特集

教育分野における情報通信アプリケーションの
利用実態等に関する調査研究

情報通信システム研究室 井川 正紀

要約

 現在、教育分野では様々な情報通信アプリケーションが導入されている。それらは「教育支援」「コンピュータ教材」「遠隔教育」「ネットワーク化」という四つのカテゴリーに分類することが出来る。「教育支援」とは、オンラインによる受講の申し込み受け付けや電子メールによる学校と家庭との事務連絡等、教育周辺の効率化を情報通信アプリケーションによって実現しようとするものである。「コンピュータ教材」としては、CAI(Computer Assisted Instruction)システムのような自習システムが挙げられる。しかし、学校教育の分野では、生徒が表現や創造の手段としてパソコンを利用する事が多くなっており、今後はこのような利用が中心になってくると考えられる。「遠隔教育」には、対面での授業をテレビ会議システム等で行うものと、従来の通信教育が郵便で行っていた添削課題や指導のやりとりをファクシミリやパソコン通信等に置き換えるものの二つがある。このようなアプリケーションは、学校教育分野への導入はほとんど見られない。「ネットワーク化」には、教育・学校内部のみでコンピュータを接続する形式や姉妹校など学校同志のコンピュータを接続する形式等があるが、最近ではインターネットへの接続が大きなトレンドとなっている。
 そこで、「コンピュータ教材」「遠隔教育」「ネットワーク化」の三つのアプリケーションについて、導入状況や利用ニーズ、問題点、将来展望等を把握するために、アプリケーションの導入者サイドである学校や専門学校などの社会教育機関、利用者サイドである生徒・学生に対してアンケート調査を行った。その結果、利用者サイドの各アプリケーションに対する利用ニースはおしなべて高いものの、各アプリケーションそれぞれに導入を阻む要因が存在することが明らかになった。
 教育分野において上記の情報通信アプリケーションが本格的に普及していくには、それぞれのアプリケーションに固有の問題点が解決される必要がある。「コンピュータ教材」の普及のためには、よりよいコンテンツの教材が出来るだけ安価に提供される必要がある。また、学生・生徒が自由にパソコンを使えるような環境も不可欠だが、そのためには、国や企業、地域社会等からの何等かの支援が必要であろう。「遠隔教育」の普及のためには、テレビ会議システムのような大掛かりなシステムだけでなく、パソコン通信やインターネット、ファクシミリ等一定の普及がみられるメディアの利用も検討される必要がある。「ネットワーク化」が進展するためには、学校が安価に高速の専用回線を利用できるような環境が必要である。そのために、専用回線にも「アカデミープライス」のような料金体系が設定される事が望まれている。
 教育分野においては、新しい教育形態の創造を可能にする「ネットワーク化」が今後ますます重要になると思われる。郵政省は、教育分野における情報通信アプリケーションのさらなる普及のために、ネットワークの普及なリ活用を推進する施策に注力していく必要があるのではないだろうか。


1.はじめに

 近年のマルチメディアブームの中、教育分野においても様々なマルチメディアの波が押し寄せて来ており、ネットワーク、アプリケーションの導入が頻繁に行われるようになって来た。
 郵政省郵政研究所情報通信システム研究室では、95年9月より「教育分野における情報通信アプリケーションの利用実態に関する調査研究」を実施し、学校教育、社会教育、企業内教育の各分野から利用実態、導入に関する問題点を分析した。
 今回はその中から、教育分野における情報通信アプリケーションの利用実態に関して、特に学校教育の分野から論じる。


2. 教育分野における情報通信アプリケーションの利用実態

2.1 利用概況

 コンピュータを利用した教育アプリケーションと言えば、従来はいわゆるCAI(Computer-Assisted Instruction)と言われるものが中心であった。すなわち、子供達がコンピュータソフトの指示に従って操作し、正しいと思う答えを選んでいき、もし間違えたらまた元へ戻って学習していくような、個に応じた学習を行っていく「ドリル型」のソフトが中心であった。しかしながら、このようなCAIソフトを利用した学習は、知識や技術を身に付けることにはなるものの、最初から決まった枠の中でどれだけ理解をしたかを確認するにすぎないという問題点が指摘されている。
 また、平成元年に学習指導要領の改訂が行われ、新学習指導要領において、教育の情報化・国際化・個別化が3つの柱として位置付けられている。そこで、この新学習要領に基づき、学校教育の分野におけるマルチメディアやコンピュータには、「自ら学ぶ意欲」「主体的に対応できる能力」「個性を行かす教育」といった、「新しい学力観」の充実に寄与することが期待されている。なぜなら、マルチメディアやコンピュータは、操作する側が「求めて初めて情報を得ることが出来る」仕組みになっており、今までの「受け身の授業」とは異なる主体的な学習活動につながると考えられるからである。
 近年では「ドリル型」ソフトの利用以外にも、いろいろなコンピュータ利用の教育アプリケーションが見られるようになっている。例えば、児童・生徒の自ら考える力を伸ばすことを目的としたものとして、二次関数の係数を適当な数値に変化させることにより生じるグラフの変化を見て関数の性質を学んだりするようなシミュレーションとしてのアプリケーションや、児童・生徒の創造性を高めることを目的とした利用法として作図、作画、作曲等といったアプリケーションも見られる。学校教育分野におけるコンピュータ利用の教育アプリケーションの特徴として、このように「新しい学力観」の充実に寄与すると考えられる利用法が増えつつあることが挙げられる。

2.2 学校におけるハード、ソフトの導入状況

2.2.1 コンピュータの設置状況

 文部省では、公立の小学校、中学校、高等学校、及び養護学校などの特殊教育学校を対象として、平成6年度におけるコンピュータの設置状況やソフトの保有状況などといった情報教育の実態について調査している。その調査によると、コンピュータを設置している学校が全体に占める比率を示すコンピュータ設置率は、小学校、中学校、高等学校、さらには目や耳の不自由な方の学校、養護学校といった特殊教育学校すべての段階の学校において年々上昇しつつあり(図表2-1)、平成7年3月31日時点でのコンピュータ設置率は小学校で77.7%、中学校で99.4%、高等学校で100.0%、特殊教育学校で97.2%となっている。また1校あたりの平均設置台数もすべての学校段階において前年比で増加している(図表2-2)
 しかしながら、コンピュータの設置場所は中学校、高等学校、特殊教育学校においては専用教室に設置している学校が多く、手軽に普通教室で使用できる学校は極めて少ない。小学校においては、専用教室に設置している学校も少なくなっている。またすべての学校段階において、職員室にコンピュータを設置している割合が非常に大きく、設置しているコンピュータを教師が使用しているといった実態も伺える。
 さらに、導入されているコンピュータ1台当たりの生徒数は小学校が74.6人、中学校で18.4人、高等学校で14.2人、特殊教育学校で12.0人となっており、生徒一人一人が十分にコンピュータを使用できる状況にあるとは言い難い。

図表2−1 学校におけるコンピュータ設置率の推移
図表2−1 学校におけるコンピュータ設置率の推移

図表2−2 学校におけるコンピュータ設置状況

設置率(単位:%) 平均設置台数(単位:台) 1台当たり生徒数(単位:人)
小学校  77.7 (66.1)  6.1  (5.3) 74.6 (102.3)
中学校  99.4 (98.4) 23.1 (22.1) 18.4  (20.2)
高等学校 100.0 (99.9) 57.6 (53.7) 14.2  (15.8)
特殊教育学校  97.2 (92.5)  8.2  (7.6) 12.0  (13.9)

図表2−3 学校におけるソフトウェアの整備状況

平均保有本数(本) 平均種類数(種)
小学校 88.3 17.1
中学校 370.6 54.1
高等学校 223.4 30.2
特殊教育学校 43.4 25.7

2.2.2 教育用ソフトの導入状況

 学校におけるソフトウェアの平均保有本数、平均種類数は図表2-3のようになっている。教科別の内訳は、国語、社会、算数・数学、理科、外国語の主要5科目で、すべての学校段階において、算数・数学が多くなっている。導入されているソフトウェアはすべての学校段階において市販のものが大半を占めており、自作または共同製作によるものは非常に少なくなっている。

2.3 ネットワークを利用した教育アプリケーションの利用実態

2.3.1 利用概況

 学校教育分野においての教育アプリケーションとしてネットワークを利用した例では、大学などにおける学内LANがかなり以前から知られているが、最近では、学内LAN以外にもネットワークを利用したアプリケーションが見られるようになっている。小学校、中学校、高等学校の一部においても、インターネットで全国各地の学校を結び、参加校同士で意見・情報交換や、ネットワークを利用した学校間での共同学習活動を行うことも始められている。また、パソコン通信網を利用しても同様な活動が行われている。一方、大学に於いては、大学間をテレビ会議システムで結び、双方向授業を試験的に行っている例や、全国の複数の大学を高速・広帯域通信網等によりネットワーク環境を構築し、オンライン教育・研究環境を実現するための研究が行われている例なども見られる。

2.3.2 学校におけるLAN導入状況

 前述の文部省調査によると、コンピュータを設置している学校のうちLAN接続している学校の割合を示すLAN化率は図表のようになっており、中学校、高等学校においては半数以上の学校が、導入しているコンピュータをLAN化していることが分かる。一方、小学校、特殊教育学校においてはLAN化率は極めて低くなっており、小学校ではおよそ10校に1校、さらに特殊教育学校ではおよそ40校に1校しかコンピュータLAN接続をしていない。

2.4 遠隔教育アプリケーションの利用実態

 学校における授業といえば、従来から教室で生徒と先生が面と向かって行われるものが極めて一般的である。しかしながら、最近では遠隔教育アプリケーションを利用して、このような授業形式によらない授業が行われている例がみられるようになっている。たとえば、テレビ会議システムを利用して多地点にある遠隔地の学校に対し、リアルタイムかつ双方向の授業を行っていたり、また実験段階ではあるが複数の大学間を高速通信網で結び遠隔地の大学に講義の配信をする実験をしたりといった例が見られる。またテレビ会議システムを利用して海外の大学の授業を受け、レポートの提出や質疑応答はインターネットを用いて行うというシステムも予定されている。


3. 情報通信アプリケーションに対する意識

3.1 概観

3.1.1 アンケート調査の実施

 前章において、「教育分野における情報通信アプリケーション」のトレンドや先進事例について概観してきたが、これらのアプリケーションが教育の現場にどのように受け入れられ、あるいは受け入れられようとしているのか、また、導入・普及のためにはどのような課題が存在しているのか、を把握するため、意識や実態に関するアンケート調査を実施した。
 アンケート調査は、
(1) 情報通信アプリケーションの導入を進める立場の方に対する調査(「導入者」サイド対象)
(2) 情報通信アプリケーションを利用する立場の方に対する調査(「利用者」サイド対象)
の2種類の調査を実施した。以下に調査の概要を示す。

(1) 「導入者」サイド対象
 学校教育分野において、導入・利用が想定される情報通信アプリケーションの利用実態と、導入を進める立場の方(学校長、教員、学校経営者等)の意識を把握するため、郵送法による調査表調査を実施した。
 調査は、平成8年1月、全国の小学校・中学校・高等学校・高等専門学校・短期大学・大学等の中から無作為に抽出した400校(以下一般校)と、「100校プロジェクト」(注)に参加している小学校・中学校・高等学校等の106校(以下プロジェクト参加校)に対して調査表を送付し、一般校156校、プロジェクト参加校55校、合計211校から有効回答を得た。
(注)
 100校プロジェクトは、初等中等教育にインターネットを利用・活用する試みとして、通産省と文部省が協力して実施したプロジェクト。参加校への支援として、パソコンやルータ等のハードウェア及び通信用や情報検索用等のソフトウェアの提供がある。(平成8年1月現在)

(2) 「利用者」サイド対象
 学校教育分野において、利用が想定される情報通信アプリケーションを利用する立場の方(学生・生徒等)の意識を把握するため、パソコン通信を利用したアンケート調査を実施した。
 調査は、平成8年3月、我が国最大のパソコン通信ネットワークの一つであるNIFTY-Serveのオンラインアンケート調査サービスを利用し、一般のパソコン通信ユーザ3,254から有効回答を得た。

3.1.2 アンケート概観

 前章では、教育分野において利用される情報通信アプリケーションの3類型(「コンピュータ教材の利用」・「コンピュータ等のネットワーク化」・「遠隔教育の実施」)のうち、学校教育分野において最も進み、アプリケーションとしての蓄積が認められるものは、「コンピュータ教材の利用」であることを指摘した。
 今回の「導入者」サイド対象アンケート調査でも、同様の結果を得ることが出来た。
 一般校で「コンピュータ教材」を導入している学校は約7割に達しているのに対し、「ネットワーク化」を行っている学校は約3割、「遠隔教育」実施校は約3%であることがわかった。(図表3-1)
 一方、「利用者」サイド対象アンケート調査の結果では、「学校外部ともネットワーク化されたコンピュータを使っている」学生・生徒が過半数を占め、「コンピュータ教材を使っている」学生・生徒(約16%)、「遠隔教育を受けている」学生・生徒(約2%)を大きく上回っている。(図表3-2)
 これは、「導入者」サイド対象アンケート調査の回収校には、初等中等教育段階の学校が多いのに対して、「利用者」サイド対象アンケートの調査の回答者には高等教育段階の学生が多いことに起因するものと考えられる。

図表3−1 情報通信アプリケーション別導入状況(「導入者」サイド対象)
図表3−1 情報通信アプリケーション別導入状況(「導入者」サイド対象)

図表3−2 情報通信アプリケーション別導入状況(「利用者」サイド対象)
図表3−2 情報通信アプリケーション別導入状況(「利用者」サイド対象)
3.2 コンピュータを利用した教育アプリケーション

3.2.1 「導入者」サイドの意識

(1) プロジェクト参加校の位置付けについて
 前節で述べたように、教育分野において利用されつつある情報通信アプリケーションの3類型のうち、学校教育分野において、最も導入が進み、アプリケーションとしての蓄積が認められるものは、「コンピュータ教材の利用」である。
 図表3-3に示すように、一般校で「コンピュータ教材」を導入している学校は約7割に達しているのに対し、「ネットワーク化」を行っている学校は約3割、「遠隔教育」実施校は約3割である。
 プロジェクト参加校においては、これらの比率は押並べて高く、ほぼすべての学区で「コンピュータ教材」を導入している上、「ネットワーク化」を行っている学校は約9割に達し、約4分の1の学校で「遠隔教育」を実施している。
 プロジェクト参加校は、「コンピュータ教材」の導入率が高いうえに(96.4%;一般校は68.3%)、ソフト資産も豊富である(平均37.8種類、平均459.2本保有;一般校は13.5種類、122.8本)。
 また、プロジェクト参加校における、「コンピュータ教材」の平均導入年数は6年である。(一般校は4年)。
 もちろん、Internetの学校教育への利用実験プロジェクトへの参加校である彼らは、一般校では21.2%しか実現していない「ネットワーク化」の分野においても、平均3年の利用経験を有している。
 さらに、プロジェクト参加校では、パソコンを操作できる教員の比率が若干高く、(48.7%;一般校は45.3%)、生徒1人当たりのパソコン設置台数も相対的に多い(平均0.095台/人;一般校は0.04台/人)。
 このようなことから、プロジェクト参加校は、単に「実験プロジェクトに参加している学校」に留まらず、従来から情報通信アプリケーションの活用に力を注いで来た「教育分野における情報通信アプリケーションの《導入先進校》」と位置付けることが出来る。(以下、導入先進校と呼ぶ。)

図表3−3 情報通信アプリケーション別導入状況
図表3−3 情報通信アプリケーション別導入状況

(2) 小中高校段階における「コンピュータ教材」の利用について
 ここでは、一般校と導入先進校との特徴の差異を示しながら、特に初等中等教育段階における「コンピュータ教材」の利用の実態について述べる。
 一般校における「コンピュータ教材」の導入率は68.3%(導入先進校は96.4%)である。一般校で「コンピュータ教材」を導入していない学校のうち、75.7%は今後の導入予定も立てておらず、導入率が急速に上昇する見込みは低い。
 「コンピュータ教材」のタイプとしては、
 [1]創造性を養うための教材(51.0%)
 [2]生徒・学生が自習するためのカリキュラムに沿った教材(39.4%)
等が中心である。導入先進校も同様の傾向にあるが、比率がそれぞれ83.6%、60.0%と高い。(図表3-4)
 また、一般校では余り導入されていない「生徒・学生に自ら考えさせるための教材」(14.4%)も、導入先進校では利用率が高い(43.6%)うえ、そのための教材を市販に頼らず自作する傾向にある(自作率24.0%;一般校は6.7%)。

図表3−4 コンピュータ教材のタイプ別導入状況(初等中等教育段階)
図表3−4 コンピュータ教材のタイプ別導入状況(初等中等教育段階)

「コンピュータ教材」を導入する理由としては、一般校では
 [1] コンピュータそのもののリテラシー向上のため(54.9%)
 [2] 新しい教育形態の実験として(43.7%)
等が中心であるのに対し、導入先進校では
 [1] 新しい教育形態の実験として(69.8%)
 [2]コンピュータそのもののリテラシー向上のため(62.3%)
と順位が逆になっている点に特徴がある。
 さらに導入先進校では、「静止画や動画等、実物に近いものを見せるため」(34.0%;一般校は18.3%)、「データベース等、情報検索用として」(34.0%;一般校は16.9%)等、授業の補助教材としての位置付けを越えた取り組みがなされている。(図表3-5)

図表3−5 コンピュータ教材の導入理由(初等中等教育段階)
図表3−5 コンピュータ教材の導入理由(初等中等教育段階)


 そのような状況の下で、一般校の「コンピュータ教材」に対する満足率は、導入先進校よりも低いのが実態である(一般校19.7%;導入先進校35.8%)
 教材の種類別に見てみると、「創造性を養うための教材」(一般校の満足率11.5%)、「生徒・学生に自ら考えさせるための教材」(同満足率13.3%)の満足率が低いが、導入先進校では、これらの種類の教材に対する満足率は比較的高い(「創造性」35.6%、「自ら考え」47.8%)。
 コンピュータ教材に対する不満の理由は
 [1] 購入コストがかかる(先進校72.7%;一般校72.7%)
 [2]授業に合わせて改変(カスタマイズ)出来ない(先進校51.5%;一般校60.0%)
等が中心となっているが、市販教材を購入する傾向にある学校では「購入コスト」に、自作教材を製作する傾向にある学校では「制作コスト」に不満が現れている。
 また、「コンピュータ教材」の導入を検討していながら実現に至らない学校の理由は、
 [1] 購入コストがかかる(一般校53.8%)
 [2] 授業に合わせて改変(カスタマイズ)出来ない(30.8%)
 [3] 導入に見合う内容の教材が無い(一般校23.1%)
等が多い。(図表3-6)

図表3−6 コンピュータ教材の未導入理由(初等中等教育段階)
図表3−6 コンピュータ教材の未導入理由(初等中等教育段階)

 既導入校が抱いている不満点と合わせて考えると「コスト」と「カスタマイズ」の問題が「コンピュータ教材」の普及のネックになっているのではないか、と考えることが出来る。
 ところで、既に「コンピュータ教材」を導入している学校の、今後の利用意向は、図表3-7のようになっている。

図表3−7 コンピュータ教材に関する将来意向(初等中等教育段階)

 一般校では
 [1] ソフトの種類を増やす(62.0%)
 [2] 授業の補助になるような教材を増やす(53.5%)
等の様に、副教材路線の継承傾向が強いが、導入先進校からは、
 [1] 創造性を養うための教材を増やす(58.5%)
 [2] 生徒・学生に自ら考えさせるための教材を増やす(49.1%)
と「新しい学力観」に立った将来展望を伺うことが出来る。
 以上のような傾向から、学校教育における「コンピュータ教材」の導入については、一般校と導入先進校では導入目的などの意識に差異が見られるものの、導入への意欲は押並べて高いと判断することができる。しかしながら、それを疎外してしまう可能性のある課題が、「コスト」と「カスタマイズ性」に残されている、と考えることが出来るだろう。

3.2.2 「利用者」サイドの意識

 前項では、教育分野における「コンピュータ教材」の利用に関する「導入者」サイドの意識と実態について概観してきた。
 本項では、アンケート調査に基づいて、「利用者」サイドの意識について述べる。
 まず、学校教育分野における「コンピュータ教材」の利用について、実際に利用している人は16%と少数に留まっているが、認知自体は高い水準にあることが分かる。(図表3-8)

図表3−8 コンピュータ教材の利用状況
図表3−8 コンピュータ教材の利用状況

 また、「コンピュータ教材」に対する学生・生徒による評価・イメージを見てみると、肯定的な意見として
 [1] いろいろなデータが利用出来る(42.3%)
 [2] コンピュータの操作に慣れることが出来る(41.9%)
 [3] 通常より実物に近いものが見られる(36.2%)
 [4] 自分の好きな時間に学習できる(33.8%)
等が挙げられており、他方、否定的なものとしては、
 [1] ソフトの種類が少ない(33.8%)
 [2] 高価である(28.3%)
 [3] 利用できるコンピュータが少ない(21.5%)
等が指摘されている(図表3-9)

図表3−9 コンピュータ教材に関する評価・イメージ
図表3−9 コンピュータ教材に関する評価・イメージ

3.3 ネットワークを利用した教育アプリケーション

3.3.1 「導入者」サイドの意識

 本節では、教育分野における情報通信アプリケーションのうち、「(通信)ネットワーク化」「(通信)ネットワークの利用」について述べる。
 代表的な形態としては、校内(構内)LANや商用パソコン通信・Internet等を使って、教育、研修活動に役立てよう、というものである。

(1) 初等中等教育段階
 まず、「ネットワーク化」状況を見てみると、一般校の導入率は21.2%である。対して、導入先進校では90.9%の学校が導入している。(図表3-10)

図表3−10 ネットワーク化状況
図表3−10 ネットワーク化状況

 導入先進校は、前節で100校プロジェクト参加校を再定義したものであるから、究極的には導入先進校のネットワーク導入率は100%に近似されるはずである。
 このように、一般校と導入先進校との間には、極めて大きな導入状況の差異が認められるが、一般校の87.8%は導入予定もない状態なので、一般校のネットワークが急速に進展するとは考えられにくい。
 しかも一般校の約2割の学校がネットワーク化されているとはいえ、接続形態としては、「キャンパス内で接続」(68.2%)が中心である。また、一般校が導入する「ネットワーク」上で稼動しているアプリケーションとしては、「電子メール」(36.4%)が最も多いものの、「その他」(27.3%)、「不明」(31.8%)とほぼ同程度であることから、実際には単なる校内(構内)LANが中心であると想定される。
 他方、導入先進校では、接続形態としては「インターネットに接続」が主流であり(88.0%)、アプリケーションとしても、「電子メール」(82.0%)、「データベース(WWWサーバ含む)利用」(72.0%)、「データベース(WWWサーバ含む)構築」(72.0%)が中心となっており、校外にも開かれたネットワーク化が目指されているケースが多いと考えられる。(図表3-11-1,3-11-2)

図表3−11−1 ネットワークの接続形態
図表3−11−1 ネットワークの接続形態

図表3−11−2 ネットワーク上の稼動アプリケーション
図表3−11−2 ネットワーク上の稼動アプリケーション

 一般校が教育分野において「ネットワーク化」を推進する理由は、
 [1] 新しい教育形態の実験として(40.9%)
 [2] 情報資源の共有のため(40.9%)
等が中心となっている。
 対して、導入先進校では、
 [1] 新しい教育形態の実験として(74.0%)
 [2] 外部への情報発信や情報提供のため(64.0%)
 [3] 情報資源の共有のため(52.0%)
 [4] 他校との交流のため(44.0%)
と、他校とのネットワークによる情報交流の観点から導入を進めているのが特徴である。(図表3-12)

図表3−12 ネットワーク化した理由

 また、「ネットワーク化」に対する満足度を見てみると、一般校の満足率が45.5%であるのに対して、導入先進校の満足率は38.0%となっており、導入先進校の不満が目立っている。
 その理由は、一般校では
 [1]システムの保守・運用コストがかかる(41.7%)
 [2]初期投資のコストがかかる(25.0%)
等、コストに関する不満が中心となっているのに対して、導入先進校の不満は、
 ○回線速度が遅い(83.9%)
に集中しており、よりヘビーな使い方の中での不満が蓄積していることがうかがえる。(図表3-13)

図表3−13 ネットワーク化に対する不満の理由
図表3−13 ネットワーク化に対する不満の理由

 一般校の中で、「ネットワーク化」の導入予定を持っている学校はごく僅かであるが、「ネットワーク化」を検討しながら導入に至らない学校が掲げる理由は、
 [1]初期投資のコストがかかる(71.4%)
 [2]通信コストがかかる(38.1%)
 [3]校内に引かれている(電話)回線の数が少ない(33.3%)
等である。
 既導入校の不満点と合わせ考えると、「コスト」と「回線(回線の有無・品質)」の問題が「ネットワーク化」の普及のネックになっていると指摘することが出来よう。
 ところで、既に「ネットワーク化」を導入している学校の、今後の利用意向として、一般校では
 [1]ネットワーク上で利用可能なアプリケーションを増やす(50.0%)
 [2]ネットワークに接続可能な端末数を増やす(40.9%)
等を挙げる意見が多く、導入先進校では、
 [1]ホームページなどの制作内容(コンテンツ)の高品質化(80.0%)
 [2]接続端末数を増やす(76.0%)
と、一般校の展望の次のステップを見据えた展望を立てていると考えられるのではないか。(図表3-14)

図表3−14 ネットワーク化の今後の動向
図表3−14 ネットワーク化の今後の動向

 以上のように、学校教育における「ネットワーク化」の導入については、一般校と導入先進校の間に、意識や現状において、非常に大きな差異を認めることが出来る。
 また、今後を考える上で問題となるネックとして、通信回線への不満が両者から指摘されていることを押さえておく必要があろう。
 一般校においては、校内の電話回線設備が不足しているために「ネットワーク化」に至らないという不満、導入先進校においては回線速度が遅いという不満であり、不満の内容は異なっているが、いずれにせよ「通信回線」がボトルネックとなっていることに留意しておきたい。

(2)高等教育段階
 次に、高等教育段階における「ネットワーク化」の動向を概観する。
 大学・短大・高専における「ネットワーク化」の導入率は64.3%であり、高いと言える。(初等中等教育段階の一般校は21.2%)。(図表3-15)

図表3−15 ネットワーク化状況
図表3−15 ネットワーク化状況

 大学等が導入する「ネットワーク」は、接続形態としては、
 [1] キャンパス内で接続(81.5%)
 [2] インターネットに接続(70.4%)
が多く、前述の初等中等教育段階での導入先進校と似た傾向を示すが、
 [3]複数のキャンパスを接続(25.9%)
という形態も多いのが特徴的である。
 また、大学等が導入する「ネットワーク」上で稼動しているアプリケーションとしては、
 [1] 電子メール(92.6%)
 [2] データベース(WWWサーバ含む)利用(74.1%)
 [3] データベース(WWWサーバ含む)構築(59.3%)
が中心となっており、こちらも初等中等教育段階での導入先進校と似た傾向を示す。(図表3-16-1,3-16-2)

図表3−16−1 ネットワークの接続形態
図表3−16−1 ネットワークの接続形態

図表3−16−2 ネットワーク上の稼動アプリケーション
図表3−16−2 ネットワーク上の稼動アプリケーション
 しかしながら、大学等が「ネットワーク化」を導入する理由は、「情報資源の共有のため」(81.5%)が圧倒的に多く、「情報交流」を主眼としている初等中等教育段階での導入先進校とは特徴を異にしている。
 もっとも、大学等の「ネットワーク化」に対する満足度も決して高くは無い。(満足率44.4%)
 不満な理由は、「回線の伝送速度が遅い」(69.2%)等が中心となっており、初等中等教育段階における導入先進校の不満と類似した傾向にあるが、「セキュリティーが不安」(53.8%)との不満も高い点に特徴がある。
 このような状況の中で、大学等では「ネットワーク化」の今後の方向性について、
 [1] 回線速度の向上(77.8%)
 [2] セキュリティーを高める(55.6%)
等を挙げている。
 上記のことから、大学等における「ネットワーク化」の導入については、小中学校段階と比べると非常に進んだ状態にあり、活発に利用されていると考えられるが、「回線速度」と「セキュリティー」の問題が今後の課題とされていることが考えられよう。
 さらに、初等中等教育段階および高等教育段階を含めた学校教育における「ネットワーク化」の導入の状況としては、以下の点を指摘することが可能である。
 大学等において、積極的に導入され、小中高校段階でも導入先進校を中心にその活用が模索されているが、圧倒的多数の一般の小中高校においては、非常に消極的な段階にあること。
 学校教育における情報通信アプリケーションとしての「ネットワーク化」の普及に関してネックとなりそうな課題は、多くの学校において電話回線数が非常に少ないことや、回線の設置やグレードアップがままならないこと、等であろう。

3.3.2 「利用者」サイドの意識

(1)学校教育分野
 まず、学校教育分野における「ネットワーク化」の状況については、
 [1] 学校外部ともネットワーク化(51.1%)
 [2] 校内のみネットワーク化(18.9%)
の環境下にある人が、学生・生徒の大半(約7割)が何等かの形態で「ネットワーク化」されたコンピュータを利用していることがわかる。(図表3-17)

図表3−17 ネットワーク化の利用状況
図表3−17 ネットワーク化の利用状況

 利用状況として見ると、「導入者」サイドに対する調査で明らかになった導入率の内、高等教育段階における導入率(64.3%)と近似した値を示している。
 これは、今回の「利用者」サイド対象アンケート調査における回答者のうち、学校・生徒の約8割が高等教育段階の学生であったことに起因するものと思われる。
 この意味で、利用状況としては、「導入者」サイドからも「利用者」サイドからも、ほぼ同様の回答を得ることが出来たと言える。
 と同時に、次項における「導入者」サイドと「利用者」サイドの意識の比較では、このことを前提として考える必要があると言える。
 また、「ネットワーク化」に対する学生・生徒による評価・イメージを見てみると、肯定的な意見として、
 [1] データベース等が利用出来る(61.1%)
 [2] 学外とのコミュニケーションが取り易い(50.2%)
 [3] 友人とのコミュニケーションが取り易い(42.8%)
等が挙げられており、他方、否定的な物としては、
 [1] セキュリティの不安(27.2%)
 [2] 回線が遅い(23.6%)
 [3]ハード環境が不十分(23.6%)
等が指摘されている。
 この評価・イメージを、「ネットワーク化」に対する接触状況毎に比較してみると、学内外を問わずに「コミュニケーション」については、押並べて肯定的に捉えられている。(図表3-18)

図表3−18 ネットワーク化に対する接触と評価イメージ(単位%)

先生とのコミュニケーション 学内友人とのコミュニケーション 学外友人とのコミュニケーション 学校との事務連絡 DB利用 回線速度が遅い 利用可能アプリが少ない 情報内容が充実していない
校内接続 33.7 32.6 28.1 13.5 40.4 23.6 27.0 31.5
学外接続 35.4 48.8 60.0 15.0 71.3 31.3 10.8 18.8
NW不明 38.0 32.0 40.0 40.0 56.0 8.0 14.0 18.0
NWなし 50.0 46.3 51.9 46.3 57.4 11.1 7.4 13.0
使っていない 37.8 37.8 51.4 37.8 56.8 13.5 13.5 5.4

 また、実際にネットワークを利用していない回答者ほど「学校との事務連絡がとりやすい」と評価していたり、「データベースの利用」を評価する人が特に「学外接続」利用者に多い半面で、「回線の伝送速度」を否定的に評価する人も、実際に利用している層に多い等、全体的に認知・接触状況が低いレベルにある人程、「ネットワーク化」についてタテマエ的に捉え、高いレベルになるとメリットもデメリットも認識するようになる、との傾向がありそうだ。

3.4 遠隔教育アプリケーション

3.4.1 「導入者」サイドの意識

 「遠隔教育」の導入状況を見てみると、大学も含めた一般校の「遠隔教育」の導入率は2.6%であり、ほとんど利用されていないと言って良い。(図表3-19)

図表3−19 遠隔教育の導入状況
図表3−19 遠隔教育の導入状況

 しかも、「遠隔教育」を導入していない学校のうち、81.2%は導入予定もなく、検討すらされておらず、学校教育分野においては、「遠隔教育」は、ほとんど利用されておらず、検討もされていないのが実態である。
 実態に即して考えると、我が国における学校教育では、初等中等教育段階では、同一の敷地内の校舎内で行われる授業が教育活動の中心であり、高等教育段階では、複数のキャンパスに立地する大学も多数存在するものの、多くは学部・学科単位では同一キャンパス内に立地し、いずれも特に「遠隔教育」の導入の必要がない環境にある。
 異なる学校間での交流学習や研究交流、辺地離島等における教育格差の是正等、今後は「遠隔教育」を積極的に活用すべきケースが出てくると想像できるが、現段階では「遠隔教育」はほとんど利用されておらず、検討もされていないのが実態と言えよう。

3.4.2 「利用者」サイドの意識

 「遠隔教育」の実際の利用者は2.3%と極めて少ないが、認知のみの段階にある学生・生徒を加えると、約8割が「遠隔教育」を認知しており、認知度は高い。(図表3-20)

図表3−20 遠隔教育の利用状況
図表3−20 遠隔教育の利用状況
 また、「ネットワーク化」に対する学生・生徒による評価・イメージを見てみると、肯定的な意見として、
 [1] 遠隔地の授業でも受けられる(60.4%)
 [2] 自分の都合のいい時間に利用できる(33.2%)
等が挙げられており、「遠隔教育」が単に空間的制約からの解放に留まらず、時間的制約からの解放にもつながるものとして認識されていることがわかる。
 他方、否定的なものとしては、
 [1] 他の受講者との交流が無い(35.5%)
 [2] 先生に直接教えてもらえない(26.6%)
等、コミュニケーションギャップの問題点が指摘されている。
 さらに、「遠隔教育」に対するニーズ・要望を見てみると、
 [1] 双方向性の強化(64.5%)
 [2] 自宅で授業を受けられるように(48.3%)
 [3] 講座数増(39.4%)
等が挙げられており、多様なニーズが生じていると言える。
 特に、在宅学習のような、遠隔教育の発展型と言えるようなアプリケーションにまでかなり強いニーズが示されていることは特筆すべきであろう。
 以上のように、学校教育分野における「遠隔教育」に関しては、実際の利用者は非常に少ないものの、認知率自体は高く、高い評価を受けている。また、在宅学習のような形態を含め、強いニーズが示されているアプリケーションと言える。


4. まとめ

4.1 総論

 教育分野において、情報通信アプリケーションは「特別なもの」と捉えられてる向きがまだあるように思われる。今後は、パソコンの授業利用の成功のためには、パソコンは文房具等と一緒の「普通のもの」であるという考え方が必要になって来る。また、教育の形態についても、生徒の自主的な学習を支援するものへの転換が求められる。そして、このような教育にパソコンやネットワーク等の情報通信アプリケーションが有効であると言える。

4.2 コンピュータ教材

 学校教育分野の問題点として、生徒一人あたりのパソコンの台数が少ないことがあるが、「100校プロジェクト」ではアクセス用のパソコンを提供している例もあるように、国や企業、地域社会等からの支援が必要な状況にあると言える。また、教材のコンテンツとコストの問題では、より良い内容のものが、安価に提供されていくこと、導入する側が授業内容に合わせてカスタマイズ出来るよう、柔軟性を持たせることが必要となる。

4.3 ネットワーク化

 コンピュータを外部とネットワーク化すれば高速の専用回線が必要となるが、高速な専用線の使用料は高価である。このような問題点に対しては、「アカデミープライス」のように学校・学生・生徒は安価に利用出来るような料金体系が設定されることが望まれる。また、著作権の厳守やネットワーク上で守るべきルール(ネチケット)等については、情報倫理に関する教育を充実させていく必要がある。

4.4 遠隔教育

 遠隔教育は現状ではあまり注目されていないが、利用者側に遠隔教育への潜在的ニーズがあることは明らかであり、導入者側は、一定の普及が見られるメディアでの遠隔教育も検討すべきである。

4.5 郵政省の施策

 教育分野において、ネットワークの重要性が増して来ているものの、現状では、ネットワーク面の施策が不十分であるように思われる。そこで郵政省は今後の教育分野における情報通信アプリケーションのさらなる普及のためにネットワークの普及や利活用を推進する施策に注力していく必要があるのではないだろうか。


[参考文献]

[雑誌論文]