特集

企業における情報活動と利用情報メディア

客員研究官 田北 俊昭
(山形大学人文学部総合政策科学科講師)

1.はじめに

 本稿では、筆者らがこれまで進めてきた「企業における情報活動と利用情報メディアに関する分析」について整理し、これらを総合的に考察することにより、高度情報化により企業がどのような影響を受けるのかを捉えることが目的である。
 急速な情報通信技術の進歩、さらに21世紀初頭のB-ISDN網の実現により、大量の『情報』を速く安価に運ぶことが可能となる。つまり、コンピュータ画面を通じた画像情報、音声情報、文字情報等の双方向のやりとり、共同作業等が遠隔地間で可能となる。そのとき、企業は、新しい時代にあった企業経営を模索していくようになる。家庭においては、在宅勤務が可能となり、その他在宅医療、教育等の様々なサービスが可能となる。
 21世紀初頭には、オフィスおよび家庭で、コンピュータ技術と通信技術の融合化した「マルチメディア社会」が形成される。従来からの高度な情報伝達手段である「Face-to-Face(交通による移動を伴う)」に加えて、ますます質の高い情報伝達手段となっていく「情報通信メディア」を利用した『情報流動』が、以前にも増して、「生産」、「分配」、「流通」、「消費」など経済活動に深く関与していくことが窺われる。
 従って、われわれが、『情報流動』と経済活動の関係を明らかにしていくことによって、高度情報化社会に対する理解が深まるだけではなく、『情報』に関する経済理論としての発展が見込まれるであろう。
 本稿では、このような問題意識のもと、企業における情報活動と利用情報メディアに関する分析を取り上げている。「企業における情報活動に関する分析」では、最初にオフィス活動における情報活動の役割について、次にオフィス活動における情報化の影響について述べる。「利用情報メディアに関する分析」では、TV会議等のニューメディアを含む通信と交通間の情報メディア選択プロセスについて述べる。


2.企業における情報活動に関する分析

 高度情報化社会の企業行動についての研究を整理する。Kanemoto(1987)(1990) は、企業集中により生じる集積の経済および不経済を考慮した2企業の立地選択問題をモデル化するにあたり、企業間の相互作用として、市場取引と情報交換費用(交通費用と通信費用)を導入している。生産における規模の経済が、交通および通信費用と結び付くと大きな集積の経済が発生することを指摘している。一方、文(1992) は、都市内の企業立地と企業間『情報流動』の相互依存関係を考慮した立地均衡モデルを作成している。同研究では、情報化により企業分散へ向かうこと、都市中心部では交通は減少するが中心部よりある距離だけ離れると逆に増加し始めることを指摘している。情報化に伴う企業の管理機能(フロントオフィス)と常務機能(バックオフィス)の都市内分散の可能性を取り上げた佐々木(1989) 、太田(1990)(1991)の研究もある。
 ここでは、今回、オフィスにおける『情報流動』決定モデルを説明する。他の論文との違いは、オフィス活動における情報活動を詳細に捉え、企業のオフィス活動と4つの情報化の要素との関係を説明している点、また企業により情報化の影響にさまざまなパターンがあることを明らかにした点に特色がある。モデルの詳細については田北(1994)に示し、ここではその分析結果を表示することにとどめる。

(1)オフィス活動における情報活動の役割

 企業のオフィス活動は、「オフィス内業務活動」、「オフィス外業務活動」に大きく分けることができる。それぞれの活動の中で「情報活動」に相当する部分(以下の下線部)について整理する。
 「オフィス内業務活動」は「日常労働活動」と「通信業務」の2つから構成される。「日常労働活動」とは、各労働者が、書類を読んだり、作成したり、整理したり、計算を行なったりする業務である。これは『情報』の処理・加工活動である。「通信業務」は、電話・ファックス・TV会議・郵便や宅配便等の情報通信メディアを使用し、外部(他事業所や社外取引先等)とのやりとりを行なう業務である。後述する「面談・会議」と代替・補完的関係にある。これは、『情報』の伝達活動である。
 「オフィス外業務活動」は、「面談・会議」による『情報』の伝達活動とそれに付随して発生する移動からなっている。移動手段としては、徒歩またはバス、自動車、鉄道、航空等の交通手段がある。

(2)オフィス活動における情報化の影響

 各種オフィス活動と情報化の4つの要素との関係をまとめたのが図1である。

図1 情報化におけるオフィス活動への影響

図1 情報化におけるオフィス活動への影響

(3)情報通信コスト低下によるオフィス活動の変化のパターン

 4つの情報化のうち、特に、情報通信コスト低下によるオフィス活動の変化についての比較静学分析を行った。その結果、オフィスへの影響の受け方は3つのタイプに分かれることがわかった。この結果を示したのが、図2である。各業務の下の矢印は、左から、「ケース1企業(タイプ1)」、「ケース2企業(タイプ2)」、「ケース3企業(タイプ3)」を示している。
 「ケース1企業(タイプ1)」の場合、労働者はオフィス内で仕事をすることが多くなる。だが、オフィスにおける定型的な日常労働時間は減っており、通信を利用したコミュニケーションが活発になる。交通による移動は減ったが全体として情報交流は増えている。
 「ケース2企業(タイプ2)」の場合、以前ともオフィス内外にいる時間は変わらないが、オフィス内での日常業務が少なくなり、通信によるコミュニケーションが多くなっている。この場合、業務交通は以前と同じである。
 「ケース3企業(タイプ3)」の場合、労働者はオフィス外で仕事をすることが多くなる。人と会う時間は増え、同時に交通機関での移動も多くなった。オフィス内では、特に日常業務は減ったものの、通信を利用したコミュニケーションは逆に増えている。
 業務交通問題に絞った場合、これら3タイプの企業の割合によって、全企業による業務交通は増えることもあれば減ることもあるといえる。

図2 情報通信コスト低下による各種業務の増減

図2 情報通信コスト低下による各種業務の増減



3.利用情報メディアに関する分析

 まず最初に企業における利用情報メディアについての研究を整理する。
 Goddard(1971)は、企業における『情報』を、利用情報メディアの種類と情報の特性(長さ、頻度、フィードバック等の7項目)の組合せで捉え、項目間の相関を見ている。情報メディアの選択に関する研究が交通計画の分野で行なわれるようになったが、IATSS(1984)、原田(1985)は、交通と通信の代替性を2項ロジットモデルにより表現した非常に重要な論文である。Moore and Jovanis(1988)は、情報通信メディアの詳細な選択プロセスをモデル化した。この研究は、『情報』を属性の組合せにより表現することをはじめて行なったものである。田北・湯沢・須田(1991)(1993) は、交通を意図したFace-to-Face(交通)に今後普及が進むであろうTV会議、データ通信も考慮して、社内(事業所間)および社外コミュニケーション選択モデルを作成している。肥田野・佐々木・稲葉・足立(1993)(1994)、稲葉・肥田野(1994)のモデルも同様な観点から研究を進めている。また、田北・湯沢・須田(1995) はさらに『情報』の種類の違いを考慮した選択モデルへと拡張している。
 第2章で取り扱ったオフィスにおける『情報流動』決定モデルは、オフィス全体の『情報流動』を内生的に決定できるモデルであった。ここでは、このような『情報流動』の部分に焦点を絞って、情報メディアの選択プロセスを説明する。なお本モデルの詳細については、田北・湯沢・須田(1993)(1995)で示す。

(1)企業における利用情報メディアの選択プロセ

 ここでは、「企業における情報メディアの選択プロセス」について、図3を用いて説明する。

図3 企業における情報メディアの選択プロセス

図3 企業における情報メディアの選択プロセス

(第1段階 情報伝達の必要性の認識)
 ある『情報(Box 1)』を「発信地(Box 3)」から「受信地(Box 4)」に伝達する必要が生じたとする。このとき、「情報の発信者(Box 5)」は現在の情報技術で利用可能な「情報メディア(Box 2)」を候補(発信地および受信地での利用可能性とは無関係)として考える。

(第2段階 情報メディアの機能比較)
 次に、実際に情報伝達を行なうときの各種機能(時間や確実性等)について、情報メディア別に比較検討する必要がある。
『情報(Box 1)』の「発信地(Box 3)」及び「受信地(Box 4)」、そして「情報量(Box 1の2)」から、情報メディア別に、情報発信を準備してから情報交流が終了するまでの時間(「情報アクセス時間(Box 6)」)、さらに情報メディア使用料についても検討する。その結果、「情報メディア別の定量的要因値(アクセス時間、メディア使用料)(Box 8の1)」が導出される。また、「情報の発信者(Box 5)」の「情報メディアに対する印象(Box 7)」についての一対比較データから「情報メディア別の定性的要因値(確実性、情報量、機密性、容易さ)(Box 8の2)」が導出される。以上のプロセスにより、「情報メディア別の特性値(定量的要因値、定性的要因値)(Box 8)」が決まる。

(第3段階 情報伝達で必要とされる機能特性)
『情報(Box 1)』の伝達のためには、情報メディアに対してどのような機能特性を重視するのだろうか。「情報の発信者(Box 5)」は、『情報(Box 1)』に応じて、先に述べた「情報メディア別の特性値(Box 8)」に対する重みづけ(「相対的重要度(Box 9)」)を変化させる。この重みづけが機能の重視の度合いを示している。

(第4段階 情報メディアの選択)
 最終的に、「情報メディア別の特性値(Box 8)」とそれに対する重み(「相対的重要性(Box 9)」)から、「ある情報に対する情報メディアの選好構造(Box 10)」が把握される。そして、発信地と受信地の「情報メディアの存在(Box 11)」を確認した上で、一番効用が高い情報メディアが選択されることになる。

(2)情報メディア選択モデルの説明

 ここでは、モデル全体を構成する個々の部分について説明する。

表1 「情報」の表現方法

表1 「情報」の表現方法

表2 「社内」「社外」における情報伝達・収集活動の分類

[社内] 社内情報ネットワーク(専用回線)
[本社(管理部門)・営業本部調]

(A.報告・情報伝達)    (B.指示・情報受取)

(1)支店の経営概況・営業概況  (1)経営・営業の方針及び情報

(2)支店の運営関連情報     (2)管理・運営の方針及び情報

(3)取り引き先・市場情報    (3)製品・営業活動の方針及び情報

[事業部・関連会社(製造部門)調]

(A.情報伝達)       (B.情報収集)

(1)注文内容伝達        (1)製品・システム関連情報

                 (仕様・納期・価格)

(2)現場状況・技術情報     (2)技術関連情報

[営業所・系列販売会社(管理・営業部門)調]

(A.情報伝達)       (B.情報収集)

(1)経営・営業の補佐      (1)経営概況・営業概況

(2)管理・運営の補佐      (2)管理・運営概況

(3)製品情報・営業活動の補佐  (3)取引先・市場情報

[社外]
[取引先調]

(A.情報伝達)          (B.情報収集)

(1)販売事前活動           (1)営業エリア内の市場動向

 (a)挨拶・お得意先回り・顔つなぎ     マーケティング調査

 (b)製品・システム提案       (2)営業活動の進展度把握

(2)販売・営業活動             販売事前活動

 (a)顧客・取引先の説得            から

 (b)商談の締結・入札・契約        販売・営業活動

 (c)製品・システムの納入      (3)顧客動向

 (d)集金・支払い決済         (a)顧客の要望

(3)販売事後活動            (b)トラブル発生

 (a)取り扱い説明

 (b)修理・点検

[納入先・施工現場調]

(A.情報伝達)          (B.情報収集)

(1)納入・施工時の指示        (1)納入・施工状況の把握

                   (2)納入・施工後の視察

[官庁調]

(A.情報伝達)          (B.情報収集)

(1)認可申請             (1)認可

                   (2)工事立ち会い

(注)田北・湯沢・須田(1992)を修正

(3)各情報メディアの属性値の導出

 『情報』が、送り手から受け手に伝わる場合、100%意図している内容が伝わるとは限らない。我々は、情報メディアの種類により『情報』のニュアンスが大きく異なることを経験している。ここでは、各情報メディアについて、情報メディアの機能特性を示すための属性値の導出プロセスを説明する。なお情報メディアの機能特性については、定量的な要因と定性的な要因とを考慮する。定量的要因は、発信地および受信地と情報量により物理的に決定されるものであり、情報アクセス時間、情報メディア使用料を取り扱う。一方、定性的要因は、個人の情報メディアに対する印象により形成される要因であり、具体的には、確実性、情報量、機密性、容易性を取り扱う。

表3 情報メディアの種類

区分 種類 郵政省情流通センサスとの対応
電気通信系 1.電話 01  加入電話
111 私設電話
2.ファクシミリ 02  ファクシミリ
3.TV会議 08  TV会議
4.データ通信 095 データ電送
輸送系 5.郵便・宅配便 21  郵便
空間系 6.Face-to-Face

 (業務交通)

35  会議
36  対話

表4 各属性の内容

属性 内容
定量的

要因

情報アクセス時間 情報が相手に伝わるまでの時間

(発信準備時間・移動時間・留保時間・交流時間)

情報メディア使用料 情報を伝達するのに要する費用
定性的

要因

確実性

相手に意図している内容を確実に伝えるのに有利かどうか

情報量

相手に多くの内容を伝えるのに有利かどうか

機密性

関係者以外に内容が洩れないようにするのに有利かどうか

機密性

自分にとって利用しやすいかどうか

(4)情報メディアの特性分析

 まず最初に、各種情報メディアについての個人の印象つまり定性的要因が情報メディアによってどのように違うのかについて、比較検討を加える。平成3年に仙台市のオフィスに対して行った調査結果をまとめる。

図4 属性値(定性要因値)の情報メディア別の累積相対度分布

図4(a)
(a)  属性値「確実性」

図4(b)
(b)  属性値「情報量」

図4(c)
(c)  属性値「機密性」

図4(d)
(d)  属性値「容易性」

(5)情報メディア選択

 企業のコミュニケーションには、社内(本社支社間、支社工場間等)と社外(顧客、関連業者等)に分けることができるが、『情報』の重要性や情報量、緊急度の違いが情報メディアの選択に大きな影響があると考えられる。ここでは、『情報』の種別を考慮した情報メディア選択モデルを構築した。モデルの詳細は、田北・湯沢・須田(1995)に示し、『情報』の種別による情報メディア選択構造の相違について以下整理する。これは平成3年に仙台市内のオフィスに対して作成した情報メディア選択モデルから導き出された。


4.おわりに

 企業における情報活動と利用情報メディアに関する分析について紹介した。
 前半では、オフィスにおける『情報流動』決定モデルを取り扱い、情報通信コストの低下についての影響を詳細に分析し、以下の点を明らかにした。

 後半では、TV会議等のニューメディアを含む通信と交通の代替性を考慮した情報メディア選択モデルを説明した。得られた結果は以下の通りである。


【参考文献】