地域における情報通信アプリケーションの
普及過程に関する分析
通信経済研究部研究官 外薗 博文
はじめに
平成8年5月に出された電気通信審議会答申においても、2000年を目途とした情報通信に関する具体的な目標と、その目標達成のために実施すべき推進方策等が提言されているが、今後のマルチメディア時代に向けて、ネットワークインフラを整備し、情報通信アプリケーションをいかにして普及させていくかが大きな課題となってきている。
また、依然として、地域間の情報格差は解消されていると言えないが、人口も情報も大都市に集中し、大都市が情報の発信地となってい現在このような状況において、情報通信アプリケーションの普及も大都市中心に進んで行くとすると、益々、情報格差は拡大して行くと言わざるを得ない。情報通信の高度化が、国民生活や産業活動に新たな可能性をもたらすと言われている今日、情報格差は、単なる情報が多い少ないということだけでなく、社会経済的な格差をも広げることになりかねない。
このような状況の中、情報通信アプリケーションに関して、これまで都市や地方においてどのように普及し、また、今後どのように普及して行くのかといったことに関する研究は、ほとんど行われてこなかったのが現状である。
本研究では、新技術、新製品、新ライフ・スタイル、新しい情報、新制度といったイノベーションの普及過程に関する研究を参考にしながら、情報通信アプリケーションの普及過程について分析し、都市や地方における情報通信アプリケーションの普及の現状
や問題点等を明らかにしたい。
1.研究の視点
これまでに、イノベーションの普及過程やイノベーションの普及によって社会、文化、集団がいかに変化するかといった変動過程に関する、理論的、経験的普及研究が数多くの研究者により行われ、その数は数千にも及んでいる。
その中でも、最も一般的なモデルとしては、時間変数を使って導入(採用)者カテゴリーを分類し普及曲線を記述しているE.M.ロジャーズの「イノベーションの普及過程モデル」がある。このモデルは図表1のように、イノベーションの導入の頻度を時間の経過に従ってプロットしていくと、ほとんどのイノベーションにおいて、正規性つり鐘型曲線になっており、更に導入者数を累積するとS字型の普及曲線を描くことができるというものである。E.M.ロジャーズは、導入者を、平均値から両側に標準偏差ごとの間隔で分割して、革新的導入者(2.5%)、初期小数導入者(13.5%)、前期多数導入者(34%)、後期多数導入者(34%)、導入遅滞者(16%)に分類しており、それぞれのカテゴリーについて、イノベーション導入に関する社会経済的特性やコミュニケーション特性等がみられるとしている。この分類の問題点は、最終的なイノベーションの導入が100%に達しない場合が起こりうるということであるが、今回のような導入初期や普及期を中心とした分析に関しては特に問題はないと言える。
図表1 つり鐘型の度数分布曲線とS字型の累積度数分布曲線
また、このS字型の普及曲線は、初めのうち導入者の数は非常に少なく、普及率がおよそ10%から25%にかけて普及が離陸し、潜在的導入者の約半数が導入した頃、伸びは最も急カーブになる。E.M.ロジャーズは、S字型普及曲線が描かれる一つの理由として、イノベーションの普及プロセスは、すでに導入している人々と今後導入するように影響されるであろう人々との間での情報ネットワーク交換と社会的模倣から成り、そして普及率が10%から25%のとき、情報ネットワーク交換が最も活発になるとしている。更に、このような普及研究により、イノベーションが社会システム内に広がる際の連続的経過の追跡が可能になるが、社会システムや組織構造等の要因が、イノベーションの普及に様々な影響を与えており、イノベーションの普及を促進したり、抑制したりしているとしている。
本研究の論点の一つは、従来から、電話をはじめとする電気通信サービス等のネットワーク系サービスの普及においては、以上のような普及特性が特に顕著であると言われてきたが、現在、普及が伸び悩んでいる先進的な情報通信アプリケーションに関しても、他のイノベーションと同じような普及曲線を描くことができるのかということや、あるアプリケーションが急速に普及しているのに、他のアプリケーションがなぜ、ゆっくりとしか普及しないのかという要因を地域特性という視点を交えながら考察することにある。
また、E.M.ロジャーズは、イノベーションの導入に関する決定は瞬間的に行われるものではなく、その決定過程は、潜在的導入者である個人や組織が、イノベーションについての最初の「知識」を得てから、イノベーションに対する「態度」を形成し、採用若しくは拒否の「決定」を行い、新しいアイデアを「実行」し、そして、その決定を「確信」するまでの心的過程であるとしている(図表2)。そして、最終的に優れた成果を示すイノベーションの場合でも、大部分の人々のイノベーション決定過程は、かなり慎重なものであり、決定過程に年単位の期間を要するのが一般的である。このようなことからも、イノベーションの決定過程はいくつもの段階を含む過程であり、これらの段階は時間の経過とともに生じるということが示されている。
図表2 イノベーション決定過程における段階のモデル
本研究では、郵政省が平成8年1月に全国の市区町村に対し実施した「地域情報化に関するアンケート」において調査した27の情報通信アプリケーションの導入状況に関するデータを用いているが、データ等の制約もあることから、決定過程に関する分析を図表2のように従来の五段階モデルから三段階モデルに集約して行うこととする。
なお、分析は、この27のアプリケーションの普及に関し、その普及速度については個体差があるにしても、普及過程に関しては従来のイノベーションと比較しそれほどの特殊性は見当たらないことから、従来のほとんどのイノベーションにおいて何らかの法則性が認められているように、情報通信アプリケーションについても一定の法則性が存在するであろうということを前提としている。
実際の分析は、ある時点における三段階の意思決定過程のそれぞれの構成比を、X、Y、Z(なお、X+Y+Z=100)とすると、時間の推移とともにこの構成比も移り変わって行くが、普及レベルの異なる27のアプリケーションを3次元上にプロットすることにより、その規則性を分析していく。
この三段階モデルにおいては、情報通信アプリケーションの普及過程と決定過程は、A点(100,0,0)を出発点、B点(0,0,100)を終点とし、X+Y+Z=100で表される3次元平面上を時間の経過とともに移動する曲線として描くことができる。
このモデルにより、イノベーションの普及過程と決定過程を、一つのモデル式で扱うことが可能となった。更に、従来のイノベーションの普及過程の定量的分析では、普及率の時系列データが必要とされてきたが、時系列データなしでも普及過程の定量的分析がある程度可能になり、イノベーションの意思決定過程のモデル分析においても、これまでほとんど定量的分析は見当たらなかったが、この三次元モデルで各段階の移り変わりを定量的に分析できるようになった。
(1) 情報通信アプリケーションの普及の現状
図表3は、市区町村における27のアプリケーションに関する三段階に分類した意思決定過程の構成比であるが、更に、これを3次元上にプロットしたものが図表4である。
プロットした点を結ぶと普及曲線(成長曲線)を描くことができるが、普及曲線は、初期段階においてはY軸方向(「導入を検討」)に推移し、この段階ではZ軸方向(整備中・運用中)へは徐々には成長しているがその速度は微々たるものとなっている。このY軸方向の値が30%〜40%(閾値)に達すると、成長ベクトルはY軸方向からZ軸方向に転回しており、同時にZ軸方向の値が10%を超えるあたりから、プロットされた点の間隔が拡大していることから、他のイノベーション同様、これを境に普及離陸期に入り、普及速度も早くなっているものと考えられる。
図表3 市区町村におけるアプリケーションの導入状況(構成比)(単位:%)
分野 | アプリケーション名 | X軸 | Y軸 | Z軸 |
必要性を感じない 導入したいが困難 |
導入を検討 | 整備中 運用中 |
||
行政 | 行政窓口オンラインサービス 行政情報提供システム 公共施設案内、予約システム 自動検針システム |
44.0 43.5 49.2 61.3 |
32.3 48.9 47.3 35.6 |
23.7 7.6 3.5 3.1 |
文化 教育 |
図書館情報ネットワークシステム 電子文化施設 学校教育支援システム 生涯学習支援システム |
45.9 82.3 62.7 51.4 |
40.5 17.1 34.4 43.8 |
13.6 0.6 2.9 4.8 |
保健 医療 福祉 |
保健・医療・福祉情報提供システム 保健ICカードシステム 遠隔健康相談システム 遠隔介護支援システム 遠隔健康管理システム 緊急通報システム |
47.6 52.0 67.0 64.8 65.0 28.6 |
47.0 46.6 32.8 35.1 34.7 32.8 |
5.4 1.4 0.2 0.1 0.3 38.6 |
防災 環境 |
防災情報提供システム 地域気象情報提供システム 環境情報提供システム |
30.3 56.7 74.3 |
43.5 34.3 23.7 |
26.2 9.0 1.9 |
都市 交通 |
交通機関情報提供システム 道路情報提供システム 都市・地図情報提供システム |
87.2 81.3 67.8 |
12.4 16.8 29.1 |
0.4 1.9 3.1 |
産業 | 産業情報提供システム 農林水産業情報提供システム 観光情報提供システム |
72.2 64.2 44.7 |
26.4 32.2 49.4 |
1.4 3.6 5.9 |
労働 | 求人・求職情報提供システム ボランティア情報システム テレワーク テレワーク・センター |
72.0 59.8 90.0 89.2 |
27.1 39.6 10.0 10.5 |
0.9 0.6 0.1 0.3 |
図表4 市区町村におけるアプリケーションの普及曲線(全国)
普及曲線に沿って個々のアプリケーションを見て行くと、「緊急通報システム」、「防災情報提供システム」、「行政窓口オンラインサービス」、「図書館情報ネットワークシステム」といったアプリケーションは、既に普及離陸期に突入していることから今後も着実な普及が期待できる。また、「地域気象情報提供システム」や「行政情報提供システム」といったものも、早晩、普及離陸期に突入していくものと考えられる。
他方、「テレワーク」、「テレワーク・センター」、「交通機関情報提供システム」については、普及過程のほんの初期段階にあり、これらのアプリケーションは画期的な外的変化が起こらない限り、当分の間、本格的な普及は難しいと言わざるを得ない。
なお、教育、医療、求人及びボランティア関連のアプリケーションに関しては、現時点においては「テレワーク」同様ほとんど普及がみられないが、普及過程におけるポテンシャルは既に高いことから、普及のネックとなっている技術的問題や制度的問題が今後解決されて行けば、普及離陸期までの時間はそれほど要しないのではと考えられる。
(2) モデル式による記述
次に、この普及曲線をモデル式で記述するために、普及曲線をXZの2次元平面上に展開してみると、普及過程の後半部分に関してはデータの制約から類推するしかないが、恐らくE.M.ロジャーズョンのS字型の普及曲線と同じような曲線を描くことが考えられる。このようなS字型普及モデルとしては、耐久消費財の市場への普及を扱ったバス・モデル(Bassmodel)や、需要予測によく使われる生態学モデルのロジスティック・モデルがよく知られている。
本研究では、需要予測を目的としていないこと、普及過程の後半部分におけるデータの制約もあること、普及曲線が閾値を境に急速に伸びていることから、S字型モデルではなく相互作用モデルの一種である距離・移動モデルを適用することとする。このモデルの一つの特長として、モデル自体がシンプルなので、大まかな傾向を分析するのにはわかりやすく適している。
………… (1)
(1)式において、a、kはともに定数で、aは特に初期段階における普及の抵抗の大きさを、kはaと関連をとりながら普及曲線の形状を決定することになる。
なお、(1)式は普及過程の前半部分だけを記述するものであり、後半部分は記述していない。
最小自乗法によりa、kを算出すると、図表4の普及曲線は次式により表せる。
………… (2)
(3) 地域規模別にみた普及特性
次に、市区町村を人口規模で分類し、地域規模別のそれぞれについて普及曲線モデル式を算出しながら、その特性を探ることとする(図表5)。
図表5 地域規模別にみたアプリケーションの普及曲線
なお、今回の地域を分類するに際しては、サンプル数において統計学的な有為性を確保するという事を前提に5つに分類しているが、例えば、50万以上といった地域規模について分析してみると、更に特長が顕著になるようである。
まず、地域規模別にアプリケーションの普及状況をプロットしてみると、地域規模が大きいところほど、アプリケーションの普及が進んでいるという傾向が見られる。これまでのイノベーションの普及研究においても、地域規模の大きい自治体ほど、社会制度やシステム等の普及が早いという報告も多いが、もちろん、それは地域規模が直接的要因というよりも、地域規模が、財政、人材、組織構造といったいくつかの要因の代用的な尺度であることは明白である。規模という尺度がよく用いられるのは、測定が容易で相対的比較が可能であるというに過ぎない。
更に、地域規模別にモデル式を算出し、まず、その抵抗値aについてみると、地域規模が小さくなればなるほど、aの値は大きくなっている。この影響が出るのは普及過程の初期の段階で、aの値が大きくなるほど、普及過程が進んでもZ軸方向に立ち上がり難くなる。しかし実際の値で見た地域規模による差は、kにより大きく補正されているので、aの値にみるほどの差はない。
また、普及曲線のベクトルがY軸方向からZ軸方向に転回するときの、Y軸方向における普及曲線の閾値(頂点)をみると、地域規模が大きくなればなるほど、この閾値が高くなっている。この要因については次章で考察することにするが、ただ、普及過程から考えると、YはZからみると将来のZに転じる予備軍であることから、この閾値が高ければ高いほど、普及曲線がZ軸方向に転じてから後、普及が大きく加速されると言える。例えばYの内、1年間に5%がZに転じると仮定すると、Yが大きければ大きいほど、Zの1年間の増加率も大きくなる。つまり、地域規模が大きいほど、閾値を超えた後の普及速度も大きいと言える。
ここでは、個々のアプリケーションと地域規模をクロスさせ、その普及特性によりアプリケーションをいくつかのタイプに類型化し、それぞれの問題点等を明らかにする。
(1)都市リード型(図表6)
地域規模が大きいところほどアプリケーションの普及が進んでいるというもので、多くのイノベーションにみらる典型的な型である。規模の大きい自治体では、財政的、人材的、組織的にみて、アプリケーションの導入に対処できる能力が高く、必然的に他の規模の小さい地域よりも導入が進むことになる。また、特に、アプリケーション導入のコストが非常に高い場合、技術的に複雑である場合、導入の効果が明らかでなく失敗のリスクがある場合等は、これらに対処できるような社会経済的能力をもった地域でないと、先頭を切ってそのアプリケーションを導入するのが難しいのも現実である。
そして規模の小さいところは、コストも低下し、技術的問題等が解決される頃を待って、能力の範囲内で導入していくことになる。ただ、将来的に都市部並みに普及するという保障はどこにもない。
更に、これを平等という観点からみると、これまでの考察からも明らかなように、普及が進展するにつれ、上位地域と下位地域の間の格差は急速に拡大しており、その後も下位地域の普及速度が遅いために容易に格差は縮まらないのが現状である。
なお、前章の最後に、地域規模が大きいほど普及曲線のY軸方向における閾値が高くなる要因に関しても、アプリケーションの導入に対する規模の持つ対処能力の差によるものと考えられる。
図表6 都市リード型アプリケーションの地域規模別の普及状況
(2) 都市普及型(図表7)
現在、特に地域規模の大きいところ(大都市中心)だけに普及しているアプリケーションである。社会経済的能力の高い都市部においては、これらのアプリケーションは今後とも順調に普及して行くであろうが、その他の地域においても普及していくのかということが一つの問題としてある。
しかし、地域規模や地域特性からみて、これらのアプリケーションが都市部以外の地域にとって必ずしも適切なもであるとは限らない。地域によっては「バスに乗り遅れるな」式の発想で導入に踏み切ったり、アプリケーションの普及を促進している行政レベルでもアプリケーションに関係なくとにかく普及すれば良しとすることが少なくはないが、大切なのは、各地域の独自性を保ちながら、つねに地域や住民にとって最も有効なアプリケーションを導入して行くことが何よりも優先されるべきである。
ただ、ここで問題なのは、都市部と対比される農村をはじめとする地域規模の小さいところにおいて、その地域特有のアプリケーションがまったく育っていないということであり、アプリケーション普及のための環境も整備されていないということではないだろうか。
図表7 都市普及型アプリケーションの地域規模別の普及状況
(3) 地域均衡型(図表8)
地域均衡型は、アプリケーションの普及率において、都市部と地方においてほとんど格差がなく、情報の地域間格差を生まないといった点では、理想的な普及形態である。ただ、地域規模が大きいほどY軸方向のポテンシャルが高いので、将来的に地域規模の大きい方でより普及が進み、その結果、都市リード型に転じ地域格差が生じる可能性があるので、その動きを見守って行く必要がある。
これらのアプリケーションの普及に関しては、中には、国が政策的に地方における導入を支援しているケースもあるが、ほとんどは地方がその導入に積極的に取組んできた結果と考えられる。そういった意味で、これらのアプリケーションの持つ特性自体が、地方に積極的に受け入れられていることの重要な鍵となっているものと考えられることから、地方における他のアプリケーションの普及を考える上でも、今後その普及特性を探って行くことの意義は大きい。
図表8 地域均衡型及び未普及型アプリケーションの地域規模別の普及状況
(4) 未普及型(図表8)
現時点において、地域規模にかかわらずほとんど普及していないアプリケーション。これは更に、Y軸方向のポテンシャルの高さによりテレワーク関連のアプリケーションとそれ以外のアプリケーションの二つに分類できる。
これらのアプリケーションは、普及の阻害となる複合的な要因を抱えており、普及に向けてそれらの問題を一つ一つ解決して行くしかないが、テレワーク関連以外のアプリケーションについては、普及のネックとなっている問題が解決されれば、ポテンシャルが高いので今後スムーズに普及していく可能性は高い。しかし、テレワーク関連に関しては、普及の阻害要因の問題というよりは、E.M.ロジャーズの「イノベーションの五段階の決定過程」で言えば、最初の「知識」の段階にすぎず、ほとんどの自治体で検討の段階までいっていないのが現状と考えられる。
なお、アプリケーション普及の阻害要因としては、次のようなものが考えられる。
ところで、我が国の情報化政策の最も大きな課題の一つに、地域間の情報化格差の問題があるが、そもそも、この地域間における情報格差は、現在、縮小に向かっているのか、拡大に向かっているのかということがある。これに関しアプリケーションの普及ということだけで考えると、第一にアプリケーション普及の主流で典型である都市リード型のアプリケーションにおいて格差が拡大していること、第二に都市中心に普及しつつあるアプリケーションがあるのに対し、地方中心のアプリケーションが育っていないこと、等を考えると、地域間の情報格差は拡大に向かっているということになる。ただ、これは、情報通信分野だけに内在する問題ではなく、イノベーションの普及過程にみられる傾向で、様々な分野においてイノベーションを導入した結果、社会経済的地位の上位と下位の社会経済的格差はさらに拡大している。やはり、このような格差を縮小するためには、いかにして下位の層を引き上げて行くかということが重要と言える。
アプリケーションを普及させるために、国や自治体は様々な対策や施策を講じているところであるが、果たしてどの程度の効果があるのか。これに関し、情報化推進のための組織体制、情報化構想、人的基盤とっいった調査結果をもとに、アプリケーションの普及過程において、どの程度の効果や関連性がみられるかを定量的に考察する。
まず、組織体制における効果ということで、「地域情報化を担当する課や係の有無」によるアプリケーション普及への効果を図表9でみると、担当する組織がある方が明らかに普及が進んでいる。担当する組織が有るところは無いところよりも、平均でZ軸方向の普及率で約2倍(5.05%→10.70%)、Y軸方向に約7ポイント(31.58%→38.60%
)普及を促進する効果がみられる。
図表9 組織体制別にみたアプリケーションの普及状況
次に、情報化構想による効果ということで、「地域情報化計画(構想)の有無」によるアプリケーション普及への効果を図表10でみると、組織体制のときよりも更に効果は大きく、平均でZ軸方向の普及率で約2.5倍(5.31%→13.17%)、Y軸方向に約13ポイント(31.60%→44.20%)普及を促進する効果がみられる。特に、図表からも明らかなように、普及率があまり高くない時点におけるY軸方向の普及のポテンシャルを高める効果が大きい。
なお、組織体制や情報化構想の有無に関しては、地域規模との相関も高いことから、分析された効果については規模による影響をかなり受けていると思われる。
図表10 情報化構想の有無でみたアプリケーションの普及状況
最後に、人材に関しての影響をみると、「地域情報化を担当する人材の量的・質的不足」について、強く感じるか、特に感じないかで比較した場合、第1感としては、特に感じない方が強く感じるよりも、人材上の問題がなくアプリケーションの普及が進んでいるのではと思われるが、図表11のように実際には、強く感じる方が、特に感じないよりも普及が進んでいることがわかった。
このことは、人材上の問題が顕在化するのは、普及過程の初期の段階ではなく、アプリケーションの導入が具体化したときや、実際、導入したときと考えられる。更に言えば、アプリケーションの導入に関し、具体的な段階まで検討していない自治体が多いのではないかとも考えられる。このように、人材の量的・質的不足を特に感じないということが、即、人材上の問題がないということにはならない。
図表11 人材基盤でみたアプリケーションの普及状況
おわりに
情報通信アプリケーションの普及過程をみていくと、恐らく、政府が、地域間の格差の拡大を防ぐ努力をしない場合には、格差拡大に伴う不平等性が益々大きくなって行くであろうことが予想される。確かに、自分のことを自分でできる自治体に力を貸す方が、自分でどうするこもできない自治体を助けるよりも容易であるし、また、コストも安くつく。しかし、アプリケーションの普及を推進する際に、地方に適切なものを優先するとかの努力があれば、格差を縮小させたり、少なくとも拡大させないようにすることは可能ではないだろうか。
参考文献