特集

インターネットによる中小企業の
ニーズ解決策の一考察

情報通信システム研究室主任研究官 井手 修

要約

 昨年来のインターネットの話題は、今年になって多少なりとも落ち着きを取り戻してきたとも思える。これは、既に日本でも浸透しつくし、ニュース・バリューとしての価値がなくなったと見るべきか、それとも、インターネットの現状の利用方法の限界が露呈したと見るべきなのか、意見の分かれるところであろう。そのためか、企業は、外部とのコミュニケーション・ツールとしてのインターネットの利用から、内部のコミュニケーションやグループウェアの利用としてのイントラネットに関心が移っているように、見受けられる。
 そこで、本報告書では、まずインターネットの情報発信としての利用、オンライン・ショッピングとしての利用、企業間取引としての利用の、それぞれの可能性と限界を検証してみる。
 一方、インターネットは、比較的簡単に導入でき、外部とのネットワークとも容易にコミュニケートできる情報手段であるため、インターネットは中小企業の情報化にとって有効な手段となりうる。しかし、インターネット自体、多種多様な利用方法があるため、事業に応用しても、かえって使い方が散漫になり、効果が出ない結果となりがちである。また、インターネットを導入する意志はあっても、先進的な中小企業を除き、大部分の中小企業は、日々の事業に忙殺され、資金力不足、労働力不足、情報リテラシーの問題等があり、個々の中小企業単独では、インターネットを導入できないのがほとんどであろう。
 そこで、本報告書では、上記中小企業の問題点を考慮しつつ、中小企業のニーズを解決するための一手段として、インターネットを利用したエージェント・サービス構想を提示する。
 このエージェント・サービスは、
 (1)ニーズ側、(2)シーズ側、(3)有機的にネットワーク化された専門家
をネットワークとして持ち、
 (1)エージェント機能、(2)知的資源、(3)コーディネート機能
によって構成される。
また、エージェント・サービスの特徴は、
 (1)中小企業の信用を醸成し、(2)ルーズな結合を有効に使い、(3)コーディネートとアシスト
を基本とするものである。
 このエージェント・サービス構想が、内向きには、中小企業の事業が活発化し、その中小企業が所在する地域の産業が活性化すると同時に、外向きには、全国的、全世界的ネットワークと発展することを望むものである。


はじめに

 いわゆるバブル経済の崩壊以降、国内産業界は、取引量の減少、価格破壊、円高等により、売上げ不振にあえいでいる。また、規制緩和、海外直接投資・海外現地生産、系列関係の弛緩化等、産業構造の変化にも晒されている。特に資本力、組織力が大企業に比べて小さい中小企業にとっては、「じっと耐えて変化をやり過ごす」という従来型の一時待避的な姿勢では対応できない状況である。
 中小企業がこのような環境のもとで生き残るためには、業務の合理化、情報化の他、経営戦略の強化を行うことが必要であり、そのためには、同業者、市場、異業種業界等とのネットワークを強化し、外部環境の変化を読み取り、将来に向けて社内改革、事業拡大、ひいては事業転換に向けての内部構造の改革を行う必要がある。
 一方、インターネットは、比較的簡単に導入でき、外部とのネットワークとも容易にコミュニケートできる情報手段である。そのためインターネットは中小企業の情報化、ネットワーク化にとって有効な手段となりうるであろう。
 しかし、インターネット自体、多種多様な事に利用できるため、事業に応用しても、かえって使い方が散漫になり、効果が出ないこととなる。
 また、インターネットを導入する意志はあっても、先進的な中小企業を除き、大部分の中小企業は、日々の事業に忙殺され、資金力不足、労働力不足、情報リテラシーの問題等があり、個々の中小企業単独では、インターネットを導入できないのが現状である。
 そこで、本稿では、中小企業の事業を支援する方策として、インターネットを利用した中小企業向けエージェント・サービス構想を提案する。



1.企業のインターネット利用動向

 郵政省が平成7年9月から10月にかけて行った「平成7年度通信利用動向調査」(郵政省大臣官房財務部企画課統計企画室)によると、インターネットの利用状況については、図表1に示すように、企業の1割が何らかの形でインターネットを利用している。また、2割近くの企業が、今後具体的な利用予定がある、と答えている。
 ところが図表2に示すように、インターネットを実際に利用している企業のうち、活用状況をみると、

  1. 「活用方法は社員個人に任せている」が25%以上、「とりあえず利用して様子を見ている」企業が40%以上と、事業への活用という面では、インターネットの有効的な活用とまでは行かず、試行錯誤的段階といえる。
  2. 情報発信として有効と言われている「WWWサーバ等を設置して情報提供、宣伝媒体として利用している」企業は24%であり、インターネットを導入したからと言って、即WWWサーバを設置している訳ではない。
  3. 企業のインターネット利用の側面としては、電子メール、データベース検索などは、通常の業務作業の効率化に利用していることが推測できる。

 通常、企業が情報化システムを導入する場合、業務の合理化や、コストダウン等の目的を持っているが、ことインターネットに関しては、企業としても、どのように活用していいのか分からないのが実態であろう。また、インターネットの活用による効果についても懐疑的な意見もあり、そのため、インターネットは、以前のように騒がれてはおらず、現在は業務の合理化や、社内コミュニケーション等を目的として、インターネットの仕様を社内システムに応用したイントラネットに関心が移っている。

図表1 インターネットの利用状況【企業】

図表1 インターネットの利用状況【企業】


図表2 インターネットの活用状況【企業】

図表2 インターネットの活用状況【企業】


2.インターネットの可能性と限界

2.1 情報発信としての可能性と限界

 インターネットを利用して情報発信を行う手段として、もっとも普及してい方法は、図表2でも示すように、「WWWサーバ等を設置して情報提供、宣伝媒体として利用」する方法である。ただし、設置しただけでは外部からはアクセスされる機会はほとんどなく、自WWWサーバの存在を対外に知らしめるため、新聞・雑誌での広報の他、著名なディレクトリ・サーバに登録することが一般的である。
 例えば、NTTが提供するNTTディレクトリ(http://navi.ntt.jp/)の企業紹介のページに登録されている企業数(1996年9月17日現在)を、図表3に示す。
 企業数だけでも1,700社以上あり、また、業種別でも、例えば、建設業では177社、電気機器で165社ある。更に、この例は、NTTディレクトリに登録された企業であり、ディレクトリ・サーバはその他にもいくつかある。
 これらディレクトリ・サーバは、ある特定の企業のホームページに到着しようとした場合を検索する場合は便利ではあるが、例えば、リクルート活動や、パートナー検索など、多くの企業の中から自分の要求に叶った企業を選択する場合、以下の欠点がある。

  1. 大企業から、中小企業まで、企業規模の大小に関らず登録できるため、ネームバリューのない中小企業にとって、目立たない存在となる。
  2. ディレクトリ・サーバを提供している事業者は、登録されている企業の信用や、情報の信憑性を保証してないため、これらは、検索する側で確認する必要がある。
  3. 検索だけで、多くの時間と回線等のコストが掛かり、検索コストと、その見返りの採算性が見えない。

 これらの問題を解決するため、インターネット上では、サーチ・エンジンもいくつか提供されているが、それを利用した場合でも、適切な検索キーを選ぶにも熟練が必要であったり、検索結果も膨大となり、上記の問題の根本的解決にはなっていない。

2.2 オンライン・ショッピングの可能性と限界

 インターネットが商用ネットとして登場して以来,エレクトリック・コマースの手段として,大きな期待が持たれた。そのため,企業もインターネットを販売チャネルの一つとして期待し,様々な商品がWWWを介して販売されている。
 しかし、その商品を購入する個人のインターネットに対する意識は、どうであろうか。これに関する調査はいくつかあるが、ここでは、the Graphic, Visualization, & Usability Center'sGVU)が調査、分析したGVU's Fourth WWW User Surveyをもとに、利用者の意識を見てみる。
 この調査結果は、WWW上に公開されている。
 GVU's Fourth WWW User Surveyの実施期間は、1995年10月10日から同年11月10日である。
 この調査では、4種類の質問表があるため、それぞれの質問表に対するサンプル数が異なる。サンプル数は最少で3,631件、最大で23,348件である。
 回答は75ヶ国、米国50州、カナダ12州からあった。
 この調査のうち、消費に関しては、the University of Michigan Business Schoolと共同で、HERMESプロジェクトが分析している。

(1)WWWベンダーに求めるもの

 今後、WWWでオンラインショッピングが発展するためには、何が重要で、何が不足しているのだろうか。消費者がWWWベンダーに求めているものを、図表4に示す。それを分析すると、以下のことが言える。

  1. 消費者はリスクを最も嫌っている。セキュリティ、ベンダーに対する信用が最も重要と考えられ、また、店頭販売、通信販売などの伝統的売買と比較すると、評価も低い。
  2. セキュリティについては、国レベル、団体レベル、企業レベルで様々な対応策がなされており、今後、評価は高まるであろう。
  3. ベンダーの信用については、インターネット上では消費者に馴染みの薄い企業も参加しているため、低い評価となったと思われる。
  4. 購入情報の質、品数については伝統的売買に比べて評価が低い。一口に購入情報の質と言っても、商品情報の他、製造元、販売元の情報、購入手順に関する情報も評価の対象に含んでいるためであろう。

(2)支払方法の信頼度

 売り主との間でインターネット上で購買しようとした場合、その支払方法として、どのような方法を選ぶかを、図表5に示す。
 消費者は、通話料金が無料の電話/FAXを用いて、クレジット番号を売主に通知する決済方法を好んでいる。これは、セキュリティとコスト両方を満足するためであろう。
 購入者が、電子メールで自分のクレジット番号を売主に通知する方法は、セキュリティの問題があるためか、ほとんど利用意志はない。
 その一方、現在実現されているSHTTPやSSL等セキュリティ機能を用いて購入者が売主に自分のクレジット番号を通知する方法は好まれている。この方法はオンライン上の一連の購入手続きの一環として実現できるため、電話/FAXに比べ操作性は優れているが、セキュリティにまだ不安があるためか、通話料金が無料の電話/FAXによるクレジット番号を通知する決済方法より好まれていない。しかし、これも実績が増え、セキュリティの保証が証明されれば、次第に利用されていくものと思われる。

(3)第3者機関に対する評価

 インターネット上では、売り主と直接取引をするばかりでなく、代理店等の第3者機関を通じてモノを購入し、支払もその第3者機関を通じて決済することが見込まれている。
 それでは一般の消費者は、上記のような購入から決済までの一連の手続き処理をどのような第3者機関に委ねることが好ましいと考えているのだろうか,を図表6に示す。
 この評価は二つの意味合いがあると思われる。
 一つは、セキュリティ上の信用であり、もう一つは商品に対する信用である。
 セキュリティ上の信用については更に、2つに分かれる。一つは、送信した電文が改竄されたり、盗聴されたりせず、正確に受信者へ送信されるという、ネットワーク上のセキュリティに対する信用であり、もう一つは、送信された電文により決済処理が正しく行われ、プライバシー等が守られるなどの決済業務そのものに対するセキュリティである。
 クレジット会社、銀行は実生活でも日常の決済を行っており、そのセキュリティに関して信用は揺るぎないものであり、オンライン上でも好まれている。
 Microsoft社等の第3者機関の信用が低いのは、ネットワーク・セキュリティには問題はないとしても、決済処理、プライバシー等の業務上の実績がないためかもしれない。
 次に、商品に対する信用とは、商品そのもののブランドに対する信用と、販売する店舗に対する信用(商品そのものはネームバリューはなくても、老舗等の売主に対する信用により、商品を信用する)に分けることができる。商品に対する信用については、クレジット会社は通信販売で商品の価格、品質、配送、アフタサービス等が既に実績があるため、オンライン上の購入に関しても信用が高いものと思われる。銀行がクレジット会社より好感度が若干低いのは、実生活でモノの売買の実績がないためであろうか。
 大手クレジット会社、銀行以外の他の機関の信用度が低いのは、上記に示した、@ネットワークに対する信用、A決済業務に対する信用、B店舗に対する信用、C商品に対する信用、の四つの信用を併せ持つ機関としては実績が不十分のためと思われる。
 上記の結果から類推するに、消費者にとってベンダーの信用が重要であるということは、インターネット上に新たに参加する、ブランドやネームバリューのない企業にとっては、単独で信用を高めるのは難しいことを示している。そういう企業がインターネット上で信用を高めるには、

  1. 他媒体を通じて、ネームバリュー、ブランドを高める。
  2. 他の信用実績のある団体、企業と共同で参加する。
  3. 中立的な第三者機関により客観的なインターネット上の信用格付けを行う。

等の対策が必要である。

2.3 企業間取引

2.3.1 既存取引先とのネットワーク

(1)インターネットと既存ネットワークとの比較

 企業は、今までみたような、消費者等の様に不特定多数のターゲットを相手にしている場合もあれば、その一方、取引企業等のように、特定の企業を相手にしている場合もある。「1.企業のインターネット利用動向」で見たように、インターネットを利用している企業のうち4割の企業は、インターネット上で「取引先との打ち合わせ等にメールを利用」している。また現在インターネット上で受発注、決済等を行うEC(電子商取引)が考えられている。
 ところが、取引先とのコミュニケーション手段として、既にパソコン通信、業界VAN/地域VANのネットワークが存在し、それら既存ネットワークも、今後マルチメディアを考慮した付加価値を構築しようとしている。
 ここでは、インターネットと、業界VAN/地域VANを比較することにより、取引先とのネットワークの手段としてインターネットが相応しいか、分析する。

ア.VAN利用の実態

 各企業は、企業内、関連企業、取引先などを包含したネットワークを構築するにあたり、通信料金の安い、サービスが広域にわたる安全性・信頼性の高い大規模なネットワークを求め、汎用VANを活用している。
 業種別に、VANを利用したネットワーク状況をみると、次の通りである。
 流通業のVAN利用では、メーカー、卸売業、小売業、物流業といった各主体がそれぞれPOS(販売時点情報管理)、SA(ストア・オートメーション)、EOS(補充発注システム)などの情報システムを実用化しており、VANにより、年中無休化、大規模化、広域化を実現することにより、多品種少量発注、多頻度発注を実現し、販売効率の向上に役立てている。
 また、受発注のデータの流れ(商流)、商品のモノの流れ(物流)、決済のカネの流れ(金流)まで含めたトータルなサービス提供が求められており、小売店と卸売業の受発注ネットワークに銀行、物流業者など第三者を包含したネットワークへの展開が始まっている。
 一方、地域においては、大手小売業の全国ネットワーク化、大手卸の小売店系列化の動きに対抗して、地域の競合、異業種の卸売業が結束するとともに、その地域の小売業を加えて地域内の共同情報システム化を構築している地域もある。いわゆる地域VANである。
 製造業では、VANを利用して企業内、あるいは系列企業(販売会社、倉庫、小売店)との情報交換を密にし、市場動向やその時々の流行などをすばやくキャッチアップして、商品開発や生産計画に反映させようとしている。
 金融業では、流通業の受発注データ交換に決済データを加えることにより、都銀、地銀、第二地銀などの枠を越えて複数の金融機関との間で取引関係のある企業に対して、代金の振込や代金回収がネットワーク上で行える。

イ.取引先との電子メールの利用

 上記のように、VANは、取引企業間の受発注、決済等で利用されている。
 その一方、図表2で見たように、「取引先との打ち合わせ等にメールを利用」するためにインターネットを利用している企業がある。特に、製造業、運輸・通信業、サービス・その他での利用が多い。その一方、建設、金融・保険業、不動産業は少ない。その理由を業種別に推測すると、以下のことが考えられる。

  1. 建設業では、企業間のネットワークとして人的ネットワークが重要であり、また地域に密着した企業が多い。そのため、ゼネコン等の広範囲なネットワークが必要な企業は、電子メールの利用は大きいであろうが、地方の中小建設業は、電子メールの需要は低いと推測される。
  2. 製造業では、WWWの設置よりも、インターネットによる電子メールの利用が高い。製造業は、業種業自体として情報化に積極的な傾向がり、また活動範囲が、全国、海外に及ぶため、電子メールの利用が高いのであろう。
  3. 運輸・通信業では、WWWの設置も高く、インターネットによる電子メールの利用も高い。この業種は広範囲なネットワークを必要とし、取引相手が複数多岐に渡るためであろう。
  4. 卸売・小売業、飲食店は、インターネットによる電子メールの利用が少ない。これは、既存の流通VANが発達しているため、電子メールの需要が低いのであろう。
  5. 金融・保険業での電子メールの利用は少ない。この業界は、金融VANが発達しているという理由の他に、セキュリティを売り物にしている金融・保険業では、インターネットのセキュリティに不安があるため、電子メールの本格的利用が少ないのであろう。
  6. 不動産は、電子メールの利用がない。不動産業界VANがあるという理由の他、不動産業は地域に密着した業種なので、電子メールの利用がないのであろう。
  7. サービス・その他でのインターネットの利用は高い。この業種は、企業間の系列関係が緩い、取引先が広範囲である、業務自体がソフトウェア的である、等の理由により、電子メールの利用が高いのであろう。

 電子メールを初めインターネットのアプリケーションは一般には、非定型業務に向いているが、業界VAN/地域VANとも電子メール等の付加価値を提供しつつあり、取引先企業との電子メールのやり取りも、インターネットでなければできない訳ではない。

(2)取引先とのインターネットの位置付け

 現在、インターネット上でEC(電子商取引)を実現すべく、各方面で検討がなされているが、一方、「(1)インターネットと既存ネットワークとの比較」でも見たように、業界VAN/地域VANでは既に、商取引をネットワーク上で実現している。
 それでは、商取引の用途において、インターネットはVANと世代交代するのであろうか?
 既存ネットワークである業界VAN/地域VANとインターネットを図表7で比較して、世代交代の可能性を考察する。

  1. インターネット上でのセキュリティについては、あらゆる方面から対策が検討されているため、将来解決する可能性がある。ただし、インターネットのネットワーク上の性質上、回線が接続されない、電文が欠落する等のネットワーク自体の信頼性についてはまだ解決されない。そのため、受発注データ、決済データ等、迅速かつ正確さが求められる業務においては、VANはインターネットより優れている。
  2. VANは伝送速度がインターネットに比べ劣るため、画像、音声等、マルチメディア対応が困難である。
  3. 業界VANでは、POS,SA,EOSを実現するため、その業界・業種独自のアプリケーションの提供、商品コード、取引先コード、単位コード等各種コードの標準化、企業固有のシステム間のデータのフォーマット変換、業務特有の専用端末の提供等、多機能なサービスが提供されており、インターネットに置き換わるためには、それら既存設備(サンク・コスト)の償却など膨大な投資が必要となる。
  4. VANでは、ネットワークの構築/運用/監視を行う専門の業者がおり、VANに参加している個々の企業は、ネットワークの構築/運用/監視については専門の業者が代行してくれる。またその費用も参加企業で分配することが可能である。しかし、インターネットでは基本的にその利用者が責任を持つ必要がある。
  5. インターネットにはバッチという概念がない。そのため、VANをインターネットに置き換えるためには、現在バッチで処理されている業務をすべてオンライン業務に更改する必要があり、膨大な費用が必要となる。

 このように、ECが既存ネットワークからインターネットに置き変わるためには、上記のような問題を解決する必要があるため、インターネット上での企業間のECに関して言えば、普及するには、まだまだ時間がかかるであろう。

2.3.2 新しいネットワークの構築

 平成7年中小企業白書では、中小企業の新たなる可能性へのチャレンジのためのキーワードとして、「新分野進出」、「技術開発」、「海外展開」、「情報化」を挙げている。
 ここでは、インターネットを使った「情報化」により、「新分野進出」、「技術開発」、「海外展開」にどのように活用できるであろうか?

(1)商用データベースと比較して

 新規取引先の開拓、技術開発や、更に新規分野への参入に際しては、それらの情報の入手方法として、「交流会、セミナー等への参加」、「業界紙、専門紙等の購買」、「公的機関への相談」等の対策がなされていた。その他にも、企業の信用照会等のため、商用データベースの利用がある。
 商用データベース振興センターの「データベース・サービス実態調査」によると、利用比率の高いところを業種別に挙げると、石油・化学工業を筆頭に電気・一般・輸送機械製造業、建設業、その他の対事業所サービス(不動産、放送、通信、広告、運輸など)である。また、業種別の利用金額は、金融・保険業が5億円を超え、次がその他製造業が3,000万円で続き、以下商業、その他の対事業所サービスとなっている。この傾向は、図表2での、「外部データベースにアクセスして業務に利用」している業種とほぼ同じ傾向にある。
 データベースの利用は、調査、研究、営業部門などが主に利用しているが、業種別の利用では、第二次産業では、研究部門と特許部門での利用が多く、第三次産業では、調査部門と営業部門の利用が多い。
 このように、現状の商用データベースには需要があり、実際、図表2にも示すように、インターネットを使ってのアクセスも、特に製造業、金融・保険業で、「外部データサービスにアクセスして利用」されており、ビジネス・リサーチの目的で利用されている。
 商用データベースがインターネットでも提供される場合、画像、音声などのマルチメディアの特性が生かされると、それなりの需要があるものと思われる。
 逆に言えば、商用データベースで検索対象となる企業/業種は、WWWを提供すれば、検索の需要が高いと言えよう。
 一方、情報を個別に発信したい企業にとっては、WWWを提供することにより、商用データベースの標準規定にとらわれることなく、その企業の財務、特質、企業活動、詳細な事業内容、生産部門の場合の設備状況、所有特許情報、製品/商品紹介等が、提供可能となる。
 従って、ある企業が新規取引先を特定したい場合、現行商用データベースで取引先を絞り込むと同時に、更に検索対象がWWWを公開している場合、そのWWWを参照することにより更に絞りこむ事が可能となる。
 ただし、この場合注意が必要なのは、インターネットを利用者している消費者にとっては、通常このような企業情報は不要であるため、消費者向けとは別に、企業向WWWのコンテンツはあくまでも企業をターゲットとすべきである。

(2)技術開発上での利用法

 平成7年中小企業白書によると、中小企業において技術開発を行う上での問題点に対する対応策として、「取引先・同業者等の他社との連携」70.4%、「公的試験研究機関との連携」19.9%、「民間の研究機関等の外部機関等の連携」17.7%となっている。この場合、従来上記対策を行う場合、実際に出向くか、郵便、宅配、電話/FAX等でやり取りしていた。しかし、インターネットを利用することにより、文字情報だけでなく、画像データが送信できるため、相談が迅速、かつ的確に行う事ができ、技術相談がネットワークで実現可能となり、また同時に、他の有識者/機関とのネットワークが増幅して構築できる。

(3)海外展開

 今日の円高、国内コストの上昇、国内市場の飽和等により、大企業ばかりでなく、中小企業においても海外進出が行われている。自ら海外に進出しないまでも、国内取引先の海外移転や、海外の部品/製品/生産設備の購入等、海外との取引が増えている。
 このような国際分業下、中小企業にとってインターネットは、海外との通信手段としてだけでなく、海外のWWWにアクセスすることにより、直接情報を入手できる。
 更に、海外の取引先、事業所間で、電子メールにより情報の伝達を行ったり、FTP(ファイル転送)により文書やデータの交換が時差の制約を受けることなく、可能となる。
 新たに海外の企業と取引を行う場合、その対象国や取引先がWWWを設置している場合、その国情や企業の情報を直接入手できる。
 海外との取引に関して言えば、国際郵便や国際電話と比較して、インターネットはそのオープン性、コスト・パフォーマンス性の利点を大いに発揮できる通信インフラである。

図表3 業種別のWWW公開数

業 種

登録数

水産/繊維 41
鉱業 3
建設 177
食品 141
繊維 43
パルプ/紙 8
化学 32
ゴム製品 7
窯業 12
鉄鋼 19
非鉄金属 9
金属製品 26
機械 92
電気機器 165
輸送用機器 66
精密機器 76
その他製造業 99
商業 3
金融/保険/証券 183
不動産 133
倉庫/運輸関係 83
通信 130
電力/ガス 20
サービス 179
放送/報道 46
合計 1,793

図表4 WWWベンダーに求めるもの

図表4 WWWベンダーに求めるもの

図表5 支払方法の信頼度

図表5 支払方法の信頼度


図表6 第3者機関に対する評価

図表6 第3者機関に対する評価


図表7 業界VAN/地域VANとインターネット(1/2)

業界VAN/地域VAN

インターネット

利用者
  • 業界VAN/地域VANは商取引がある事が基本
  • 基本的には不特定多数会員
利用者数 以下例示
  • 日用雑貨VAN

 メーカ 51社、卸279

  • 不動産VAN 710
  • コミネット VAN(宮城県地域VAN)

301社、小売74社  等

  • 全世界で4000万程度の加入者程度といわれている。
接続先
  • 主として国内、地域。(国際VANサービスを提供しているサービス事業者を使えば理論的には国際間の接続は可能。その場合でも一般には接続先は限定される)
  • インターネットの接続ソフトをパソコンにインストールしてあれば世界の誰とでも通信可能。
アプリケーション
  • 通信サービス(電話、FAX、専用線サービス、パケット通信サービス、国際VANサービスなど)
  • 業界・業際サービス(量販店、百貨店、アパレル、食品など)標準サービス。
  • 特定顧客向けターンキーシステム及びその拡張としてのアウトソーシングサービスとして計算機運用・夜間ハバッチ等の業務運用を含むサービス
  • インターネットで規定されている標準サービス
  • ユーザ側でWWWサーバを使ってアプリケーション構築可能。
取り扱いメディア
  • 通信サービスでは、電話、FAX等を含むが情報処理サービスではパソコン通信と同じ
  • 文字、グラフィックス、静止画は普通。電子メールでの音声、WWWでの音声、動画はレスポンスを気にしなければ比較的容易。3次元画像、アニメ等も取り扱いが出現しつつある。
接続の容易さ
  • 接続テスト工程が必要
  • 比較的簡単

図表7 業界VAN/地域VANとインターネット(2/2)

業界VAN/地域VAN

インターネット

メリット・/デメリット

情報入手
  • 業務処理中心。売れ筋等の情報はアプリとして作り込み。
  • 企業、団体、政府機関等の情報が無料で簡単に入手可能。海外の情報を入手するのに非常に有効。課金の仕組みが確立されていないので汎用データサービスは少ない。ネットニュースによりパソコン通信のフォーラムと同等の機能が果たせる。
ソフトの入手
  • 同上(↑)
  • ダウンロードサービスが受けられる
情報発信
  • 同上(↑)
  • 容易。世界各国の不特定の人まで対象にできる
ネットワークの信頼性
  • 非常に高い。郵政省、通産省の設備基準あり
  • 低い。レスポンスが一般には一番悪く、また条件によって変わる。
ネットワークの構築/監視/費用
  • 個々の企業が行う必要がないので容易。
  • 費用も個々に構築するより安価
  • 利用者側の責任(情報発信には自己責任でネットワーク構築)
オープン性
  • 異なる資本系列関係がある場合は難しい場合がある
  • 全くオープン
システムの構築
  • 通常はVAN事業者が実施。標準でない場合は開発要
  • マーケットが大きいため標準品の入手が容易。
不特定多数へのサービス
  • 不特定多数サービスはなし
  • 容易。但し本人確認のための認証サービスなどが必要。この技術・運用機関ができれば分野を絞り不特定多数へのサービスが可能
セキュリティー
  • ある
  • 現状では不十分


3.中小企業向けエージェント・サービス構想

3.1 中小企業のニーズ

(1)今までの情報発信の問題点

 従来、中小企業の情報化や、情報化による地域産業の活性化が言われ、そのため各方面でその支援策として種々の施策が行われてきた。
 例えば、公的機関が中小企業データベースを構築して、中小企業の情報発信の場を提供している。しかし、そのデータベースには、従来、以下の問題があった。

 また、インターネットの有効性が叫ばれている現在、地方自治体においてインターネットに情報発信の場を設け、そこから地元の中小企業の紹介等を行っているケースがあるが、この場合でも、先の中小企業データベースと同様の問題がある。
 中小企業自体にも、一部先進的企業を除いては、情報化に対する意志はあっても、資金力やノウハウの不足以前に、資金繰りや日々の業務に忙殺されており、情報化に対処できないのが現実である。
 また、先進的企業が単独でインターネットにホームページを開設して情報発信を行っても、「2.1 情報発信としての可能性と限界」、「2.2 オンライン・ショッピングの可能性と限界」でもみたように、知名度がない中小企業にとっては、ヒットされない可能性があり、またヒットされても、信用力が不明な中小企業だと無視される可能性がある。
 また、インターネット上で商取引が実現するためには、技術的な面の他にも、「2.3 企業間取引」でもみたように、様々な問題がある。
 中小企業にとっては、インターネットを用いた情報発信や、あるいは、将来のECへの利用にはまだまだ限界があると思われる。
 インターネットは、企業のニーズを解決する手段とはなり得ないのであろうか?

(2)企業のニーズ

 個々の企業にとっては、企業固有のニーズがある。しかし、それが持つニーズは、個々に異なるので、従来の定型化されたデータベース型情報発信では、そのニーズにマッチした情報発信には限界がある。
 ニーズには、図表8に示すような内容が挙げられる。

図表8 中小企業のニーズ

項番

ニーズ

内容

購買 「こういう製品が作れないか?、こういう部品が作れないか」、「こういう材料、資材、設備がほしい」

 企業の場合、最終商品ばかりでなく、原材料、資材生産財、技術、ノウハウ等がある。

販売 いわゆるオンライン・ショッピングとなるが、通常なされているので、特色を出すのが難しい。

中小企業では、商品ではなく、「こんなことができる」、「こんなものを作れる」というノウハウ、技術をどう相手に訴えるかが必要となる。

販路 「製品、部品の開発生産能力があるが、販路を持たないので、販路、運送ルート/手段を開拓したい。」

自製品を売るためには流通に乗せなければならず、従来の販路がなくなったり、拡販をしたい場合には、新たな販路が必要となる。

フランチャイズ、代理店 「チェーン店展開のため、F.C.に参加してくれる人を募集したい。」

流通業に限らず、製造業においても、販売の他、アフターサービスの面でも、中小企業の場合は自分で行うことは不可能なので、代理店が必要となる。

テナント 「貸事務所、貸工場を借りたい」、「貸事務所、貸工場を貸したい」

中小企業の場合、貸工場、貸菓子事務所を利用している場合が多く、事業の拡大、展開などの事情が生じた場合は、新たなテナントが必要となる。

利用、リーズ、レンタル 「生産設備、輸送設備、工事機材等を借りたい」、「生産設備、輸送設備、工事機材等を貸したい」

建設資材、事務用品など、購買するよりも、レンタルで借りた方が合理的な場合がある。

パートナー 「研究開発、生産に協力してくれるパートナーが欲しい。」

現在、ベンチャー企業の事業化に関し、いくつかの試みがあるが、ベンチャーに限らず、既存の事業にも応用する。例えば、製造業の場合、中小企業では、資金面、設備面で自社単独で製造できない製品でも、他の企業と共同で生計したり、製造したり、また、設備を融通しあったりする場合がある。そのためには、信頼のおけるパートナーが必要となる。

技術情報 「新しい生産技術等、専門紙、業界紙に掲載されている情報が欲しい。」

仕事 通常、企業のホームページでは、会社紹介等の広告、宣伝が典型的に行われている。

特徴を出すためには、具体的な仕事内容を提示する必要がある。

10

人材 現在、インターネット上での求人、求職は盛んであるため、とくに目新しくはない。特徴を出すとすれば、専門職、熟練工の求人、求職に絞る。

11

融資 インターネットで融資側を探しても、融資側としては、融資先の信用調査等の手段が困難である。

可能性としてベンチャー企業/ニュービジネス等、地元金融機関が関与していない事業者がインターネット上でニーズを発信する可能性がある。

12

相談 経営相談、融資相談、技術相談、契約、知的所有権等

13

異業種交流 各地に異業種交流会がある。エージェント・サービスでしか実現できない機能を提示する必要がある。

14

廃品、リサイクル 「産業廃棄物を処理したい」

「産業廃棄物を処理します。リサイクルします」

(3)実現方式

 中小企業に限らず、大企業も図表8に示したようなニーズはあるが、特に大企業に比べ、組織力、資金力が弱く、ネットワークに限界のある中小企業にとって、上記ニーズを解決するために労力を振り分ける余裕がないのが実態である。
 また、個々の企業にとっては、恒常的に存在しないニーズがある。例えば、

 など、当該ニーズが一旦解決すれば、同じような性質のニーズが次に生じるまでには、間がある。
 その一方、あるニーズが解決すれば、別のフェーズのニーズに遷移する。
 今までネットワーク上で提供されてきたサービスは、ニーズの変異に即対応できなかった。
 そこで、本報告書では、図表9のような、互いの要求を結びつける仲介業務を行うエージェントサービスを提案する。これにより、資金力のない企業が参加しやすいと同時に、地域の中小企業が共同で上記ニーズを集約して発信すれば、継続的でかつ変化のある情報発信となる。
 しかし、ニーズを発信する側と、受信する側の要求が一致し、商談が起きても、双方の信用、生産設備等の調査を双方の責任と負担によって行った場合、これらの後続する手続きは従来の手法で行う事になり、エージェント・サービスに参加しても、中小企業にとっては、そのメリットは半減する。そこで、図表9のエージェント・サービスがこれら調査をも含めた仲介業務を行う方法が理想的であろうが、それができない場合でも、調査を委託できる機関の紹介、あるいは登録者の取引銀行等との紹介を仲介業務のサービスの一つとして行えば、中小企業の負担は少なくなる。
 ニーズを検索する側から見ると、

 の利点がある。
 上記方法は、従来の会社紹介や、会社便覧の静的な情報の蓄積ではなく、タイムリーなニーズに対応できる動的な情報の発信を実現する。

図表9 中小企業向けエージェント・サービス構想

図表9 中小企業向けエージェント・サービス構想

(4)仲介業務の事例

 現在、中小企業向けのエージェント機能として、ベンチャー企業と、ベンチャー企業のアイデアを事業化してくれる企業とを仲介する機構がいくつかある。

    1. 双方の権利保護のために機密保持契約の締結を義務づけ、契約違反者の公表といった役割を担う。
    2. 事業化にあたっての各種手続き、作業の推進を指導する。
    3. 単なるニーズ側とシーズ側の仲介に留まらず、紹介事業化のスタートアップの段階で必要となる各種の支援制度や組織を紹介・斡旋することである。これは、特定の業界に偏った企業や、人的ネットワークに限界のある中小企業にとっては、より有利な条件を見つける手助けとなる。

    図表10 「新産業創出システム」の仕組み

    図表10 「新産業創出システム」の仕組み

    図表11 「新産業創出システム」の機能

    • 新しい仕組みの第一の機能は、独創的な技術シーズやアイデアをもち新たな事業に挑戦する意志のある潜在的な起業家を発掘することである。
      ⇒事業化ニーズを提示して、これに合う技術シーズやアイデアを募集する。
    • 第二の機能は、技術シーズやアイデアの独創的価値や事業化の可能性を審査・評価することである。
      ⇒ニーズ提示者が応募案件を審査・評価する。
    • 第三の機能は、審査評価の結果、事業化の可能性があると判断された案件について、応募者に研究開発等のための資金を提供することである。
      ⇒原則として、審査・評価にあたったニーズ提示者が資金を負担する。
    • 第四の機能は、事業化のスタートアップの段階で必要となる各種の支援制度や組織を、運営主体が応募者やニーズ提示者に紹介・斡旋することである。
      ⇒研究開発成果等の事業化は、ニーズ提示者と応募者双方の契約により行う。

    http://www.kiis.or.jp/kef/index-j.htm

    イ.京都高度技術研究所「知的連合推進機構(ICC)」
     京都高度技術研究所では、ベンチャー企業家と、それを事業化できる企業を仲介する組織である「知的連合推進機構(ICC)」(産官学共同の組織)を本年7月に発足した。
    インターネット上では、京都高度技術研究所のホームページ上で、ICCの会員募集を行うとともに、ニーズ側(企画、アイデアの立案者側)のベンチャー事業の公開と、シーズ側(技術、設備、資金等の提供側)のベンチャー事業参加の募集を行っている。
     ニーズ側とシーズ側の思惑が合致すると、ニーズ側、シーズ側に加えて機構側である「企画・評価委員会」と共同で、事業計画の評価、知的所有権の明確化、利益配分や権利保証の明確化等を、進める。
     ICCの特色は、ベンチャー企業と事業化側の単なる仲介を行うに留まらず、

    1. 開発テーマ案、事業化計画案、および利益還元計画の審査
    2. 開発プロジェクト・チームの支援
    3. 開発に用いた知的産物、及び開発成果に関しての利益配分や権利保証の明確化

    等、当事者の事業化を側面から支援する。

    また、京都高度技術研究所があるリサーチパーク敷地内には、中小企業を支援する機関があり、京都高度技術研究所による研究施設、研究設備の貸与、京都市工業試験場による技術支援、京都府中小企業総合センターによる融資斡旋等、敷地内でベンチャー活動がほとんど行える環境を整えている。

 新産業創出システムやICCは、ベンチャービジネスを対象としている。
 一方、既存産業においては、上記の事例に示すようなエージェント機能はないのが現状である。既存産業においても上記のようなエージェント・サービスは実現できないのであろうか。

3.2 中小企業向けエージェント・サービス構想

 企業にとっては、生産や販売などの主業務の他、図表8でみたような、直接売上げや利潤に結び付かない、非定型業務や、間接業務がある。大企業の場合、これら業務は、それらに対応した専門の部署や人員があり、主業務に影響することなく、対処可能である。
 しかし、中小企業にとっては、人員がなく、非定型業務も主業務と兼務して対応せざるをえなくなり、そのため、本業以外のことに、時間と労力が削がれる結果となる。
 これら中小企業のニーズをより効率よく処理するため、ネットワークを活用した機構が考えられる。

3.2.1 エージェント・サービス構想

エージェント・サービスが構築するネットワークを、図表12に示す。ここでは、エージェント・サービスの概要を説明し、詳細は、「3.2.2 エージェント・サービスの機能」以降で述べる。

図表12 エージェント・サービスのネットワーク

図表12 エージェント・サービスのネットワーク

(1)ネットワーク

 エージェント・サービスを取り巻くネットワークは、以下のフレームからなる。

ア.ニーズ側

イ.シーズ側

ウ.有機的にネットワークされた専門家

(2)エージェント・サービスの構造

 エージェント・サービスは、以下の3つの柱からなる。

  1. エージェント機能
  2. 知的資源
  3. コーディネート機能

ア.エージェント機能
 エージェント機能とは、中小企業のニーズと、外部のシーズを合致させて、中小企業のニーズを解決する機能である。この場合の中小企業のニーズには、単なる販売に限らず、図表8でみたようなニーズがある。これらニーズをサーバに登録することにより、外部からの検索を容易にし、ニーズ側とシーズ側の仲介業務を行う。

イ.知的資源
 エージェント機能が、時系列に情報を処理するフロー的側面とすれば、知的資源は、処理を行うためのデータや、処理の過程で得られたノウハウや情報などを蓄積した資源である。
 エージェント機能は、以下の知的資源を持つ。

ウ.コーディネート機能
 機構を円滑に機動させるためには、施設や設備等のハード面や、プログラムやデータベース等のソフト面の他、人的資源が重要となる。本業以外の知識には疎い中小企業を支援する面で、コーディネータ的存在が必要である。コーディネータは以下の事を行う。
 中小企業の要件を掘り起こし、具現化し、実現度を見極める。
 要件が、不特定多数に対するニーズや、広範囲に公募するニーズであれば、ニーズ・データベースに登録する。
 中小企業が相談、助言を必要とする場合や、事業遂行上の各種手配、手続きを行う場合、「有機的にネットワーク化された専門家」を仲介する。

3.2.2 エージェント・サービスの機能

エージェント・サービスは、上で述べたようなネットワークと構造を持っているが、その機能の流れを以下に説明する。

エージェント・サービスは、中小企業のニーズを解決する事を目的としている。中小企業のニーズを抽出し、そのニーズを解決するまでの流れを、図表13に示す。

図表13 ニーズとシーズの仲介

図表13 ニーズとシーズの仲介

(1)ニーズの登録(フェーズ1)

(2)ニーズの検索(フェーズ2)

(3)契約(フェーズ3)

(4)エージェント・サービスの立場

3.2.3 有機的にネットワークされた専門家

3.2.2エージェント・サービスの機能」で見たように、エージェント・サービスでは、直接中小企業のニーズを解決するのではなく、中小企業に対し、そのニーズを解決するための場を提供し、ニーズ解決の活動を支援する。ただし、中小企業のニーズを解決するためには、専門的な知識やノウハウが必要となる。その場合、エージェント・サービス自らそのノウハウを持つには、限界がある。そこで、専門的な知識やノウハウを持った専門家を、エージェント機構にどう取り込むかが重要となる。

(1)中小企業の業務支援

図表14 業務支援の分野

法律・条例 商法、民法、労働基準法
知的所有権、工業所有権
PL法、消費者問題、環境問題
JIS/ISO,各種規格
等々
経営一般 経営戦略、事業分野開拓
業務改善、BPR
労務福祉
財務、商務、税務
等々
国際化 進出先外国の事情、法制度
海外進出時の各種手続き
提携先企業の各種調査
労働事情、国民性、生産性
等々
業種対応 政治・経済情勢
業界動向、市場動向
取引慣行、関連団体の事情
等々
技術対応 CALS
CAD/CAM
FA/OA,情報化、ネットワーク化
研究開発
等々
その他 異業種交流
行政手続き、登録手続き
資金調達
人材育成、教育訓練

(2)有機的にネットワークされた専門家

3.3 エージェント・サービスの運営

3.3.1 ニーズ側中小企業の参加

(1)対象となる中小企業体質

 中小企業にも、その経営体質は、現状を打開しようと、積極的に新たな試みを行う先進的企業、現状を維持しようとする保守的企業、更に、中間層に分かれる。
 これら経営体質を持つ企業は、インターネットに対してもその姿勢は異なる。「企業革新のための中小企業の企業間ネットワークに関する研究」(財団法人 中小企業総合研究機構 平成7年度)によると、インターネットの情報通信ネットワークとしての利用状況は、「よく利用する、時々利用する」企業は、3%程度、「利用していないが、将来は利用したい」企業が50.9%、「利用していないし将来も利用しない」企業が20.0%と分かれる。
 経営体質が先進的企業は、インターネットに対しても積極的に利用するであろう。保守的企業は、インターネットに対しても、否定的であろうし、利用意志もないであろう。
 一方、中間層としては、インターネットに対しては、「とりあえず参加してみた」という企業もあれば、現状は、資金やノウハウ不足、あるいは、見返りが分からない等諸事情の理由のためインターネットに参加できないが、条件が整えば利用したい企業もいるであろう。
 それでは、エージェント・サービスとしては、図表15の企業分類のうち、どの分類の企業に参画を働きかけるべきであろうか。

図表15 対象となる中小企業

図表15 対象となる中小企業

 先進的企業は、エージェント・サービスに参画せずとも、自ら情報発信、情報受信を行い、自分の問題をインターネットを利用して解決するであろう。あるいは、エージェント・サービス側が働きかけずとも、エージェント・サービスの有効性を評価して、むこうから積極的に参加するであろう。
 一方、保守的企業に対する働きかけは、エージェント・サービスでは有効に機能しないであろう。エージェント・サービスが保守的企業までも後押ししようとした場合、動機付け、教育・指導等に負荷がかかり、他参加者に対するフォローが疎かになる。これら保守的企業に対する情報化推進は、各地の公的支援センターや、民間の情報処理ベンダー等が相応しいであろう。
 エージェント・サービスとしては、中間層をターゲットとして、参画を働きかけるべきである。中間層の中で、新たにインターネットを利用した企業でも、ほとんどの企業が図表2で見たように、「とりあえず利用して様子を見ている」であろう。そういう中で、エージェント・サービスは、中小企業の現実的な要求を解決する可能性があるため、インターネットへの目的意識が持てる。
 その他、中間層の中でも、利用意志があるが、まだ利用していない企業もいる。これら企業に対しては、エージェント・サービスが代行して、ニーズ登録を行ったり、仲介を行い、企業活動を支援することは可能である。但し、中小企業側としてはインターネットに直接接続していないため、直接的効果は半減するであろう。
 また、これら中小企業がインターネットを利用しようとした場合の、インターネット利用に関するコンサルティングや、回線や機器の貸与に関しては、他の公的機関に任せた方がよい。
 以上のように、エージェント・サービスとしては、ターゲットとする企業は、先進的企業、中間層、特にインターネットを新たに利用した企業を主とし、利用環境はないが利用意志のある「とりあえず利用して様子を見ている」企業も支援する。

(2)参加形式

 ニーズ側の中小企業がエージェント・サービスに参加する場合、その形式として、参加に制限を設けないオープン型と、参加に制限を設けるクローズ型がある。また、クローズ型にも、その制限の条件として特定業種を対象としたり、地域の企業を対象とする等、特性毎に対象を分ける方法もある。

ア.オープン型

 インターネットは、オープンであり、またグローバルな特性を持つ。そのため、このエージェント・サービスのニーズ側として、あらゆる地域から、あらゆる業種の中小企業が参加できる。しかしその一方、オープンが故に、多種多様な中小企業が参加できるがゆえに、以下の問題が出てくる。

  1. 遠隔の企業が参加した場合、その企業の信用、ニーズの信憑性の確認に、多くの時間と労力を必要とする。
  2. 遠隔の企業が参加した場合、中小企業が所在する地域特有の特性や問題が明確に把握できない可能性があり、その場合、その地域特性にあったコーディネート作業ができない。
  3. 多様な業種の企業が参加する場合も、業種特有の特性、問題があり、エージェント・サービスでそれら業種毎に対応しようとした場合、機構が肥大化する可能性がある。
  4. 多くの企業が参加する場合、それら企業の要求を受け入れようとすると、エージェント・サービスの本来の目的や機能が発散する。

また業種によってインターネットの有効性の度合、ニーズの性質ははまちまちであり、エージェント・サービスの利用に適した業種があるかもしれない。

イ.クローズ型

 エージェント・サービスに参加するニーズ側の中小企業を制限する場合、その制限条件としては、地域単位の制限と、業種単位の制限が考えられる。

3.3.2 運営

(1)運営主体

 エージェント・サービスを運営する組織としては、非営利団体か、営利団体か、あるいは、公的機関か、私的機関か、等の様々な形態が考えられる。しかし、「3.3.1(2) 参加形式」でみたように、中小企業向けのエージェント・サービスは地域ぐるみで取り組んだ方が効果的であろう。その場合でも、図表16に示すようないくつかの運用主体が考えられる。
 中小企業の立場で言えば、エージェント・サービスとして信用できるのは、自治体か商工会議所であり、また金銭的に新たな負担を課せられるのを回避する意味でも、自治体か商工会議所での運営を望むであろう。
 理想的な運営主体は、商工会議所であろうし、次に、自治体、商工会議所等が出資した第三セクター方式であろう。

図表16 運営主体

運営主体

特徴

自治体 中立性、公的性が重要視されるため、自治体が行っている他の地域振興策と重複したり、逆に活動が広範囲に渡り、対応できなくなる可能性がある。
商工会議所(/商工会) 商工会議所は、中小企業向けの相談や指導を行うための組織を持っており、その点では、エージェント・サービスのコーディネート機能に併用活用したり、資源を流用できる。さらに、商工会議所自体に信用力がある組織であり、そこの会員企業に対しても、信用度が増す。

しかし、商工会議所は、会員企業の会費でなりたっており、会員以外の企業の扱いが課題となる。

地域の民間企業 民間企業の場合、利潤を上げるため、積極的に運営するであろう。しかし、

地方の企業の場合、その運営主体に対する外部からの信用度評価を上げる努力が必要であり、また、地域の自治体、商工会議所等の各団体の協力が制限される可能性がある。

会員制的組織体

(共同組合、三セク等)

ニーズ側中小企業が会費を出して設立する形式である。この場合、中小企業の負担を軽減させるため、自治体や、各種団体の協力が必要となる。

(2)有機的にネットワーク化された専門家

 インターネットは、外部とのコミュニケーションを行う場合、有効な手段として評価されている。これは中小企業の場合でも、外部の専門家に問合わせや相談をしたい場合でも有効でる。そのためにも、エージェント・サービスとしては、ホームページを開設している機関・団体のURLアドレスリストを提供して、中小企業自らが検索できるサービスを提供する必要がある。それにより、中小企業は、エージェント・サービスを出発点として、活動ができる。
 この時大事な事は、URLリストのカテゴライズは、機関毎の分類も必要であるが、中小企業としては、「どこに」相談するか、よりも、「何を」相談するかが大事なのであって、その場合、自分の問題を解決してくれるのであれば、「機構」は問題ではない。そのためには、図表14で示したような、問合わせ内容の性質毎に分類した方が、検索しやすい。あるいは、その問合わせ内容の項目をキーワードとして検索できるような、サーチ・エンジンを提供すれば、更に使い勝手がよくなる。
 しかし、その場合でも、中小企業自身、どこに問合わせればいいのか、どういう内容で問い合わせればいいのか、がわからないケースがある。そのためにも、エージェント・サービスのコーディネータがその検索の助言をしたり、あるいは代行して検索する必要がでてくる。
 有機的にネットワーク化された専門家に対しては、単なるURLのフリー・リンクのような形ではなく、エージェント・サービスと協定を結び、エージェント・サービスの機能の一つとして組み込むことが必要である。そうすることにより、中小企業からの要望があった時点での対応が迅速、かつ円滑に進む。
 有機的にネットワーク化された専門家の立場から言えば、未知の中小企業からの依頼よりも、協定を結んだエージェント・サービスから仲介された中小企業からの依頼の方が、信憑性や信頼性を持つであろう。

(3)シーズ側

 エージェント・サービスのニーズ・データベースを検索するシーズ側は、誰でも参加できる。このシーズ側は、官公庁や自治体であったり、大企業であったり、中小企業であったり、あるいは個人の可能性もある。もしエージェント・サービスとしてシーズ側に対して制限を設けては、効果は期待できない。ニーズの開示はオープンであるべきであり、それゆえ、図表13で示したシーズ側の信用調査が重要となる。

(4)情報の蓄積

3.2.1エージェント・サービス」で示したように、エージェント・サービスが持っている知的資源として、@ニーズ・データベース、A企業情報、B問題別データベースを挙げた。このうち、@ニーズ・データベースに登録する内容としては、図表8で示したような項目が挙げられる。また、A企業情報に関して言えば、企業のインターネットの利用方法として最も一般的に行われている方法である。
 一方、これまで述べてきたような、商談から契約までの間には、様々な検討や手続きが発生する。その場合、それらのノウハウや、一連の作業の流れをエージェント・サービスの資源として蓄積してあれば、中小企業としても、有効に活用できる。それは、エージェント・サービスが対応した様々な仲介業務の内容を事例集として蓄積したり、あるいは、その中で生じた手続き等に関してFAQの形式で蓄積する。そうする事によって、中小企業は、問題解決のヒントを得られるだろうし、また、エージェント・サービスそのものの負担が軽減される。

(5)コーディネータの役割

 エージェント・サービスの中のコーディネータは、今まで見てきたように、中小企業の要件そのものを解決する必要はない。飽くまでも、解決するための機会を増やし、解決してくれる第三者を仲介するものである。
 しかし、そのためにコーディネータとしては、中小企業のニーズを的確に具現化し、そのニーズを解決するまでの手順、流れを指導できるノウハウ、あるいは、中小企業の問題をどこに問い合わせれば助言ができるか、という知識が必要である。具体的には、中小企業診断士の資格を持っている人が適任であろう。

3.4 更なる発展のためには

(1)ネットワークの発展

 今までは、単体のエージェント・サービスを想定していた。しかし、単体のエージェント・サービスがあったとしても、その活動範囲は、特定地域内、または特定業種の範囲内に留まる可能性がある。しかし、例えば、ある一定の単位で設立された複数のエージェント同士が互いにネットワークを持てば、更に広範囲なネットワークが可能となる。
 例えば、図表17に示すように、ある県毎にエージェント・サービスを設立した場合を仮定する。この単位は、地方単位や県単位かもしれないし、市町村単位、または、その中間かもしれない。どちらにしても例えば、設立単位が県毎にあり、それが全国に設立された場合、中小企業同士のニーズの交流が可能となり、より効率的で、より有効なニーズ解決策が見つかる機会が増える。
 但し、この場合、以下の前提が必要となる。

  1. 設立機関が同一性格であること。
    エージェント・サービスがある県では自治体、ある県では法人等と異なった場合、おのおのの運営方法が異なることになる。これは、利用する企業の混乱を招く可能性がある。
  2. ニーズ検索機能が、全国のエージェント・サービスのニーズ・データベースを検索できること。

 ある県の中小企業が、自分の所属するエージェント・サービス以外のニーズを検索する場合、各々のニーズ・データベースを操作するのは不便である。それを解決するためにも、自動的に全エージェント・サービスのニーズ・データベースを検索するようなサーチ・エンジン機能が必要であろう。

図表17 ネットワークのネットワーク(例)

図表17 ネットワークのネットワーク(例)

(2)アウトソース

 企業にとってコスト削減を図ろうとした場合、図表14で示した業務はその第一候補となる。特に、直接利益に結び着かない間接業務のコストダウンは、重要となる。
 給与計算の場合、従来は、タイムカードと帳簿を照らし合せて計算していたが、それが、汎用コンピュータでEDP化され、それが更に、ダウンサイジングが可能となって、パソコンで計算したり、クライアント/サーバ・システムで給与システムを構築したり、という遷移を取ってきた。しかし、この給与システムも、専門の業者に外部委託をすれば、社内に給与システムを社内に持つ必要はなくなり、間接業務のコストが削減できる。ただ、給与に関する内容は、社内秘密情報であり、かつプライバシー情報でもあるため、外部に漏れてはならない。しかし、これに関しては、専門の業者が事業として当然守るべき原則であり、実際、給与計算を外部に委託している企業もいる。
 その他、年金や保険の手続きや、福利厚生設備等に関しても、アウトソーシングが可能である。
 しかし、このアウト・ソーシングが実現できるためには、規模の経済が成り立たなければならない。複数の企業の給与計算事務が委託されないと、専門の業者としては成り立たないためである。
 そこで、例えば、エージェント・サービスに参加している企業の共通的な業務をアウト・ソーシングすることも可能であろう。これは更に、ヴァーチャル・カンパニーの形態を取るかもしれない。

(3)課題

 この公的エージェント・サービスを成功裡に運営するためには、今後、以下の課題を検討する必要がある。

  1. 一般に、中小企業のニーズというものは、曖昧模糊としている。また、そのニーズも、ノウハウ的、財政的、設備的、人材的等、はたしてその企業に相応しいかいなかも、企業自身で評価できないのが事実であろう。そのため、これらニーズが果たして必要性があって、実現性があって、採算性があるかを客観的に評価できるような仕組みを考えなければならない。
  2. ニーズの場合、概念的であったり、抽象的であったりする場合がある。そういうニーズをデータベースのデータフォーマットという形に如何に具現化するか、を考える必要がある。
    ただし、インターネットの場合、マルチメディアの特性を生かし、グラフィック画像やアニメーションの技術を駆使し、より直感的に訴える手段が以前より豊富に提供されているようになった。
  3. 中小企業がエージェント・サービスのコンセプトに賛同しても、実際、この仕組みは、中小企業のニーズを開示することであり、中小企業にとっては、以下の懸念が生まれるのは当然であろう。一つは経営戦略や事業戦略が他の競合企業に察知されないか、という懸念であり、あるいは、技術、ノウハウが他の企業に察知または、流出しないか、更には、人材が引き抜かれないか、という懸念である。それらは、結果として、自分の競争力がなくなりはしないか、という懸念があるであろう。中小企業に積極的に参加してもらうためには、これら不安を払拭する必要がある。

 しかし、この点に関して言えば、事業の発展のためには積極的に外部に働きかけるべきであり、オープン型経営を目指す場合には、そのリスクは常にある。また、中小企業の持つ技術やノウハウを積極的に特許や知的所有権を登録して、自分自身の権利を自らガードすべきであろう。更に、人材流出の懸念については、逆に優秀な人材を確保する機会が増えるとも言える。
 結局は、中小企業に限らず、企業として、「じっと耐えて変化をやり過ごす」経営方針で、座して衰退を待つのか、多少のリスクを覚悟でオープン型経営を図り、積極的に外部に働きかけるか、の選択を迫られている状態であると言える。
 本調査研究では、中小企業のニーズの解決策の一手段として、エージェント・サービス構想を提案した。今後、その実現性、有効性を検証するとともに、ほんとに中小企業の問題解決の位置手段となり得るかを、中小企業の立場に立って、実証していきたい。


おわりに

 慶応義塾大学ビジネススクールの國領二郎・竹田陽子が提唱する「取引仲介型のプラットフォーム・ビジネス」という概念がある。その概念とは、

プラットフォーム・ビジネスとは、だれもが明確な条件で提供を受けられる商品やサービスの供給を通じて、第三者間の取引を活性化させたり、新しいビジネスを起こす基盤を提供する役割を私的ビジネスとしておこなっている存在のことを指す。

Copyright(C) "1996" Electronic Commerce Research Project

ことであり、

一取引あたりの取引額が大きい場合は、企業は独自にこれらの情報を得ようとするであろう。しかし、まれに少額しか取引しない相手には、企業は情報収集にあまりコストをかけることができない。そこに、取引を仲介することを専門にする業者、すなわち、取引仲介型のプラットフォーム・ビジネスが存在する価値が生まれる。

Copyright(C) "1996" Electronic Commerce Research Project

 この「プラットフォーム・ビジネス」では以下の5つの機能が必要とされている。それは、
(1)検索、(2)信用仲介、(3)経済評価、(4)標準取引手順、(5)統合である。
 本稿では、上記に示した「プラットフォーム」の概念を、中小企業のニーズの仲介に応用したものである。更に、その仲介機能の運営主体を私的ビジネスにとらわれる事なく、公的サービスの一つとして展開した。
 本調査研究で示したエージェント・サービスは、「プラットフォーム・ビジネス」に必要な「(1)検索」と、「(2)信用仲介」を提供するものである。また、本エージェント・サービスが仲介するニーズの中には、数値で示されるような「(3)経済評価」ができない場合がほとんどであろう。ただし、エージェント・サービスは、経済評価をするための手段を提供ニーズ側、シーズ側のコストを削減する効果が期待できる。
「(4)標準取引手順」については、ニーズというものに対し、標準化という考えはそぐわないかもしれない。ただし、「3.4 更なる発展のためには (1)ネットワークの発展」で述べたように、エージェント・サービスが全国に拡大した場合、エージェント・サービスが提供する各種サービスの標準化は必須である。
 國領二郎・竹田陽子は、「プラットフォーム・ビジネスは、探索、信用仲介、経済評価、標準取引手順のすべての機能を必ず備える必要はなく」、「ある機能は単機能のプラットフォーム・ビジネスを使って取引を成立させることができる。」とも述べている。エージェント・サービス単独では、プラットフォーム・ビジネスで必要な総ての機能は提供できないかもしれないが、「有機的にネットワーク化された専門家」を取り込むことにより、「プラットフォーム・ビジネス」の5番目の「統合」の機能を提供していると言える。



【参考文献】

【参考URL】