郵政研究所月報

1997.7

調査・研究


ユニバーサル・サービスのコスト算定とその意義


通信経済研究部  浅井 澄子


〔要約〕
 本稿の目的は、電気通信事業におけるユニバーサル・サービスのコスト算定の方法とその意義を提示することにある。
 これまでのユニバーサル・サービスは、電話サービスを対象として、独占的事業者の内部補助で確保されてきた歴史があるが、電気通信事業の独占から競争体制への移行に伴い、ユニバーサル・サービスを確保するための新たな枠組みの検討が各国で行われつつある。また、現在では、電話サービスが概ね普及したこと、情報通信の経済成長、国際競争力に果たす役割の大きさに対する認識等から、高度な電気通信サービスをユニバーサル・サービスに加えようとする動きも生じている。ユニバーサル・サービスの対象範囲の拡大は、情報に対するアクセスの格差を縮小する点で有意義ではあるが、これと並行して競争市場におけるユニバーサル・サービスの維持、拡充の仕組みを設定することが課題となっている。
 競争下におけるユニバーサル・サービスの範囲拡大に関しては、政策的判断に属する領域が大きいが、対象範囲については、だれがユニバーサル・サービスを提供し、どの程度のコストとなるのか、どのようにそのコストを負担するのかを考慮する必要があり、また、コストの大きさによっては、ユニバーサル・サービスの範囲拡大の程度も制約を受ける。すなわち、ユニバーサル・サービスの範囲の確定、その確保のための方式設計は、ユニバーサル・サービスを提供するコストと密接に関係する。従来、料金算定上の費用は、歴史的会計費用の完全配賦費用方式で算定されてきたが、ユニバーサル・サービスのコスト算定に当たっては、事業者が自らサービスを提供するか、コストのみを負担するかの意思決定の判断材料となるフォワード・ルッキン(forward-looking)な長期増分費用で測ることに合理性がある。
 ユニバーサル・サービスの具体的なコスト算定方法としては、英国ではTの会計上の費用を現在価値に変換した上で費用を配賦するトップ・ダウン方式、米国では効率的なネットワーク構築と運用をモデル化し、その費用を積み上げるボトム・アップ方式が選択されている。これらの方式の考え方は、接続料金の算定方式と共通である。換言すれば、地域別費用差に着目したモデルが、ユニバーサル・サービスのコスト算定のモデルであり、アンバンドルされるネットワーク構成要素毎に費用を算定したものが接続料金算定のモデルになるという関係が両者にはある。
 諸外国では、コストを算定した上で、ユニバーサル・サービスの提供を確保するため、外部補助方式を導入する、あるいは、現行方式を改善する動きがある。電気通信分野で既に導入されている外部補助方式は、ユニバーサル・サービス・ファンドを通じた事業者補助と補助を必要する特定個人に対する個人補助方式である。もっとも、高度な電気通信サービスをユニバーサル・サービスとして確保するために個人補助を導入する場合、高度ネットワークの構築途上にあっては、たとえ所得水準が同じ個人間であっても、その個人の居住地域にネットワーク設備が存在するか否かで、補助の有無が分かれ、不公平性が生じる。この2つの方式の場合、ネットワークの面的広がりの程度によって、選択する補助方式又は事業者補助と個人補助の適用の比重が推移することが考えられる。


はじめに


 ユニバーサル・サービスは、電気通信分野の 規制、政策の議論において、従来から取り扱われてきた問題であるが、この数年、新たな視点から論議を呼んでいる。これには、大別して2つの要因が考えられる。1つには、先進諸国では、米国の1993年情報通信基盤行動アジェンダに代表されるように、従来の電話サービスを対象とするユニバーサル・サービスが概ね達成され、高速・広帯域サービスを含む新たなユニバーサル・サービスを模索している段階にあることである。この意味で、現在は、これまでのユニバーサル・サービス確保のための政策を評価するとともに、ユニバーサル・サービスの対象範囲を改めて議論する時期にある。2つ目には、EU諸国では、1998年1月1日から音声電話サービスへの競争導入が決定されており、各国で実施に向けての制度的枠組みが検討されている。これまでユニバーサル・サービスとしての電話サービスの提供は、法的又は事実上の独占で行われてきたが、今後は競争下でこれを確保すること、そのための体制を整備することが必要となっている。
 「ユニバーサル・サービス」という言葉が使われた発端は、1900年代 初頭のAT&T年次報告書及びそのスローガンであったことは知られるところであるが、これには、必ずしも確立された定義はない。ここでは、標準的な捉え方と考えられるOECDレポートの第1部の著者であるNi cholasGarnham教授が提示した以下の概念を準用する。
 @地理的普遍に利用可能であること(universalge ographicalavailability)
 Aアクセスに関する差別的取り扱いがないこと、すなわち、すべての利用 者に料金面及びサービス水準で同一の取り扱いをすること(non-dis criminatoryaccess)
 B経済的に利用可能であること(affordability) この3番目の利用可能な料金は、個人の所得水準全体と当該サービスの支出水準の相対的な関係で決定され、どのサービスをユニバーサル・サービスに含めるのかの問題と密接に関係する。また、この利用可能な料金の問題は、別の見方をすれば、ユニバーサル・サービスの利用が困難な特定個人を補助する社会政策上の観点から取り扱われ、電気通信の規制、政策議論の範疇から一歩踏み出した問題である。このため、本稿では、だれでもが経済的に利用可能であることについては第4節の補助方式で触れるが、中心的課題は、最初の2つの概念である全国的に同一の取り扱いを保証するための方策とする。


 ユニバーサル・サービスに含まれるサービス範囲は、Garnhamの定義から明らかなように具体的に明示されない。むしろ、ユニバーサル・サービスの対象範囲は、その国の電気通信及び経済社会の発展状況、政策目標の設定等に依存する。米国の情報通信基盤行動アジェンダがその典型例であり、高速・広帯域サービスをユニバーサル・サービスとしてとらえることは、電話サービスがユニバーサル・サービスとして概ね達成されたことのほかに、高度サービスをあまねく普及させることを通じて、米国の経済成長と国際競争力強化を意図する政策判断がある。しかし、ユニバーサル・サービスを確保するには、その範囲如何に関わらず、一定のコスト負担を伴う。これまでは、独占事業者がユニバーサル・サービスのコストを他のコストととりたてて識別せず、独占事業者全体の収支相償を前提に全国均一料金による提供を確保してきた。
 しかし、競争の進展により、従来の独占事業者のみに提供の責務を負わせることに対しは疑問も提起されている。もっとも、この場合、ユニバーサル・サービスの責務を負う既存事業者は、実際にどの程度のコストを負担しているのだろうか。その際のユニバーサル・サービスのコストとはどのように把握されるのが合理的なのか。
 本論で、ユニバーサル・サービスの範囲ではなく、そのコストの考え方について現時点で取り上げることは、以下の理由による。ユニバーサル・サービスの範囲は、前述のとおり外部環境、政策判断に大きく影響される。一方、ユニバーサル・サービスの確保に関する制度的枠組みは、市場の変化による見直しは想定されるものの、ユニバーサル・サービスとしての個々のサービスの追加には対応し得る。例えば、先進諸国では、学校、医療機関向けの高度な電気通信サービスの提供をユニバーサル・サービスに含めることに関して検討が行われている。公的機関に対する高度サービスの提供確保のためけの高度サービスのいずれか、又は双方をユニバーサル・サービスとして盛り込むことに関して対応は可能である。一方、ユニバーサル・サービスの対象範囲を決定するには、ユニバーサル・サービスを実現するためのコスト負担と補助方式等について、関係者の合意を得る必要がある。具体的には、小中学校を高速・広帯域回線で結び、映像を含む大量の情報の伝送、交換を可能にすることをユニバーサル・サービスに含めるに当たって、そのコスト負担に関してコンセンサスが得られない場合には、学校 向けの高度なサービスをユニバーサル・サービスに含めないか、含める場合にも小中学校の範囲を限定する、達成時期を延期する、サービス水準に制約を課す等の選択肢が考えられる。換言すれば、どのサービスをユニバーサル・サービスの対象とするかの検討に当たって、コスト見積もりは判断材料の一つであり、また、対象範囲が確定した時点で、正確なコスト推計が可能となる。現在取り上げられている範囲拡大の問題と必要なコストとの間にはフィードバックの関係があることが、本稿でコストの問題を取り扱う第1の理由である。


 また、ユニバーサル・サービス確保のための制度的枠組みは、潜在的事業 者の新規参入、既存事業者のネットワーク構築計画等の事業者の戦略に影響を与える。過疎地域におけるサービス提供確保のため、競争入札により最も補助金額が少ない事業者に独占的提供権を付与する政策を公表した場合、補助金がなかったならば参入しないであろう事業者が参入するかもしれない。また、既存事業者が補助がなかったならば、ネットワーク拡大を行わないところ、補助制度の設定を契機に需要密度の低い地域にネットワークを拡大するかもしれない。不採算地域のサービス提供に関して制度的枠組みが大きく影響するだけに、そのルールを予め提示することが、事業者の将来的見通しを可能にする。このため、ユニバーサル・サービスの範囲を拡大する場合には、ユニバーサル・サービスのコスト算定結果を踏まえ、何らかの補助方式が必要と判断される場合には、事前にこれに関するルールを設定することが必要となる。このようにユニバーサル・サービスのコストと、補助方式の必要性の有無、そのルール設定が互いに結びついていることが、現時点でユニバーサル・サービスのコストを検討する第2の理由 である。
 さらに、現在では、電気通信市場において競争メカニズムが機能する領域が拡大するにつれ、各国で接続料金の設定が問題となっている。我が国を含む諸外国の電気通信事業の産業構造は、独占的事業者が構築した加入者回線に様々な事業者が接続してサービスを提供する形態をとる。この場合、独占的事業者は、過疎地域を含む全国で加入者回線を設置し、地域別費用差の存在にも関わらず、同一の接続料金を設定しており、過疎地域の加入者回線と接続する事業者と都市部の加入者回線と接続する事業者の費用負担の問題が生じる。また、米国では、収支が均衡していないとされる加入者回線の通話量に依存しない費用(non-traffic sensitive co st:NTS費用)を長距離通信事業者、地域電話会社、加入者がどのように負担するかを巡って、長年にわたって議論されてきたことも周知の事実である 2)。この点、接続料金、NTS費用に関するアクセスチャージとユニバーサル・サービスとは密接不可分の関係を有すると言える。米国の連邦通信委員会(Federal Communications Comm ission、以下、「FCC」という)が、1996年8月8日に公表した「地域通信市場の競争の実施に関する第1回報告及び命令」において、接続、ユニバーサル・サービス、アクセスチャージ改革は3部作(trilogy)と称したのも、この3者の関係に着目したものである。このことは、ユニバーサル・サービスの負担問題、最終利用者向けの料金、事業者向け料金の問題は、一体的な一つの行動規制の問題としてとらえることの必要性を示唆している。
 以上の理由から、本稿では、行動規制の設計に当たって基礎となるユニバ ーサル・サービスのコストの把握に関する考え方について検討する。第1節では、ユニバーサル・サービスの構成要素である全国均一料金制について、独占から競争体制に移行した際に生じる問題を取り扱う。第2節はユニバーサル・サービスのコスト算定方法、第3節は具体的な算定事例としてOFTELとFCCの方式の紹介とその評価である。第4節は現在、導入され、又は検討されている外部補助方式の問題を取り扱う。


  1  均一料金制と競争政策

 まず、コストの問題に先立ち、独占下のユニバーサル・サービスと競争下のユニバーサル・サービスの違いを考えておきたい。従来、我が国を含む諸外国の電気通信事業は、法的又は事実上の独占形態で運営されてきた。規制当局は、独占形態では事業者に独占を認める代わりに、当該事業者に対し、全国的なサービス提供と料金規制を通じて地域的に平準化された料金(geographic rateave raging)によるサービス提供を要請してきた。全国均一料金によるサービス提供に問題が提起されたのは、法的又は事実上の独占に競争メカニズムが導入されたことを契機とする。


 このような地域的に費用差がある場合の規制当局の対応としては、大別し て二つに分けられる。一つは、FCCのHi-Lo料金のように地域別費用差を反映した料金設定(price differentiation)を 認める考え方である。この場合、規制当局が事業者に詳細な費用情報を求め、これら料金水準間で内部補助がないこと、略奪的料金設定ではないことが立証されることが前提である。一方、地域別費用差に関わらず、均一料金を維持する考え方を表明することも政策として一つの選択肢である。この具体例としては、米国の1996年電気通信法第254条のユニバーサル・サービスの規定がある。第254条では、長距離通信事業者が農村地域及び高費用地域の加入者に適用する料金は、当該事業者が都市部の加入者に適用する料金より高いものであってはならないことが規定されている。長距離通信事業者が自らの意思で農村地域及び高費用地域の加入者に都市部の加入者より低い料金を適用することは想定できないことから、第254条の規定は、料金平準化の規定であると解釈することができる。これまでの1934年通信法は、同法第202条で料金、サービス等に関して特定の個人、階層又は地域に対して、不当又は不合理な差別を禁止しているが、1996年電気通信法は、料金平準化に向けて一歩踏み込んだものと言える。もっとも、ここでの規定は、地域的にも多数存在する長距離通信事業者の同 一事業者内の料金平準化の規定であり、全米レベルでは、同一地域間で複数の料金水準が存在することになる。
 一方、ユニバーサル・サービスの範囲を拡大し、高度なサービスもユニバ ーサル・サービスとして利用確保を図る際、都市部の居住者のみならず、需要密度の低く、費用が高い地域の居住者にも当該サービスの利用を可能にすることが求められる。電気通信サービスの提供には、物理的ネットワークの存在が前提となる。ユニバーサル・サービスの範囲が拡充され、高度な電気通信サービスがユニバーサル・サービスの対象に含められる場合、このサービスを提供するための物理的ネットワークが面的に広がっていることが不可欠である。したがって、以下では、ユニバーサル・サービスの範囲を拡大する際に、事業者が不採算地域へのサービス提供を抑制する誘因、競争に対応した料金を設定する誘因を持ちながらも、政策的に均一料金を維持しつつ、全国的サービス提供を確保する際のコストについて考えてみたい。


  2   コスト把握の考え方


 本節では、ユニバーサル・サービスが 全国で利用可能になる際に必要なコストをどのように把握するかの問題を扱う。一旦、コストが把握されると、コストの算定結果は、だれが、どのようにそのコストを負担するのか、どのような補助システムが必要であるのかの議論に結びつく。ユニバーサル・サービスは、利用者間の公正性を意識した概念であるが、提供の制度的枠組みが、資源配分の効率性を確保し、また、競争市場に適切なものであることが望まれる。さらに、算定されるコストは、補助金額の算定に利用されるだけではなく、事業者が補助を受けてネットワークの拡大を行うか、自らはネットワーク建設を行わず、そのコストのみを負担するかの判断を行うための情報でもある。ユニバーサル・サービスの提供に当たって補助を必要とする地域は、需要密度や地理的状況から、新規参入事業者がゼロ、又は、ごく少数であり、競争メカニズムが機能しにくい市場であると想定される。補助基準を通じて潜在的参入事業者に適切な判断材料を提供することにより、当該市場に競争圧力を働かせることが望ましい 5)。


 事業者への適切な判断材料となるためには、現行又は将来の事業者の投資 行動に対する費用が把握されることが必要ではあるが、競争メカニズムが十分には機能しない市場では、そのコストに事業者の非効率性が含まれる可能性がある。非効率性には、X非効率、レント・シーキング活動への関与等から生じる技術非効率性(technical inefficiency) と、事業者が過剰な資本設備を有することから発生する配分非効率性(al locative inefficiency)の双方の問題を含む  6) 。以下では、適切にコストを把握するための考え方と具体的算定方法の問題を分け、前者を第1項で、後者を第2項で取り扱う。


 (1)  算定方式

 ユニバーサル・サービスのコストに限らず、最終利用者向け料金算定及び接続料金の算定等のために従来から用いられてきた方式が、会計情報の完全配賦費用による把握方式である。しかし、これには、歴史的費用である会計情報を用いる点、費用配賦の恣意性等、適正性の問題が従来から指摘されてきた。これに代わる方式として議論されているのが、長期増分費用(long-run incrementalcos t)による算定である。長期の概念で費用をとらえることは、資本を含むすべての生産要素が可変であること、すなわち、ある生産水準に対して最適な生産要素の組み合わせで生産活動が行われていることを意味する。ユニバーサル・サービスの提供には、過疎地域も含め、物理的ネットワークとしての資本設備の存在を必要とする。長期の概念でコストを把握することにより、ユニバーサル・サービスを提供するための最適な資本量が調整されていることが確保される。
 増分費用は、ユニバーサル・サービスを提供するために必要となる費用の追加分であり、単一生産物の増分費用ICは、以下のとおり定義される。
   IC i(y≡)C(y)−C(y^i),i∈N,
   ^i={j∈N:j≠i}
 y^iは、yiのみゼロで、これ以外はyの構成要素に等しい生産量ベクトルである。yiが、ユニバーサル・サービスの生産量とすると、ICiがユニバーサル・サービスを提供するに当たっての増分費用である。
 この増分の単位を可能な限り小さくし、生産量1単位と考えるならば、長期増分費用は、長期限界費用に等しくなる。ユニバーサル・サービスのコストを長期増分費用で把握することは、長期限界費用と料金との差の赤字部分を補助することによって、当該地域のサービス提供を確保することと同義となり、資源の効率的配分につながる。もっとも、ユニバーサル・サービスの提供に当たって、需要量及び資本量も不連続に変化すると考えられ、長期限界費用と長期増分費用とは乖離することが想定される。
 また、事業者が複数生産物を生産し、長期増分費用に含まれない共通費用が存在する場合、共通費用の負担を巡っては議論を呼ぶことになる。FCC は、1997年5月の裁定で、ユニバーサル・サービスのコストには合理的に配賦された共通費用を含むことをコスト算定基準の一つとして加えている。但し、5月のFCC文書では、具体的な配賦基準については触れられていない。
 なお、電気通信サービスの場合、費用把握の基本的な考え方にネットワークの広がりと通話形態を考慮する必要がある。事業者が、不採算地域にネットワークを拡大することにより、採算地域の加入者の通話の相手先が拡大する。つまり、不採算地域にネットワークを拡大する正の効果は、発信者課金を前提とすると、不採算地域から発信される通話料収入のほかに、採算地域の加入者が不採算地域の加入者に発信する際の通話料収入も含まれる。このため、ユニバーサル・サービスのコストを算定し、その結果から、補助金額を設定する場合には、不採算地域にネットワークを拡大することから得られる収入を差し引くことが必要となる。


図表1採算地域・不採算地域の通話形態

図表1 採算地域・不採用地域の通話形態

 図表1では事業者が、不採算地域にネットワークを拡大しない場合、B・ B’間の通話料収入、C→C’の通話料収入、D→D’の通話料収入及び加入者B、B’の基本料収入を失うことになる。ユニバーサル・サービスのネットのコストとは、長期増分費用から当該サービスを提供しないことにより失われる収入を差し引く、すなわち、「長期増分費用−(B・B’間通話料収入+C→C’通話料収入+D→D’通話料収入+加入者B、B’の基本料収入)」で求められる。


  (2) コスト算定方法

 ユニバーサル・サービスのコストは、その算定の合理性から長期増分費用で把握されることになるが、長期増分費用の算定にも、実務上の問題が生じる。
 これまでに電気通信分野の長期増分費用の算定方法としては、既存事業者の会計情報を利用して算定するトップ・ダウン方式(top-down model)と、効率的事業者の運営を想定したモデルを作成し、そのモデル上でコストを積み上げるボトム・アップ方式(bottom-up model)が挙げられる。トップ・ダウン方式で算定する場合、会計情報を利用することから2つの問題が指摘される。一つは、帳簿上のデータであることから、現在必要となる費用水準と乖離する可能性があることである。これについては、資本設備を取得価格ではなく、再調達価格に変換することで完全ではないが、調整することができる。但し、既存事業者が過剰設備を有している場合、時価評価に変換しただけでは、この問題は解決されない。2点目は、既存事業者の費用情報に基づくため、この事業者が独占的な事業運営を行っている場合、費用水準に非効率性を含んでいる可能性があることである。この問題に関しては、OFTELが採用しているように他の効率的と思われる事業者の費用情報と比較する、あるいは、生産フロンティアを推計し、技術非効率性の有無を計測し、これらの結果から事後的にユニバーサル・サービスのコスト推計額を調整することが考えられる7)。
  ボトム・アップ方式は、エンジニアリング・コスト推計又は、米国の具体的推計では代理変数モデル(proxy model)とも称される。この 方式は、特定の既存事業者の費用情報を利用しないため、コスト算定側と既存事業者間の情報の非対称性の問題が生じない。また、既存事業者の非効率性が算定結果に含まれないという長所もある。一方、ボトム・アップ方式による算定が、ユニバーサル・サービスの提供に必要な費用をすべて網羅していないのではないかという問題、また、前提如何で算定結果に大きな相違が生じるという信頼性の問題、投資時点では最も効率的な技術で生産を行ったにせよ、急速な技術進歩により数年間で設備が陳腐化した際の費用が回収できない状況が生じることも指摘されている。なお、ボトム・アップ方式の採用は、情報の非対称性の問題を解決するが、コスト算定過程の透明性が自動的に確保されるものではないことは次節で改めて議論したい。
 この2つの方法は、ユニバーサル・サービスのコスト算定方法として挙げられ、かつ、現実に英国及び米国で用いられているが、これらの方法は、接続料金算定の際に用いられる方法と共通である。すなわち、不採算地域におけるサービス提供のコスト算定を行った結果が、ユニバーサル・サービスのコストであり、地域を問わず、アンバンドルされたネットワーク構成要素単位の費用に計算対象を拡大した結果が、接続料金の算定という関係が両者にはある。


  3  具体的算定事例


 前節では、ユニバーサル・サービスのコス トをフォワード・ルッキングな長期増分費用で算定することが合理的であることを示し、2つの算定方法を提示した。本節では、現在算定に着手している英国の電気通信庁(Office of Telecommunica tions、以下、「OFTEL」という)の事例と米国のFCCの例を紹介する。


 (1) OFTELの事例

 OFTELは、1995年12月の 諮問文書でユニバーサル・サービスのコストを長期増分費用で算定すること、補助方式としてファンドを設立することを提案するとともに、コスト算定に基づき必要なファンド額を提示した。このファンド額の推計に当たっては、OFTELがシンクタンクAnalysisに委託した調査結果を参考としている。
  OFTELは、1995年12月に提示した意見聴取項目に対する関係者の反応、その後の検討結果を踏まえ、1997年2月に「ユニバーサルな電気通信サービス」と題する諮問文書を発表した。本文書の第6章のタイトルは、「ユニバーサル・サービスのコストとは何か」であり、コスト推計に焦点があてられている。推計すべきコスト対象は、この諮問文書では、不採算地域への提供コスト(uneconomic areas)、不採算の利用 者への提供コスト(uneconomic customers)、不採算の公衆電話サービスのコスト(uneconomic public ca ll boxes)の3つに分けられている。
 ここでのコストの把握方法は、前節で示した長期増分費用による方式であり、具体的算定に当たっては、既存事業者の会計情報に基づき費用を詳細に分計して求めるトップ・ダウン方式(top-down model)が採用 されている。OFTELが実施したトップ・ダウン方式による長期増分費用の推計とは、歴史的会計費用ではなく、資本を現在価値に置き換えた際の費用(Current Cost Accounting)で測られている。 また、地域別の増分費用を算定するため、BTから提出された299のローカル交換区域(local exchange area)の地域特性を示 すデータが利用されている。OFTELは、これらデータの区域毎の加入者回線数、区域毎の加入者回線の長さ、時間帯別通話時間、国際通話分数、区域毎の加入者回線の平均密度等を共通費用配賦のコスト・ドライバーとして、費用の配賦を行っている。さらに、BTの会計情報に基づきコストを算定することから生じる非効率性を内包する問題については、BTと米国の地域電話会社との効率性の比較を行い、BTの効率性が5%程度劣るとして、BTの費用情報から得られたユニバーサル・サービスのコストの下方修正を行なっている。
 不採算の利用者にサービスを提供するためのユニバーサル・サービスのコストとは、一定の住宅用利用者にサービスを提供しないならば回避可能であろうアクセス、発信、着信のコストであると定義される。OFTELの場合、この不採算の利用者に対するコスト算定の具体的な対象は、ライフライン制度( Lifeline Scheme)及び低利用者制度(Light Use r Scheme)の利用者とされる。ライフライン制度は、1997年からBTが開始する着信のみ、又は、緊急通話等の限定的な通話のみが発信可能な電話サービスを提供する仕組みである。これは、通話料金の請求金額から、利用者がネットワークから脱退するのを未然に防止することを意図している。また、現在の低利用者制度は、電話の発信数が一定以下の利用者に対する基本料金の払い戻し制度であり、数年以内に制度の改善、拡充が予定されている。不採算地域のユニバーサル・サービスのコストがBTの費用情報で算定されるのに対し、不採算とされる利用者の対象範囲とそのコストは、どのような制度が設計されるのかに依存する。図表2は、1997年2月に OFTELが公表したコスト算定額である。ここでは、不採算地域のコストは、ネットワークの拡大により将来では低下するものの、不採算の利用者に対するコストは、ライフライン制度の創設、拡充に伴って増加することも想定されている。


図表 2 BTのユニバーサル・サービスのコスト推計
(金額単位百万ポンド)
項  目 コスト推計額
(1995/1996年)
総回線数に占める比率 非効率性調整後の
コスト推計額
将来コスト推計額
(1998/1999年)
不採算地域 10〜15 0.5以下
(面積20%)
5〜10 0〜5
不採算の利用者 45〜55 6〜7% 30〜40 40〜60
不採算の公衆電話 10〜15 BT公衆電話
の約20%
10〜15 0〜15
合   計 65〜85 45〜65 45〜80

出典 OFTEL[1997]”Universal Telecommunication Services”,Proposed Arrangement for Universal Service in the UK from 1997 表6.1、表6.2、表6.4
(注) OFTEL[1995]"Universal Telecommunication Service," Consultative Document on Universal Service in the UK from 1997.におけるユニバーサル・サービスのコストは、以下のとおりである。1995年当時と1997年時点の数値は、不採算の利用者に乖離があるが、これ以外の3項目については、概ね、上限下限の範囲内にある。
BTの不採算地域提供コスト  9〜21百万ポンド
BTの不採算の利用者      49〜68百万ポンド
BTの不採算の公衆電話    14百万ポンド
BTの身体障害者向けコスト   5百万ポンド


 また、OFTELの諮問文書では、1995年時点の提案と同様に、ユニ バーサル・サービスを提供することによる無形の便益を換算し、算定されたユニバーサル・サービスのコストから便益を差し引いている。これは、19 96年11月に発表されたEUの「ユニバーサル・サービスのコストと資金に関するガイドライン」にのっとったものである。OFTELが掲げたユニバーサル・サービスを提供することによる便益とは、EUのガイドラインに基づき、ライフサイクル効果、偏在性(ubiquity)、ブランドから構成される。
 ライフサイクル効果とは、現時点の利用者の利用状況では採算点に達しな いものの、将来の当該利用者から利潤が得られる可能性のことを指す。OFTEL は、毎年100〜1,000万ポンドに相当する便益が見込まれると想定し ている。 偏在性については、新規事業者を知らずに、BTのみを事業者として認知していることにより、転居世帯がBTを選択することによる効果を指す。O FTELの最近の消費者調査によると、転居世帯の行動は、以下の樹形図で表すことができる。
 偏在性による便益とは、現実にはBTのサービスを利用 しているが、他事業者の存在を知っていたならば、BTではなく他事業者を選ぶ世帯により得られる収入と解釈されている。転居世帯の26%である2 25,000世帯がこれに相当し、年間4,000〜8,000万ポンドが見積もられている。
 ブランドについては、BTがユニバーサル・サービスを提供していることにより得られるブランド・イメージ及び事業者としての評判を金額に換算するものである。OFTELは、ユニバーサル・サービスを提供することにより得られるブランドは、BTの小売市場のマーケティング支出の20%の価値があるとして、5,000万ポンドを見積もっている。
 しかし、このような無形の便益の金銭的価値を換算し、これをユニバーサ ル・サービスのコストから差し引くことに対しては次の問題がある。第1に、BTが得ている便益がユニバーサル・サービスを提供することから生じるのか、従来から電気通信サービスを全国規模で提供している支配的事業者であることに起因する便益であるのか、識別ができない。第2に、無形の便益であるため、文字とおり、これを金銭的に評価することが困難であり、算定に恣意性を伴う。例えば、OFTELは、ブランドの換算基準としてBTの小売市場のマーケティング支出の20%を利用しているが、これ自体には客観的、合理的根拠はない。このため、BTがユニバーサル・サービスを提供することにより得られる便益は、ライフサイクル効果で100〜1,000 万ポンド、偏在性で4,000〜8,000万ポンドと大きな幅をもって示され、上限値を採用した場合には、図表2で示したユニバーサル・サービスのコスト推計額である6,500〜8,500万ポンドを上回る額ともなる。OFTELは、1997年2月の諮問文書で、この算定結果により、BT がユニバーサル・サービスを提供する場合には一定のコストを要する一方、ユニバーサル・サービスを提供するための便益の方がコストを上回り、当面、補助方式の設定が不要であるとの判断を示している。
 なお、1997年2月のOFTELの文書は、あくまでも諮問文書であり、OFTELは、この内容に関し再度意見を求めており、BTはOFTELの便益が過大に推計されている旨のコメントを提出している 8)。


図表 3 転居世帯の行動

図表3 転居世帯の行動

出典 OFTEL[1997]”Universal Telecommunication Services". Proposed Arrangement for Universal Service in the UK from 1997" 注釈1の図表3.1


 (2) FCCの事例

 米国では、地域間の費用格差を是正し、地域間の料金格差を縮小するための外部補助方式として、ユニバーサル・サービス・ファンド・システムがある。このシステムは、AT&T分割を契機とする料金体系の見直しを一つの背景に、1986年から導入された地域電話会社に対する補助制度である。補助対象は、加入者回線費用が全国平均より15%以上高い地域電話会社であり、地域的費用差が電話料金に反映されるのを防ぐことを通じて、電話の利用を確保することを目的とする。この制度は、換言すれば、全米平均加入者回線費用を15%以上上回る部分を補助すべきコストと考えていると解釈できる(詳細については、第4節参照)。
 もっとも、平均を一定以上上回る額を補助することには、以前から事業者の非効率性を助長する可能性、補助対象の適正性等の問題が指摘されており、FCCは、1994年以降、改善に向けて調査を開始している。一方、1 996年電気通信法第254条は、ユニバーサル・サービスに関して、FCCに以下のスケジュールでこの問題を検討することを義務付けている。このため、現在のファンドに関するFCCの検討は、この1996年電気通信法の検討に含められた形で進められている。
 @1996年電気通信法制定以降1か月以内に、ユニバーサル・サービスに関する連邦・州の合同委員会(Federal-State Joint Board on Universal Service)を設置し、ユニバーサル・サービスの見直しに関する検討を付託すること
 A連邦・州の合同委員会は、法律制定以降9か月以内に、FCCの付託事項に関する勧告を行うこと
 BFCCは、法律制定以降15か月以内、すなわち、1997年5月8日までにユニバーサル・サービスに関する規則を制定すること
 1996年電気通信法に基づき、連邦・州合同委員会は、1996年11 月8日に、ユニバーサル・サービスの範囲、補助制度、コスト算定等に関して、FCCに勧告を行っている。ここでのコスト算定の論点は、OFTEL のいうボトム・アップ方式に相当する代理変数モデル(proxy model)の導入と帳簿上の会計費用ではなくフォワード・ルッキング・コストに基づく経済的費用を用いた算定に移行することの2点である。
 なお、FCCは、1997年5月の裁定では、ユニバーサル・サービスのコスト算定に当たって、「フォワード・ルッキングな経済的費用」とし、直接的には「長期増分費用」の表現は使っていない。もっとも、1996年8月の接続料金に関する裁定文書では、接続料金を長期増分費用で算定することを明示し、接続料金算定で議論されたモデルとその考え方を今回のユニバーサル・サービスのコスト算定にも利用しており、実質的にユニバーサル・サービスのコストを長期増分費用でとらえていると考えることができる。
 この委員会の議論においては、MCI、AT&T等の長距離通信事業者及び現行制度では補助対象に含まれないタイムワーナー等が、会計上の費用に基づく補助制度は、既存事業者の非効率性が含まれること、本来必要な費用よりコスト額が過大に推計されること、費用削減インセンティブが作用しない等の欠点があるとして、フォワード・ルッキングによる経済的費用に変更すべきであると主張している。一方、小規模で過疎地域の地域電話会社の多くは、現行の会計費用に基づく補助システムが、最も信頼性のある算定方法であること、代理変数モデルでは過疎地域のサービス提供に必要な費用を過小推計する可能性があるとして、現行システムの維持を主張している。連邦・州の合同委員会では、これら関係者の意見を踏まえ、ルーラル地域電話会社9)以外の地域電話会社については、代理変数モデルで、ルーラル地域電話会社に関しては、3年間の移行期間を経て会計費用から代理変数モデルに変更して、補助金額を算定することをFCCに勧告した。


 FCCは、1996年電気通信法の規定に従い、1997年5月8日に、「ユニバーサル・サービスに関する報告及び命令」を公表した。FCCは、連邦・州の合同委員会の勧告に沿って、ルーラル地域電話会社以外の地域電話会社に関しては、1999年1月から実施に移すために、1998年8月までに今回設定された基準に基づき、フォワード・ルッキングのメカニズムを設定すること、ルーラル地域電話会社については、引き続き検討を行うことを表明した。つまり、ここではフォワード・ルッキングの考え方でコストを算定すること、算定に当たっての基準が決定されたものの、具体的なモデルとその方式については、結論が先延ばしされている。連邦・州の合同委員会の勧告を踏まえ、FCCが設定したコスト算定の基準とは、以下のとおりである。
 @コスト・モデルは、最小の費用をもたらす効率的な技術を前提とすること
 A加入者回線、交換、伝送、信号等のネットワーク要素の費用は、それぞれ関係する費用で把握すること
 Bフォワード・ルッキングなコストのみを含めること
 C現在、州際通信サービスの公正報酬率として、11.25%が認められているが、資本コストについては、将来、再検討すること
 D減価償却率は、FCCの認める範囲内とすること
 E地理的区域のすべての事務用、住宅用加入者に提供するサービスのコストを対象とすること
 F共通費用は合理的基準で配賦すること
 Gコスト算定に用いたデータ、算定方法、ソフトウェアは、第3者の検討のため入手可能であること
 Hモデルの前提の変更、修正を行うことが可能であること
 Iセンサス・ブロック・グループのように小単位で平均化しない費用推計とすること
 また、これまでにFCCに提出されている代理変数モデルは、次の3種類である。スプリント及びUSウエストのベンチマーク・モデル(Bench mark Cost Proxy Model: BCPM)、AT&T及びMCIがシンクタンクHatfield Associates, In cに委託したハットフィールド・モデル(Hatfield Model)、ニュージャージ納税者団体の委託でJohnson Associate s, Inc.が作成した電気通信経済費用モデル(Telecom Ec onomic Cost Model: TECM)である。これらは、1 996年電気通信法で規定された地域通信市場の接続料金の算定に利用されているが、とりわけ、Hatfieldモデルは、当初は、高費用地域にサービスを提供する際のコスト算定を目的に構築されたものである 10)。つまり、地域別費用差に着目したモデルが、ユニバーサル・サービスのコスト算定のための代理変数モデルであり、局間伝送等、アンバンドルされたネットワーク構成要素単位に費用計算対象を拡大したものが、接続料金算定のモデルとして活用されるという位置づけとなる。これらの代理変数モデルは、モデル構築に利用したデータ及び考え方に相違があるものの、FCCが一定規模以上の地域電話会社に提出を求めている会計情報であるARMIS( Automated Record Management Inform ation Systems)における投資水準よりも低い水準が算定されている点で共通している 11)。
  FCCは、1997年5月時点では、BCPMとHatfieldモデルをコスト算定モデルの選択肢としつつも、最終的な決定は見送っている。なお、FCCは、1998年8月のメカニズム設計に向けて、1997年6月末までに、コスト算定に関する調査公告を改めて発出する予定である。


 (3) コスト推計の差異

 OFTELとFCCは、同時期にユ ニバーサル・サービスのコスト推計に取り組んでいるが、具体的算定方法には、前者がトップ・ダウン方式、後者がボトム・アップ方式を採用しているとの相違がある。両方式には一長一短があり、むしろ、得られた結果の信頼性は、方式の運用に依存するところが大きい。
 トップ・ダウン方式とボトム ・アップ方式の長所と問題点については、前節m02項で述べたところであるが、再度、OFTELとFCCの具体例を挙げて整理する。トップ・ダウン方式を採用したOFTELも、この方式が既存事業者の非効率性を含む可能性があることを認識している。この問題については、他事業者との経営比較により、推計されたコスト額を下方修正することで対処した。
 また、OFTELは、ユニバーサル・サービスのコストと共通点が多い 接続料金の算定において、規制コストはかかるが、トップ・ダウン方式とボトム・アップ方式の双方を実施し、相互に調整を図るとともに、規制方式としてプライスキャップ規制を適用し、「マイナスX」を利用して費用削減を求める方式を選択した。換言すれば、接続料金の初期価格設定で効率化を達成するのではなく、プライスキャップ規制適用期間の数年をかけて、これを要請することを選択したと言える。ユニバーサル・サービスのコストを接続料金と同様に考えれば、トップ・ダウン方式又はボトムアップ方式で算定されるコストは、第1期目のコストであり、補助金額に上限を設定することで補助金額の増大を防止する、代理変数モデルから得られたコストに基づき補助金額を設定することで事業者に費用削減のインセンティブを付与する等の措置を含めることは可能である。また、OFTELは、ユニバーサル・サービスのコスト推計においてトップ・ダウン方式のみの推計にとどまっている。1997年2月のOFTEL の諮問文書では、ユニバーサル・サービスのコストとこれを提供することにより得られる便益との差額から、OFTELはファンド等の外部補助システムの導入を見送る提案を行っている。このことから、ユニバーサル・サービスの場合には、多大な規制コストをかけて詳細なコスト推計を行う必要性は、接続料金の算定に比べ低いと言える。
 さらに、OFTELも認めているとおり、トップ・ダウン方式とボトム・アップ方式の算定においては、利用する費用データ、算定の考え方が異なることから、両者の結果の相違が必ずしも非効率性だけであるとは言い難い。むしろ、両者から得られるそれぞれの結果は、料金の上限と下限の設定に用いることはできるが、両者の結果が必ずしも一致するとは限らない。乖離した結果が出た場合、算定に利用したデータと方式が相違することから、結果のみを調整し、一本化すること自体に合理的根拠はない。すなわち、トップ・ダウン方式とボトム・アップ方式の併用は、必ずしもユニバーサル・サービスのコスト算定に当たって不可欠な要件ではない。
 一方、ボトム・アップ方式による算定にも問題は指摘されている。例えば 、Hatfieldモデルにおける伝送路構築コストについては、敷設されるケーブルが電力、CATV等の他事業と共有されることを前提に、電話会社はコストの3分の1を負担することを仮定して計算されている。電気通信ネットワークが共同溝の一部として敷設される事例はあるが、すべての電気通信ネットワークが他事業と共有されるものではない。Hatfieldモデルのこの前提が、現実の地域電話会社のネットワークの共有比率を過大に評価しているとすれば、地域電話会社側が指摘しているとおり、地域電話会社の必要なコスト額を過小に見積もることになる。
  このようにボトム・アップ方式による算定は、モデルの前提如何によって、結果が大きく異なる可能性があり、信頼性には議論を呼ぶ。もっとも、H atfieldモデルのように算定結果だけではなく、利用したデータ及び算定方法を詳細に開示することは、透明性を確保し、また、モデルの一層の改善を図ることを可能とする。これに対し、トップ・ダウン方式は、既存事業者の費用情報を基礎とする。その費用をどのように帰属させ、配賦するかは、当該事業者の活動状況を詳細に把握することが前提であり、第3者がこれを監査することには限界がある。


 但し、ボトム・アップ方式による算定は、決定過程の透明性確保に資する ことはできるが、この算定方式を利用することで自動的に透明性が確保されるものではない。この事例として、OFTELのボトム・アップ方式による接続料金の設定を挙げることができる。OFTELの接続料金の算定の検討は、トップ・ダウン方式については、BTの内部情報を活用する観点からシンクタンクであるNERA(National Economic Res earch Associates, Inc.)が監査を行うが、実際の作業はBTに一元的に委ねられている。一方、ボトム・アップ方式による接続料金の算定は、OFTEL、BTをはじめ、マーキュリー、CATV事業者、移動体通信事業者及びコンサルティング会社から構成される作業部会で実施されてきた。しかし、この作業部会の検討状況、利用した費用情報、算定方法の詳細は第3者に公開されておらず、その結果の適正性を第3者が判定することは現実には困難である。ボトム・アップ方式においても十分な情報公開が行われていない背景には、ボトム・アップ・モデルに活用した費用データが、作業部会参加の事業者の非公開の費用情報を利用している可能性が考えられるが、このように米国と英国のモデルの開示の程度は、モデル算定に利用した情報公開の蓄積の差が、影響しているのではないかと思われる。すなわち、米国では、以前からARMISデータと呼ばれる詳細な経営情報を電気通信事業者に求め、その結果が公表されてきた。Hatfield モデルには、様々な仮定が置かれているが、ARMISデータ等の公開された詳細な情報を利用して、コストを算定し、その結果はもちろん、算定過程も公開されている。これに対して、英国では、BTの財務データ等は公開されているが、他の事業者の情報の開示は限定的である 12)。ボトム・ アップ方式は、モデル構築側と事業者との間の情報の非対称性を解消する方式ではあるが、モデル作成者が非公開のデータを多用している限りは、この方式の利用が、決定過程の透明性確保に直結するものではない。むしろ、この問題は、これまでの公開された情報の蓄積に大きく依存していると言える。

 (4) 接続料金との関係

 本稿では、ユニバーサル・サービス のコストを地域的費用差の存在にも関わらず、均一の最終利用者向け料金を実現するためのコストとしてとらえてきた。一方、普遍的にネットワークを構築し、サービスを提供する事業者は、最終利用者にサービスを提供するだけではなく、他の事業者への接続サービスも提供する。すなわち、ユニバーサル・サービスを提供する事業者の料金には、最終利用者向けの料金と他の電気通信事業者向け料金の双方がある。最終利用者向け料金の均一性を確保するためのコストをユニバーサル・サービスのコストとして最終利用者向け料金の算定費用と識別するとき、事業者向け料金である接続料金とユニバーサル・サービスのコストとは、どのような関係にあるのだろうか。
 コストの把握方法とその徴収方法に関しては、幾つかの選択肢がある。一 つは、接続サービスを提供する事業者内で、地域的費用差があるにも関わらず、最終利用者向け料金と同様に接続料金を地域的に同一水準とし、地域別費用差の問題はユニバーサル・サービスのコストとして扱う考え方である。この場合、接続料金とユニバーサル・サービスを実現するためのコスト算定、接続料金とユニバーサル・サービスのコストの徴収とは、独立の関係にある。英国の場合、BTが提供する最終利用者向け料金と事業者向け料金である接続料金は、均一性が維持され、不採算地域等への最終利用者向けサービスが、ユニバーサル・サービスのコスト対象と位置付けられる。もっとも、1997年2月の諮問文書の時点では、OFTELはユニバーサル・サービスを提供することによるコストと便益の大小関係から、外部補助システムの導入を見送る提案を行っており、BTが従来とおり内部で処理することになる。


 2番目の考え方は、最終利用者向け料金については、居住地の異なる利用 者間の負担を同等とするため均一料金を維持するものの、接続料金については、競争対応の観点から、地域的費用差を反映させる料金水準の設定を認めるものである。地域の費用水準に従い異なる水準の接続料金を認めることは、部分的ではあるが、1993年のFCC規則の改正で取り入れられている。地域電話会社の州際接続サービス料金は、1991年から地域的に同一であることを前提に、プライスキャップ規制が適用されてきた。しかし、1990年代に入り、大都市地域では、大口利用者を対象に専用サービス、あるいは、一部には電話サービスを提供する競争的アクセス事業者(Compe titive Access Provider、以下「CAP」という) が出現し、事業拡大を図り、既存の地域電話会社と競争関係が生じてきた。地域電話会社は、CAPとの競争上、地域的に均一な接続料金を課すことが、非経済的バイパスを助長するとして、地域別費用に見合った柔軟な料金設定をFCCに求めてきた。1993年のFCC裁定では、プライスキャップ規制のバスケットの中のサービス・カテゴリーに、需要密度料金ゾーンとして3つの地域別ゾーンを設け、それぞれに異なる料金設定を認める考え方を提示し、1994年にはゾーン制対象範囲の拡大を図っている。この3ゾーンの接続料金は、競争対応上、地域別費用差による料金として1973年に AT&TがFCCに申請したHi-Lo料金と同じ考え方である。
 さらに、1996年8月のFCCの「地域通信市場の競争に関する第1回 報告及び命令」では、地理的に平準化された接続料金は、管理が容易であり、不合理な料金設定を防止することができる反面、競争事業者に自らがネットワークを構築するか、接続を受けてサービスを提供するかの正しいシグナルを提供しない可能性があることを認識した上で、以前のFCC裁定と同様の3ゾーン制を採用した。
 3番目は、ユニバーサル・サービスのコストの徴収方法に関する問題であ るが、既存事業者の最終利用者向け料金と接続料金の均一性を維持し、ユニバーサル・サービスのコストを接続料金に付加し、接続料金の徴収時にそのコストも回収することである。この方法には、加入者回線を独占的事業者が地域別費用差に関わらず全国で構築し、他の事業者はこの加入者回線と接続してサービスを提供する産業構造と、ユニバーサル・サービスのコスト負担者は接続を受ける事業者であることが議論の前提にある。加入者回線を自ら構築せず、接続を受けることによってサービスを提供する中継系事業者にとっては、加入者回線構築の地理的範囲が拡大されているほど、かつ、加入者回線が高度化されているほど、自らの利用者の増加とサービスの高度化を実現することができる。この意味で、接続料金にユニバーサル・サービスのコストを付加し、接続を受ける事業者にその費用を負担させることには、一定の合理性が認められるが、これには以下の問題もある。
 この方法は、暗黙のうちに接続を提供する事業者が、接続対象の回線を既 に独占的に構築していることを仮定している。ユニバーサル・サービスのコストを接続料金に付加する方法では、高度なユニバーサル・サービスを達成するため、新たに過疎地域で加入者回線の光ファイバー化を行う事業者は、自己の回線と接続を希望する事業者が出現しなければ、ユニバーサル・サービスのコストを徴収する機会がない。しかし、自己の回線との接続を希望する事業者が将来的に出現するか否かを事前に見通すことは困難であり、不採算地域にネットワークを拡大する事業者にとっては、事業展開に大きなリスクを伴う。むしろ、この方法は、既に加入者回線を全国的に構築している支配的事業者のコストをどのように事業者間で負担するかの問題であり、地域通信市場を含めた競争政策とは親和性に乏しい。


 さらに、この場合、独占的に回線を構築している事業者が、自己の費用情 報に基づき、接続を受ける事業者に対しその費用負担を求めるため、接続料金の設定と同様にコスト算定に関わる不透明性の問題を惹起させる。EUでは、ユニバーサル・サービス提供のための外部補助システムとして、ファンド方式と接続料金に付加するアクセスチャージ方式を選択肢として取り上げた。しかし、1995年1月の「電気通信インフラストラクチャーとCAT Vネットワークの自由化に関するグリーン・ペーパー」では、アクセスチャージ方式は、ユニバーサル・サービスのコストを接続料金徴収と併せて徴収することが可能であり、手続上、管理上のコストが軽減される長所があるものの、透明性に欠けるとしてファンド方式を推奨している。料金算定に当たっては、可能な限り、最終利用者向け料金、接続料金である事業者向け料金、ユニバーサル・サービスのコストを分けて考えることが透明性の確保につながる。もっとも、長期的には、地域通信事業における独占的事業者の存在を前提とし、均一の接続料金を仮定するのではなく、CA TV事業者、CAP等の代替的事業者の新規参入の環境を整え、接続を提供する事業者が地域的に複数存在する産業構造を指向すること、この結果、接続相手先も複数設定されることが電気通信事業の競争政策に合致する 13 )。


  4  補助方式

 これまでは、ユニバーサル・サービスの初期コス トの算定問題を取り扱ってきた。そもそも、コスト算定を行う理由の一つは、現行の内部補助方式においてどの程度のコストが移転しているかを把握すること、新たに外部補助方式を導入するか、否か、導入する場合にはどのような方式とするかの検討材料にすることである。算定されたコストから外部補助の必要額を見積もる場合、その額が継続的に非効率性を排除したものである必要がある。もっとも、絶えずコストを再計算することは、規制コストを膨大なものとし現実的ではない。このため、FCCの一連の検討では、事業者が費用を削減するインセンティブをシステムに組み込むことが盛り込まれている。
 まず、最初に、地域別費用差が存在する際の外部補助システムである現行 のFCCのユニバーサル・サービス・ファンドの概要と問題点を指摘し、現時点で提示されている代理変数モデルを利用した改善案を整理する。さらに、事業者補助以外の手段として、特定の個人に対象を限定した補助システムを紹介し、補助システムの選択の問題について検討する。

 (1) 現行の事業者補助システム

 現時点で、地域別費用差に対応するための外部補助システムの事例として、米国のユニバーサル・サービス・ファンドが挙げられる。このシステムの補助対象は、前節のとおり、加入者回線費用の全国平均を15%以上上回る地域電話会社の15%を超える費用の一部である(図表4参照)。但し、小規模な地域電話会社により高い補助率を与え、15%を超える費用の全額ではなく、一部を補助することにより、事業者の費用と補助金額が増大することを防止している。補助金原資は、長距離通信事業者のアクセスチャージとして徴収され、非営利団体である全米電気通信事業者協会(National Exchange Ca rrier Association、以下「NECA」という)が、ファンドの運営管理を行っている。


図表4 ユニバーサル・ファンドの補助基準

 1 加入者回線20万回以下の地域電話会社
  (1) 平均費用×115%<加入者回線費用150%の地域電話会社の補助金額
   =(平均費用×150%−平均費用×115%)×65%
  (2) 平均費用150%<加入者回線費用の地域電話会社補助金額
   =(平均費用150%−平均費用×115%)×65%+(加入者回線費用−平均費用150%)×75%
 2 加入者回線20万回線を越える地域電話会社
  (1) 平均費用×115%<加入者回線費用<平均費用160%の地域電話会社の補助金額
  =(平均費用×160%−平均費用×115%)×10%
  (2) 平均費用×160%<加入者回線費用<平均費用200%の地域電話会社の補助金額
  =(平均費用×200%−平均費用×160%)×30%+(平均費用×160%−平均費用×115%×10%
  (3) 平均費用200%<加入者回線費用の地域電話会社補助金額
  =(平均費用×160%−平均費用×115%)×10%+(平均費用×200%−平均費用×160)×30%+(平均費用×250%−平均費用×200%)×60%+(加入者回線費用−平均費用250%)×75%


 補助対象を加入者回線費用の平均水準で測る方式は、長期増分費用方式に比べ資源配分の効率性に問題があるが、このシステムがAT&T分割に伴ない、早期に外部補助システムの設計を求められたことを考慮するとやむを得ない面もある。
 このファンド制度には、事業者の効率性促進に十分ではないとする問題点が従来から指摘されている。補助金額が加入者回線費用の全国の平均水準をもとに決定されるため、費用が過大であることが補助金支給対象となり、事業者に費用削減インセンティブが働かない。また、補助対象として、メタル又は光ファイバー等の設備の種別を問わないため、ネットワークの高度化促進で費用が増加した場合、加入者回線費用が全米平均を15%以上上回る限り、自動的に当該地域電話会社が補助対象となる。ファンド制度の当初の趣旨が、基本的電話サービスの料金の地域間格差の是正であったのに対し、結果的には、ネットワークの高度化を進める事業者を補助する側面が生じている。さらに、補助対象が地域電話会社に限定され、加入者回線を設置しているCAPが補助対象外であることから、このシステムが競争中立的ではないという問題点も指摘されている。FCCは、これらの問題点を踏まえ、19 94年から現行方式の見直しに関する調査を開始し、さらに、1996年電気通信法の規定に従い、見直しに向けての検討が行われているところである。この検討過程において、提示されたモデルが次項の補助方式である。


 (2) 代理変数モデルを利用した補助方式

 現行のユニバーサ ル・サービス・ファンドが、実際の地域電話会社の費用水準に基づき補助金額を設定していたのに対し、代理変数モデルを利用した補助方式は、対象となる地域電話会社の費用情報を利用せず、補助金額を設定する方式である。ここでの補助金額は、予め定められた補助基準であるベンチマークを利用して、第3節m02の代理変数モデルで算定された費用額との差額、すなわち、「補助金額=代理変数モデルで算定された費用額−ベンチマーク」で求められる。この方式は、個々の地域電話会社の費用情報を直接利用しないため、地域電話会社が虚偽の報告を行うインセンティブがなく、補助金支給当局と事業者間の情報の非対称性の問題が生じない。また、現在のファンド・システムが、実際の費用水準を基に補助金を支給しているのに対し、モデル上の費用水準で補助金を設定するため、費用を削減すれば、より多くの補助金を受領することができ、事業者に費用削減のインセンティブが付与される。
 但し、この方式の導入に当たっては、2つの点に留意する必要がある。一つは、ベンチマークをどのように設定するかの問題であり、2つ目は、どの程度の期間で算定方式の見直しを行うかの問題である。合同委員会は、19 96年11月にベンチマークとして、一回線当たりの全米平均収入を採用することを勧告した。これは、補助金額をモデル上の一回線当たり費用と現実の収入の差額、すなわち、事業者が回収不可能な部分を外部資金で補填する考え方に基づいている。もっとも、州政府からは、モデル上のコストとサービス収入が必ずしも一致しないこと、平均収入の変動に伴い、補助金算定の見直しが必要となり、規制コストを要すること等の理由から、ベンチマークとして平均的な費用を採用する意見も提出されている。FCCは、一回線当たりの全米平均収入をベンチマークとすることに大方の賛同が得られているとして、1997年5月に合同委員会の勧告に従い、これをベンチマークとして採用することを決定した。OFTELの場合は、ユニバーサル・サービスを提供しないことにより失われる収入をユニバーサル・サービスのコストから差し引くこととしているが、FCCの場合は、全米平均収入とすることで算定を簡略化していると見ることができる。なお、連邦政府が担当する補助金額は、モデル上から導出された費用とベンチマークとの差の25%であり、これは加入者回線費用の連邦の負担比率の上限に準じている。
 また、この方式は、プライスキャップ規制方式の「マイナスX」と同じ問題を内包する。すなわち、事業者が実質的に多くの補助金を受け取るため、費用を削減する行動をとるが、事業者が効率性を追求することでモデル上のコストと乖離が発生し、いずれかの時点でモデル上のコスト算定を見直すことが必要となる。しかし、短期的なモデルの見直しは、事業者の費用削減インセンティブを弱めることとなる一方、モデルとの乖離を長期的に放置することは、事業者に過剰な補助を与えることになる。この点、事業者の効率化インセンティブと利用者への利益還元のバランスの観点から、適正な見直し期間を設定することが必要となる 14)。

 (3) 個人補助システム

 上記(1)及び(2)項は、事業者 に対する補助方式である。この方式は、不採算地域でサービス提供を予定する事業者を補助することにより、不採算地域の居住者が、都市部と同等の条件でサービスを利用することを可能にする。しかし、採算地域にも、また、不採算地域にも高所得者層、低所得者層が存在することから、不採算地域にサービスを提供する事業者を補助することは、不採算地域の高所得者層をも補助し、逆進的な所得再分配をもたらす可能性がある。事業者補助によるこの公正性の問題を解決する措置として考えられるのが、補助を必要とする低所得者層に対象を限定して直接的に補助する方式である。その具体例が、米国のライフライン援助(Life Line Assistance)、リ ンクアップ援助(Link-up Assistance)であり、さらに、実現には至っていないが現行方式の代替案として取り上げられているバウチャー方式(Voucher System)である。


 米国では、ライフライン援助制度が1985年12月から導入されている。この制度は、低所得者層に対して月額の電話料金を補助することを目的とする。このライフライン援助は、プラン1とプラン2から構成される 15 )。プラン1は、低所得者層に住宅用加入者の加入者アクセスチャージである月額3.5ドルを補助するものである。半額がこの補助システムに参加する州政府が負担し、残りはFCC規則に基づき長距離通信事業者から徴収される。プラン2は、加入者アクセスチャージの2倍を上限として、低所得者層の電話料金を補助するシステムである。これも州と長距離通信事業者の収入を補助金の原資とするが、州政府の支払原資は、州の独自の判断に委ねられ、一般税収、電気通信事業者の州内通信収入等が充てられる。
 一方、ライフライン援助が、毎月の電話料金補助を通じて、電話加入の継続、利用を確保しているのに対し、リンクアップ援助は、新規加入時の架設料を上限30ドルとして補助することによる新規加入の促進を意図している。
 このような特定個人を対象とする補助システムには、以下の意義がある。第1に、誰でもが電話サービスの利用を確保する必要があるとの認識の下に、補助制度がなかったならば利用できない個人をネットワークに加入させることができる。この新規加入者の増加は、当該個人のみならず既存の加入者の通話の相手先の増加を介して、正の外部効果をもたらす。これまでの議論がネットワークの面的広がりを扱っていたのに対し、個人補助制度は、補助を必要とする低所得者層が一定の居住区域に集中している事例を除けば、ネットワークをより密なものにすることを意味している。第2に、地域電話サービスは、所得弾力性が低い必需的サービスであり、電話に加入する低所得者層に対する補助制度は、所得再分配の機能を果たす。米国の州政府の個人補助対象者の選定基準は州の判断によるが、食糧切符(food stam p)、医療扶助、身体障害者援助等、他の社会補助受給者を対象とする場合が多い。他の社会政策上の補助基準を利用していること、税収入を補助原資としていることは、州政府が、この補助制度に所得再分配機能を意図していることを示している。第3に、米国では、1984年のAT&T分割以降の内部補助システムの変更に伴い、加入者アクセスチャージが導入され、経過期間終了後では住宅用加入者に月額3.5ドルの負担が課されることとなった。個人補助制度は、この逆進性を有する制度変更の影響を緩和する意味がある。第4に、高費用地域にサービスを提供する事業者を補助することについては、前述のとおり高費用地域にも高所得者層、低費用地域にも低所得者層が存在することから、低費用地域の低所得者層が高費用地域の高所得者層を補助する事例も含まれる。この点、個人補助方式は、補助を必要とする利用者に限定して補助を実施する点で効率的であり、事業者補助により一部に生じる逆進的所得再分配を伴わない。
 一方、個人補助方式には、補助対象の個人をどのような基準で判別するか、どのような方法でコンセンサスを得て、基準を策定するのか、補助対象者に如何にしてこのシステムの利用を確保するか、その際、どの程度の規制コストがかかるのかの問題がある 16)。さらに、個人補助方式の導入に当たっては、電話加入の所得層別乖離の状況、その背景にある所得格差の程度と補助の必要性、個人補助方式の導入の効果と導入のためのコストの大小関係を検討する必要がある。米国の個人補助方式の効果については、Mak arewicz[1991]が、ユニバーサル・サービスの促進に貢献していると評価している一方、プラスに作用しているものの、その効果は小さいとするGarbacz and Thomson[1997]の計量分析の結果もある。
 なお、現時点で導入には至っていないが、個人補助制度の一つとして、バウチャー制度が提案されている。この制度は、補助を必要とする個人を特定化し、その個人に一種のクーポンを与える。クーポンを取得した個人は、自己の利用する事業者を自由に選択し、そのクーポンに相当するサービスについては無料で、選択した事業者からサービスを利用することができる。一方、事業者は補助支給当局から受領したクーポン相当分を換金する仕組みである。既存のライフライン・サービスやリンクアップ・サービスが、当該地域の独占的地域電話会社による特定個人へのサービス提供を前提にしているのに対し、バウチャー制度の特徴は、補助を受ける個人が事業者を自由に選択することができる点にある。この意味で、バウチャー制度は、競争中立的な方式であると言える。しかし、この制度は、個人が選択できる事業者が予め複数存在することを前提とし、独占市場の場合には現行の個人補助制度と大差はない。なお、FCCは、合同委員会のバウチャー方式は管理上の負担が大きいとする見解に同意を表明している。
 個人補助制度にも、月額料金請求額に対する補助、新規架設料に対する補助等、選択肢があるが、これら個人補助は社会政策上の色彩が濃く、補助金額の設定は事業者のコスト水準に直接には依存しない。むしろ、補助制度は、その国の所得水準の乖離の程度、補助対象サービスの利用度の乖離の程度、その国の社会政策等を考慮して設計され、当局の政策的判断に委ねられる部分が大きい。


 (4) 補助方式の選択

 これまでで事業者補助、個人補助方式の双方を取り扱ってきたが、ユニバーサル・サービスの範囲を拡大する際の補助制度の選択について考えてみたい。我が国の電気通信事業の歴史では、ユニバーサル・サービス・ファンドを介した事業者補助方式は採用されていない。また、身体障害者向けのサービス提供に関する補助制度を除き、所得層による個人補助方式も導入されていない 17)。すなわち、我が国における地域別費用差の問題は、日本電信電話公社の時代から、公社内の資金移転で処理され、ネットワークの拡大、高度化については、税制、金融上の措置に代表される政策支援がとられているのが現状である 18)。
 競争市場への対応と透明性確保の観点から、従来の内部補助から外部補助への移行を検討するに当たり、その候補としては、ユニバーサル・サービス・ファンドを介した事業者補助、ライフライン援助やバウチャーによる個人補助、競争入札により最も費用の低い入札者に補助金を付与する代わりに、一定の地域のサービス提供責務を課す競争入札制度が挙げられる。競争入札制度は、長期増分費用等の行動規制を介さず、効率的事業者によるユニバーサル・サービスの提供を意図するシステムである。もっとも、FCCは、競争入札制度に関して、適切な入札方法等、検討すべき余地が残されているとして、1997年5月の時点で、再度関係者の意見提出を要請し、検討を続ける姿勢を明示している 19)。さまざまな外部補助の方式のうち、どのような方式が適切であるかの問題については、本稿の範疇を超えるものであるが、ここでは、本節で述べたファンドを介した事業者補助と個人補助の選択について触れておきたい。
 外部補助のうち、事業者補助方式と個人補助方式の選択については、ネットワークの面的広がりと地域別費用差の程度によって方式の重要度が変化するものと考えられる。高度なユニバーサル・サービスが利用可能になるためには、まず、物理的ネットワークの面的広がりを必要とする。この際、需要密度、地理的特性からネットワークの構築、運用上の費用に格差が存在する場合、外部補助制度が存在しないならば、不採算地域へのサービス提供は大幅に遅延する、又は当該地域の利用を抑制する料金水準となることもあり得る。このような状況の発生を防ぐため、ネットワークの拡大期においては、サービスの全国的提供に向けて事業者補助が必要となる場合が生じる。もっとも、英国のように地域別費用差が比較的小さく、ユニバーサル・サービスのコスト算定結果から判断して、事業者を対象とする外部補助制度の設立が不要であるとの結論となることもあり得る 20)。
 一方、個人補助の対象は、ネットワークは存在するが、経済的理由からサービスの利用が困難な居住者と考えられる。その際、高度なネットワーク整備に大幅なタイムラグが存在する場合、当該個人の居住地如何により、同じ所得水準であったとしても、補助が受けられるか、否かが分かれる。換言すれば、個人補助が不公平性なく実施されるのは、高度なネットワークの面的拡大が概ね完了した時点であると言うことができる。
 但し、ネットワークの面的広がりは、必ずしも1社が行うことを意味しない。現行の技術では需要密度の高い地域のみならず、不採算地域に複数の事業者の存在を想定することは、当分の間、期待できないであろうが、CAT V事業者の電気通信サービスのように、資産の有効活用を図りつつ、地域的に高度なネットワーク整備が実現されるならば、これは、地域通信事業の競争政策にも合致することになる。高度なネットワークが拡大され、地域的な競争が成立する産業構造が実現した場合、ユニバーサル・サービスの補助制度は、事業者補助から個人補助に比重を移すことも可能になる。バウチャー制度も、このような市場構造では補助方式の選択肢となり得る。
 外部補助方式を導入する場合、その具体的方式は、ネットワークの広がりの程度、個人の利用状況の乖離の程度等で規定され、補助制度自体もこれによって長期的には変化する。但し、補助制度の枠組みは事業者の行動に影響を与えることを考慮すると、補助制度の設計に当たっては、導入する補助制度とともに将来のシステム像も併せて提示することが望ましい。



あとがき


 現在は、2つの点で、ユニバーサル・サービスの転換期を迎えている。一つ目は、ユニバーサル・サービスの範囲の拡大である。これは、電話サービスを対象とするこれまでのユニバーサル・サービスが概ね目的を達成した一方、情報通信の高度化が産業政策、国際競争力の確保に結びつくという政策当局の認識を反映している。二つ目は、競争市場におけるユニバーサル・サービスの確保と、適切な補助制度の構築の必要性が高まっていることである。1980年代、英国及び我が国では、これまでの独占事業者の民営化と競争政策の導入が行われた。この時点では、既存事業者にユニバーサル・サービスの責務を課し、また、これが、当該事業者の内部補助で措置されてきた。このような状況では、ユニバーサル・サービスのコストの問題は明示的には取り上げられてこなかった。この点、競争の進展とともに、未着手の問題が次第に浮き彫りにされてきたと言えよう。ユニバーサル・サービスの対象は、時代とともに変化し、また多分に高度な政策的判断に依存する。
 ユニバーサル・サービス実現の理念は、サービスの利用機会を含め、利用者間で同等の取り扱いを保証することにあるが、ユニバーサル・サービスを達成するための方式の設定には、資源の効率的配分と競争中立的であることも求められる。適切な政策の選択には、客観的な判断材料が不可欠である。ユニバーサル・サービスのコスト算定は、この場合の判断材料であり、この算定結果によっては、外部補助制度の必要性の有無、その規模と方式が決定される。OFTELのようにコスト算定の結果、現時点ではファンドによる外部補助制度の導入を見送る選択肢もあり得る。もっとも、 BTはOFTELの判断根拠に異議を唱えているが、関係者の利害関係と直結するだけに、算定に当たっては客観性、信頼性が求められることを改めて示している。また、FCCの代理変数モデルを利用して事業者補助の補助額を設定するように、モデル上から算定されたコスト額は、補助方式を規定するものとなる。ユニバーサル・サービスのコスト算定は、補助金を受ける側と負担する側で利害が対立する分野であり、どの水準であれば適切との判断も下し難い。長期増分費用でコストを算定することは、合理性があるが、実際にこれを算定することは容易ではない。重要なことは、長期増分費用をどのような手続きで行うのか、トップ・ダウン方式又はボトム・アップ方式等、どのような算定方式で、どのようなデータに基づき算定するかについて公開の場で議論し、決定することである。この意味で、米国の代理変数モデルは、第3者に算定方式が開示されており、注目に値する。
 我が国では、現在、ネットワークの高度化を迎え、また、NTT再編成を契機に新たな市場構造の形成過程にある点で、ユニバーサル・サービスの見直しが求められている。OFTELはコスト算定に当たって、地域別の費用情報は得られているものの、地域別通話の発着信情報がないことが、信頼性のあるコスト算定の障害となっていると主張している。我が国の場合、幸いにして全国567の単位料金区域毎の通話の交流状況に関するデータが得られている。コスト算定上、我が国で制約となるのは、地域別の詳細な費用情報である。地域通信事業が概ねNTTの独占的状況で運営されている現在、地域別の費用情報は、細分化しても全国を11に分けた地域通信事業部単位のデータに留まっている。繰り返しとなるが、ボトム・アップ方式を利用するにせよ、この方式自体が算定に当たっての透明性確保に直結するものではない。今後の市場構造に適したユニバーサル・サービスの在り方を検討する上でも、詳細な費用情報の公開は不可欠である。




(注1) 1990年代前半の米国のユニバーサル・サービスについては、Mueller, M.L.[1997]が詳しい。
(注2) 長距離通信と地域通信の費用分計の詳細は、Weinhause and Oettinger[1988]参照。
(注3) 内部補助が存在する場合、補助を行っている分野でクリーム・スキミングが生じる可能性がある。しかし、新規参入事業者がクリーム・スキミングを行った場合、必ずしも経済厚生が向上するとは限らないことを林[1992]は示している。ここでは、既存事業者がラムゼイ料金を設定している下で、新規参入が行われた3ケースを分析しているが、新規参入事業者の設定する価格水準、限界費用の大きさで経済厚生の変化は一義的には決まらないことが記されている。
(注4) 既存事業者の競争への対応としては、本稿で掲げた費用差異化のほか、利用者層をグループ分けして、それぞれに異なる料金を設定する価格差別化(price discrimination)の行動をとることが考えられる。米国の大口事務用加入者を対象とする料金割引サービスである WATS(Wide Area Telecommunications Services)等の選択的料金制度がその具体例である。FCCは、選択的通話料金サービスの申請に対し、負担テスト(burden test )を満たしている場合に、内部補助がない、すなわち、住宅用加入者に影響を及ぼさないと判断し、当該申請を受理してきた。このように利用者間の公平性の問題を内部補助の有無で判定すると考えるならば、選択的通話料金サービスの導入の判断は、内部補助テストの結果如何に依存する。本件の詳細については、浅井[1997]参照。
(注5) 但し、サンク・コストが大きい場合、参入及び退出規制がなくとも、潜在的参入事業者は、退出時を想定して新規参入を躊躇し、潜在的な競争圧力が発揮されないことも考えられる。
(注6) 具体的には、Hatfield Associates, In cが、1996年3月にMCIに提出した報告書で地域電話会社の資本の過剰性の問題を定量的に示している。また、浅井・中村 [1996] は、我が国の11のNTT地域通信事業部のうち、需要密度の低い北海道、東北において資本の過剰性を確認している。このことは、NTTが全国で均一的なネットワークを構築していたことの証左でもある。
(注7) NERAがOFTELの委託で実施した技術非効率性の計測とは、BTと米国の地域電話会社のデータで確率的生産フロンティアを推計し、生産フロンティアと観測される生産量との乖離を技術非効率と考えるものである。推計結果の概要は、OFTEL [1996] 、技術非効率性の計測については、鳥居 [1994] 、 [1995] 等がある。
(注8) 詳細については、BTが1997年4月にOFTELに提出した意見書“Universal Service in a Competitive Environment BT’s Comments on Responses to OFTEL’s Consultation”参照。


(注9) ルーラル地域電話会社の定義は、1996年電気通信法第3条47 による。
(注10) 具体的には、1994年にHatfield Associat es. Inc.が、ユニバーサル・サービスのコスト算定のための“T he Cost of Basic Universal Service ”を発表している。これを拡充、発展させたものが、1996年に発表されたHatfieldモデルである。
(注11) 本件については、1997年1月9日付けのFCC A St aff Analysis,“The Use of Computer Models for Estimating Forward-loo king Economic Costs,”パラグラフ13参照。
(注12) 例えば、BTに次ぐ英国第2位の電気通信事業者であるマーキュリーは、C&Wの子会社であるため、マーキュリー単独の財務データは開示されていない。
(注13) もっとも、不採算地域に代替的事業者の存在を期待することは、当面、現実的ではない。この場合、補助金支給を前提に競争入札制度を導入し、ユニバーサル・サービスを確保することも一つの方策として考えられる。しかし、これについても検討の余地がある。具体的には、注19に掲げた参考文献参照のこと。
(注14) OFTELのBTに対するプライスキャップ規制方式は、 1984‐1989年小売物価指数上昇率(RPI)‐3% 1989‐1991年RPI‐4.5% 1991‐1993年RPI‐6.25% 1993‐1997年RPI‐7.5% と、現実に達成されたBTの報酬率を斟酌し、比較的短期間で見直しが行われている。
(注15) 1997年5月のFCC文書によると、プラン1を導入している州は、カリフォルニア州のみであり、43州はプラン2を採用している。
(注16) OFTELは、現行のBTの低利用者向け料金割引に関する情報提供が十分ではないため、本来の受給資格者が利用していない状況を問題視している。
(注17) 例えば、身体障害者が利用する宅内機器に関する機器使用料の割引制度がある。
(注18) 具体的には、電気通信ネットワークの高度化を促進するためのディジタル設備の固定資産税の軽減措置、事業用通信システムの低金利の財政投融資制度がある。また、このような金融上の措置は、我が国だけではなく、米国の農村電化局による融資制度がこれに該当する。
(注19) 競争入札制度の評価と問題点に関しては、Williams on [1973] 、Viscusi et al [1995] 第13章参照。
(注20) 内部補助と外部補助方式の問題点及び現実への適用可能性については、中条 [1992] 及び金本 [1995] 等に整理されている。また、藤井 [1992] は、ネットワークの発展段階により内部補助方式の評価が異なってくると主張している。


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