郵政研究所月報
1997.11 

調査・研究



メディア選択と機能との関連性






情報通信システム研究室  井川 正紀
     
〔要約〕 
 近年、情報通信技術が著しく進展し、多様な情報通信サービスへの利用ニーズが高まっている。それに伴い、従来のコミュニケーションメディアでは持ち得なかった豊富な機能を有した新しいコミュニケーションメディアが次々と登場してきている。
 本調査研究は、既存のコミュニケーションメディアを使用しているユーザが新しいコミュニケーションメディアが登場した際に、どのようにメディア選択の変化を起こすかのメカニズムを把握するためのパイロット的な調査である。今回は、特に機能面に焦点をあてたコミュニケーションメディアの利用形態を考察し、コミュニケーションメディア選択の大枠的な分析を試みたものである。
 本調査研究では、特に「パーソナル・コミュニケーション」について、情報を「発信」する際に「ビジネス」と「プライベート」の目的に分け、1. 電話、2. FAX、3. 携帯電話・PHS(以下「携帯・PHS」と略記)、4. 電子メール、5. 携帯型パソコンやPersonal Digital Assistants等による電子メール(以下「PDA」と略記)、6. Desk Top Conference(以下「DTC」と略記)の6メディアについて調査を行った。また、調査対象とする選択要素は同報性、対話性、随時性、親展性、随所性、視覚性、操作性、経済性、広範性とした。
 調査は「メディア先駆者」と考えられるパソコン通信ユーザにアンケートを行い、各メディア毎の選択度を算出し、それぞれのメディア選択時の魅力、不満要素と合わせて、選択時にキーとなる要素を推測した。
 その結果、次のことが分析された。

(1) 電話
 電話はユーザから最も明確にその特性を把握されているメディアであり、普及度も高い。ユーザが電話に対して最も評価している点は対話性であるが、視覚性に不満がもたれているように、音声通信によるコミュニケーションには限界があり、その補完部分としてFAX、電子メール、PDAのテキストメディアに使用回数が流れて行く。

(2) FAX
 FAXは随時性の高いメディアとして、特にビジネスにおいて大きな影響を与えており、今回の調査では視覚性の評価が最も高いメディアであった。しかしながら、プライベートにおいて一般家庭への普及率の低さ等から、電子メールへの移行が見られる。

(3) 携帯・PHS
 携帯・PHSは今回の調査において、プライベートにおいて大きな影響を与えており、特にFAXからの選択移行が顕著であった。また、随所性に高い評価がされており、その点で電話から携帯・PHSへ選択移行が起こっていると考えられる。

(4) 電子メール
 電子メールは電話に続いて、際立った特徴を持ち、機能に対するイメージがポジティブであったメディアである。同報性、随時性が高く評価されており、同様の要素を持つFAXからの選択移行の傾向が読み取れた。

(5) PDA
 PDAはプライベートにおいて利用率が高くなっている。また、携帯・PHSもプライベートでの影響が大きいことを考えると、どちらも評価の高い随所性がプライベートには重視されていることが分かる。

(6) DTC
 DTCは、今回の調査では魅力、不満のみを分析したが、顕著な傾向が見られなかった。これは、メディア自体が未成熟であるため、ユーザ自体が明確な判断を成し得なかったためと考えられる。
 今回はメディア選択メカニズムに関する基本骨格的な要因を探るパイロット的調査であるため、「社会的距離の表現性」や「ファッション性」等まで、調査の範囲が及ばなかったが、メディアの選択を分析するにあたって必要不可欠な必要な要素であるため、今後の課題として検討したい。 


1. 調査研究の目的 

 情報通信技術の進展や通信インフラストラクチャーの整備拡張、情報通信サービスへの利用ニーズの高まりに伴い、電話、FAXといった既存のコミュニケーションメディアに加え、電子メールやテレビ会議システムといった、従来のコミュニケーションメディアでは持ち得なかった豊富な機能を有した新しいコミュニケーションメディアが次々と登場してきている。
 このような状況の中、どのようなコミュニケーションメディアが個人に選択され利用されていくのかといった、個人のコミュニケーションメディアに対する評価、およびそれに基づくメディア選択の分析を行うことが重要な課題とされ、様々なところで試みられている。
 本調査研究は、既存のコミュニケーションメディアを使用しているユーザが新しいコミュニケーションメディアが登場した際に、どのようにメディア選択の変化を起こすかのメカニズムを把握するためのパイロット的な調査である。今回は、特に機能面に焦点をあてたコミュニケーションメディアの利用形態を考察し、以てコミュニケーションメディア選択の大枠的な分析を試みたものである。

2. 基本概念の定義 

2.1 コミュニケーション

 「コミュニケーション」とは送り手から受け手へ何らかの意思表示(メッセージ)が伝えられることであるが、本調査では取り扱うコミュニケーションの領域を若干限定し、「パーソナル・コミュニケーション」、言い換えると「ある個人が特定の相手に情報を送ること」としてこの概念を扱っていく。

2.2 メディア

 通常「メディア」とは「人と人との中間に存在してコミュニケーションを可能にする媒体」を意味するが、ここでいう「コミュニケーションメディア」とは、前述の「コミュニケーション」概念定義をふまえ「個人対個人のパーソナル・コミュニケーションを可能とする、電気通信技術を利用した媒体」を指すこととする。具体的には、電話、FAX、電子メール等がこれに該当する。テレビ、ラジオ、インターネットホームページ等の「マス・コミュニケーションメディア」は調査研究対象外とする。しかし両者の中間領域にある、一斉同報通信、グループウエア、フォーラム、テレビ会議等の「グループ・コミュニケーション(個人対複数、及び、複数対個人を含む、複数対複数)メディア」については、そのうち「相手を認知して行っているコミュニケーション」に該当するメディアのみ調査研究対象に加える。
 なおコミュニケーションには「発信」機能と「受信」機能があり、情報流通量が大きい高度情報社会においては人間は受信者の立場に立たされることが多いが、上記の「コミュニケーションメディア」概念定義により、個人対個人のコミュニケーションを目的としたメディア選択行動として、「情報を発信する」必要のある機会のみをこのたびの調査研究対象として考え、「情報を受信する」機会については対象外とする。
 また、個人のコミュニケーションメディア選択行動を想定・整理しやすくするためコミュニケーションの目的を「ビジネス」、「プライベート」と2種類設定し、調査研究を進める。「ビジネス」、「プライベート」はメディア端末の仕様ではなく、あくまでコミュニケーションの目的である点に注意を要する。


3. 調査研究における基本的考え方 

3.1 コミュニケーションメディアの選定

 コミュニケーションサービスの媒体となるコミュニケーションメディアの選定を行った。その際、有識者インタビューを行い、そこで得られた意見などを参考にしつつ、
 (1) 現時点で比較的普及したメディアであること、
 (2) 電気通信メディアであること、を選定の基準とした。
 また本調査研究では将来の選択の推移についても機能に着目した検討を行うため、現時点で市場的・技術的に未成熟であっても、
 (3) 既存の成熟メディアに対して機能的な面で新機軸が見込まれ、
 (4) 今後の普及が期待されるメディア、については選択の対象とした。
 その結果、電話、FAX、携帯・PHS、電子メール、携帯型パソコンやPDA等による電子メール、DTCの6メディアを調査対象として選定した。
 なおページャーは普及はしているが、本調査研究では機能比較の機会を「発信」のみとしており、「発信」の観点からは「受信」専用メディアであるページャーは電話の補完機能に位置付けられると判断し、今回の調査対象から外した。
 また携帯電話とPHSについては、使用者側から見ればPHSは携帯電話の廉価版であるともいえ、優位性の差異としては料金と移動中の性能が主であり端末の機能面においてほとんど差異がないと判断し、まとめて取り扱うこととした。

3.2 各メディアの定義

 本調査研究における各コミュニケーション・メディアの定義は以下のとおりとする。

(1) 電話 
 固定型の音声通信メディア

(2) FAX  
 固定型の画像通信メディア

(3) 携帯・PHS  
 移動中及び移動先での音声通信メディア

(4) 電子メール 
 卓上型パソコンやワークステーションを端末とした、テキストを主体とした文書情報通信メディア。パソコン通信での利用以外に社内LAN、インターネットでの電子メールを含む。

(5) 携帯型パソコンやPDA等による電子メール
 (以下まとめて「PDA」と表記する。) 
 携帯型パソコンやPDA(Personal Digital Assistants:通信型情報端末)による、テキストを主体とした、移動通信網を経由する文書情報通信メディア。パソコン通信での利用以外に社内LAN、インターネットでの電子メールを含む。PDAは通信型携帯情報端末を使う電子メールメディアとして考える。

(6) DTC(Desk Top Conference) 
 卓上パソコンによるテレビ会議メディア
 注:上記各コミュニケーションメディアにおいては、留守番機能、通話割り込み機能、通話転送機能、同報機能、親展機能等の端末及びネットワーク上の付加機能を含む。


3.3 調査対象とするメディア選択要素

 コミュニケーションメディアの特性に関する文献資料および有識者の意見などを参考に、今回調査研究の対象とするコミュニケーションメディアの選択の起因となる要素(以下これを「メディアの選択要素」と表記する。)について、本来そのメディアが持っている「メディアの機能」と、メディア自体の機能以外で影響がある「それ以外の要素」という分類により、以下のように整理した。本来であれば社会的距離の表現性(相手が目上なのでメールでは失礼等)・ファッション性(持っていると格好良い等)も含めるべきであるが、今回はメディアの機能を中心に調査を行うこととするため、今回の研究対象から外すこととした。
 従って、本調査の対象として設定するメディア選択要素は以下の9項目となる。

(1) メディアの機能
 (本来、そのメディアが持っているもの)
@ 一度に複数の人に情報を伝達できる (同報性)
A 相手と情報を直接やりとりできる (対話性)
B 相手側に記録として残るので相手の都合に左右されずに発信できる(随時性)
C 秘密を保てる(親展性)
D どこでも使用できる(随所性)
E 画像を送れる(視覚性)

(2) それ以外の要素
 (メディアの持つ機能以外で影響があると考えられるもの)
@ 操作が難しくない(操作性)
A 安く使える(初期コスト、ランニングコストは問わない)(経済性)
B みんなが持っているので使える範囲が広く便利である(広範性)
 なお、これらのメディアの機能については調査時点現在の技術を考察対象とする。

3.4 調査対象者の選定

 調査研究に必要である、個人のコミュニケーションメディアの利用頻度、コミュニケーションメディア利用時のメディア機能評価、及び将来のメディア利用意向等に関する基礎データを収集するため、アンケート調査を行うこととした。アンケートの対象者の選定の際には、コミュニケーションメディア全般に関する知識と関心が高く、本調査研究対象として選定したコミュニケーションメディアについても一通りの知識を有する集団、また将来のコミュニケーションメディア利用状況を推測するために手がかりとなるメディアの使い方をしている集団、であることを考慮した。その結果、「成熟しているメディア」の中で最も新しいメディアである「電子メール」を使いこなしている集団である商用パソコン通信ネットワークの会員が適当であるとの結論に達した。アンケートを行う具体的な方法としては、国内で代表的な商用パソコン通信ネットワークである「NIFTY-Serve」によるオンラインアンケートシステムを採用した。



4. アンケートの概要 

4.1 アンケート実施概要

 利用者のコミュニケーションメディアの使用頻度、目的別(ビジネス・プライベート)のメディア利用時の機能評価等を得るため、個人を対象にアンケート調査を実施した。

(1) 調査手法 : 商用パソコン通信ネットワーク「NIFTY-Serve」によるオンラインアンケートシステムを利用したアンケート調査
(2) 実施期間 : 平成9年1月17日(金)〜23日(木)
(3) 対象    :  NIFTY-Serve会員
(4) 回答件数 : 2,867件
(5) 調査項目 : 以下のとおり。
 ・コミュニケーションメディアの使用履歴、目的(ビジネス・プライベート)ごとの発信回数
 ・電子メールを通信相手が持っていないと仮定した場合の、上記使用頻度の変化
 ・目的ごとのコミュニケーションメディアの魅力機能、不満機能
 ・現在のメディア保有状況
 ・各メディアがすべて利用可能であるとの仮定に基づく、将来のコミュニケーションメディアの使用意向
 ・属性(年齢、性別、職業、居住地)


図表4-1 アンケート回答者の年齢構成


図表4-2 アンケート回答者の性別



図表4-3 アンケート回答者の居住地


図表4-4 アンケート回答者の職業


4.2 アンケート回答者属性

 年齢構成の割合は25〜34代が54.8%(図表4‐1)(NIFTY-Serve全体52.2%)。また、性別では男性が77%(図表4‐2)(NIFTY-Serve全体85%)。
 居住地域は、関東地方が53.0%(図表4‐3)(NIFTY-Serve全体55.1%)。職業別に関しては、サービス関係就業者、情報サービス関係就業者、製造業就業者で過半数を占める(図表4‐4)(NIFTY-Serve同傾向)。これらの回答者属性は、NIFTY-Serve会員全体の属性と比較すると、若干差はあるもののほぼ同じ傾向を示す。ゆえに、このたびのアンケート調査回答者は概ねNIFTY-Serve会員を代表していると考えられる。(NIFTY-Serve数字は1996年下半期「ニフティーサーブの歩み」より。)


4.3 アンケート回答者のメディアの使用経験

 アンケート回答者のコミュニケーションメディアの使用経験を見ると、「以前使用していた」「普段使用している」人を合わせた割合が、FAXは94.2%、携帯・PHSが59.4%、PDAが43.9%、DTCが6.9%であった。世の中の一般的な各メディアの普及状況(図表4‐6)と比べると、定義が異なるPDA、DTCは別としてもおしなべて高い数値となっている。
 このことからアンケート回答者の各メディアに対する認知度は一般より高いということができる。


図表4-5 回答者のメディア使用経験


図表4-6 一般の各メディア普及状況
電話 48.4%(H7年度末NTT人口100人当たり普及率)(※1)
電子メール 43.5%(H7末企業利用率・調査企業数=1,991社)(※2)
FAX 16.1%(H7末保有率)(※3)
携帯・PHS 10.5%(H8.4末全国普及率)(※4)
PDA 58.9%(H7末電子メール利用企業のH7末「移動体通信手段として外出先から」電子メールの利用率。調査企業数=866社)(※2)
DTC 19.6%(H7企業TV会議システム導入済もしくは構築中比率、調査企業数=215社)(※5)

出典:情報通信ハンドブック’97年版(※1)、企業における電子メールの動向調査(※2)、情報メディア白書1997年版(※3)、移動通信事業の発展動向(※4)、’96オフィスオートメーション実態調査報告書〈概要編〉(※5)



4.4 アンケート回答者のメディアの普及度

 アンケート回答者の各メディアの所有については、「現在個人で所有(加入)しているメディア」という設問文の設定により、会社などで受動的にあてがわれている部分を排除し、個人レベルでの自発的なメディアの所有を聞いた(図表4‐7)。
 その結果、電話が約9割、FAX、携帯・PHSが約5割、PDAが約3割、DTCが約1割という所有率であった。これをアンケート回答者のメディアの普及率とし、世の中の一般の普及率(図表4‐6)と比較してみると、定義が異なるPDAは別としても、やはりおしなべてアンケート回答者の方が比率が高いことがわかる。
 また、将来所有したいメディアも同様に質問した(図表4‐8)。その結果、PDAが最も多く、ついで携帯・PHSであった。


図表4-7 現在所有メディア(複数回答)


図表4-8 将来所有希望メディア(複数回答)



5. メディア選択要素の検討 

5.1 アンケート回答者のメディア選択要素に対する評価の分析

 メディア選択要素に関するアンケートは、各メディアごとに、ビジネス使用とプライベート使用の場合に分けて、同報性、対話性、随時性、親展性、随所性、視覚性、操作性、経済性、広範性、その他の10要素について、魅力あるいは不満を感じるか否かを複数投票で回答してもらった。
 個々のメディアに関する回答結果とその分析を以下に示す。

(1) 電話
 電話は魅力・不満の総回答数が最も多かったメディアである。電話における最大の魅力は対話性に関するものであり、広範性がそれに次いでいる。
 逆に最大の不満は同報性に対するものであった。同報性の不満は、ビジネスにおいて顕著である。ビジネスではより同報性が必要となるコミュニケーションを行う必要が多いため、電話では不満と判断されたと考えられる。
 また、随時性はビジネスで不満が多い。これは相手の不在により、要件が伝えられないことが多いためと考えられる。


図表5-1 メディア魅力・不満
総合評価/電話



(2) FAX
 FAXにおける最大の魅力は随時性に対するものであり、受け手の都合の悪い時にでも送信できる蓄積型のメディアが要求されていることが分かる。
 プライベートの場合において、広範性に対する評価がビジネスの場合とは異なり、最大の不満要因になっている点が特徴である。これは、FAXの一般世帯普及率が9.6%(電通総研「情報メディア白書’96」)ということから、プライベートに使用すべき相手に十分普及し得ていないことを示唆している。


図表5-2 メディア魅力・不満
総合評価/FAX



(3) 携帯・PHS
 携帯・PHSにおける最大の魅力は対話性であった。携帯・PHSの特徴であるはずの随所性の魅力が、対話性よりも若干劣っているという特徴が見られるのは、ユーザーが求めている普及率には実際の普及率が到達しておらず、双方が移動しながらのコミュニケーションが完全でないため、大きな魅力の評価に繋がらなかったと考えられる。
 また、経済性の不満についてはプライベートの場合の方が、より敏感であることが読み取れる。不満が経済性に集中していることと、通話料金値下げが今後も行われるであろうことを勘案すれば、携帯・PHSの普及の勢いは当分続くものと思われる。


図表5-3 メディア魅力・不満
総合評価/携帯・PHS



(4) 電子メール
 電子メールは電話に次いで、魅力・不満の総回答数が多かったメディアである。電子メールにおける最大の魅力は同報性に対するものであり、よりビジネスの場合の評価が高かった。ビジネスにおいては、同報性が必要となるコミュニケーションが多いためと考えられる。また、相手の在席、不在に関係せず要件が伝えられる随時性も高い評価を得ている。
 注目すべきは、不満の最大要因が広範性にある点である。プライベートよりも電子メールの導入が進んでいると考えられるビジネスにおいても、日本企業における電子メールの導入状況は43.5%(株式会社情報通信総合研究所編「情報通信ハンドブック’97年版」)であり、誰にでも電子メールを送信できるという状態ではない。しかし、急速なマルチメディア化の進展に伴って電子メールの普及が今の勢いで伸びて行けば広範性への不満はかなり速やかに解消されると考えられる。また、随所性に関してはPDAの普及で基本的には解消されるものと思われる。従って、PDAを含む電子メールは、将来においてかなり普及すると考えられる。


図表5-4 メディア魅力・不満
総合評価/電子メール



(5) PDA
 PDAは50%を超える著しい魅力の評価を受けている要素は見当たらない。これは、PDA自体の登場が比較的新しく、他のメディアと比較してユーザに特徴を認識されていないため、顕著な魅力、不満が現れなかったと考えられる。


図表5-5 メディア魅力・不満
総合評価/PDA



(6) DTC
 DTCにおいても、50%を超える著しい評価を受けている要素は見当たらない。これは、PDAと同様の理由であると考えられる。


図表5-6 メディア魅力・不満
総合評価/DTC



5.2 選択要素ごとの各メディアにおける魅力と不満

(1) 同報性に関する魅力と不満
 同報性に関して最大の魅力の評価を得ているのは電子メールであった。次いで、DTCとPDAが高い評価を受けている。反対に、最大の不満の評価を得ているのが電話である。他メディアと比較して容易に同報できるという、操作性の良さも含めた同報機能が、電子メール等の高い評価の原因と考えられる。意外なのは、FAXが同報性への魅力の評価をほとんど受けていないという事実である。これは、FAXの同報時の操作性の悪さも含めた不満が、同報性自体の魅力に優らなかったためと考えられる。また、同報性の必要となるコミュニケーションは同じ非同期のテキスト型メディアである電子メールで行っているため、FAXの同報性に魅力を感じていないとも考えることができる。


図表5-7 同報性に関する魅力・不満




(2) 対話性に関する魅力と不満
 対話性に関して、大きい魅力の評価を得ているのはやはり電話と携帯・PHSである。DTCがそれに次いでいる。反面、この対話性についてはあまり大きな不満の評価を受けているメディアはない。DTCは、普及度は低いが、対話性の良さを強調することにより、更に普及率が向上することが考えられる。


図表5-8 対話性に関する魅力・不満


(3) 随時性に関する魅力と不満
 随時性に関して、大きい評価を得ているのは蓄積型のメディアであり、電子メールとFAX、PDAがそれに該当する。反面、この随時性については電話とDTCに若干の不満があるものの、全般的にあまり大きな不満の評価を受けているメディアはない。


図表5-9 随時性に関する魅力・不満



(4) 親展性に関する魅力と不満
 親展性に関して、大きな魅力の評価を得ているメディアは見当たらない。不満の評価がはっきりしているのはFAXである。これは、FAXは蓄積して受信され、放置されたり人手を介して本人に届く場合が多く、人目に触れる可能性が高いためである。特にビジネスで不満が大きく、プライベートでは個人、若しくは家族の限られた人しか見ないので、不満が比較的低くなっていると考えられる。
 大きな魅力の評価がない理由は、親展性に関してユーザーの需要は大きいのだが、それに見合う魅力をもつメディアが存在しない、若しくはアピールできていないということ。また、親展性が必要なコミュニケーションは、郵便やFace To Faceで行っているということが考えられる。


図表5-10 親展性に関する魅力・不満



(5) 随所性に関する魅力と不満
 随所性に関して、大きな魅力の評価を得ているのは携帯・PHS、次いでPDAである。他のメディアは押しなべて不満の評価を受けている。モバイル型のメディアが正当に評価されていると読み取れる。


図表5-11 随所性に関する魅力・不満



(6) 視覚性に関する魅力と不満
 視覚性に関して、FAXが最も高い魅力の評価を得ているが、それでも50%には達していない。音声メディアである電話や携帯PHSは当然不満の評価を受けている。
 現在のメディアにおいて、視覚性に関する機能にはまだ多くの課題が残っており、ユーザに大きな魅力を感じてもらうには至っていないと考えられる。また、ユーザ自体もテキスト型のコミュニケーションである程度満足しているため、大きな不満には至っていないと考えることができる。


図表5-12 視覚性に関する魅力・不満



(7) 操作性に関する魅力と不満
 操作性に関して、電話とFAXはさすがに魅力の評価を得ているが、いずれもさほど高率ではない。反面、他のメディアもそれほど不満があるようでもない。
 操作性について、他の機能ほどユーザの関心が高くないことが考えられる。


図表5-13 操作性に関する魅力・不満



(8) 経済性に関する魅力と不満
 経済性に関して、魅力の評価を得ているのは電話のみであるが、さほどの高率ではない。逆に、大きな不満の評価を受けているのが携帯・PHSである。携帯PHSは電話との比較で、割高感があるからではないかと考えられる。また、FAXや電子メールは特にビジネスの使用ではコストの感覚が薄いため、評価が少ないと考えられる。
 携帯・PHS、PDAといったモバイル型メディアは、料金の値下げがこのまま続けば、不満の多くは解消されると考えられる。


図表5-14 経済性に関する魅力・不満



(9) 広範性に関する魅力と不満
 広範性に関して、電話は高い魅力の評価を得ており、後は軒並み不満の評価を受けている。
 電話は成熟したメディアであり、一般への普及率も高いため魅力を感じていることが分かる。また、プライベートでのFAXの不満が著しいことは前述のとおりである。


図表5-15 広範性に関する魅力・不満



6. メディア選択度の分析 

6.1 選択度算出の考え方

 本来、NIFTY-Serve会員へのアンケート調査結果から一般生活者全体像を示すには、年齢、性別、職業、地域、その他NIFTY-Serve会員の属性と一般生活者の属性間の差異を鑑み、補正を行う必要があるが、本調査では、調査結果から求めたある条件下での選択度、あるいは部分的な選択度から大まかな特徴の類推を試みる。
 具体的には、「NIFTY-Serve」会員集団は、「100%電子メール利用環境下」にあり、この集団の姿を、「電子メールが100%利用可能となった世界における、一般的なコミュニケーションメディア利用ユーザーの姿」であると想定し、まず電子メール以外の4つのメディア(電話、FAX、携帯・PHS、PDA)間の選択の推移を分析する。次に電子メール及びPDAがない状態つまり、コミュニケーションメディアが電話、FAX、携帯・PHSの3つである世界を想定し、そこに電子メール及びPDAが登場することによって選択はどのように起こるかについて分析を行う。以上2つのアプローチによって得られた結果から全体像の特徴の類推を試みる。なお、DTCは使用経験のあるユーザが僅かであったため、選択度算出からは除いた。

6.2 電子メールを除く4メディアの選択度

 まず、メディアの利用パターンに着目し、NIFTY-Serve会員全員が利用環境にある電子メールを除く電話、FAX、携帯・PHS、PDAの間での選択をみてみる。
 算出方法は、まず、アンケートの回答者を、使用するメディアの登場順(電話→FAX→携帯・PHS→PDAに従って4つのパターンに分類する(図表6‐1)。
 ここで「使用するメディア」とは、アンケートの質問で「いつも使用している」または「過去に使用したことがある」と答えたメディアのことである。T〜Wそれぞれのパターンにおける電子メールを除いた各メディアの発信回数比率を比較し、新しいメディアが一つ増えるごとに起こる変化を「メディアの選択」と捉え、選択度を算出する。
 さらに、今回はモデルを単純化するために、一度高次のパターンを選択すれば、以後再び低次のパターンに逆戻りしないと仮定した。
 はじめに、これらパターンT〜Wにおける1人あたりのメディア別平均発信回数を求める(図表6‐2〜6‐4)。ここではビジネス、プライベートのいずれにおいてもメディアの種類が増えるほど総発信回数が増えていることがわかる。これにより、メディア利用パターンが多くなる人程、コミュニケーションに幅が出て、発信回数が増加すると考えることが出来る。
 次に、メディア別平均発信回数から電子メールを除いたものを比率に換算する。(図表6‐5〜6‐7)これは電話からの選択の推移を示していると考えられる。同様に、FAX部分を抽出。次にそこから携帯・PHSを抽出することによりFAX、携帯・PHSからの選択の推移を分析する。


図表6-1 メディア使用パターン分類表

電子メール 電話 FAX 携帯・PHS PDA
パターンT
×
×
×
パターンU
×
×
パターンV
×
パターンW

○:使用している。
―:使用、未使用は問わない。
×:使用していない


図表6-2 パターン別平均発信回数(BP合計*)


図表6-3 パターン別平均発信回数(ビジネス)


図表6-4 パターン別平均発信回数(プライベート)



(1) 電話からの選択度
 コミュニケーション手段が電話のみの状態にFAXが加わると、ビジネスでは22.4%、プライベートでは9.9%がFAXを選択する。FAXの登場は、ビジネスシーンに与える影響がより大きいことが分かる。FAXの随時性の評価が高いことから、ビジネスにおけるコミュニケーションには、その場でのやり取りを必要としない(非同期的な)連絡ニーズがあり、そのためFAXの影響が大きいのではないか、と推測される。また、ビジネス利用が、コミュニケーション内容を証拠として残しておくことが多く求められるものと考えられる。
 次に携帯・PHSが加わると、ビジネスでは13.2%、プライベートでは43.9%が携帯・PHSを選択する。携帯・PHSの登場は、圧倒的にプライベート利用に与える影響の方が3倍強大きい。
 さらにPDAが加わるとビジネスでは12.2%、プライベートでは25.8%がPDAを選択する。PDAの登場は、プライベート利用に与える影響の方が大きい。以上により、随所性に高い評価のある携帯・PHSやPDAのいわゆるモバイル系は、プライベートに対する影響が大きいと推測される。
 ビジネスでは電話のみの状態にFAX、携帯・PHS、PDAが登場しても63.6%が依然電話であるのに対し、プライベートでは44.4%と低い。つまり55.6%は他のメディアを選択することになる。これは、ビジネスではデスクワークや会議等、固定した環境でコミュニケーションを行うニーズが多く、固定型の電話から他への選択度が低くなっているからではないかと考えられる。
 電話からの選択度を以下の図に示す。


図表6-5 電話からの選択度(BP合計)



図表6-6 電話からの選択度(ビジネス)


図表6-7 電話からの選択度(プライベート)



(2) FAXからの選択度

 コミュニケーション手段がFAXのみの状態に携帯・PHSが加わると、ビジネスでは15.8%、プライベートでは53.8%が携帯・PHSを選択する。携帯・PHSの登場は、プライベート利用に与える影響の方が圧倒的に大きいと言える。
 PDAが加わると、ビジネスでは20.4%、プライベートでは20.5%がPDAを選択する。PDAの登場が与える影響は、ビジネス利用とプライベート利用の間ではほとんど差がない。
 以上より、ビジネスではFAXのみの状態に携帯・PHS、PDAが登場しても69.1%が依然FAXであるのに対し、プライベートでは48.7%と低い。51.3%は他のメディアを選択することになる。前述したが、ビジネスでは非同期的なコミュニケーションが行われることがプライベートに比較して多く、随時性の評価が高いFAXから他への選択度が低いと考えられる。

(3) 携帯・PHSからの選択度
 携帯・PHSにPDAが加わると、ビジネスでは33.8%、プライベートは42.9%がPDAを選択する。ここでも、プライベートの方がメディアの選択において影響を受けやすい傾向がうかがえる。


6.3 電話、FAX、携帯・PHSから電子メール及びPDAへの選択度

(1) 選択度算出方法

 今回の調査研究では、NIFTY-Serve会員は100%電子メール利用環境下と考え、電子メールが100%普及した状況を投影していると考える。しかし、NIFTY-Serve会員の電子メールの利用環境と、電子メールが100%普及した環境とには、差異がある。それは、NIFTY-Serve会員の電子メールの利用環境には受信側に電子メールがあるとは限らないという点である。
 そこで、アンケートに「受信側にも電子メールがあるとした場合、各メディアの発信回数はどう変化したか」という質問を設け、相手に電子メールがないためにやむをえず他のメディアを使用した回数を把握した。その回数を補正値とし、補正値を使って電子メールが100%普及した環境への補正を行う。
 さらに、PDAとは移動体通信網を経由する電子メールである(詳細は第2章参照)という定義から、電子メールの登場前には今回定義のPDAは存在しないこととなる。そこでここではPDAと電子メールをひとまとめとして捉え、電子メール・PDA登場前後の分析を行う。
 電子メール・PDA登場前の発信には、他の3つのメディアのいずれかが代用されると仮定し、補正前の電子メール及びPDAの発信回数を他の3つのメディアに按分する。その際の按分比率は各メディアの補正値の比率を使う。以上の手順により電話、FAX、携帯・PHSの3つのメディアのみが使用されている環境つまり「電子メール及びPDA登場前の環境」を想定した。
 さらに、「電子メール及びPDA登場前の環境」に、新たに電子メール及びPDAが登場した場合に起こる選択度を算出する。
 まとめると、
@ 電子メールが100%普及した環境のモデルを想定するため、アンケート結果「1週間の各メディアの発信回数」に対して、「受信側にも電子メールがあるとした場合、各メディアの発信回数はどう変化したか」の数値を補正する。
A 「電子メール及びPDA登場前の環境」を想定するため、@の数値について「電子メール及びPDA登場後」の電子メール・PDAの発信回数を電話、FAX、携帯・PHSに按分し、「電子メール及びPDA登場前の環境における電話、FAX、携帯・PHSそれぞれの発信回数を推計する。
B Aの回数を百分比にし、@で得られた数値(百分比)と比較して、電子メール及びPDAが登場した場合に起こる選択度を算出する。


(2) 選択度算出と分析

 まず、アンケート結果をもとに補正前と補正後の発信回数を求める。
 補正前の電子メール・PDAの発信回数合計を各メディアの補正値の割合に応じて当該メディアに按分する。
 つまりBP合計の場合、按分の割合は電話:FAX:携帯・PHS=3.8:1.9:1.5。電子メール・PDAの発信回数28.5回を上記の比率で電子メール・PDAの登場前に按分する。
 これを比率に換算したものが図表6‐9である。
 電話、FAX、携帯・PHSから電子メール・PDAへの選択度合計は、ビジネスの36.9%に対し、プライベートでは51.3%と高い。ここでもビジネス利用よりプライベート利用の方がメディアの選択において影響を受けやすいことが伺える。
 選択度の内訳をみると、ビジネス利用では、携帯・PHSから電子メール・PDAへの選択度が53.5%と高い。次いでFAXからの50.6%、電話からの29.0%の順となっている。一方プライベート利用では、FAXからの選択度が75.2%と目だって高い。次いで携帯・PHSからの48.8%、電話からの48.7%の順となっている。ビジネス、プライベート合計でみると、FAXからの選択度が56.9%と最も高く、次いで携帯・PHSからの49.4%、電話からの35.3%の順となっている。FAXから、電子メール・PDAへの選択度が高いことから、非同期的なコミュニケーションがFAXから電子メール・PDAへと、随時性の高いメディア間で選択したのではないかと推測できる。


図表6-8 補正値一覧表

電話 FAX 携帯・PHS 電子メール・PDA
BP 合 計 −3.8 −1.9 −1.5 +7.1
ビジネス −2.4 −1.5 −0.8 +4.7
プライベート −1.3 −0.4 −0.7 +2.4


図表6-9 電子メール・PDA登場前後の代替度(BP合計)


図表6-10 電子メール・PDA登場による代替度(ビジネス)


図表6-11 電子メール・PDA登場による代替度(プライベート)



6.4 メディア別選択の特徴

 メディア選択度算出の結果より、幾つか特徴的な選択の傾向が見られた。

(1) 電話
 電話からの選択パターンTからパターンWにおいて、ビジネスの方が電話利用率が高い(ビジネス63.6%、プライベート44.4%)。また、電子メール・PDA登場後の電話使用率もビジネスの方が高い(ビジネス46.2%、プライベート30.6%)。この結果より、電話はビジネスにおいて、他メディアへの移行が少ない、という傾向を読み取ることが出来る。

(2) FAX
 電話からの選択パターンTからパターンUにおいて、FAXはビジネスではプライベートの倍以上(ビジネス22.4%、プライベート9.9%)の選択度が見られた。また、電話からの選択パターンTからパターンWにおいて最終的にFAXが使用されている割合はビジネス69.1%、プライベート48.7%。FAXからの選択パターンUからパターンWにおいて、ビジネス69.1%、プライベート48.7%がFAXを利用している。この結果より、FAXはビジネスにおけるメディアの選択に与える影響が大きい。という傾向を読み取ることができる。

(3) 携帯・PHS
 電話からの選択パターンUからパターンVにおいて、プライベートではビジネスの3倍以上(ビジネス13.2%、プライベート43.9%)の利用率が見られた。また、FAXからの選択パターンUからパターンVにおいてはビジネス15.8%、プライベート53.8%が、携帯・PHSを選択している。以上のことから、携帯・PHSはプライベートにおけるメディアの選択に与える影響が大きい、という傾向を読み取ることができる。

(4) PDA
 電話からの選択パターンVからパターンWにおいて、プライベートではビジネスの倍以上(ビジネス12.2%、プライベート25.8%)の利用率が見られた。また、携帯・PHSからの選択パターンVからパターンWにおいては、ビジネス33.8%、プライベート42.9%がPDAを利用している。この結果より、PDAはプライベートにおけるメディアの選択に与える影響が大きい、という傾向を読み取ることができる。

(5) 電子メール・PDA
 電子メール・PDAへの各メディアからの選択度は、電話35.3%、FAX56.9%、携帯・PHS49.4%であり、電子メール・PDAに対して、FAXからの選択度が最も大きい、という傾向を読み取ることが出来る。


7. まとめと今後の課題 

 前章までの調査分析により、各メディアは、コミュニケーションが行われる際に重視される機能等の要素に応じて選択され、各コミュニケーションは、利用者のニーズに応える機能等の要素を備えた新しいメディアが登場することによって、必要に応じて旧メディアと新しいメディアとの使い分けを行うことが分かった。
 以下に、本調査研究で分かったことのまとめ及び今回の調査研究の反省等を行う。

7.1 コミュニケーション目的別メディア選択のまとめ

(1) ビジネス
 ビジネスにおいては電話とFAXが重要なコミュニケーションメディアであることが読み取れる。これは、「会議、調整等の双方向的に即時的にコミュニケーションを行う必要がある場合、メディアとしては電話を最も評価し、使用する。また情報共有、連絡等の蓄積型の非同期コミュニケーションを行う必然性がある場合、FAXが高い評価を得て使用する。」といったように、それぞれのメディアが使い分けされているからと考えられる。
 さらに、FAXにおいては、電子メールやPDAといった、同じ蓄積型の非同期メディアへの選択移行の傾向が見られる。電話は他のメディアへの移行の傾向が少ない。

(2) プライベート
 プライベートにおいてはモバイル型のメディアの選択度が高い傾向がある。これは、ビジネスがデスクワークや会議等で、固定型のメディアの利用がやはり中心となることに比べて、プライベートでは携帯電話・PHSに代表される、移動しながら簡単にコミュニケーションが行えるメディアが利用されているためと考えられる。
 また、その結果としてビジネスよりもプライベートの方がメディアの選択移行が起こり易いという傾向が見られる。


7.2 メディア別メディア選択のまとめ

(1) 電話
 電話はユーザから最も明確にその特性を把握されているメディアであり、普及度も高い。ユーザが電話に対して最も評価している点は対話性であり、自己思考プロセスと発言がリアルタイムに双方向に伝えられ、相手と同時並行して問答できることである。従って、このような音声通信によるコミュニケーションが残っていくとすれば、電話(携帯・PHSを含む)は将来的にも使用されると考えられる。特に、要件を緊急に決定したい様なコミュニケーションを行う場合は、電話は不可欠である。
 しかしながら、視覚性に不満が持たれているように、音声通信によるコミュニケーションには限界があり、その補完部分としてFAX、電子メール、PDAのテキストメディアに使用回数が移行するのではないか、と考えられる。ビジネスにおいて、特に重視されている同報性の機能も併せ持ったFAX、電子メール、PDAへの移行の傾向は顕著である。即時性を要求せず、記録することが必要であり、同報で複数の人と連絡するコミュニケーションが行われる際の、電話から非同期型、蓄積型のコミュニケーションメディアへの移行が起こる可能性は高い。
 また電話は、固定的な環境で使用されているため随所性では不満を持たれており、その部分のコミュニケーションは、携帯・PHSで行われていくと考えられる。

(2) FAX
 FAXは蓄積型、非同期型メディアとして、特にビジネスにおいて大きな影響を与えており、今回の調査では視覚性の評価が最も高いメディアであった。しかしながら、プライベートにおいて一般家庭への普及率の低さや、同報時の操作性の悪さ等から、それを補完する電子メールへの選択移行が見られる。また最近のビジネスでは、手書きよりワードプロセッサによる文書作成が中心になっており、その部分も電子メールへの選択移行の要因となっていると考えられる。
 以上より、FAXユーザはかなりの割合で電子メール、PDAへ移行し、特にプライベートにおいてFAXの普及率の伸びに限界が来るのではないかと考えられる。


(3) 携帯・PHS
 携帯・PHSは今回の調査において、プライベート目的における選択に大きな影響を与えており、特にFAXからの移行が顕著であった。これは、対話性に高い評価が見られるように、リアルタイムに意思疎通が必要なコミュニケーションが行い易いという特徴が評価されているからである。
 また、携帯・PHSと同様に対話性が優れていると評価された電話の不満点であった、随所性に高い評価がされており、何処でもリアルタイムに話しがしたいというコミュニケーションは、電話から携帯・PHSへ移行していると考えられる。また、最近ではプライベートにおいて電話を自宅に設置せず、すべて携帯・PHSで済ませるユーザも増加している。しかしながら、電話と比較して経済性に問題があり、電話と同等の料金体系にならない限り全てのユーザが携帯・PHSを使用する訳ではなく、両者の棲み分けが進むものと考えられる。

(4) 電子メール
 電子メールは電話に続いて、際立った特徴を持ち、機能に対するイメージがポジティブであったメディアである。同報性、随時性が高く評価されており、発信、受信タイミングを問わないコミュニケーションに使用されていることが分かる。
 また、今回の調査の結果、同様の要素を持つFAXからの選択の移行傾向が読み取れた。特にビジネスの場合において、同報性が必要となるコミュニケーションは電子メールで行われていくと考えられる。不満の評価のあった広範性についても、パソコンの普及や企業のイントラネット・グループウェア導入と併せて解消されていくのではないかと考えられる。
 電子メールは今後、電話と並んで主要なメディアに成長することが予測される。

(5) PDA
 PDAはプライベートにおいて利用率が高くなっている。また、携帯・PHSもプライベートでの影響が大きいことを考えると、どちらも評価の高い随所性がプライベートには重視されていることが分かる。このため、プライベートでの全般的な選択率が、ビジネスよりも高い原因となっている。
 さらに、PDAはFAXからの移行が大きく見られ、電子メール同様に非同期の蓄積型メディアとしてビジネスでも使用されて行くと考えられる。

(6) DTC
 DTCは、今回の調査では魅力、不満のみを分析したが、顕著な傾向が見られなかった。これは、メディア自体が未成熟であり、技術的にも価格的にも問題があるため、ユーザ自体が明確な判断をなし得なかったためと考えられる。しかしながら、魅力及び不満の回答数自体は携帯・PHS、PDAよりも多く、ユーザが興味を持っているメディアであることが明らかである。
 今後コミュニケーションの方法として、リアルタイム・双方向で、音声、テキスト系だけでなく、DTCのような画像・映像系のニーズも増加していくと考えると、技術進歩と共に注目されていくと考えられる。


7.3 今回の研究の問題点、今後の課題

 今回の調査研究は、メディア選択メカニズムに関する基本骨格的な要因を探るパイロット的なものであった。そのため、対象としたメディアの数や選定した選択要素も基本的な部分に限定したものとなった。そのために、例えば「ファッション性」、「社会的距離の表現性」などの分析までは範囲が及ばなかった。また、将来のメディア利用形態の推移を試算するために通常必要と思われる、過去からの地道な定点観測や、母集団を日本国民とする無作為抽出による大規模なアンケートも行わなかった。
 以上のように幾つかの課題が残るものの、メディア選択のメカニズムの大筋を把握できたのではないか、と考える。その意味で、今回の調査研究は、今後の本格的な調査研究に資するところが大きいのではないかと考える。 



【参考文献】


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・「’97情報機器マーケティング調査総覧−コンピュータ/OA編−(上巻)」、富士キメラ総研、1996
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・「情報メディア白書 1997年版」、電通総研、1997
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・総務庁統計局編「労働力調査年報 平成7年」、日本統計協会、1996
・自治省行政局編「住民基本台帳人口要覧(平成8年版)」、国土地理協会、1996
・立川敬二、小檜山賢二、徳永幸生共著「パーソナル通信のすべて」、NTT出版、1995
・立川敬二監修、飯塚久夫、川浦康至ほか編著「コミュニケーションの構造」、NTT出版、1993
・川浦康至編「現代のエスプリ『メディアコミュニケーション』」、至文堂、1993
・NTT技術動向研究会編「2005年の情報通信技術」、NTT出版、1990
・電気通信政策総合研究所「若者のメディア接触行動に関する調査研究 −パーソナルメディアの最前線−」、1991
・東京工業大学情報社会研究会編「高度情報化社会 −ネットワークの可能性−」、ジャパン タイムズ、1988
・香内三郎、山本武利ほか著「現代メディア論」、新曜社、1987
・白根禮吉著「新コミュニケーション革命」、東洋経済新報社、1983

郵政研究所月報 第10巻 第11号
通巻110号 1997年9月25日

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