」では、TV会議等のニューメディアを含む通信と交通間の情報メディア選択プロセスについて述べる。
2.企業における情報活動に関する分析
高度情報化社会の企業行動についての研究を整理する。Kanemoto(1987)(1990)
は、企業集中により生じる集積の経済および不経済を考慮した2企業の立地選択問題をモデル化するにあたり、企業間の相互作用として、市場取引と情報交換費用(交通費用と通信費用)を導入している。生産における規模の経済が、交通および通信費用と結び付くと大きな集積の経済が発生することを指摘している。一方、文(1992)
は、都市内の企業立地と企業間『情報流動』の相互依存関係を考慮した立地均衡モデルを作成している。同研究では、情報化により企業分散へ向かうこと、都市中心部では交通は減少するが中心部よりある距離だけ離れると逆に増加し始めることを指摘している。情報化に伴う企業の管理機能(フロントオフィス)と常務機能(バックオフィス)の都市内分散の可能性を取り上げた佐々木(1989)
、太田(1990)(1991)の研究もある。
ここでは、今回、オフィスにおける『情報流動』決定モデルを説明する。他の論文との違いは、オフィス活動における情報活動を詳細に捉え、企業のオフィス活動と4つの情報化の要素との関係を説明している点、また企業により情報化の影響にさまざまなパターンがあることを明らかにした点に特色がある。モデルの詳細については田北(1994)に示し、ここではその分析結果を表示することにとどめる。
(1)オフィス活動における情報活動の役割
企業のオフィス活動は、「オフィス内業務活動」、「オフィス外業務活動」に大きく分けることができる。それぞれの活動の中で「情報活動」に相当する部分(以下の下線部)について整理する。
「オフィス内業務活動」は「日常労働活動」と「通信業務」の2つから構成される。「日常労働活動」とは、各労働者が、書類を読んだり、作成したり、整理したり、計算を行なったりする業務である。これは『情報』の処理・加工活動である。「通信業務」は、電話・ファックス・TV会議・郵便や宅配便等の情報通信メディアを使用し、外部(他事業所や社外取引先等)とのやりとりを行なう業務である。後述する「面談・会議」と代替・補完的関係にある。これは、『情報』の伝達活動である。
「オフィス外業務活動」は、「面談・会議」による『情報』の伝達活動とそれに付随して発生する移動からなっている。移動手段としては、徒歩またはバス、自動車、鉄道、航空等の交通手段がある。
(2)オフィス活動における情報化の影響
各種オフィス活動と情報化の4つの要素との関係をまとめたのが図1である。
(a) 情報通信コストの低下
情報化の第1の要素は情報通信コストの低下である。情報通信コストの低下は、企業のオフィス内業務のうち、「通信」による『情報』の伝達活動に影響を与える。日本においては、NTTの民営化後、日本テレコム、DDI、日本高速通信の新規3社の参入に伴って、長距離通信のコストダウンが著しい。
(b) 情報通信メディアの質の向上
情報化の第2の要素は、情報通信メディアの質の向上である。これは、「通信」による『情報』の伝達活動に影響を与える。当初、電話や電報が中心であったが、最近ではファクシミリが普及し、さらにデータ通信やTV会議システムも出現している
B-ISDNの普及に伴う情報通信メディアの技術革新により、複数の情報通信メディアの機能が高度に融合化したマルチメディア通信、壁全面を利用したTV会議システム等が普及していく可能性がある。このような情報通信メディアの質的な向上は、同じ情報交流時間内でより質の高いかつ多種多様の『情報』を流すことを可能となる。
(c) 情報処理機能の高度化
情報化の第3の要素は、オフィス活動の情報処理機能の高度化である。これはオフィス内業務の日常労働の効率性に影響を与える。ワープロやオフィスコンピュータの発達、ソフトウェアの高機能化により、効率化が図られてきている。
(d) 知識水準の上昇
情報化の第4の要素は、労働者の知識水準の上昇である。労働者の水準を上げることで、全てのオフィス業務を効率よくこなすことが可能となる。第1に、教育制度の充実により、労働者の知識水準が上がってきた。現在では、社内に蓄積された各種情報に加え、多種多様の書籍、TV放送や新聞等のマスメディア、さらに付加価値通信網、インターネットを通じて多くの高度化された専門情報を手にいれることが可能になってきた。社内においても社内教育、社内誌の発行、社内放送、印虎ネット等の多種多様化が進んでいる。このような情報化は、労働者の知識水準の向上を促し、業務効率性をより高めていくことになる。
図1 情報化におけるオフィス活動への影響
(3)情報通信コスト低下によるオフィス活動の変化のパターン
4つの情報化のうち、特に、情報通信コスト低下によるオフィス活動の変化についての比較静学分析を行った。その結果、オフィスへの影響の受け方は3つのタイプに分かれることがわかった。この結果を示したのが、図2である。各業務の下の矢印は、左から、「ケース1企業(タイプ1)」、「ケース2企業(タイプ2)」、「ケース3企業(タイプ3)」を示している。
「ケース1企業(タイプ1)」の場合、労働者はオフィス内で仕事をすることが多くなる。だが、オフィスにおける定型的な日常労働時間は減っており、通信を利用したコミュニケーションが活発になる。交通による移動は減ったが全体として情報交流は増えている。
「ケース2企業(タイプ2)」の場合、以前ともオフィス内外にいる時間は変わらないが、オフィス内での日常業務が少なくなり、通信によるコミュニケーションが多くなっている。この場合、業務交通は以前と同じである。
「ケース3企業(タイプ3)」の場合、労働者はオフィス外で仕事をすることが多くなる。人と会う時間は増え、同時に交通機関での移動も多くなった。オフィス内では、特に日常業務は減ったものの、通信を利用したコミュニケーションは逆に増えている。
業務交通問題に絞った場合、これら3タイプの企業の割合によって、全企業による業務交通は増えることもあれば減ることもあるといえる。
図2 情報通信コスト低下による各種業務の増減
まず最初に企業における利用情報メディアについての研究を整理する。
Goddard(1971)は、企業における『情報』を、利用情報メディアの種類と情報の特性(長さ、頻度、フィードバック等の7項目)の組合せで捉え、項目間の相関を見ている。情報メディアの選択に関する研究が交通計画の分野で行なわれるようになったが、IATSS(1984)、原田(1985)は、交通と通信の代替性を2項ロジットモデルにより表現した非常に重要な論文である。Moore
and Jovanis(1988)は、情報通信メディアの詳細な選択プロセスをモデル化した。この研究は、『情報』を属性の組合せにより表現することをはじめて行なったものである。田北・湯沢・須田(1991)(1993)
は、交通を意図したFace-to-Face(交通)に今後普及が進むであろうTV会議、データ通信も考慮して、社内(事業所間)および社外コミュニケーション選択モデルを作成している。肥田野・佐々木・稲葉・足立(1993)(1994)、稲葉・肥田野(1994)のモデルも同様な観点から研究を進めている。また、田北・湯沢・須田(1995)
はさらに『情報』の種類の違いを考慮した選択モデルへと拡張している。
第2章で取り扱ったオフィスにおける『情報流動』決定モデルは、オフィス全体の『情報流動』を内生的に決定できるモデルであった。ここでは、このような『情報流動』の部分に焦点を絞って、情報メディアの選択プロセスを説明する。なお本モデルの詳細については、田北・湯沢・須田(1993)(1995)で示す。
(1)企業における利用情報メディアの選択プロセス
ここでは、「企業における情報メディアの選択プロセス」について、図3を用いて説明する。
図3 企業における情報メディアの選択プロセス
(第1段階 情報伝達の必要性の認識)
ある『情報(Box 1)』を「発信地(Box 3)」から「受信地(Box
4)」に伝達する必要が生じたとする。このとき、「情報の発信者(Box 5)」は現在の情報技術で利用可能な「情報メディア(Box
2)」を候補(発信地および受信地での利用可能性とは無関係)として考える。
(第2段階 情報メディアの機能比較)
次に、実際に情報伝達を行なうときの各種機能(時間や確実性等)について、情報メディア別に比較検討する必要がある。
『情報(Box 1)』の「発信地(Box 3)」及び「受信地(Box
4)」、そして「情報量(Box 1の2)」から、情報メディア別に、情報発信を準備してから情報交流が終了するまでの時間(「情報アクセス時間(Box
6)」)、さらに情報メディア使用料についても検討する。その結果、「情報メディア別の定量的要因値(アクセス時間、メディア使用料)(Box
8の1)」が導出される。また、「情報の発信者(Box 5)」の「情報メディアに対する印象(Box
7)」についての一対比較データから「情報メディア別の定性的要因値(確実性、情報量、機密性、容易さ)(Box
8の2)」が導出される。以上のプロセスにより、「情報メディア別の特性値(定量的要因値、定性的要因値)(Box
8)」が決まる。
(第3段階 情報伝達で必要とされる機能特性)
『情報(Box 1)』の伝達のためには、情報メディアに対してどのような機能特性を重視するのだろうか。「情報の発信者(Box
5)」は、『情報(Box 1)』に応じて、先に述べた「情報メディア別の特性値(Box
8)」に対する重みづけ(「相対的重要度(Box 9)」)を変化させる。この重みづけが機能の重視の度合いを示している。
(第4段階 情報メディアの選択)
最終的に、「情報メディア別の特性値(Box 8)」とそれに対する重み(「相対的重要性(Box
9)」)から、「ある情報に対する情報メディアの選好構造(Box 10)」が把握される。そして、発信地と受信地の「情報メディアの存在(Box
11)」を確認した上で、一番効用が高い情報メディアが選択されることになる。
(2)情報メディア選択モデルの説明
ここでは、モデル全体を構成する個々の部分について説明する。
(a) 『情報』の表現(Box1)
『情報』は、同じ情報であっても、情報伝達の状況により、情報の特性が大きく変化する特徴を持っている。そこで『情報』を表現するために、表1のような5つの情報設定因子(目的、内容(質、量)、共通性、緊急性)を組み合わせる。
以上のことを考慮すると、『情報』は、
I=I(Purpose, Quality, Quantity ; Common degree, Emergency)
と示すことができる。『情報』を伝達する目的が同じであっても、情報の内容や状況に応じて、情報メディアの選択に対して影響を与えることが考えられる。そこで、『情報』を表現するためには、目的、情報の質や量といった「情報自体から決定される要素」と、情報の共有性や緊急性等の「情報伝達の状況を示す要素」に分割して考える必要がある。
たとえば、それぞれの情報設定因子を1、0で表現する場合、全部で、32通り(=25、5ビット)の内容が表現できる。
例えば、
『あなたは、社内のある部門と重要な多量の情報
(1) (1) (1) (1)
を伝達する必要がある。それは急いでいるもので
(1)
ある。』
この場合、I=I(1,1,1;1,1)と表すことができる。
(b)情報設定因子についての説明
以下、この5つの情報設定因子(目的、内容(質、量)、共通性、緊急性)についてさらに細かくみていく。
[1]目的(社内、社外)
企業における『情報』の流動には、『社内情報流動』(本社および支社間における報告・指示業務)と『社外情報流動』(営業エリア内における顧客への販売活動)がある。これを示したのが表2である。企業内においては一般に、企業内にデータベース化された『情報』やノウハウを企業全体で共有し合って、オフィス活動の効率化を図っている。企業によっては企業内情報ネットワークを整備している場合もある。だが企業間においては、下請け企業間等を除いてネットワーク化が進んでいないのが現状である。そこで社内と社外により情報メディアの使用に違いがあると考えられる。
[2]情報の質および量
『情報』を評価するためには、質的側面と量的側面から評価する必要がある。そこで、『情報』の質的側面については「重要」、「重要でない」に、情報の量的側面については「多い」、「少ない」に分けた。実際に詳細に捉えるためには、『情報』の質的側面の場合は心理学的な面の測定が必要となり、量的側面の場合はビット数や情報交流時間などが必要である。
[3]共通性(相手のみ、複数の相手)
『情報』の伝達先は、1カ所である場合と複数カ所になる場合がある。たとえば、本社から同じ『情報』を各支社へ流す場合、別々に電話するよりも、同時に会議を行った方が効率がよい場合がある。
[4]緊急度
同じ『情報』でも、相手への到達時刻や期限が情報メディアの選択に大きな影響を与えることもある。たとえば、『情報』を緊急に伝達しなければならないとき、通常、郵便で行なう業務をファクシミリで行なう場合がある。
表1 「情報」の表現方法
表2 「社内」「社外」における情報伝達・収集活動の分類
[社内] 社内情報ネットワーク(専用回線) |
[本社(管理部門)・営業本部調]
(A.報告・情報伝達) (B.指示・情報受取) (1)支店の経営概況・営業概況 (1)経営・営業の方針及び情報 (2)支店の運営関連情報 (2)管理・運営の方針及び情報 (3)取り引き先・市場情報 (3)製品・営業活動の方針及び情報 |
[事業部・関連会社(製造部門)調]
(A.情報伝達) (B.情報収集) (1)注文内容伝達 (1)製品・システム関連情報 (仕様・納期・価格) (2)現場状況・技術情報 (2)技術関連情報 |
[営業所・系列販売会社(管理・営業部門)調]
(A.情報伝達) (B.情報収集) (1)経営・営業の補佐 (1)経営概況・営業概況 (2)管理・運営の補佐 (2)管理・運営概況 (3)製品情報・営業活動の補佐 (3)取引先・市場情報 |
[社外] |
[取引先調]
(A.情報伝達) (B.情報収集) (1)販売事前活動 (1)営業エリア内の市場動向 (a)挨拶・お得意先回り・顔つなぎ マーケティング調査 (b)製品・システム提案 (2)営業活動の進展度把握 (2)販売・営業活動 販売事前活動 (a)顧客・取引先の説得 から (b)商談の締結・入札・契約 販売・営業活動 (c)製品・システムの納入 (3)顧客動向 (d)集金・支払い決済 (a)顧客の要望 (3)販売事後活動 (b)トラブル発生 (a)取り扱い説明 (b)修理・点検 |
[納入先・施工現場調]
(A.情報伝達) (B.情報収集) (1)納入・施工時の指示 (1)納入・施工状況の把握 (2)納入・施工後の視察 |
[官庁調]
(A.情報伝達) (B.情報収集) (1)認可申請 (1)認可 (2)工事立ち会い |
(注)田北・湯沢・須田(1992)を修正
(3)各情報メディアの属性値の導出
『情報』が、送り手から受け手に伝わる場合、100%意図している内容が伝わるとは限らない。我々は、情報メディアの種類により『情報』のニュアンスが大きく異なることを経験している。ここでは、各情報メディアについて、情報メディアの機能特性を示すための属性値の導出プロセスを説明する。なお情報メディアの機能特性については、定量的な要因と定性的な要因とを考慮する。定量的要因は、発信地および受信地と情報量により物理的に決定されるものであり、情報アクセス時間、情報メディア使用料を取り扱う。一方、定性的要因は、個人の情報メディアに対する印象により形成される要因であり、具体的には、確実性、情報量、機密性、容易性を取り扱う。
(a)情報メディアの種類(Box2)
本モデルでは、情報メディアの種類について表3のような6種類を考えた。通信系情報メディアから、電話、ファクシミリ、TV会議、データ通信を、輸送系情報メディアから、郵便および宅配便を、空間系情報メディアから、Face-to-Face(業務交通)を考慮する。なお郵政省(1990)の情報流通センサスとの対応を示している。
(b)情報メディア別の特性値(Box8)
各情報メディアの特性値については、定量的要因(アクセス時間、メディア使用料)と定性的要因(確実性、情報量、機密性、容易性)について検討する。それぞれの内容を示したのが表4である。
[1]定量的要因値(Box 8の1)
ここでは、定量的要因(情報アクセス時間、メディア使用料)について検討する。
【情報アクセス時間】
情報アクセス時間とは、情報が伝わるまでの時間である。具体的には、1)情報発信準備時間、2)情報の移動時間、3)情報の留保時間、4)情報交流時間の和で構成される。
1)情報発信準備時間
『情報』の伝達の必要性を感じてから伝達するまでの時間である。企業内でデータベース化されている情報や資料、または知識として蓄積された情報は、『情報』の発信までほとんど時間がかからない。しかし新たな情報を伝達しなければならないとき、伝達する前に、情報を作成するための時間がかかるのである。
2)情報の移動時間
『情報』が、発信地から送信を開始して受信地に完全に到着する時間である。通信系メディアの場合はNTTやDDI回線の使用時間であり、輸送系メディア(郵便)の場合は投函してから相手につくまでの時間であり、空間系メディア(Face-to-Face)の場合は交通移動時間である。
3)情報の留保時間
『情報』が受信地に到着して相手が実際に情報を入手するまでの時間である。たとえばファクシミリや郵便の場合、到着から遅れて『情報』を手に入れる場合が多い。またFace-to-Faceの場合は、ホテル滞在時間など面談を行なうまでの待機時間である。
4)情報交流時間
相手が『情報』を理解し知識として蓄える時間である。電話や面談では会話時間(この場合、情報の移動時間と重複することに注意)、郵便やファクシミリでは読んだり目を通したりする時間である。
【情報メディア使用料】
もう1つの定量的要因値である各情報メディアの使用料について検討を加えよう。通信系メディアの場合、発信及び受信地間の通話時間(情報の移動時間)によって算出される。また、郵便の場合は、発信及び受信地間の輸送費、Face-to-Faceの場合は、往復交通費、宿泊費、手当の和となる。情報量の大小は、通信系メディアの場合は通話時間の長短と相関があり、輸送系メディアの場合は重量の大小により郵送費が変化する。一方、Face-to-Faceの場合は情報量の多い少ないにかかわらず一定であるのが特徴である。
[2]定性的要因値(Box 8の2)
定性的要因値については、確実性、情報量、機密性、容易性について検討する。このような定性的要因値の個人毎の設定には、SaatyによるAHP手法のアルゴリズムを採用する。これは、個人(所属部門、職階、経験など)によって情報メディアに対する感じ方が異なることを考慮するために、各要因に対する情報メディア間の一対比較データから特性値(機能特性)を設定する。
区分 | 種類 | 郵政省情流通センサスとの対応 |
電気通信系 | 1.電話 | 01 加入電話 |
111 私設電話 | ||
2.ファクシミリ | 02 ファクシミリ | |
3.TV会議 | 08 TV会議 | |
4.データ通信 | 095 データ電送 | |
輸送系 | 5.郵便・宅配便 | 21 郵便 |
空間系 | 6.Face-to-Face
(業務交通) |
35 会議 |
36 対話 |
表4 各属性の内容
属性 | 内容 | |
定量的
要因 |
情報アクセス時間 | 情報が相手に伝わるまでの時間
(発信準備時間・移動時間・留保時間・交流時間) |
情報メディア使用料 | 情報を伝達するのに要する費用 | |
定性的
要因 |
確実性 |
相手に意図している内容を確実に伝えるのに有利かどうか |
情報量 |
相手に多くの内容を伝えるのに有利かどうか | |
機密性 |
関係者以外に内容が洩れないようにするのに有利かどうか | |
機密性 |
自分にとって利用しやすいかどうか |
(4)情報メディアの特性分析
まず最初に、各種情報メディアについての個人の印象つまり定性的要因が情報メディアによってどのように違うのかについて、比較検討を加える。平成3年に仙台市のオフィスに対して行った調査結果をまとめる。
(a)確実性
属性値「確実性」の情報メディア別の累積相対度分布を示したのが図4(a)である。横軸は、個人ごとの「確実性」の属性値(定性的要因値)を示している。相手に意図している内容を伝えるのに有利な手段については、「Face-to-Face」が最も有利である結果が導き出された。「TV会議」は「Face-to-Face」に次ぐ有利な手段となった。「データ通信」および「ファクシミリ」はこれにつづいた。「電話」および「郵便・宅配便」は最も確実性が低い手段となった。
「Face-to-Face」は、相手に実際に会って会話を行なうため、相手の反応を確認しながら、資料を提示し説明することが可能である。そこで、情報を伝達するのに最も確実な手段として認識されている。「TV会議」は、相手の反応を確認しながらの議論が可能ではあるが、画面を通したコミュニケーションでは、実際に顔をつき合わせたコミュニケーションに比べて臨場感という面で劣ってしまう。そこで、情報が確実に伝わるかに対する危惧が反映されたのであろう。「データ通信」の場合、相手にデータとして伝送し記録および保存されることができ、「ファクシミリ」の場合は、紙に記録された情報を相手は必ず目を通すことができる。これらの情報メディアは、情報としては確実に記録されたものが相手に伝達されるが、相手側がどこまで情報をくみ取ってもらえるかという点が確実性で劣るといえる。最後に、「電話」および「郵便・宅配便」が最も低い情報伝達手段となったのは、電話の内容は記録されず、相手の記憶に頼る面があること、「郵便・宅配便」は相手が情報を実際に触れずに留保される可能性があることなどが原因であると思われる。
(b)情報量
属性値「情報量」の情報メディア別の累積相対度分布を示したのが図4(b)である。横軸は、個人ごとの「情報量」の属性値(定性的要因値)を示している。相手に多くの内容を伝えるのに有利な手段については、「Face-toFace」が最も有利な手段となった。これに「データ通信」、「TV会議」、「郵便・宅配便」、「ファクシミリ」が続いた。「電話」は他の情報メディアに比べ著しく劣ることが指摘された。
「Face-to-Face」は、先に述べたように、相手に実際に会って会話を行なうため、相手の反応を確認しながら、資料を提示し説明することが可能であるために、多くの情報を伝えることができるとの認識がこの結果に反映したものと思われる。「データ通信」については、相手にデータとして伝送する際、電話回線か、INS64、INS1500のいずれに加入しているかによって、実際のところ、伝送スピードが大きく違う。現在では、企業における文書情報の蓄積が大きいため、まだ普及しているとはいえないが、企業におけるペーパレス化が進んだときに、多くの情報を効率よく伝送できるとの認識があることが反映されている。「TV会議」は、「Face-toFace」に比べて多くの情報を伝えるのに劣るような結果がでている。だが、これから普及していくにつれて、「Face-to-Face」に近づいて行くものと思われる。また、「郵便・宅配便」は、一度に多くの書類を送ることができるのに対し、「ファクシミリ」は書類が少ないうちは手軽に送れるからいいが、一度に多くの文書を送ることは不適切であることが示されている。また、「電話」は、伝えたい情報が多い場合はあまり信頼されていない情報メディアであることが示されている。
(c)機密性
属性値「機密性」の情報メディア別の累積相対度分布を示したのが図4(c)である。横軸は、個人ごとの「機密性」の属性値(定性的要因値)を示している。機密性についても、「Face-to-Face」が最も優れた情報メディアとなった。次に「データ通信」「郵便・宅配便」、さらに「TV会議」「電話」が続き、「ファクシミリ」が最も機密性の点で劣る情報メディアとなった。
「Face-toFace」は、対話の場合でも会議の場合でも極秘に関係者だけで行なうことができる。このように臨機応変に対応できることが機密性を保てる情報メディアとしての信頼が高い要因であろう。「データ通信」や「郵便・宅配便」は、関係者間以外では、情報を入手するのが難しい。しかし、他の人に洩れずに情報が伝わったかを、情報を送る際に確認できないという点が「Face-to-Face」に比べ劣る結果になったのであろう。「TV会議」「電話」は、情報の送り手および受け手が用心していても、情報メディアの設置場所によっては、関係者以外に情報が洩れる可能性がある。「ファクシミリ」の場合、企業では一般に共同利用であるために、ファクシミリ文書が受け手に渡るまでに、関係者以外に内容を読まれる可能性が高いので、最も機密性に劣る結果になったものと思われる。
(d)容易性
属性値「容易性」の情報メディア別の累積相対度分布を示したのが図4(d)である。横軸は、個人ごとの「容易性」の属性値(定性的要因値)を示している。
容易性については、「電話」が最も優れた情報メディアとなった。次に「ファクシミリ」、「Face-to-Face」、さらに「TV会議」「電話」が続き、「ファクシミリ」が最も機密性の点で劣る情報メディアとなった。
「電話」が非常に身近な存在であり利用にほとんど抵抗がないことが最も優れた情報メディアとして認知されている要因であろう。次に「ファクシミリ」がきたのはビジネスの場では一般化していることを反映している。「Face-to-Face」は、移動しなければならない面があるために、「郵便・宅配便」の場合は、投函しなければならないことがやや不利になった理由である。「データ通信」の場合、キーボード端末への抵抗から、「TV会議」はあまり普及していないために、利用の仕方に難しさを感じる企業関係者が多かったのであろう。
図4 属性値(定性要因値)の情報メディア別の累積相対度分布
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(5)情報メディア選択
企業のコミュニケーションには、社内(本社支社間、支社工場間等)と社外(顧客、関連業者等)に分けることができるが、『情報』の重要性や情報量、緊急度の違いが情報メディアの選択に大きな影響があると考えられる。ここでは、『情報』の種別を考慮した情報メディア選択モデルを構築した。モデルの詳細は、田北・湯沢・須田(1995)に示し、『情報』の種別による情報メディア選択構造の相違について以下整理する。これは平成3年に仙台市内のオフィスに対して作成した情報メディア選択モデルから導き出された。
[1]「社内情報」と「社外情報」の選択構造
社内(事業所間情報ネットワーク)および社外(企業間情報ネットワーク)について、社内では費用がかからない、社外では、多少費用がかかっても情報量の多い情報メディアを好む傾向があることもわかった。
[2]「重要な情報」と「重要でない情報」の選択構造
「重要な情報」の場合、確実性が要求される結果がでたが、「重要な情報」と「重要でない情報」との間に有為な差は確認されなかった。これは、「重要な情報」と「重要でない情報」の判断は、受け手の場合も送り手の場合もあることから、被験者が答えにくかったことによるためである。
[3]「多量の情報」と「少量の情報」の選択構造
「多量の情報」「少量の情報」の違いは、情報が少ない場合、費用が安く、機密性があり、容易な手段が好まれることがわかった。
[4]「相手のみの情報」「共通の情報」の選択構造
「相手の情報」では、容易かつ確実に相手に情報が伝わり、かつ外部に情報の漏れにくい情報メディアが好まれることがわかった。
[5]「急ぎの情報」「急がない情報」の選択構造
「急ぎの情報」は、機密性よりも、容易で確実な情報メディアが好まれる傾向があることがわかった。
4.おわりに
企業における情報活動と利用情報メディアに関する分析について紹介した。
前半では、オフィスにおける『情報流動』決定モデルを取り扱い、情報通信コストの低下についての影響を詳細に分析し、以下の点を明らかにした。
(1)情報化を4つの要素から捉え、業務活動の変化を捉えるためのモデル構築を行なった。情報化の影響分析モデルとして、情報コストの低下だけではなく、情報通信メディアの質の向上、情報処理機能の高度化、さらに就業者の知識水準の上昇等の他の要素を加えたモデルを作成した。
(2)情報通信コストの低下による影響について整理すると、通信時間は増加して日常労働時間は減少する傾向があるが、面談時間(業務交通量)は増加することも減少することもあることが導き出された。
(3)本モデルでは、情報通信コストの低下によりオフィスの経営形態の変化は3タイプに分類されることがわかった。
後半では、TV会議等のニューメディアを含む通信と交通の代替性を考慮した情報メディア選択モデルを説明した。得られた結果は以下の通りである。
(1)情報メディアの選択プロセスを明確化した。
(2)情報メディアの選択行動は、定量的要因(費用、時間)と定性的な要因(確実性、容易性等)により影響を受けることを明らかにした。
(3)今後普及の進む可能性のあるTV会議やデータ通信等の5種類の通信メディアとFace-to-Face(交通)を同時に考慮した情報メディアの選択問題を取り扱うことに成功した。
【参考文献】